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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
3節―始まり―
  ――そして

 赤く、酷く臭い液体に塗れた1つの町が存在していた。
 人も誰もが皆…横になり、永遠の眠りに付いているその中で、ソウヤは1人ぼんやりとした意識の中立っている。
 目の前には2mほどであろう1人の魔族…。
 後ろには仲間が倒れている。

 ―俺が…悪かったのだろうか。

 呆然と…ソウヤはそう思う。

 この、血の海と化したエルフ最大の王国は…すでに9割9分の人が皆目の前に横たわる者によって…殺されていた。
 酷く臭く…虫唾が走る匂いが、その町を充満している。

 そこで、ソウヤは手を地面について膝をつく。
 身体がもう限界なのだ。
 だが、この身体のままでいればいずれか大量出血で死ぬだろう。

「がっふっ!」

 口を開けば血しか吐くことが許されず、焼けるような痛みがソウヤの腹と右脚に襲っていた。
 いや、もう完全に身体中が火に焼かれているのではと思えるほど…痛い。

 ―もう…休もう。疲れてた…。

 身体がもう限界なのを知って…ソウヤはついに、その身を血の海に沈めた。
 口の中に紅い…ナニカが入ってくる。

 ―臭い…鉄の味がする。

 ソウヤは段々と意識を失っていくのがわかった。
 そこで…何らかの力によって…ソウヤは血の海から這い上がる。

 もう、景色が赤色に染まっており…なにも見えなくなっていた。
 その誰かが話す。

「……ヤ…ん。………ら……た…と……ば…………れ………ま…。」

 なんて言っているのだろうか…それがソウヤには見当がつかなかった。
 ただ…どこか知っている声なのは、ソウヤは理解している。

「……は…………”賭け”…す。……が、………さ………、…け…に勝つ……………ます」

 なにか…温かいものが額に当たる感触をソウヤは感じた。
 そしてそれはソウヤの眼の中に入っていき…段々と景色に赤みが消えていく。

 その景色は…血と炎をバックにしたルリの泣き顔だった。
 それを気付き、ソウヤはできるだけ耳を貸そうと全力を尽くす。

「ソウヤさ…。…………挫けないで、…………帰って……ください」

 そして…ソウヤは青い輝きに包まれると同時に、その意識を断った。




 このような状態になったわけは、しばらく遡る。
 ソウヤは軍勢と闘うことを決意した次の日、兵士に見送られ街の門を抜けていた。
 早朝のことである。

「早朝には出ないと間に合わないだろう」

 そんな言葉を聞いて早朝に出ることをソウヤは決意したのだ。

 ソウヤは、後ろについてくる仲間に顔を向けず…話だけする。

「良いか、相手の数は3000。将軍魔族が見かけられないのだけ不自然だが、上級魔族1体に中級2体、下級族4体いる」
「私とルリが1000と中級1体に下級2体だな」
「えぇ、わたしとナミルもエレンと同じ数を」
「もとよりそれだけ頼むつもりだった。俺は上級1体と1000相手する」

 軽く相手する数を決めると、ソウヤはしばらく歩く。
 その後馬を街に向けて放ったあと…ソウヤは黒鏡破を取り出すと巨刀化させる。

「じゃあ先に突っ込むぞ」
「あぁ、頼む」

 エレンの言葉を受けると、ソウヤは一瞬にしてその姿をかき消した。

 そしてソウヤは数十秒のうちに1kmもある距離を走ると…すさまじい早さの剣速でまずは100…かたずけた。

 魔物たちには瞬時にしてソウヤが現れ、知らぬうちに100削れたことになる。
 そのことに混乱して下級の魔物たちはその場から離れることができない。
 その間にドンドン敵の数は削れていき…とうとう2500まで削れてしまった。

 そしてソウヤの前に魔族合計7体が現れる。
 普通なら軽く気絶する光景だが、ソウヤは不敵にニヤッと笑って――

「だれも、俺1人だと言ってないだろ」

 ――真横に通過する人影2つを見送った。

 下級魔族が2体…その人影によって切り裂かれ、その生命を儚く散らす。

 血飛沫を上げて倒れる下級魔族の前に立っている人影…言わずもエレンとルリである。

 その訳の分からない光景に魔族らは呆然とした。
 当然である、いつも群がらなkれば自らを倒せなかった存在がたった1人で下級魔族をたおしてしまったのだから。

 そして、その真っ白になった感情は一気に恐怖になり…そして怒りとなって沸騰していく。

「お前らは殺す」

 上級魔族のその言葉によって、魔族5体とソウヤら5人は戦いを始めた。

 上級魔族はソウヤに対して手に持つ血のように赤い巨大な槍で突きを放つ。
 それをソウヤは軽々と避けると、巨刀となった黒鏡破を上段に構え振り下ろした。

「っ…!」

 言葉にない声を出し、上級魔族は地面に突き刺さった槍を瞬時に戻すとその攻撃を防御してみせた。

 そこでソウヤは感じる、あまりにこの魔族が弱いことに。
 力を最大までためて…一気にソウヤは解き放ってみる。

「ぐぁっ!?」

 すると面白いように上級魔族が突き飛ばされ数十mは吹っ飛んだ。

 あまりの弱さにしばし呆然となるが、そこで2つの仮説に思い当たる。

 1つ目は単純にソウヤ自身が強くなったせいで、上級魔族を弱く感じたのではないかということだ。
 この仮説は多分あたっている可能性が近い。
 なぜなら初めの上級魔族を倒した時の攻撃力は15000だが、現時点では450500だからだ。
 この差はだいたい30倍に近いことになっている。

 2つ目は上級魔族にも強弱の差があるということだ。
 これも多分当てはまっているのだろう。
 正直、大いに成長した中でも強烈に強く感じた上級魔族も当然いたから、当然なのだろう。

 ならば、相手の上級魔族は弱い部類に入るのだろうとソウヤは思う。
 なぜならたとえ攻撃力が45万超えだとしても今まで戦ってきた上級魔族と鍔迫り合いで単純に押しのけることはほとんど無理に等しいからだ。
 …まぁシュリードには勝つのだろうが、シュリードは上級魔族の中でも最弱なのはとっくに公式で出されていた。

「ぐっ!なら…」

 上級魔族は単純な攻撃では負けると踏んだのだろう、呪文の詠唱を始める。
 普通なら褒められることなのだが、今回の相手は格が違いすぎたのだ。

「…『水魔爆裂(ウォロール・ガルズ)』!!」

 そう上級魔族が唱えた瞬間、ソウヤの周りに急速に水が生成され…それを包むように巨大な炎が現れる。
 急速な水の蒸発とそれを補うように生成される水と炎…その結果はすでに見えていた。

 突如、すさまじい音がしてソウヤの周りが爆発を起こした。
 上級魔族はなんと、異世界では知られていないはずの水素爆発である。

「ふぅ…さすがに至近距離では耐え切れんだろう」

 安心したように上級魔族はため息をつく。
 しかし、そこに巨大な刀が上級魔族に向かって振るわれる。
 殺気のようなものに気がついた上級魔族はいそいで槍を持ち上げ防御するが、あまりの力に再び飛ばされた。
 そう、”普通”の兵士や冒険者なら死んでいただろう…だが――

「…『地獄炎剣(グラドルサイア・ファイソーガ)』」

 ――”『均等破壊(バランスブレイカー)』”の異名を持つソウヤが、そんなので死ぬはずもなかったのだ。

 地獄のように熱い炎の剣が、上級魔族の横っ腹を焼いて裂いていく。
 その痛みは想像しがたいものなのだろう。

「がぁああああっ!!」

 そんな痛烈な叫び声を上げたまま、上級魔族の上半身と下半身は離れていった。

「ふぅ…」

 ソウヤはそんな光景を見て、ため息をついた。

 ―もう、血や肉片も…見慣れてたものだな。

 ソウヤはそんなことに酷く嫌な気分になりながら、他の全員を見てみる。
 とっくの前に終わらせていたようで、今は魔物の掃討にあたっていた。

「今回の襲来は、酷く簡単に終わったな」

 あまりに簡単に終わってしまったせいで、ソウヤは嫌な予感がするのを感じた。
 そんなことはないと思っているのに…そう思ってしまう。

「魔力は食うが、空間魔法で転移を行う」

 ソウヤは唐突にそう言った。
 その言葉に全員が不思議そうな顔をする。

「疲れたから、早く帰って休みたいからな」

 ソウヤはそう言うとゲートを出現させる。
 エレンたちもいきなり襲来に巻き込まれてしまっていて、疲れは溜まっていたようで素直にゲートに入っていった。
 ――この先にある光景を知らずに。

「ソウヤっ!早くこい…!!!」

 そんな馬鹿でかいエレンの声を聞いて、ソウヤは嫌な予感があたっていることに気がついた。
 他の全員をあとから入るように言って先にゲートに入る。

 そして…地獄絵図がそこにはあった。

「なっ…!」

 草木に溢れ、清々しい匂いのした美しかった街…。
 それは今では赤く、臭い液体に塗れた地獄のような…魔界のような街へと変貌していた。

 そして、エレンとその目の前にいる、一度あった存在。
 そのそいつはソウヤに顔を合わせると、獰猛な笑みを浮かべて――

「また会ったな、小僧。一段と強くなっているようで安心したぜ」
「ガールって言ったか。久しぶりだな」

 ソウヤは黒鏡破をストレージにしまうと、魔魂剣(レジド)をとりだし巨剣化させる。
 ガールも手に持つ赤く濡れた大剣を両手で持つ。

「容赦は…しない」
「いいぜ、俺もはじめから本気を出させてもらう」

 そしてソウヤは、もう一度ストレージを出現させると恐電(クーズテット)を取り出し、それも巨剣化させ、本来の強さに戻す。
 呪文詠唱を最後にソウヤは行い始める。
 ガールも構えを解くと、詠唱を始めた。

 エレンたちは街にいる人達の救助に向かってくれていた。

 そして数秒後…戦闘の開始の言葉が、互いに紡がれる。

「…『亡霊開放(エレメンタルバースト)』!!!!」
「…『魔将開放(ロールド・バースト)』!!!!」

 ソウヤは髪がより漆黒さを増し、闇のように黒くなり瞳が真っ白になった。
 腕からは角が生え鱗が生え、手は漆黒の毛に包まれる。
 尻からは何か硬い尾と毛で作れた漆黒の尾の2本が現れ、足に針が生えた。

 ガールは3mも会ったその巨体を2mほどまで背が縮み、大剣もそれに比例して小さくなった。
 そして背中からは銅褐色の翼が生え、その身は一目でチビるほど圧力を醸し出している。

 一瞬で周りの建物がその2人の威圧により破壊され、塵も残さず消え去った。
 溢れだす魔力がぶつかり合い、地面の石やら土やらが宙に浮き木っ端微塵になる。

「…」
「…」

 両者は黙ったままその得物を構えた。

 そう、もうこのレベルになった時点ですべては1発勝負なのだ。
 剣撃を交わし合うなど時間の無駄、ソウヤとガールは時間制限でこの状態になっているのだからそう思うのは当然だろう。
 それに、攻撃しても躱し防がれるだけでその全てが無駄なのである。
 ――それが…このレベルの戦いなのだ。

「『雷電(ボルテット・)……」
「『暴風(テルペス・)……」

 ソウヤの恐電に超濃密度の電力が。
 ガールの大剣に超濃密度の風力が。

獄蒼炎(ゴークブルガイア・)……」
冷寒(グルドメッズ・)……」

 ソウヤの魔魂剣に地獄のように熱い青い輝きを放つ炎が。
 ガールの大剣に一瞬で凍え死んでしまう冷たく光る氷が。
 そのそれぞれの剣に宿り――

(ライガ)』!!!!」
(ライガ)』!!!!」

 ――一筋の光となり水色に輝く光と、蒼色に輝く光がぶつかり合った。

 そう…それは嵐の前の静けさだ。
 全ての風が止み、絶えず流れる血は止まり歩く人も立ち止まる。
 朝は雲に覆い隠れたままで…そしてソウヤはガーフも止まったまま…。
 そして…止まった時間も――動き始める。

 鼓膜が潰れそうな音がひびき…否、鼓膜を潰す音がひびき街すべてが消し飛んでいく。
 地面のクレーターも更に深く、大きくなる。
 死んでいる生きている関係なく人々は皆その強風で飛ばされ、ある者はその熱にやられて大火傷を負った。

 周りに蔓延っていた血はすべて吹き飛ばされ、上にある城さえも崩れていく。
 それ程に…2つの攻撃のぶつかり合いの衝撃は強かった。

 ソウヤの右脚に巨大な穴が空き、腹にも普通の人なら死ぬであろう巨大な穴が開いた。
 しかし、ガールも左腕が吹っ飛ぶ。

 ソウヤの肺がやられ、鼓膜もついに耐え切れなくなり潰れる。
 ガールも鼓膜が潰れ左脚が逝った。

 そして、数時間にも数秒にも思えるようなエネルギー同士の戦いは…ソウヤの勝利で終わる。
 ついにガールが耐え切れなくなり、エネルギーが消失していく。

 そして段々とソウヤに押されていき…ついにガールはそのエネルギーの塊によって吹き飛ばされ廃墟とかした建物にぶつかり…息の根を止めた。

 なんとあっさりと死んだものだ…そうソウヤは思わずにはいられなかった。
 そんな…最後だ。

「かっふっ!!」

 ソウヤは倒れた。
 周りを見れば仲間が倒れていて、あのエネルギー同士の衝突で意識を失ったのだろう。
 生きていてくれ…そうソウヤは思わずに入られなかった。




 赤く、酷く臭い液体に塗れた1つの町が存在していた。
 人も誰もが皆…横になり、永遠の眠りに付いているその中で、ソウヤは1人ぼんやりとした意識の中立っている。
 目の前には2mほどであろう1人の魔族…。
 後ろには仲間が倒れている。

 ―俺が…悪かったのだろうか。

 呆然と…ソウヤはそう思う。

 この、血の海と化したエルフ最大の王国は…すでに9割9分の人が皆目の前に横たわる者によって…殺されていた。
 酷く臭く…虫唾が走る匂いが、その町を充満している。

 そこで、ソウヤは手を地面について膝をつく。
 身体がもう限界なのだ。
 だが、この身体のままでいればいずれか大量出血で死ぬだろう。

「がっふっ!」

 口を開けば血しか吐くことが許されず、焼けるような痛みがソウヤの腹と右脚に襲っていた。
 いや、もう完全に身体中が火に焼かれているのではと思えるほど…痛い。

 ―もう…休もう。疲れてた…。

 身体がもう限界なのを知って…ソウヤはついに、その身を血の海に沈めた。
 口の中に紅い…ナニカが入ってくる。

 ―臭い…鉄の味がする。

 ソウヤは段々と意識を失っていくのがわかった。
 そこで…何らかの力によって…ソウヤは血の海から這い上がる。

 もう、景色が赤色に染まっており…なにも見えなくなっていた。
 その誰かが話す。

「……ヤ…ん。………ら……た…と……ば…………れ………ま…。」

 なんて言っているのだろうか…それがソウヤには見当がつかなかった。
 ただ…どこか知っている声なのは、ソウヤは理解している。

「……は…………”賭け”…す。……が、………さ………、…け…に勝つ……………ます」

 なにか…温かいものが額に当たる感触をソウヤは感じた。
 そしてそれはソウヤの眼の中に入っていき…段々と景色に赤みが消えていく。

 その景色は…血と炎をバックにしたルリの泣き顔だった。
 それを気付き、ソウヤはできるだけ耳を貸そうと全力を尽くす。

「ソウヤさ…。…………挫けないで、…………帰って……ください」

 そして…ソウヤは青い輝きに包まれると同時に、その意識を断った。




 歯車は狂い、運命は捻じ曲げられ…そして――




 ――始まる。 
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