グランドソード~巨剣使いの青年~
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第3章
1節―最果ての宮―
真実
ソウヤの視界を覆う光が全て消え去った時、そこは白く綺麗な部屋だった。
「ここは…?」
「着いたわよ」
ソウヤはその声にびっくりして大きく下がろうとして…気付く。
自分の身体の異変が無いことに。
「あのスキルの後遺症なら、あの方がとっくに癒やしてくださったわ」
「”あの方”…?」
そう言うと、ソウヤはルビが近くにいないことに気付き周りを見回す。
先ほどと同じ距離で静かに気絶していた。
とにかく見つけられたことにソウヤは安堵する。
「ウリエル、その方がかの青年ですか?」
突然、声がした。
柔らかな女性の声だ。
その声が聞こえてきた瞬間、ソウヤは気が付かずにして声のもとに跪きそうになっていたことに気付く。
それほどの威圧がその女性の声から伝わってきた。
「はっ。そうです。無事私との戦いに勝利し100層を抜けることに成功しました」
ウリエルが今まで見たことのない口調とキビキビとした身体の動かし方であった。
その変わり用に、ソウヤはここまでの存在なのかと考察する。
―天使、それも熾天使がひれ伏す存在…つまり…?………!!!
思案通りなら、とんでもない存在ということになる。
その想像にソウヤは知らず知らずのうちにその身を震わせた。
「青年よ、貴方の想像通り。私は――」
遂に女性の声の本人が姿を現す。
真っ白な空間にまるで水底から浮き上がってくるかのように、ゆらゆら揺れながら段々とその存在が姿を現した。
「――」
息が、できなかった。
圧倒的存在。
それしか頭のなかに浮かんでこない。
今すぐにこの目の前に居る存在に向けて跪かなければ。
そんな考えがソウヤの脳を支配する。
ウリエルも含め、ソウヤ達が出会い、語らい、戦ってきた少女・女性たちは全員絶世の美女といっても過言ではない。
だが、この眼の前に居る女性はまず”格”から違うのである。
素晴らしい曲線を描いた身体つき。
見るものを異性同性関係なく魅惚れてしまう顔。
聞くもの全ての頭をそれで一杯にする美しい声。
その全てがこの世の生き物とは考えられないものだった。
それが故に、卑しい妄想など出来るはずもない。
否、してはいけないのだ。
その存在が、口を開く。
「――私は、アルティマース。この世界の、管理神です」
”アルティマース”。
その名をソウヤは知らなかった。
昔、小学中学の頃、厨二病お盛んな時期にソウヤも当然その病を患っていたのだ。
そこでソウヤがまずハマったのは西欧の神話。
次に日本の神話。
そして流れに流れてラノベやアニメ、果てにはオンラインゲームにまではまっていた。
このトリップに巻き込まれたのも、厨二病が終わってからもラノベやアニメ、オンラインゲームにはまっていたからであろう。
そういう理由があって、蒼也は神の名前も大体覚えていると思っていても良い。
だが、その名前の中にアルティマースという神は存在しなかったのだ。
故に、アストレイアと一度会ったことのあるソウヤは、地球に語り継がれる神と、この世界に語り継がれると2種類いるのだなと、そう思ったわけである。
「管理神様は、何故このような妖精に会いたかったのですか?」
ソウヤが女神に向けて発した言葉は”理由”だった。
アルティマースはソウヤのその問いに小さく頷くと、ガラス球のようなものを作り出す。
「これを見てみなさい」
アルティマースから渡されたガラス球を覗き込んでみると、そこに映っていたのは”あの男”だった。
それを見た瞬間、ソウヤの表情が固まる。
「こいつは…」
「そう、貴方が思っている通り。貴方がたがこの状況へと貶めた張本人、その名は――」
アルティマースは一呼吸置くと、静かに、しかし確かに芯のある声でソウヤに告げた。
「――ウィレクスラ。現、”世界神”です」
大きく息をして、アルティマースのいう言葉を口の中へ含み、ゆっくりと咀嚼する。
意味を理解して現状を確認して、ソウヤは吸い込んだ息を吐き出した。
「世界神…か」
そこまで想像しては居なかった…とソウヤは諦めを込めた溜め息を吐く。
本来、ソウヤは地球かこの異世界の住民の誰かから召喚されたものだと思い込んでいたのだ。
元々神など信じない主義のソウヤは、”神”が行ったこととは殆ど考えていなかった。
まぁ、ウリエルやアストレイアなどに合った時点で薄々感づいていたのだが…。
「そして、貴方に会いたかったのは世界神であるウィレクスラに関係することです」
アルティマースは、ソウヤの身体を全体に見つめた。
その肉体の脅威さを確かめるかのように。
「ソウヤ、貴方には2つの道があります」
人差し指をゆっくりとアルティマースは上げる。
「1つ、今から話す事実を聞かず、何も知らぬまま帰り一生この世界で生きるか。それとも――」
2つ目の道が、ソウヤに示された。
それは、途方も無い話。
「――ウィレクスラを倒し、この世界と貴方がたが無事”元の世界に帰る”か…です」
ソウヤは、無意識に手を強く握りしめていた。
そんなこと、とうに昔からソウヤ自身の心のなかで決まっていたはずなのだ。
きっと、この眼の前の女神もそれを理解している…表情で分かる。
自身の耳で、聞きたいのだろう。
外見と異てだいぶ性格は汚いようだ…とソウヤは内心苦笑した。
「そんなものは選択肢になり得ないでしょう?」
皮肉げに、ソウヤは嗤う。
「――元の世界に帰りたい。だから、俺はウィレクスラは倒します」
アルティマースの口元が僅かに上がった。
ソウヤはそれを見て本当に性格が悪い神様だ…と再確認する。
「では、事実を話しましょう…。まず――」
僅かに口角を釣り上げていたアルティマースは口の角度を元に戻すと、真剣な表情でソウヤを見据えた。
「――先ほどの選択肢で気が付いたでしょうが、貴方がたは今のままでは元の世界に戻れません。もっと言うならば、ウィレクスラは貴方を元の世界に戻す気はありません」
その言葉を聞くまでもなく理解していたソウヤは、確認を含めてもう一度頷いた。
それを見たアルティマースは話を続けた。
「まず、ウィレクスラ。彼は”現”世界神ですが、元々の世界神に向けて反旗を翻したのです。そして、彼は多くの神を引き連れクーデターを起こし、世界神を”喰らった”のです」
―神を…喰らう……?そんなことも神は可能なのか…。
ソウヤは、サラリと神を喰らったという言葉を発したアルティマースに軽く引いていた。
それを知っている―と思う―が無視しているアルティマースは話を続ける。
「そして、ウィレクスラはこの世界神の位を持つようになり、全ての神が彼にひれ伏すしかなかったのです。私自身も彼が世界神の座に居座っていることを黙認するしかありませんでした」
「待ってください」
ソウヤは、思わずアルティマースの言葉に口を挟んでいた。
アルティマースはそれに機嫌を悪くすることもなく、「なんでしょう」と静かに聞く。
「…いくら世界神を喰らったとはいえ、流石にいきなりそこまでの座に着くことなんて無茶があると思うんですが」
「彼は、クーデターを起こす際に全神の半分を味方にしていたので…誰も逆らうことは出来ませんでした」
その驚愕を起こす事実に、ソウヤは固まらざるを得なかった。
クーデター、もしくは反乱…もっと言うならば革命。
この全ては少なくとも、人口の半数が味方をするとはソウヤが今まで聞いたこともないことだったからだ。
「そして、あの…事件が起こります」
「それってもしかして――」
ソウヤが最もこびり付いている記憶。
それが浮かんで思わず声を上げる。
それに肯定するように、アルティマースは頷いた。
「――貴方達、合計10万人の大型トリップです」
その時、ソウヤはアルティマースが拳を強く握りしめているのを見た。
「それを知った元世界神側の神達は、流石におかしいと思い始め少しずつ反抗する人が現れていきました」
「どう、なったんですか?」
アルティマースはクスリと笑い首を横に振った、あり得ないと言うように。
「流石に、全神の半分と世界神の力を得たウィレクスラを倒せる力を持つ元世界神側の神はいません。ですが、そこで」
アルティマースはしっかりとソウヤを見据える。
「そこで、貴方という存在を見つけて…利用しようとしたのです」
「ウィレクスラを倒すために…?」
コクリと、アルティマースは頷いた。
それを聞いたソウヤは首を横にふる。
「利用なんかじゃ、ないです。逆に、ウィレクスラを倒したら元の世界に戻れることを知ったら、きっと俺は闘うことを自らしてました」
「…ありがとう」
アルティマースは嬉しそうな笑みをソウヤに向けた。
ソウヤは、その美貌が笑みに変わるのを見て無意識に顔が赤くなるのを感じる。
その直後、アルティマースは不意に真剣な表情に変化した。
「ですが、今の貴方ではウィレクスラに攻撃を入れることすら不可能です」
「不可能…?つまり、絶対ってことですか?」
そこでソウヤが浮かんだ考えは1つ。
ステータスの差だ。
だが、熾天使であるウリエルを倒すことが出来るソウヤのステータスでさえ一撃入れるのが厳しいとなれば、どれだけのステータスが居るのだろうか?
「確かに、ステータスの差があります。ですが、それ以前の問題なのです」
「それ…以前?」
アルティマースは頷くと、話を続ける。
「私を含め、”神”と呼ばれる存在には、全て神気と呼ばれる特殊な魔力のようなものが漏れています。それを浴びた物はひれ伏すことを本能が呼びかけるほど強いもの。故に、普通の武器ではまず傷一つ入れることすら不可能なのです」
「なら、どうすれば…」
ソウヤはアルティマースの言葉に軽いどころではなく引きながら、そう問う。
アルティマースは側にずっと控えていたウリエルに1つ目配せをする。
「…はっ」
ウリエルは即座に応答して、姿を消したと思ったらほんの数秒で帰ってくる。
その手には杖が大切そうに持たれてあった。
アルティマースは1つ頷くと杖を持ち、杖先を真っ白な床に突く。
まぶしい光が溢れだし、その光は一箇所に集まりだし…1つの扉を象った。
「この扉は、とある場所へと続く扉です」
「とある…場所?」
「はい」とアルティマースは頷く。
「ウィレクスラを倒すため、我ら元世界神側が悟られぬように作り上げた、たった1つの対抗策がそこに眠っています」
「もしかして…」
「はい――」
「――神をも殺せる術が、そこに眠っています」
「それは、普通の人では耐えられぬ物。今の貴方でも、きっと耐えられないでしょう」
アルティマースは、ソウヤに近づくとそっと肩に手を置く。
「試練が、最後に待っています。その者を倒して初めて、貴方は至れます。ですから…」
ソウヤは、その瞬間身体がカッと暑くなるのを感じる。
自分の中にある”何か”が活性し、溢れ出しているような…。
激しく、しかし心強い力がソウヤを満たし――
――『巨剣使い』の進化条件が整ったため、進化します――
――希少能力『巨剣使い』から――
――究極能力『剣神』に進化します――
――そして、事実1人―魔法を生み出した『賢之者』―しか得られなかった『究極能力』を、ソウヤは得たのだ。
そして、ソウヤは新たな力を得て、扉をくぐった。
……『神殺し』。
しかも、『世界神殺し』を行うために。
――運命は、今…崩れた。
後書き
――彼は、裏切りを決心した。
※ソウヤが丁寧語なのは、相手が神様だからです。
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