| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

その日はいつかやって来る

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

01

 その日はいつかやって来る

 あの男は瞬く間に成長した。 名も知らぬ雑草が、図太く逞しく育って行くように。
 そしてほんの少し目を瞑っている間に、元は幽霊だった娘や、貧乏神が憑いていた娘は、すぐに幽霊に戻った。 もう名前も覚えていない。
 我々を何度か救ったミカミと言う女もすぐに消えた。 流星のように一瞬だけ輝いて、美しい火花を散らして消えて行った。
 それから暫くして、バンパイアと人のハーフだとか言った男もいなくなった。
 カオスと言う魔人も灰になった、魔族の血でも入っていたのだろうか? しかし永遠では無かった。

 神族達も人間との火遊びなど許されていなかったのだろう、配置転換で千年と経たずどこかに行った。 もちろん神族と個人的に連絡を取るような愚かな真似はしていない。
 こうして奴の心も次第に乾いて、我々に近い存在になって行った。
 魔界の多くの者も奴を暖かく迎えた、血みどろの肉弾戦、陰惨な謀略戦、最高に手厚いもてなしを受けて、戦って、戦って、戦い抜いて、奴はアシュタロスの後釜に座った。

 彼の正室として迎えられた私は、文珠を使える魔族の子を多く産んで賞賛された。 神族からの抗議? そんな物はゴミ箱に捨てた、私の可愛い子供達を制限する事など許さない、代わりに奴らを少し削減してやった。

 記念日にはプレゼント、共に眠る時には愛の言葉。 あの人は何を伝えたかったのだろう? 欲しければ力で奪えばいい、優しい言葉も贈り物も必要無い、私はどんどん堕落して行った。

 愛された私の羽には白い物が混じるようになっていた。 あの人は「もったい無いから抜くな」と言ったが、周りの者に示しがつかない。 抜いた羽はあの人に渡したが、ビンに詰めて保存していた、恥ずかしい……
 白黒の羽を見て「牛みたいだ」と言われた。 「ホルスタイン」とも言われた。 意味が分からなかった私は、それを侮辱と受け止めた。 でも、あの時は殴らなければ良かった。
 そんな幸福な時がいつまでも続くかに思えた。 しかし、それも永遠ではなかった……

「いやだああああっ!! 目をっ、目を開けてくれえっ! お前がいなくなったら私はどうすればいいっ! この子達はどうすればいいんだああっ!!」

 それはもちろん、保身のためや、今の地位に居座りたいと思って出た言葉ではない。 子供は孫を産み、孫は曾孫を産む程の時が流れていた。 子供達も力強く、誰からも害される事は無いだろう。
 しかし、あの人の体から抜け出して、私達から永遠を奪い、あまつさえ一身に寵愛を受けた娘。 ルシオラと名付けられた娘だけは、どうしても許せなかった。

 程無く後継者争いの抗争が起こった。 無様な姿を衆目に晒し、白い羽の引き取り手が無くなった私は求心力を失っていたためだ。
 葬儀もままならない内に、魔族の最大派閥となっていた我々を切り崩す工作が行われ、血が薄れた無能な孫や、曾孫までが担ぎ上げられていた。
 戦いだけが慰めとなった私は、強権を発動して兵力を結集し、介入して来た勢力を全て撃破して行った。 降伏する者は許し、抗う者は全て殺す、この方法で次第に内乱は収まって行った。

 やがて元の8割の部族が私の元に集い、あえて同盟も降伏も受け付けなかったルシオラ一派だけが残った…… 弟のジークと共に。 
 あいつらの最後の砦を包囲した時は、勝利を確信していた。 しかし、略奪と殺戮が始まった時、あいつが出てきた。 
 始めは自分の命と引き換えに、住民を許せとでも言うつもりだろうと思っていた。 だが、あいつと子供達は何かの儀式を行い、気味の悪い聖歌を歌いながら溜め込んでいた文珠を使った。

 そして街が一つ浄化され、数万の塩の柱と、魔族が近寄れない聖地が出来上がった。 あいつの信奉者はその中でのうのうと暮らしていると言うのに。
 あの文珠は、範囲を制限するために使われていた。 またあのバカは殺すのをためらったのだ。 この軍団を壊滅させようともせず、街に入った略奪者だけを浄化した。 生まれてから一度も戦わなかったのと同じように。 

 異端だ、堕落している、奴らは神族にでもなったつもりか? ジークまでがあの中で生きている。 下らない奴を弟に持ったものだ、出て来たら必ず殺してやる。

 それから間も無く、手のひらを返すように寝返る者が続出した。 ルシオラは予告通り、自分の眷属の住む街々を浄化し、被害を恐れた者達は全て奴に恭順して行った。
 やがて… 私は味方の手で捕らえられ、あいつの前に献上された。

「殺せっ!」
「そんな事できないわ、お母さん」
「……」

 あいつもハイブリッドと呼ばれる、1世代目だけに現れる特殊能力を持っていた。 だがルシオラだけはもっと特別だった。 我々魔族を浄化する、天使の力を持っていたからだ。
 魔王の子が天使? お笑いだ、馬鹿げている。 大天使がこの地に降臨したとでも言うのか?

 あいつは始めから全て白い羽を持って生まれて来た。 それからは誰にも見付からないよう、毎日ビクビクしながら黒く染めるのが私の日課だった。
 だがその恩を忘れ、成長したとたん私からあの人を奪い、何人も白い羽の子供を産んで、堂々と城の中を歩かせた。 この内乱も、あの人が死んだのも、全てお前のせいだ、絶対に許さない。

「お母さん… 最後に一つ、お願いがあります」

 そこでルシオラに、人間界で小さな事件が起こっていると教えられた。 いつの間にかこの城を抜け出していた九尾の狐が人間界で暴れていると言う。 こちらの内戦に比べれば小さな事だが、道理でどの派閥でも奴を見掛けなかった訳だ。

 奴は傾国の美女と言われるだけあって、誰よりも美しかった。 体が衰えれば誰かの体を乗っ取り、滅びればすぐに転生し、少女の姿で現れて我々と永遠を共にして来た。
 その外見から天女だと密告された事もあったが、禍々しい力で相手を叩き潰した時から、誰からも恐れられるようになった。 この私でさえも…

 私は奴の説得を頼まれた。 要はタマモと戦って死んで来いと言う意味だ。 魔族に与えられる名誉ある最後の戦いの場。 私はルシオラに殺されるぐらいなら、奴の爪に切り裂かれる方を選ぶ、私は久しぶりに人間界に渡った。

 随分と様変わりしていた人間界、だが奴の力には及ばなかったらしい。 日本と呼ばれていた場所のあちこちで煙が昇り、破壊の爪跡が残っていた。

 フオオオオオオオッ!! ヒャオオオオオオウウウウッ!!

 奴の恐ろしい唸り声が聞こえる、だがそれが泣いているように聞こえたのは私だけだろうか?
 巣に近付くと、恐ろしい瘴気にむせ返った。 誰もいない…、きっと今の人間に奴を倒せる程の者はいないのだろう。

「久しぶりだなっ、聞いているだろうっ? 私は負けたっ、お前の所へ行って殺されて来いと言われた。 さあ、早くやれっ」

 ヒイイイイイッ!! フアアアアウウウウウッ!!

 まるで鏡でも見ているようだった、哀れな獣は飼い主を求めて泣き叫んでいた。

「そうか、お前も暴れたかった訳じゃないんだな、転生したあの人に滅ぼされたかったんだろう」

 ヒャウウウウウウッ! ヒィ、ヒィ、ヒィ…

 血の涙を流しながら、巨大な九尾の狐から、元の姿に戻って行くタマモ。 こんな所にも私がいた。

「馬鹿だな、お前じゃないんだから、そんなすぐに転生するか。それにこの土地を壊したら、あの人が生まれて来なくなるだろう」
「うっ、ううっ」

 祈るような格好で跪いているタマモ。 もう何を望んでいるか、言われなくても分かった。

「そうか、お前は眠れるんだったな。 じゃあ、せいぜい良い夢でも見るんだな」

 パーーーン!

 瘴気が晴れて行く…… 見ているか? 迷い狐はここに縛り付けておいた、早く迎えに来い。

「ワルキューレッ! どうして貴方がここにっ!」

 神族の奴らが現れた、今ごろ何をしに来た?

「古い馴染みでな、ちょっと挨拶に来ただけだ」
「これが貴方達の挨拶なのですかっ! 跪いて命乞いをする相手を撃ち殺すなどっ!」
「そうだ、そいつの望む相手とは違ったがな。 飼い主が迎えに来るまで、ゆっくり眠らせてやれ。 私が預かってもいいが、こいつはこの場所で待っていたいらしい」

 奴がこの場所を選んだ意味が分かった。 ここが奴にとって、あの人と初めて出合った場所。 そしてまた巡り合える場所なのだ。

「待ちなさいっ、貴方には聞きたい事が沢山ありますっ! まっ…、どうしたんですっ、その羽根はっ?」
「うるさいっ、ルシオラにでも聞けばいい。 今が魔界に攻め込むチャンスだぞ、それとも奴と同盟でも結ぶか?」
「いえ、それは断られたようです」

 あの馬鹿も神族になりたかった訳では無いらしい。 争いたくないのなら、とっとと魔界を出て行けばいいものを… あれだけの力と、あの羽根があれば神族とて拒みはしまい。

「そうか、では帰る」
 シュンッ!

 だが魔族として産まれ、魔族として転生し、あの土地で育ったあいつ。 特にあの思い出の場所を離れるつもりは無いのかも知れない。

 それから城に帰っても、誰も私に手出ししようとはしなかった。 何しろあの九尾の狐を一発で倒したのだからな。
 それにしても様子がおかしい? そうか、ここも浄化されたのか、これでもう魔族は誰も入って来れまい、上手くやったな。

 やがて寝所に案内されると、あの人は私の羽に包まれて眠っていた。 全く朽ちていない、またあいつが何かしたのだろう。
 しかし、よくもまあ、これだけ溜め込んだ物だ。 羽根布団を作ると言っていたが、寝心地はどうだ? 少し足りないようだから添い寝してやろう。

 こうして私は同じ色の羽根で、あの人を包んで共に眠った。 次に起こされる時は、あのマヌケ面がいい。 
 
 

 
後書き
 今回も1人称の「れんしゅう」です、制作期間「ひとばん」 文中の「。」も使ってみましたが、まだ使い方が間違っているような気がします。 暴走とか破壊力が足りないように思いますが、これ以上行くと「不快」のレベルに入りそうなのでやめておきました、またご意見お願いします。

ぶみ > ご意見、ご感想、ありがとうございました。これは昨日の夕方、米田さんのOnly Youシリーズを拝見して「へ~、ワルQって長生きなんや~」から始まり、「朝までに1本上げるぞー、おー!」の勢いだけで出来上がりました。 途中3時頃マウスを持って爆睡、夜明け頃目が覚めて、繋がっていない所を接続したつもりが、意識が朦朧としていたのか、特に後半ブチブチ切れたままでした(笑)。 朝にチェックが甘いまま上げてしまいましたが、やはりカレーと一緒で1日ぐらいは熟成が必要でした。 最後もルシオラの下した刑罰?として、迎えが来るまで冷凍冬眠、ぐらいの締めが良かったかと思います。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧