土蔵の宝
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第一章
土蔵の宝
甲斐の国、今の山梨県の六郷町に伝わる話だ。この村に平四郎という若い男がいた。家は百姓だが彼はよく山に入っては山菜だの果物だの魚だのとを持って帰っていた。
その平四郎にだ、村人達はよく聞いた。
「いつもよく持って返って来るな」
「山の果物なり山菜なり」
「よくそんなに採れるな」
「わし等ではとても採れないぞ」
「魚も釣れないぞ」
「どうやったらいつもそんなに手に入れられるんだ」
「これはあることがわかればなんだよ」
村人達に気前よくだ、あけびなり栗なりを渡しつつだ。平四郎は話すのだった。
「山には栗鼠なり鼠なりいるだろ」
「ああ、多いな」
「そうした生きものもな」
「狐や狸もいてな」
「熊だっているな」
「ああした連中みたいになったと思ってな」
そしてというのだ。
「採ればいいんだ」
「栗鼠や鼠か」
「そうした生きものになったつもりになってか」
「採ればいいんだな」
「魚も釣ればいいか」
「魚は川獺だな」
この獣になったつもりでというのだ。
「釣ればいいんだ」
「川獺か」
「確かに川獺は魚獲るの上手だしな」
「あの獣になったつもりで捕まえるとか」
「それでいいんだな」
「そうなんだ、わしはずっと山に入っていたからな」
それこそ子供の頃からだ、山は彼にとってはまさに遊び場なのだ。
「わかるんだ、あとな」
「あと?」
「あと何だ?」
「この辺りには山人もいるな」
彼等の話もするのだった。
「ちらっと見たぞ」
「山人?あの連中もいるのか」
「噂には聞いてたが」
「この辺りにもいるのか」
「そうだったのか」
「ああ、わしが入る場所に来ることは殆どないみたいだがな」
だから彼も少ししか見ていないのだ、彼等の姿を。
「それでもな」
「いるんだな、連中も」
「そうだったのか」
「ああ、ただ話したことはないしこの村にもな」
彼等が住んでいるそこにもというのだ。
「来ることもないさ」
「連中は山にしかいないからな」
「山から出ることもないしな」
「だからな」
「この村に来ることもないな」
「ああ、ただ本当に獣になったつもりで採ったり釣ればな」
そうすればとだ、平四郎はまた話した。
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