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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
1節―超常決戦―
  幕は上がる

 さぁ、決戦の幕を上げよう。

「――ここか」

 丘の上、ソウヤが見下ろすのは天使5万の軍団。
 隊列を敷かれた先にあるのは第一目的地、通称“神門”とソウヤ達が呼ぶ神界へと続く光る穴だ。

 それを眺めながら、ソウヤはライトが言っていたことを思い出す。

『まず“神門”にソウヤを突撃させるのが最初の関所でしょう』

 ライトの言葉にソウヤは賛同した。
 現在、神界へと入れるのは神気を纏っているソウヤのみ。
 故にソウヤが神界へと入ってしまえば、大体それで上手くいくはずだと。

 けれど、ライトは「ですが」と首を横に振った。

『天使たちは神界へと入れる、と考えるのが当然です。だから“申し子”の皆さんの役目は天使を神界へと戻らせないこと』

 つまりは“ソウヤの特攻”を行い、そのまま“神界の防衛”を流れで行わなければならないということ。
 5万の天使を相手に…である。
 自分が居ればまだしも、流石に仲間だけでは5万もの天使を防ぐことは出来ないのでは、とソウヤは難易度に眉を潜めた。

『ですから、とりあえずは――』
「――ルビ、エレン、頼む」

 ソウヤはルビとエレンにそう告げると、自らは2人より下がりスプリントスタイルに入った。

「ん、了解」
「あぁ、任せられた」

 “申し子”として認められたエレン達―ルビも魔神に認められたので“申し子”としてカウントする―は、それぞれ“神の偽力”を与えられている。
 エレンは“雷神の偽力”―本来、風神から得るはずなのだがエレン自身が雷を得意としたため雷神となった―を。
 ルビは“魔神の偽力”を。

 そして、“神の偽力”を与えられた者にはその力を具現化する技を持つ。
 それが――

 ――『神技』。

「『我は雷電、我は騎士」
「『我は叡智、我は魔王」

 エレンは、自らが持つ剣を空へと伸ばす。
 ルビは右腕の籠手を左手で支え、右の掌を天使軍団へと向けた。

 『神技』にも複数種類があり、主に神が使っている“武器”を元にしていることが多い。
 その中でもトップクラスに一撃の威力が高いのがルビとエレンなのだ。

「我が放つは全てを飲み込む雷電の一撃』」
「我が放つは全てが吹き飛ぶ叡智の一撃』」

 エレンの持つ剣が突如雷に打たれた。
 ルビの右の掌、中央から6属性全ての魔力の塊が発生。

 わざわざ5万の天使という“巨大な的”があんなに固まっている。
 そこに最初から全力の一撃を入れてはならない、なんていうルールはない。
 “だから放つ”。

「『偽・全て飲む(ミョルニル)()む雷神の一撃(フェイクション)』――!」
「『偽・全て吹き(ロールスゴッド)()ぶ魔神の一撃(フェイクション)』――!」

 エレンの雷を帯びた剣から放たれたのは、極光の波。
 正に“全てを飲み込まんとする”雷電の塊であり、その光はもう目にするのも難しい。

 ルビの右の籠手から放たれるのは6属性全てを1つに混ぜ込んだ波動。
 触れる地面、空気その全てが原子レベルに分解し溶解、または結晶化して消えてゆく。

 当然、その両方に見舞われた天使たちはひとたまりもない。
 叫び声すら上げる事が敵わず、その多くは飲み込まれようと――

「…やはり、こう来るのですね」

 ――するのを、誰かが“2つの破壊を”受け止める。

 一目で受け止めたのが誰なのか、ソウヤには分かった。
 金輪を6つ鳴らし攻撃を受け止める美麗な女性を、一言で表すのなら“百合の花”だろう。

「ですが(わたくし)…熾天使が1人、“楽園の護り手(ガブリエル)”がある限り全滅はありえないのです」

 有名な熾天使4人、そのうちの1人であるガブリエル。
 それが天使たちを攻撃から守り切っていた。

 ―…“神の言葉(ガブリエル)”ではなく、“楽園の護り手(ガブリエル)”か。

 神話の多くではガブリエルは神の言葉を人に伝える、いわゆるメッセンジャーを務めていたのだが、どうにもこのガブリエルは違うらしい。
 つまりは“エデンを護る天使”としてのガブリエルなのだろう、あれは。

 確かに最大にして最高の一撃は防がれた。
 奇襲もほぼ失敗といっていいだろう。
 だが、それも“予想通り”だ。

「頼むぞ、皆」

 走るための最適な格好をしていたソウヤは、そう言うと脚に力を込め上体を深く下げる。
 そして走るまでの刹那の間に、呟いた。

「“拒否する”」

 “すべて拒否する力(人間)”を行使し、ソウヤは自身を縛り付ける重力、空気摩擦度などの物理演算をカット。
 地形のことを考えず、ただ数字上可能でしかなかった速度をソウヤは往く。

 それは“光速を越える”速度。

 音も無く、光も無く、地面を蹴った感触も無く、匂いも無い。
 ただ、今ある最大限の速度を一直線に走るだけで良い。
 それで良いようにライトが“計算してある”。

「――――」

 熾天使たちにさえ理解できぬほどの速度でソウヤは戦場を駆け、息を吐く暇すらない間に“神門”へと突入した。

 そう、入るだけなら“簡単”。
 けれどそこに“神門の防衛”が入って来るからこそ、ルビとエレンにあんな面倒なことをしたのだ。
 全ては“神門の防衛”へとつなげるため。

「――『偽・全て切り(アダマス)()く地神の一撃(フェイクション)』」
「ッ…!?」

 ルビとエレンが放った一撃、それは最も一撃の威力が高く“それ故に誰からもわかるほど巨大”。
 だから、そこに視線を誘導させ潜り込むことが出来るのだ。

 さも当然かのように、ガブリエルの懐に侵入したルリが振り抜くは銅色の鎌。
 架空であった鉱石、アダマスを使い作り上げた鎌は正に“一撃必殺”であり逃れることは出来ない。

 それが“熾天使”でなければ。

 振り抜かれたアダマスの鎌にあわせ、ガブリエルは咄嗟に障壁を発生させる。
 一瞬で破壊される障壁だが、その一瞬さえあればこの場からの離脱など熾天使には簡単なことだった。

 けれど、それで良い。

「…すみません、逃してしまいました」
「いや、大丈夫だぜ。地の利は取れたからな」

 申し訳なさそうに表情を暗くしながらアダマスの鎌を消滅させるルリを、後から追いついたナミルは肩を叩いて笑って見せた。

 先ほどの鎌は、ルリの“地神の偽力”によって出来上がった『神技』である。
 ルビやエレンのものとは違い、ルリの『神技』は一撃必殺を主としたもの。
 目立たないし、一目で威力がわかるわけではないが、それでも“一撃必殺”はかなり強力と言っていいだろう。

「けっ、ガブリエルの奴は本当に護ることしか能ねぇのな」
「確かにあれは私の落ち度ですが、何もしていない貴方に言われたくはありませんね」

 ガブリエルと真反対、その方向から現れるのはもう一人の熾天使。
 その容姿は天使らしく異常に整っている、いるのだが…異常に“駄々草”だ。
 ボサボサの髪によれよれの服、心なしか金輪も鈍く光っている気がするほどなのだから、凄まじい。

 けれど、その金輪が示す数でルリとナミルは警戒度を引き上げる。

「貴方も熾天使…ということは、貴方がラファエルですか」
「ん?おうよ、俺ァ熾天使が1人…“神の癒し(ラファエル)”だ」

 こんな駄々草な格好をした男が“神の癒し”を名乗っても良いのだろうかと、本気でルリとナミルは思う。
 それほどにこの男の格好は酷かった。

「ま、そんなのどうでも良いだろ」
「――――?」

 ラファエルはそう言って、自らの右手を首に当てて…“嗤う”。

「“癒してやるよ”、ル――」
「――『偽・全て射り(アルテミス)()つ森神の一撃(フェイクション)』!!」

 唐突に放たれた凄まじい量の魔力で出来た矢が、何かを言い切ろうとしたラファエルに襲い掛かる。
 避けることもしなかったラファエルは、その絨毯攻撃をまともに受けた。

 先ほどの絨毯攻撃は、“森神の偽力”を与えられたエミアによるものだろう。
 一が十に、十が百に、百が千に別ち無差別に範囲攻撃を行う。
 それがエミアの『神技』だったのだ。

「“癒せ”、ラファエル」

 しかし、あれほどの密度の攻撃を受けてなお熾天使は倒れない。
 まず傷1つ見当たらないのだから、ふざけている。

「気を付けましょう、あの男…何か異様です」
「あぁ、分かってるさ。とりあえず――」

 ナミルは背中に背負っていた大剣を抜刀するとラファエルに。
 ルリは地面から生み出した鋼鉄の短剣を創るとガブリエルに。
 それぞれ背中を預け合って構えた。

「――十分、稼ぐぜ」
「はい」




 そして、“申し子”達と“天使”達の戦いの幕は上がった。 
 

 
後書き
出てきた『神技』まとめ
 〇偽・全て飲み込む雷神の一撃|(ミョルニル・フェイクション)
  …雷光が迸り光の津波となり敵を飲み込む技。
   まぁどっかのセ〇バーと同じ感じで想像してください、違いますけれど。

 〇偽・全て吹き飛ぶ魔神の一撃|(ロールスゴッド・フェイクション)
  …一撃、と書かれてはいるが基本魔力底上げするだけの技。
   それに4章3節のあの技を足した感じです。

 〇偽・全て切り裂く地神の一撃|(アダマス・フェイクション)
  …手に銅色の鎌が現れ、振るうと同時に相手の首は落ちるという技。
   どの話でも一緒のように一撃必殺は防がれるお約束、私は悲しい(ポロロン

 〇偽・全て射り別つ森神の一撃|(アルテミス・フェイクション)
  …一の矢が数百数千もの魔力の矢となり絨毯攻撃を行う技。
   最初のぶっぱで入れようと思ったが見た目地味なので辞めました。 
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