グランドソード~巨剣使いの青年~
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第4章
1節―変わった世界―
1ヶ月前の状況
「――――――」
シルフの大陸にある少々大きな街の人々は飲まれていた。
街の門の上に居る圧倒的な存在に。
燃える赤の髪と瞳を持つ、見惚れるほどの青年。
その背中には太陽の光さえも霞むほどの神秘に満ちており、右手首に黄金に光る輪を1つ付けていた。
「下民、創造神であり世界神様のお言葉だ。ソウヤと名乗る者を最近見かけた者は前に出ろ」
ざわざわと周りが騒ぎ出す。
いきなり上空が眩しく光ったと思ったらあの青年がおり、唐突にそう告げたのである。
状況をつかめない人々はどうすることも出来ない。
「――だれか、居ないのか」
ゾワッと背筋が凍る感覚に街の人々は落とされる。
”死”
そのイメージが青年の放つ威圧に当てられることで、鮮明に脳内に流れたからだ。
硬直する人々を見て、青年は溜息をつくと――
「――仕方ない。”あそこ”と同じように潰すか」
その言葉で、一気に町民は一気に崩れ落ちる。
常日頃から”魔物”という脅威に晒された人々だからこそわかるのだ、どうあがいても死ぬのだと。
状況をつかめないでいた町民は、何もわからぬまま死ぬのだ。
―”ソウヤ”。ふざけるなよ。
町民は、1年前突然と姿を消した”均等破壊ソウヤ”を心の底から恨む。
せめてアイツだけは不幸に陥れるために。
「…面白みのない。誰か逆らうものは居ないのか…?」
うなだれる町民たちに嘲笑を向けながら、青年は手を上げる。
凄まじいほどの光が溢れだし、”光の炎”が生まれた。
「はぁ…。”天使の鉄槌”」
次の瞬間、町民は視界を光によって潰される。
それほどの凄まじい光だ、分かる人に言えばフラッシュグレネードの2倍の光量である。
青年の手のひらの遥か上空に出来たのは巨大な光の塊。
ゆっくりと、町民をいたぶるかのように光の塊は落ちていく。
それが儚い町民に落ち、哀れ何万もの命は一瞬にして消え――
「”雷神の刃”…!」
――ることを、騎士は許さなかった。
突然町外の上空から現れた女性の騎士は、抜き放った刃に青年の放った光に負けぬ光量の雷を纏わせ、地面につくと同時に放つ。
圧倒的な力と力がぶつかり合う。
周りの敷き詰めてある石が浮き上がり、町民は脳がまともに働かないのか動くことすら出来ない。
ただ、光に慣れた瞳を大きく開け女性の騎士と青年の対抗を見続けることしか出来なかった。
やがて、両方の光は徐々に消えていく。
それは”技”の効力が切れたことを告げるものだった。
「随分、勝手をしてくれるじゃないか、”天使”」
艶やかな空色をたなびかせ、上空に佇む青年を睨みつけるのは騎士の姿をした女性。
町民たちは、彼女のことをよく知っていた。
「”雷神の申し子”エレン…」
誰かが、そう呟く。
その言葉に反応した青年は、関心したように息をこぼした。
「そうか、お前があのエレンか。噂はよく聞いている」
「なら話は速いだろう?私はお前と違って忙しい身だ。さっさと終わらせてもらおう」
その言葉を聞いた青年はこらえ切れないというふうに笑い出す。
笑う青年を見たエレンは、ピクリと眉を動かした。
「お前が”天使”を倒せるとでも?所詮”鎖”で縛られた下民が」
明らかな嘲笑。
だが、それを向けられたエレンは頬を少し釣り上げただけだ。
それが気に喰わないのか、青年は右手大きく握り締めると呟く。
「”天使の剣”」
握りしめた右手に光が溢れると、次の瞬間には眩しい光で創られた剣が姿を現した。
静かに構え、青年は無言でエレンに近づく。
瞬きをする暇のない速さに、未だ周りの人々は青年の分身を見続けている。
”周りの人々は”。
金属より数段高い音を響かせ、エレンの剣が天使の剣を受け止めた。
”鎖”に縛られた人ならぬ動きに青年は驚いたように顔を歪める。
「残念だったな」
眉一つ動かさずエレンはそう言うと、青年を腕力だけで吹き飛ばした。
「なッ…!?」
―こいつ、”鎖”に縛られた動きをしていないッ…!
青年は離れていく女騎士を睨みつけると、白木蓮にも似た純白の翼をはためかせるとブレーキをかける。
こいつは油断してはならない、青年は断言すると天使の剣を消した。
―こいつには、全力でいったほうが良い!
一撃剣を交わらせただけで相手の強さを判断できるのは、流石天使の1柱ということだろう。
両手をエレンに向かって大きく伸ばすと、青年は先程とは全く違う雰囲気で叫んだ。
「”光纏う天使の柱”…!!」
放たれるのは巨大な光の柱。
一瞬にして門を消し飛ばし突き進む力の暴力に、エレンは大きく上段に構える。
「”偽・全て飲み込む雷神の一撃”!!」
エレンがその剣を振り下ろすと同時に、鼓膜が潰れるのではないかという轟音が鳴り響き雷刃が突き進む。
そして、天使の柱と雷刃の一撃はぶつかり合い――
「――――――ッ!」
――言葉を出す暇もなく、青年の身体は消し飛んだ。
そして残ったのは、呆然と力が抜けたままほけている町民たちと、荒い息で剣を支えにし立ち続けている騎士だった。
しばらくして、エレンは息を整え剣を仕舞うと町民たちに頭を下げる。
「えっ…?」
誰がそうこぼしたのだろうか。
いや、誰でも構わない。
目の前の天使を消し飛ばした張本人が、いきなり頭を下げている現実は変わらないのだから。
「…すまない。街をここまでボロボロにしてしまって、もう少し早く来れなくて」
何を言っているのか、と町民たちは思う。
訳もわからぬまま死にそうだったのを助けてくれたのは、謝っている騎士自身なのだから。
ほけている町民たちに、そのままエレンは言葉を続ける。
「そして――」
一旦息を吸い込む。
「――どうか、ソウヤを怒らないでやってほしい」
数人の人が、拳を握りしめる。
仕方ないだろう、エレンが来るまでは多くの人が原因を作ったソウヤを責めているのだから。
それをわかっている上で、エレンは続けた。
「彼は、今私達のために、そして自分の為に必死になって戦っている」
エレンは頭をあげると、自分が作り上げた門までの跡を指す。
「先ほどの天使以上の相手と、日々戦っているのだ」
「皆のために」と言葉を続けるエレン。
「だから、彼を責めないでくれ。頼む」
再び深く頭を下げるエレン。
町民はまたしばらく呆けていたが、結局恩人のエレンの言葉を無下にすることは出来ず、ソウヤを責めるのは辞めた。
これは、ソウヤが聖域を出る1ヶ月前の話である。
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