グランドソード~巨剣使いの青年~
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第4章
2節―変わらぬ仲間―
救世主を誓う戦友たち
「君が『均等破壊』…か」
エレン相手では殺気を出すことすらしなかった主天使が、ソウヤを視界に入れた瞬間に圧倒的な敵意を見せる。
異常なまでの態度の変わり様を見たソウヤは、警戒度を一段階上げた。
「意外と慎重じゃないか、主天使」
「ふん、僕をそこらの雑魚と同じにしてほしくないね。ちゃんと相手の力量も計れるさ」
相手の力量を計る。
それは言葉で言うならば簡単だが、実際にしてみろと言われれば出来る人はかなり少ない。
体重の預け方、筋肉の付き方、視線の向き、目の“本気さ”を完璧に把握しなければ出来ない芸当なのだ。
だからこそ主天使は思う。
コイツは非常に危険な存在なのだ…と。
そこまで行き着いた主天使の行動は早かった。
右手に極光の槍を生み出し、最早生物では残像すら見えない速度でソウヤに近づき超高速の突きを放つ。
単発威力より速度から生み出される破壊力を重視したその攻撃は、しかしソウヤの雪無によりなんなく防がれた。
それを把握していた主天使は左手を地面に突き落とすと、瞬間地面から複数の光刃が突き出る。
「ッ…!」
ソウヤは短く舌打ちすると、地面を踏みつけ衝撃波を生み出し主天使もろとも全てを吹き飛ばした。
凡人ならば2人がずっと立っているように見えていただろう速度で、ソウヤと主天使は刃を合わせる。
―さっきのでも駄目…か。
主天使は流れる汗を腕で拭うと、背中から翼を生み出し天高く飛翔する。
「アイツ、俺が空を飛べないって知っているな…」
妖精の頃ならまだしも、“人間”となっている今のソウヤには空を移動する手段をほとんど持たない。
出来て物を足場として跳ぶことのみだ。
―流石上級に位置する天使…か。俺に対する油断の欠片もない。
やりにくい相手だな、とソウヤは内心溜め息をつく。
だが、こちらにはこちらの戦い方があるのだとソウヤはエレンを一瞬だけ見た。
「エレン、頼む」
それだけ言うとソウヤは天高く跳躍する。
豆粒のように見えた主天使が一気に近くなり、今彼が何をしているのかをソウヤは確認した。
「やばッ…!!」
「そう来ると思ってたよ、『均等破壊』!」
主天使は、楽しそうに笑うと両手を大きく上に上げる。
空で生み出していたのは“数百の刃”。
「“踊るは極光の刃”」
人間であるソウヤに、周り360°全てを囲う数百の刃を躱す術も防ぐ術もない。
つまり、この先にあるのは“死”のみ。
「死ね、『均等破壊』!!」
「死ねるかよ!」
ここで死んだら、誰が救うというのだ。
ここで死んだら、誰が護るというのだ。
ここで死んだら、俺が後悔するだろう!
「无刃…!!」
ソウヤは右手に雪無を、左手にストレージに眠っていたもう一つの剣を取り出すと、迫りくる刃に向けて振るった。
極光の刃はソウヤの持つ剣が触れるたび、一瞬でかき消される。
无刃。
かつてソウヤの友であり、今は亡き彼の技だ。
触れた物にある“魔力”を全て吹き飛ばし“无とする刃”である。
「これで終わりだぁぁ!」
だが、この技が対処されると察していた主天使は右手と左手に極光の塊を創り出すと大きく溜め始めた。
それを視界に入れながらも、対処する時間をこの刃達は与えてくれない。
圧倒的不利な状況に追い込まれながら、それでもソウヤは笑っていた。
「――ッ!“極光る神々の波動”!!」
迫りくる光の波。
それを視界に入れたソウヤは、ただただ呟いた。
「行け、エレン――」
「――“偽・全て飲み込む雷神の一撃”!!」
太陽並みの光を放つ波動と、偽りけれど雷神の力を纏う一撃がぶつかり合う。
「お前は…『雷神の申し子』あぁぁ!」
「行くぞ『主天使』!!」
『雷神の申し子』と言われた彼女は、元となった雷神トールと似ても似つかないほどしっかり者だ。
しかし、似ているものもある。
それは雷を扱うこと…という訳では無い。
トールは人々や、自身より弱い神を護るため巨人相手に身を挺して戦ったという。
また、トールが扱っていた“ミョルニル”は戦うだけでなく“物や人を清める”為にも使われていた。
似ている部分、それは“人を護る時、人の幸せを願うとき、最高の力を得る”という部分なのである。
性格が荒々しいトールと、硬いエレン。
互いに表面上は正反対だがその根底にあるのは何も変わらない。
だからこそ――
「私は、この世界を…救うんだッ!!」
――彼女は『雷神の申し子』と呼ばれた。
極光と雷の一撃、打ち勝ったのは人々の救いを求め続けたエレン。
振り下ろされた巨大な雷の刃に主天使は、塵も残さず一瞬にして掻き消えた。
ソウヤの周りに漂い攻撃していた数百の刃は、魔力を維持する者が居なくなった為に音もなく消え去る。
それを確認し、ソウヤは飛翔し続けているエレンに視線を向けて優しく微笑んだ。
「あぁ…、疲れた」
“无術”はMPの消費なく使えるが、その分かなり体力を持っていかれる。
本来の実力をルビによって“封印”されているソウヤにとって、“无術”を使うだけで疲れてしまうのだ。
跳躍していた力が無くなり、ソウヤは重力に体を引かれ地面に一直線に落ちていく。
それに気付いたエレンが慌てて落ちていくソウヤの身体を支えた。
「大丈夫なのか、ソウヤ?」
「あぁ、ちょっと疲れただけだ」
ソウヤの言葉に安心し、エレンはため息をついてゆっくりと地面に降りていく。
「なぁ、ソウヤ」
「ん?なんだ」
落下している中、エレンはソウヤに問いかける。
ソウヤにはその顔が、少し儚げに見えた。
「私は…人々を救えただろうか」
思った通りの問いかけで、ソウヤは思わず吹き出す。
それを見たエレンは顔を真っ赤にして「人が真面目に話しているのに!」と憤慨してしまう。
「悪い悪い、ついおかしくってな」
「何がおかしい」
本当にへそを曲げてしまったエレンに、ソウヤは地面に視線を向ける。
そこには、今も変わらず存在し続ける街が…生き続ける民の姿があった。
「これを見て、救えないなんていうなよ。お前は俺と違って、ちゃんと救えてる。大丈夫だよ」
「ソウヤ、お前も…!」
救えている、と言いかけたエレンの口をソウヤは指で塞ぐ。
「俺はもう後悔したくない、そんな思いがあるから戦うんだ。お前は違うのか?」
「あぁ、合っているよ。私も出来るならこの世界の人々、全てを救いたいから戦っている」
「なら出来るさ」とソウヤは笑うと、近づいてきた地面に着地する。
先ほどの戦いを離れて見ていた2人を見て、ソウヤは笑った。
「だって、1人じゃない。そうだろ?」
「――――」
「天使でさえも惑わせられる魔法使いが、天使でさえも殴り負ける戦士が、天使でさえも誇りで負ける騎士が――」
ソウヤはエレンに振り向くと、「そして」と手を伸ばすと不敵に笑う。
「――神さえ殺す、俺がいるんだ。4人もいる。それに、まだこれで全員じゃない」
「あぁ、そうだ…そうだった、な」
「だから心配するなよ。もう失わせない。その為に、俺たちがいる」
エレンは嬉しそうに微笑むと、ソウヤの手を取る。
「あぁ、救おう“全てを”」
その為に、強くなったのだから。
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