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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第4章
1節―変わった世界―
  本能と理性

 
前書き
※今回の話は蒼也視点です。 

 
「――――――」

 気付けば、ここにいた。
 それより前の記憶はない。
 何かを見ていたようで…何も見ていなかったようで。

「――呑気なものだな」

 声がした。
 聞き慣れた声。

「そう、親の声より聞いた声…だ」
「――俺か」

 確かめるまでもなかった。
 視界を横に向ければ不敵な笑みを浮かべた、黒と赤で染められた服を着込み腰には剣を下げている俺が居る。
 厨二臭い自分を視界に入れた後に今の自分の身体に視界を揺らすと、学生服を着た蒼也の身体があった。

 そして、やっとそこで”自分の身体が存在することに気付く”。

「ここは夢のなか…かな?」
「惜しいな。確かにここは夢だが、少し違う」

 不敵な笑みを浮かべ続ける”俺”は、自分の胸を指してから俺の胸を指した。

「これは、エミアによって引き起こされたお前の治療だ」
「そう、か。あぁ、思い出したよ」

 そこで鮮明に思い出すのは、顔を夕日のように赤くしたルビとルリの顔。

「悪いこと、しちゃったな」
「いや、客観的に見てもアレは俺とお前は悪くねぇと思うんだが」

 苦笑する”俺”。
 そうなの、だろうか?
 確かに俺はルビ達と恋愛関係になるのを避けていたが、もし言われたのなら返すのが漢じゃないのか。

「”上辺”で構成された俺が言うべきじゃねえが、お前は頑張りすぎたんだよ」
「頑張り…過ぎた?」

 それはどういうことだろうか。
 逆に俺はそういう関係になる気は無いと言っても、あんな美少女や美女たちが俺に好意的に接してくれるから頑張りすぎは無いのと思うけど。

「はぁ、お前はやっぱり”頭がおかしい”」

 呆れた風に呟く”俺”の呟く”頭がおかしい”は、ふざけた意味のない”狂い”なのだと俺に伝えた。
 だが俺はそんな風に呼ばれる原因がわからなくて頭をひねる。

「お前、日本生まれ日本育ちだろうが」
「それがどうかしたの?」

 俺の言葉に”俺”は溜息をつくと、人差し指で俺を指す。

「そんな奴が”生物を殺すことにストレスを感じない”訳がない」
「――――――」

 痛い。
 え、痛い?
 胸が…い、たい……?

「…!」

 まるで、痛みを忘れていたかのように。
 まるで、今更痛みだと気づいたように。
 まるで、ストレスを感じていたように。

 今更ながら、俺の心は悲鳴をあげていた。

「これは夢であり、お前の心のなかでもある。…自分の心を欺いたりなんて、出来ねぇよ」

 痛みもがく俺に、”俺”は静かに告げる。

「――お前は、本能なんだからな」

 ほん…のう……?

 あぁ、そんなことがどうでもいいくらい痛い。
 不規則に鳴る心臓がうるさくて痛い。
 締め付けられるように腹が痛い。
 息が上手く出来なくて肺が気持ち悪い。
 身体中が酸素を欲しているのに、少しでも吸うと身体中から拒絶反応が起こる。

「わかったか。これがお前の、心の傷だ」
「ここ、ろ…の……傷?」

 生物を殺すことに、最初から拒否感を抱いていなかった訳ではない。
 最初、生物を殺して生きるために解剖したときなんて、何回吐いただろうか。
 今でこそその気持ち悪さは無くなっていたが、それは違ったのだ。

 ”不快感を、気づかないようにしていただけ”だったのである。

「見てるのも辛い。だが、これはお前の荒治療だ。続けるぞ」
「なに、を…?」

 それ以上痛みでどうすることも出来ない俺は、呻く。
 ”俺”は見たくないという風に目を一瞬瞑り、すぐに目を見開くと俺の治療を始めた。

「お前、”巨剣使い”なんてチートスキルを手に入れて、良かったのか?最初は良かったかもしれない、だが、いつからかその”責任感”を感じていたはずだ」

 ”俺”の言葉に俺は、声も出ないほどの痛みを味わう。
 これは、俺が今までひた隠しにしていた痛み。
 本来ならば、もっと早く味わうはずだった痛みなのだ。

「”自分がやらなければ誰がやる”。”あの期待に応えたい”――」

 ”俺”の治療は、止まらない。

「――”あの目で、見られたくない”」

 あぁ、そうだ。
 俺は”あの目”で見てほしくなくて、ずっと努力してきたのである。
 期待しなくなり、それを成し遂げられなかったことを責める、あの目…。

「同時に、虚しさも抱えていたはずだ。エレンやルビ達は、自分たちが努力して手に入れた力で戦っている。なのに、俺は”与えられた力”で戦っていることへのな」

 痛みと同時に、心のなかに空洞ができたような感覚に襲われる。
 確かに、”魔力”が存在しない世界から来た俺達は素のままでは無力だ。
 だからこそ面白く無いと思ったアイツは俺達に力をくれたのである。

 あまりに強力な、”与えられた力”は俺を確かに助けてくれた。
 だが、それと同時にエレンやルビ達を見て”うらやましい”と、”申し訳ない”と思ったのである。

 俺の力は、努力してきた人々へ浅くない心の傷を負わせてしまったはずだから。

「それに今でこそ板についてきていたが、初めの頃は”自分を偽る”なんてことどう思っていたんだ?」

 あぁ…最悪だったよ。
 いつも言動には気をつけなきゃ行けないし、皆に求められることをしなければならないのだから。

「仲間については、どう思っていたんだ」

 そんなの、決まってる。
 辛かったさ、辛かったに決まっているだろう。

 なんで”恋心”なんて知りながら、それでも知らないふりをして一緒に居なきゃいけないんだよ。

 なんで吊り橋効果だと知りながら俺に恋したんだよ。
 なんで俺を慕ったんだよ。
 なんで俺なんだよ。
 なんでだよ。
 なんで。

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。

「――諦めるのか?それとも、続けるのか?」

 ”俺”の声が聞こえる。
 諦めるのは、楽で良さそうだ。
 だけど――

「まだ、何もしてない」
「しなくていい」

「まだ、生き物を殺したことの弔いもしてない」
「弔いをやる必要が無い」

「まだ、責任を果たしていない」
「責任なんて捨ててしまえ」

「まだ、自分で力を手にしていない」
「自分で手に入れた力なんて必要ない」

「まだ、”あの目”で見られていない」
「もう見られている」

「まだ、自分を偽ったことに謝罪していない」
「謝罪して何になる」

「まだ、アイツらの気持ちに向き合っていない」
「逃げればいい」

「まだ、”神を殺して”いない」
「他の誰かがやるさ」

 俺の言葉に”俺”は静かに反論していく。
 それは確かに存在する道の一つで、俺も選択できる道だ。
 けれど俺は――

「――まだ、”後悔していない”」
「あぁ、そうだな」

「手も足も動く」
「確かに動く」

「もし、動かなくなっても心臓が動いている」
「まだ動ける」

「俺は、俺達が今一番大事なのはこれだけだ」
「そう、だな。確かにそうだ」

「「――ここで終われば、一生俺は”後悔する”」」

 優しげな笑みを浮かべた”俺”は口を開く。

「…初めから、決まってたってことか」

 まだ痛みはある。
 むしろ先ほどより痛みが増していた。
 だが、俺は立ち上がる。

「俺は本能だ。嘘なんてつけないよ」
「確かにそうだ」

 俺達は笑う。
 自分たちの馬鹿さ加減に。

「俺は大丈夫だから」
「俺は心配ないから」

「「だから、戦おう。”後悔しないために”」」

 俺達は拳をぶつけあった。
 意識が遠くなる。
 俺は本能だ、理性である”俺”に普段は消される運命。

 だが、心配はいらない。

 この痛みは誰かが”信頼してくれる”証だ。
 この痛みは俺が前に”進み続けれる”証だ。
 この痛みは後悔を糧に”強くなれる”証だ。

 ”後悔しない”。
 そのためならば、俺はどれだけでも耐えられる。

 俺の意識は、そこで途切れた。 
 

 
後書き
――彼はようやく、自我を手に入れた。 
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