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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
3節―始まり―
  霊薬

「ん…?」

 ソウヤは青い輝きが消えるのを待って、そっと眼を開けた。
 そこから見えるのは何十mもありそうなとても巨大な樹と、目の前に立っている軽装備の弓と矢を担いだ兵士だ。

「転移、お疲れ様でした。吐き気などはありませんでしょうか?」

 目の前の兵士はそう言うと、ソウヤは自分の身体に意識を集中させる。
 少し頭痛がするが、それだけなので「大丈夫だ」とソウヤは言っていくが、他のものはそうでないようだ。

 エレンやレーヌは頭を小さく叩いているし、ルリやナミルは気持ち悪そうにして顔色が少し悪そうである。
 それを確認したソウヤは目の前の兵士に告げた。

「俺は平気だからそのまま第三王女の元へ行こう。仲間は休ませてほしい」
「はい、わかりました。おい、ソウヤ様のお仲間を丁重にお連れしろ」
「はっ」

 同時に転移した剣持ちの兵士は返事をすると、エレンたちを案内していった。
 どうやら目の前の弓持ちの兵士はさきほどの兵士より、位が高いらしい…そうソウヤは結論付ける。

「ではソウヤ様、こちらへどうぞ」
「あぁ」

 ソウヤはそう短く答えると、前を歩く兵士に付いていった。

 なぜソウヤがわざわざ第三王女のところまで行かなければいけないのかというと、霊葉の特性にある。
 霊葉は初めに手にとった者の魔力に馴染むので、他の者が触ると一瞬で朽ち果てるのだ。
 それは手袋やピンを使っても同じことなので、必然的に薬の調合はソウヤに任されることになるのである。

 ソウヤたちが巨大な樹の中に入り、黙々と上に繋がる木の階段を登って行くとひときわ大きい扉がある部屋に辿り着いた。
 兵士は扉の前に立つと、小さく歌うような綺麗な声を出すと扉がゆっくりと開かれる。
 あの兵士が紡いだ言葉…あれはエルフ独特の言語なのだろうとソウヤは開かれる扉を見ながら思う。

「こちらが謁見の間です。王が見えますので一旦ご挨拶をお願いします」
「了解した」

 ソウヤはそれだけ言うと、謁見の間に続く扉を潜る。
 そこには美青年がひときわ大きな椅子に座って、こちらを静かに見つめていた。

 兵士がある程度進んだところで跪くのをソウヤは見て、それを真似る。

「よい、顔を上げてくれ」

 そんな、男であるソウヤでさえも震えるほど美しい声が耳に届く。
 その声の張本人は、言わずも王であることはわかっていた。

 ソウヤと兵士は静かに顔だけ上げた。

「確か…アルドだったか。ソウヤ殿を見つけここまで送り届けたこと、感謝に値する。褒美をあとで取らせよう。下がってくれ」
「はっ!有難き幸せです、陛下!!」

 それだけ言うと、兵士はひときわ大きい扉をくぐってその姿は見えなくなった。
 王は頷くと横の壁に立っている者達に言葉を述べる。

「家臣も、下がってくれ」
「しかし陛下っ!」
「これは私用だ。それにソウヤ殿が本気になられたらお前たちが束になっても叶うまい」

 その王の言葉はあまりに正論だった。
 家臣たちは苦渋の顔をすると、「用のあるときは申し付け下さい」と言って渋々部屋から出て行く。

 その姿を見ながら、ソウヤは思った。
 あぁ、この国はなんていい国なんだろうな…と。

 ソウヤも様々な国に訪れ、城にも出入りしたことも良くあったがここまで家臣が王を慕う国は初めて見たのだ。
 それに、その慕う心もソウヤは嘘でないように思えた。

 全員が立ち去るのを確認し、王は立ち上がる。
 そして、一気に王の威厳が消え失せた…否、それを覆い隠すほどの暖かなオーラが王を包んだ。

「済まないね、ソウヤ殿。楽にしていいよ」

 今までとは圧倒的に違う優しさの込められた、まるで世紀のイケメンが発した声がソウヤに届く。
 ソウヤはこっちが本当の王なんだろうな…そう思わずに入られなかった。

「しかし陛下。私はただの冒険者です」
「さっきも言ったろう?これは私用だ。それに王の楽にしてくれという命令も聞けないのかい?」

 そう言って王はクスリと笑った。

 ―…負けた。

 ソウヤは久しぶりの敗北感を味わうと、気が抜けたように肩の力を抜く。
 そしてゆっくりと立ち上がると王と同じ目線になった。

「わかった。命令なら…仕方がないな」
「そうそう」

 自分の娘が危機だというのに、ここまで気丈に振る舞えるのもやはり王の器ならではなのだろう。
 その器の大きさにソウヤは感服するしかなかった。
 それと同時に、急がねばという気持ちも大きくなってくる。

「王「ミラジュだよ」…ミラジュ様。では早速第三王女の元へ」
「……そうだね」

 ミラジュはそう言うと、王座の横にある扉を開け「こっちだよ」と言って扉に入る。
 ソウヤもそれに続いた。

 しばらく歩くと、1つの小部屋を見つける。
 多分、ここが第三王女の部屋なのだろうとソウヤは当たりをつけた。

「ソウヤ殿。済まないね、こんな人の命に関わることを頼んでしまって…こんなこと、慣れてないだろうに」
「それこそ大丈夫だ、ミラジュ様。俺は何万人の命を何回も背に抱えてきたからな」
「――そう…だったね」

 ミラジュはそう言うとつらそうに笑った。
 ソウヤはそれに笑みを返すと、第三王女の部屋であろう部屋にはいる。

 そこには…死んだように動かない、1人のそれは美しい女性が眠っていた。
 髪の色は艶やかな黄緑色をしており、1つ結びにされている。
 そんな美しい女性も、今は冷たく氷のようになっており肌もひと目で分かるくらい青くなっていた。

「…霊薬の作り方を知っている人は?」
「いるよ。今エミアのベッドの横に座って看病している」

 確かに、エミア―第三王女のこと―のベッドの横に1人の女性の老人が水魔法をかけ続けている。
 ソウヤは頷くとその女性に近づく。
 女性もソウヤの存在に気づいたのだろう、こちらに顔を向け驚いた顔を見せる。

「へぇ…アンタが霊葉を持っている人かねぇ。まだ若造じゃないか。本当に持ってるんだろうね?」

 そのソウヤを疑う声に、ソウヤは微笑んで頷くとストレージから霊葉を取り出してみせた。
 銀色に光る葉…それが霊葉である。
 それを見ると、老人は大きく眼を開きそれをよく観察した。
 
「確かに…私が見た霊葉と同じさね」

 どうやら本人も霊葉だと認めたらしい。
 老人はソウヤをじっと見つめると…眼の色が黄緑から一瞬で紅に染まった。
 そして…数秒後、老人は非常に面白い顔をして「どひぃあ!」と驚く。

「ど、どうしたんだい?婆さん」
「どうしたもこうしたも!何なんだいコイツっ!バケモノじゃないかっ!!」

 老人の声にミラジュは「どれぐらい強いんだい?」と伝える。
 その問いに老人は慌てながら叫ぶように伝えた。

「二つ名が3つもあるし希少能力(ユニークスキル)も4つもっ!ステータスもすべて10万ごえ!?将軍魔族を2体相手にできるのも…納得さね」

 老人は最後につかれたようにそう言うと、ヘナヘナとベッドに腰掛けた。
 ミラジュもそのソウヤの規格外さに驚いている様子だ。

 しかし、ソウヤも驚いていることがあった。
 希少能力という単語を知っていること、そしてなによりステータスが詳細までバレたことである。

「待て。なぜ老人、あんたはステータスを?そういう希少能力か?」
「ん?あぁ、そうさね。ただ希少能力ではなくて特殊能力(エクストラスキル)じゃがね」
「じゃあなぜ希少能力、特殊能力という単語を知っている?」
「だって、わたしゃあトリッパーじゃからの」

 ソウヤは納得したように、ため息をついた。
 この目の前の老人がトリッパーだったらすべてのことがわかるというものだ。

「じゃあ、早速始めるぞ。時間は大丈夫なんだろうな」
「あぁ、あと少なくとも5日はあるからね」
「どれぐらいで調合できるんだ?」
「霊薬自体、1日もすれば完成するよ。霊薬の素材の霊葉だけが入手困難なだけだからね」

 ソウヤは「わかった」といってその調合を始めた。
 それと同時刻…1つの軍団が、最大の脅威として1つ…また1つと村や集落を潰していく。

 それが王都に伝わるのは…まだ先のことである。 
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