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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
3節―始まり―
  兵士の願い

 静寂に包まれた場所…”運命を司る女神”であるヴェルザンディはディスプレイの先に見えるソウヤを目にして、苛立ちを募らせていた。

 その原因はディスプレイに映る青年…ソウヤだった。
 初めはウィレクスラに頼まれ、運命を無理矢理捻じ曲げて起こしたお遊びだが、その中で脅威となる人物が作られてしまったのだ。
 何重もの偶然が重なり、今現在のソウヤという下級神なら倒してしまいそうなほどのステータスを持った者が現れた。

 それを意味する事…つまりこのまま放置しておけばこちらに危険が及ぶという事だ。
 あの『神具(セイクリッド・ウェルズ)』を持たぬ限りこちら側にダメージを与えることは不可能である。
 しかし、その”もしかしたら”がひどくヴェルザンディは不安なのだ。

 だからソウヤを潰そう…そう考えて起こした魔物軍団の予期せぬ襲来。
 先程の襲来では巨大な街1つ潰してしまうほどの戦力を送り込んだにもかかわらず、ソウヤと一行はそれを全滅して見せた。

 ―こんなことがあって良いわけがないっ!

 ヴェルザンディはそのあまりにも強くなりすぎたソウヤらを見つめ続け、そう思って激怒した。
 一瞬にして周りの空間がひび割れ、朽ちていく…。

 ―でも…あいつをギリギリまで追い詰める事が出来た…。もう一度、起こしたらさすがにあいつでも生き抜くことはできない…。

 ヴェルザンディはそう思うと口元をひどく歪めた。

 ―すべては、ウィレスクラ様の行くままに……。

 ヴェルザンディはそうとだけ思うと、その場から姿をかき消した。

 ――ソウヤという、危険な存在を消すために今…運命の歯車はもう一度…大きく動き始める。




「どうするかな…」

 騒ぐ街を見渡し、ソウヤはそう言ってため息をついた。

 あれから1ヶ月ほど経ち、呪いも治ったが正直ソウヤは嫌な予感しかしなかったのだ。
 ここ最近は特に、呪いが解けるとすぐさま襲来が起こる…そんなことを繰りし返しているのでそう思うのは当然なのだろう。

 ―…魔族の襲来が来るたびにその強さがやばくなってる。それはなぜだ?まずなんで俺の居るところばかりこんなことが起きる……?

 ソウヤは座っている椅子に全体重を預けて、宿の天井を見上げる。
 その中で、ソウヤはある仮説を立てていた…否、昔から思いついていた…が正しいだろう。

 ―神の存在…か。別におかしいわけじゃないけどな……この世界にトリップさせたのも神だと言われれば納得もできるしな。なら…なぜ?

 考えるごとに頭が混乱していくのがわかる。

 ―神のお遊び?それとも何かの恨み?いや、そんなことをした覚えはない…。

 そこで、あるもっとも真実味のある仮説にたどり着いた…たどり着いてしまったのだ。

 -俺が…つ

 そこまで考えたところで何か、鋭い殺気をソウヤは首筋に感じた。
 何かが迫る音…空気を切り裂き1つの終着点へと向かうこの小さな音…それをソウヤは殺気とともに感じ取ったのだ。

「っ!?」

 瞬時にソウヤは殺気の迫るほうへ体を向けてすさまじい反射神経で、首筋を狙ったナニカを右手で受け取った。
 それは伝統ある日本の中の武器の1つで、良く外国人が勘違いをして日本人のネタとなった者が使っていた武器…すなわち”クナイ”である。

「ク、クナイ!?」

 こんな世界で見るとは思わなかったその特殊すぎる武器にソウヤは一瞬、呆けた顔をした。

 しかし、それも一瞬のことである。
 凄まじい殺気にもう一度あてられたソウヤの行動は早かった。

 メインスキルを街を破壊してはならないため戦士に変更し、黒鏡破をアイテムストレージから出現させると窓から外に飛び出す。
 そして殺気が送られる場所に向かって、高速でクナイを投げ返した。

 クナイが投げ込まれた場所から、突如黒い人物が飛び出し屋根に飛んで逃げ始める。

「なんだあいつ…?」

 そう言って、ソウヤはあきれ果てたのか宿に戻ろうとしたとき、ナニカ嫌な予感が突如背筋に大きく襲った。
 瞬死の森に何ヶ月もいたからこそ培った第六感が、警報を大きく鳴らしているのだ。

「っち!!」

 ソウヤは大きく舌打ちすると、黒鏡破に水をまとわせ後ろのナニカに攻撃を行った。

 強烈な熱風が吹き荒れ、ナニカが急速に蒸発していくのをソウヤは感じる。
 そう、その目の前の真っ赤なレーザーのような超密度のエネルギーが急速に冷えると…どうなるかは言わずもがな。

「ドルチェ・セル!!」

 ソウヤは咄嗟に土魔法の壁を急速展開すると、土壁の中からすさまじい音が聞こえるのを聞いて背筋がぞっとするのを感じた。
 周りが騒がしくなっているのを気にせず、先ほどの高密度のエネルギーレーザーを放ってきた張本人を探す。

「…! 次は何だ!?」

 次は左右から殺気を感じ、ソウヤはその場からバックジャンプで飛び退く。
 そのままこっちに向かってくる黒いマントを持った人が2人。
 それぞれ、得物は剣と槍のようである。

 ソウヤは舌打ちをすると、黒鏡破を構えた。

 ―こんなところで人を殺すのは流石にまずい…。やるとすれば峰内…か。

 ソウヤは刀を反対に持ち直すと、剣持ちに向かって突っ込んだ。
 剣持ちはそれに対応して、上段に構えてソウヤに向かって切るが、それをソウヤは懐に飛び込むことで回避。
 そして剣持ちとすれ違う瞬間に、峰内を腹に叩き込む。

「っ…!?」

 剣持ちはそれで意識を失った。

 ソウヤは驚いている相手に向かい、瞬時に動くと相手に反応する隙も与えずその首に黒鏡破を宛がった。

「さぁ吐け。お前らは誰の命令で動いている?」

 ソウヤは冷徹な声をワザとだし、黒鏡破を首に当てることで”脅迫”する。
 槍持ちはすぐさま得物を屋根の上に落とし、両手を頭に当てることで投降したことを伝えた。
 しかし、槍持ちが出した声は状況とあっていない、そんな声だったのだ。

「お見事です。さすがは妖精最強と言われるソウヤ様です」

 その変装した状態のソウヤのことを見破ったことに、ソウヤは少し驚いた。
 槍持ちがその場で立ち上がるのを見て、ソウヤは黒鏡破を自分のもとへと戻す。
 ずっと殺気を送っているソウヤに、槍持ちは手を頭のところまで上げて「敵意はありません、あっても瞬時に倒されますから」という言葉が送られた。

 ソウヤはため息をついて殺気を解くと、槍持ちに睨んで問う。

「なぜ俺だと知った?」
「魔族襲来や魔物襲来の直前、必ず居たのに始まった時には必ずその姿を隠している…。そんな人物があなたしかいなかったんですよ」

 どうやら槍持ち、またはほかの仲間か主の誰か1人、頭の切れる奴がいるらしい。
 そうソウヤは思った。

「ではいきなり襲ってきた理由は何だ?下にいる住民にも迷惑をかけたのだから、それ相応なんだろうな」
「はい、それ相応の理由です」

 ソウヤの問いに即答する槍持ち。
 その顔はいつになく真剣みを帯びていて、嘘を言っているようには見えなかった。

 黙るソウヤに、話していいと思ったのだろう、槍持ちはポツリポツリと話し始める。

「…我らの主はエルフの第三王女なのですが、先週急速に身体が冷え始め医者に診察をお願いしたところ…」

 そして、苦々しい顔でその病名を告げた。

「リクール病…だったのです」

 その”リクール病”という単語を聞いた瞬間、ソウヤ以外の周りの人々が息をのんでいるのがわかる。
 ソウヤもそのリクール病という病気に関しては知っていた。

 リクール病…それはこの世界の言葉で言うところの冷え性を悪化させた病である。
 原因はまだ特定されておらず、治す方法は特別濃密な魔力が漂う場所にだけ生えるという万能樹から採取できる、霊葉だけなのだ。
 その症状は酷いもので、病にかかると急速に身体が冷え始め30℃ぐらいまで体温が下がりきると、そこからゆっくりと身体が冷えていき…2週間もすれば死に至る。

 その万能樹は特別濃密な魔力のある場所にだけ生えているのだが、濃密な魔力=強大な魔物が大量に住んでおり、例えば瞬死の森などだ。

「そうか、万能樹を手に入れるために俺を探していたって訳か」
「はい、そうです」

 ソウヤはしばらく黙り込むと、ため息をついて人差し指を1本立てた。

「その第三王女は治す。礼は要らないが1つ、貸しとしてくれ。それで助けよう」
「…良いん……ですか?」
「何度も言わせるな。早く心が変わらないうちに決めろ」
「わかりました!お願いします!!」

 ソウヤは槍持ちの土下座を見て、ため息をつくと立たせる。

「じゃあ明日、お前たちの場所へ馬車で行く。いいな?」
「え、ですが霊葉はまだ…」
「俺は瞬死の森にずっとこもっていたんだ。霊葉ぐらい持っている」
「では、明日の朝…あなたの部屋に参ります。転移装置を用意しているのでそれをお使いください」

 それにソウヤはうなずくと、もう一つ、仲間と馬車が転移装置に入るかどうか確認してそれに同意した。

 次の日、ソウヤたちは青い輝きに包まれエルフの大陸の王都にたどり着いたのだった。 
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