グランドソード~巨剣使いの青年~
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第3章
1節―最果ての宮―
100層―前編―
あれから、長い時間が経った。
長すぎてもう最小な日にちなど覚えていない。
ただ、この迷宮に入ってから2年位だろうという憶測はあった。
ふと考えることがある。
地上のみんなは大丈夫なのか。
あれから、どうなったのか。
俺の今までの選択は正しかったのか。
たくさんの魔物を殺した。
たくさんの魔族を殺した。
そして――
――人を殺した。
仲間を殺した。
間違っていない。
間違っていない。
きっと、間違っているはずがない。
だが――
――この手が人を殺したのだと、身体が訴える。
俺の背中には、一体どれだけの魂が眠っているのだろう。
それは、この手に『巨剣使い』というスキルが与えられたその日から、積み重なってきたものだ。
今、俺の背中には魔物だけでない、仲間の魂も宿っている。
覚悟を…決めた。
必ず、報いろうと。
それが、ただ生き続けたかったという純粋な願いを汚した俺の…できることだった。
それは…あいつの力を惜しみなく使うことでもあるのだ。
ふわりと、柔らかな感触を頭に感じてソウヤは目が覚めた。
「ル、ビ?」
そこで目があったのは、炎のように、鮮血のように真っ赤な瞳を持つ少女…ルビだった。
ルビは俺と目が合うと微かに嬉しそうな笑みを浮かべる。
―思えば、ルビも感情が出るようになった。
ソウヤはふとそう思う。
嬉しい事だった、こんな美少女が笑うようになったのだ、嬉しくない男などいない。
しかも、それが自分に向けられているのだから、当然だろう。
「…おはよう」
「あ、あぁ。おはよう」
何故、膝枕されているのだろうとソウヤは頭の片隅で考えながらも挨拶を交わす。
ソウヤはこの体制が恥ずかしくなり立ち上がるとルビに手を差し伸べる。
「…行くぞ」
「――うん」
ソウヤはルビを立ち上がらせると、目の前の巨大な扉に目を向ける。
今までに見てきた扉は、大小差はあれど全て蔦や苔が生えていたり、ボロいものが多かった。
しかし、今目の前にあるのは周りの風景と似つかない神々しい扉である。
―丁度、あれを持つ奴がこれくらいの大きさがありそうだ。
不意に馴染み深いソウヤが思う。
10mは余裕で有りそうな扉にソウヤ達が近づく。
「――いけるか」
「――大丈夫」
ソウヤはすぅ…と息を吸い込むと、ゆっくりと吐き…呟く。
「――行くぞ」
果たして、それは誰に向けられたものだったのか。
それは本人にも分からなかった。
ただ、1つ分かることがある。
それは――
――100層への扉が、今…2年という歳月を消費して開いたということだ。
中に入ると、そこは巨大な広場だった。
入ってきた扉よりも大きく、ここならば障害を何一つ考えなくとも巨剣を振り回すことが出来そうである。
そしてそれは、ソウヤ達にとって最も有利な点だった。
不意に、明るい巨大な部屋に1人の人物が現れる。
その姿を見て、ソウヤは溜め息を付いた。
「――まぁ、大体予想ついてたが」
「あら、もしかして歓迎されていないのかしら」
クスリと女性は笑った。
ソウヤは呆れ顔でその女性に目線を向ける。
「お前、『この迷宮の100層の敵は私の本気と同じくらい強いわよ?』って言っていたのに、結局お前なのか」
「あら、私と闘うのは不本意?」
女性はからかうように|(好戦的に)笑う。
ソウヤとルビは無言でそれぞれの得物を抜くと、構えた。
「――別に、嫌とは言ってないが?」
「ふふ、嬉しい限りね。じゃあ、私の本気…みせてあげる」
突如、女性の背中から美しい羽が飛び出した。
そして、ソウヤとルビは固まる…その異常なほどの魔力…いや、それで片付けられない力の塊を見て。
「改めて、紹介するわ」
その身から濃密な力を噴き出している女性…否、天使は笑う。
「熾天使、”神の炎”」
周りにまとっている力が、ウリエルが名乗り初めてその形を成す。
それは、炎。
人の手では作り出せぬ、神力を帯びた炎。
目の前のその力の巨大さに、改めてソウヤは運が無いと笑う。
だが、負けているわけには行かないのも事実だった。
手に持つ雪無を巨剣化して構えると、ソウヤも笑う。
「鋼の妖精、ソウヤ」
両者の間に、力がひしめき合う。
そして、飛び出したのは――
「らぁっ!」
――ソウヤだった。
久しく使う巨剣使いの本領の力は、すさまじいものだった。
1度戦ったことのあるウリエルはソウヤの速度に目を見開く。
この迷宮に潜るまでのソウヤは、いわば”力に頼りすぎている”動き方だった。
走るだけでも、戦いでは大きなものとなりうることをその時のソウヤは知らなかったのである。
放つ攻撃に最適な体制を作り出し、余計な力を身体に入れず、スタミナを限界まで減らし、なおかつ風の抵抗をギリギリまで減らす。
その走り方こそ、”達人”と呼ばれる者たちの行う走る方法であり、今ソウヤが行っている走る方法でもあった。
今まで蓄え続けてきたその”力”とそれを使いこなせる”技術”をソウヤは手にしたのである。
それを目にしたウリエルは顔を驚愕へと変え――
―だけど、甘いっ!
――最適な形でソウヤはウリエルへと雪無を振り下ろす。
そう、ある意味”教科書通り”と言える形で。
ウリエルは”読み通り”の動きをしたソウヤに対し、とっくに動き出していた。
振り下ろす斬撃の軌跡を先読みしてそこから紙一重になるように避ける。
そしてウリエルの読み通りの斬撃をソウヤは行い、いとも容易く避けられてしまう。
その隙を見逃さずウリエルは炎で象った剣を振るった。
炎の剣がソウヤの胸元へ進み、ソウヤの胸を大きく切り裂いた。
ドサリ…とソウヤが地面に倒れ赤い池を作る。
―やったかっ!?
「――やったかっ!?」
ウリエルの内心と同じタイミングで、違うところから同じセリフが重なる。
瞬間、ウリエルは全てを察してびっくりするほど速い反射で大きくバックステップを行った。
その刹那、赤い池を作っていたはずのソウヤが、致命傷を負っていたとは思えないほどの速度で先ほどまでウリエルが居た場所を切り裂く。
自分の予感があたったことにウリエルは自分を褒めると、ソウヤに向けて剣先を向ける。
「身体の半分以上を切り裂いたと…思ったのだがな」
「何故死んでないか…か?」
コクリとウリエルは頷いた。
―どういうことだ、この炎の剣の攻撃力であそこまで切り裂かれたのなら、普通は”あの状態”でも即死なはずだが…
その思想を読んだように、ソウヤは立ち上がる。
そこにはばっさりと斬られた胸があった。
「お前、舐めてないか?俺のこと」
「舐めている…?」
心外だなぁというふうにやれやれとして見せるソウヤは、巨剣化している雪無を握りしめた。
「こいつのこと、忘れんなよ」
ソウヤはそれだけ言うと、先ほどの比ではない速度でウリエルへ近づく。
瞬きする余裕すら無いほどの速さ。
それはもう光速すら超えていた。
ソウヤは同じ剣撃を放つ。
さすがの速さに反応できなかったウリエルは咄嗟に炎の剣を盾にして――
――ゾワッとするほどの寒気に襲われた。
炎の剣にプラスして炎を足し、巨大な盾にすると完全防御姿勢に入った。
――次の瞬間に起こった衝撃に、ウリエルは驚愕した。
予想を遥かに超えたその衝撃。
―まさか、”あの地点”に達しているとは思っていたが…!
巨剣使いの異常っぷりにウリエルは驚愕を隠せない。
なぜなら、今目の前に居る存在は――
――とっくに妖精の限界を遥かに超えているのだから。
出力をかなり上げた炎の盾が少しずつ裂かれていく。
常人では触れるだけで真っ黒の灰になるはずの炎が凝縮された盾が…である。
―ヤバイッ!
ウリエルは盾を放置して全力で後ろへ下がる。
盾はウリエルが手放した瞬間、一瞬でソウヤにより破壊された。
「…強くなったわね、本当に」
ウリエルは不敵な笑みを浮かべると先ほどとは比にならない密度の炎を生み出した。
「――でも、私の本気はまだまだよ?」
それを見たソウヤも不敵に笑う。
「お前こそ――」
目が潰れてしまいそうなほどに輝く炎をウリエルはソウヤに対して放射する。
超エネルギーを目にしたソウヤはその笑みを浮かべ続けた。
「――誰が俺一人で闘うと言ったんだ?」
「水晶の城壁――!」
瞬間、一人の少女がエネルギーとソウヤの間に立ち半透明の綺麗な壁を出現させた。
エネルギーの塊が壁にぶつかり――互いに消滅して消えた。
「――ソウヤ」
「あぁ、助かったよ。ルビ」
ソウヤはルビの頭をかるく撫でると、雪無を構える。
ウリエルも炎を更に作り出した。
「さぁ、第二回戦…始めようじゃないか」
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