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ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~

作者:???
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3-5 共闘!ジン&花組

「みんな、油断するな。互いに連携し合いながら潰していくんだ!」
刹那と、自分たちを取り囲んでいる脇侍を見て、大神は各隊員に命令を下す。しかし…
「少尉はとんだジョークがお好みですのね。この程度の敵に連携など必要ありませんわ。
せっかくの機会ですから、私がお手本を見せて差し上げましょう!」
すみれは命令を無視し、自ら先行して薙刀を脇侍たちに向けて振りかざした。一刀両断。脇侍たちはすみれの一太刀によって数体ほどが一変に切り裂かれてしまった。
「脇侍を、同時に…」
大神は命令無視を受けて一瞬茫然としかかったが、すみれの腕に驚きと関心を寄せる。
巨大降魔…魔獣との戦いでは相手が相手なだけに十分な成果を見込めなかったが、本来すみれは薙刀の腕前に関して右に出るものを出さないほどだ。脇侍が数体程度が一度に相手になっても敵ではなかった。
「すれみの言うことも正解だと思います。巨大降魔もいない現在、相手は大したことのない脇侍の群れ。烏合の衆です。ここは各員で散開して対処した方が効率的と判断します」
すると、マリアまでもすみれに同調して、個人プレイに走り出した。西部劇さながらの銃捌きで、脇侍たちを撃ち抜き始めた。
まずい、一人一人がめいめいに行動しては、いざというときに足元をすくわれてしまう。
「大神さん、光武の操縦は初めてですけど、大丈夫ですか?」
最後の良心にも思える声が聞こえてくる。どうやらさくらだけは大神の言うことに耳を傾けてくれた。
「ああ、思った以上になじんでるよ。初めてなのに、しっかり動ける」
大神は、自分の身を纏う白い光武の腕を動かして見せる。大神が腕を軽く動かす、そのように認識し動かして見せるだけで、光武もまたその通りに動いてくれていた。一見ロボットのようにも見えるが、『霊子甲冑』というだけあり、まさに甲冑そのものだ。
「大神さん、私が援護します。同じ新人同士、頑張りましょう!」
「ああ、頼むよさくら君。君と初めて出会った大切な思い出の場所だ。必ず取り戻そう!」
「え、は…はい!!」
その言葉に、さくらは胸の奥がドキッと跳ね上がった。思わず裏声になりかけるあまり、大神に変な風に聞かれていなかったか、それだけが気がかりだった。


大神たちの助けもあり、ジンとルイスはあやうく刹那の手にかかりそうになった女性を連れて、黒い霧に覆われた上野公園を出た。
「ここまでくれば、ひとまず安心ですね」
「あ、ありがとうございます…」
女性はジンたちに礼を言い、深く頭を下げる。
「いいのです。それよりも、すぐにここから離れてください」
「は、はい…」
ルイスは女性受けしやすいほどの美形。女性は彼の優しい笑みと言葉に顔を赤らめ、名残惜しそうにその場を後にした。ジンは心なしか、ちょっと同じ男として悔しく思った。
(いっそ顔を変えられたら僕もモテるのかねぇ…)
自分は普通の容姿、悪いというわけでもないが、特にこれと言って女性の気を引くほど端正というわけでもない。しかし同じ男として、どことなく悔しくなってしまうからできもしないことを想像してしまう。
「ジンさん、どうかしたんですか?少し表情が険しいようですが」
「あ…いえ、なんでもありません。それより、この後ルイスさんはどうします?」
不思議がって名前を呼んできたルイスに、ジンは我に返って平静さを装った。
「今回は他の奏組の仲間ともこの付近に来ていました。まずは彼らと合流し、避難状況を確認するつもりです。あなたも帝劇に戻られて…」
「いえ、僕も他に逃げ遅れた人がいないか、見てきます」
「し、しかしあなたは…」
首を横に振ってきてそのように言ってきたジンに、ルイスは気が進まない思いだった。彼は確かに帝劇に所属するという意味では自分と同じ立場だ。しかし、彼が戦闘員であるという話は聞いていないし、本人も自分との間に交わした自己紹介の際には言っていない。戦えない人間がまた危険な場所に飛びこむというのは許容できるものじゃなかった。
しかし、ジンはルイスに向けて言い放つ。
「僕も、帝国華撃団の一員です」
「あ、ジンさん!待ちなさい!」
その言葉を最後に踵を返し、ジンは上野公園の方へと引き返した。
手に、自分がもう一つの姿となるために使う赤い眼鏡…ウルトラアイを握って。



司令室にて、大神たちの光武に搭載されているカメラを通し、彼らが戦闘を開始したのを確認した米田たち。
「ほぉ、はじめてにしちゃやるじゃねぇか大神の奴」
米田も現時点でだが、大神たちの戦いぶりに関心を寄せていた。
すみれとマリアの読み通り、脇時一体一体の戦闘力は大したことはなかった。初めて光武を操縦する大神も、さくらの援護もあって脇侍たちにまったく後れを取ることはなかった。
大神はすみれとマリアの独断についてはひとまず気に留めないことにし、さくらとともに彼女らの援護に回りつつ脇侍を撃破していく。
「お兄ちゃんすごーい!!がんばれー!!」
アイリスも大神たちの活躍を見て、はしゃいでいる。
「霊力も安定しています。さすが司令が見込まれた通りの人です。この視界の悪い環境下でも、さくらさんとの連携を保って冷静に対処しています」
光武に搭載されている霊力測定器の結果をレーダー越しに確認していたかすみも同調するが、一方で一つ憂いを感じた椿が口を挟んできた。
「でも司令、大神さんをいきなり実践に投入するのはいささか早すぎたんじゃないですか?」
「脇侍相手にあたふたするようじゃ、花組の隊長なんて務まらねぇよ。それに俺たちはいついかなる状況だろうと、未知の敵と戦わにゃならん。言ってみりゃこの戦いも一種の適性試験だ」
「言われてみれば、そうかもしれませんけど…」
「そんなこと言ってぇ、本当はお兄ちゃんのこといじめて面白がってたりするんじゃないの?お兄ちゃんをいじめたらアイリスが許さないんだからね?」
アイリスが米田に向けてめ!というように指をさしてくる。帝劇の正体のことについても隠してその反応を見ていたことについては、米田も少し悪戯心を混じらせていた。バレたか、と軽く笑ってみせた。
「で、その未知の敵と、現場およびジンたちの避難状況について、なにか情報はねぇか?」
「避難については、現地に派遣していた奏組の隊員たちが順調に進めてくれています。ジンさんのことについては…まだ情報が届いていません」
「そうか…」
怪我の情報がないのはマシなのか、それとも…いや、あいつのことだ。ジンはああ見えて結構しぶとい男だ。それにあまりジンのことを気に留めると司令としてよろしくないので、米田は情報が届くまでジンのことから少し離れることにした。
「じゃあ敵の情報について、何か調べは?」
「敵の情報についても同じです。『月組』が全力で調査中なのですが…」
米田は再びそうか、と呟いたのち、モニターに視線を向ける。
この黒い霧についても、やばい気がするというだけでまだはっきりとわかっていない。モニターに映っている小柄なあの少年…あいつが発生されていることくらいだ。この黒い霧、目くらましのつもりで発生させているのだろうか。だが少なくとも大神たちは近くの脇侍を中心に撃破していってる。今のところは特に大きな問題はないように見えるが…。


「へえ…やるじゃん。脇侍をちょっと多く差し向けた程度じゃ怯まないか」
花組が脇侍と交戦している間、刹那は黒い霧に紛れて姿を消し、上野公園内にある神社の鳥居の上から花組の戦う様を観察していた。
「結構頑張ったね。でも、次はどうかな…?」
刹那は歪みきった笑みを浮かべ、飼っている動物でも呼ぶかのように、指笛を鳴らした。
その音に導かれたのか、刹那と彼を乗せる鳥居の背後に、再び巨大な影がちらついていた。
「ほらほら、例の赤い巨人でも出してきなよ。でないと次は…死ぬよ?」



ルイスと別れ、花組の皆の身を案じたジンは、再び上野公園へと引き返した。
入ろうとするものを拒むかのように周囲には真っ黒な霧が立ち込めていた。いやな感じがする霧だ。まるで、人間の心の奥底に隠れた、どす黒い感情のようだ。
「大神さんやさくらたちは無事だろうか…」
皆、この視界の悪い状況下で戦っているはずだ。いつまでもこんな場所で居続けられるほど人間は我慢強くない。あの刹那とかいう奴を見つけ出し、この黒い霧をどうにかしなければ。
そんなジンを、闇の中から見つめる視線があった。その視線の主は、ジンに向けてロープのような何かを素早く伸ばしてきた。
「!」
ジンは何かが超速で近づいてきたのを感じ取ったが、暗闇のせいで反応が遅れてしまい、自分に向かってきた『それ』に突き飛ばされた。
「ぐはッ…!」
くの字に曲がりながら吹っ飛び、上野公園の芝生の上に転がったジン。まるで蒸気自動車にでも撥ねられたかのような吹き飛びようだった。よろよろと起き上ったジンは、霧の中を見る。脇侍が現れ、僕に不意打ちを仕掛けたのか?いや、脇侍なら刀の一撃で僕を真っ二つにできた。なら、もっと別の…もしかしたら脇侍よりも恐ろしい存在かもしれない。
なんにせよ、この黒い霧の中に隠れた何かが、僕を狙ってきた。
ここなら変身してもバレることはない。ジンはウルトラアイを構え、それを目に装着した。


脇侍たちは次第に数を減らしていき、もはや数える程度しか残っていなかった。
「これで、最後だ!」
大神機の最後の一撃が、残り一体の脇侍を切り伏せた。
「こちらマリア機、そちらから残りの脇侍の反応は?」
マリアが通信越しに風組に、他に脇侍が残っていないか確認を求めると、由里が返事を返してくる。
『レーダーに脇侍の反応はありません。大神さんが倒した奴で最後です』
「けど、この黒い霧はまだ晴れていませんね」
周囲を見渡しながら、さくらが呟く。まだ黒い霧が園内を黒く塗りつぶしていた。少なくとも花組の各機体は互いに見える範囲内だったので、逸れるというようなことはなかった。
「視界を潰すためかと思ったら、単なるこけおどしだったようですわね」
霧の中から脇侍たちが何か仕掛けてくるかと思っていたすみれだが、奴らが霧に紛れて不意打ちを仕掛けるのを返り討ちにしてやろうと、自分の華麗な見せ場をイメージしていただけに期待外れに感じていた。
『…いや、そうとも限らねぇぞ』
だが、米田から警戒を促すような声が聞こえる。
『みんな、気を付けて。何か…嫌な感じがする』
アイリスも米田に同調して、不安を抱えた言葉を口にする。
その予感が的中したのか、大神たちの周囲に異変が起きた。
少なくとも互いが見えるくらいだった黒い霧が、さらに濃さを増して、辺りを黒く塗りつぶし始めた。
「まずい…このままでは敵の姿は愚か、互いの位置を把握しきれなくなる」
大神が危機感を募らせる。今度こそ視界を遮られ、敵がどこからか不意打ちを仕掛ける可能性が大きい。さらに濃さを増していく黒い霧。
『妖力反応が高まっています!それに…』
通信越しにかすみの声が轟く。最後のあたりで、何か気になるような言い方までしている。
「どうしたのですか!?」
『こちらの計器に異常が!上野公園全域に妖力反応が!敵の位置が特定できません!』
「園内全域に、ですって…!?」
この時、帝劇の司令室の、妖力反応を特定するレーダーに異常が起こっていた。レーダー内の上野公園に、みるみる内に妖力反応が広がり始めていた。
『まじか…すまねぇ大神、こっちで敵の位置を把握できなくなった。周囲への警戒を怠るなよ!』
「了か…」
了解!と花組隊員たちが応えようとしたその時だった。強い衝撃が、さくらの光武を襲った。
「きゃあ!!」
「さくら君!?だいじょ…」
驚く大神たちだが、すかさず次にすみれ機も同じように吹っ飛ばされる。
「きゃあ!!」
「すみれ、大丈夫!!?」
「え、ええ…」
マリアの光武が彼女の光武の元に向かい、彼女を抱き起こした。
「気をつけろ!敵の攻撃に違いない!」
大神機が二本の刀を引き抜き、さくら機と共にマリアたちを守るべく集まった。
すみれもさくらも、二人とも反応が追いついていなかったが、いくらこの真っ黒な霧の中とはいえ、二人とも警戒を決して怠っていたわけではない。
いったいどこから敵は攻撃を仕掛けてきた?あの怪しげな小さな子供の仕業か?しかし光武のカメラ映像にも彼の姿は見当たらなかった。だとしたら…いったい?
だがすかさず、彼らに再び邪悪な牙が向けられることとなる。霧の中に潜む敵は、今度はマリアが狙われていた。
ヒュン!と、風を切るような音と共に、マリアに向けて闇の中から『なにか』が彼女に襲いかかってきた。
「ッ、マリア!!」
それにいち早く、かろうじて大神が反応した。彼は自らマリアの前に立ち、二本の刀をクロスさせて身構えた。その直後、マリアの盾となった彼に、見えざる敵の攻撃が炸裂し、大神機は突き飛ばされた。
「ぐあぁ!!」
「大神さん!!」「少尉!」
思わず叫ぶ二人だが、二人よりも強い衝撃を受けていたのは、大神から庇われたマリアの方だった。
「ッ…!!」
見てはならない者をその目で見てしまい凍りついたかのように、彼女はその場で立ちすくんでしまった。
「マリアさん、避けて!」
すみれの怒鳴り声が聞こえる。名前を呼ばれ、はっと顔を上げたマリアだが、手遅れだった。今度こそ逃すまいと、マリアに向けて…
黒い霧の中から再び、『鋭利なハサミのようなもの』が伸びて襲いかかってきた。
そうはさせるものかと、すみれの光武が立ちはだかって彼女も突き飛ばしてしまう。
「すみれさんッ…きゃあ!!!」
さくらも悲鳴と共に、暗闇の中へと突き飛ばされた。
次から次へと、仲間たちが自分を庇っていく。我に返ったマリアだが、今の状況を見て再び、それもさっきよりも呆然と立ち尽くしていた。
そんな彼女の脳裏に、ある光景がよぎる。

真冬の雪景色、そこにマリアはいた。視界が閉ざされるほどの強い吹雪が渦巻く夜。しかしそんな雪を、周囲の炎と爆発が溶かしていく。そしてそれは…

『あの人』の命さえも溶かした。

記憶の中の『あの人』の崩れ落ちていく姿を思い出すと同時に、ガコン!と、地震でも起きたかのような大きな音と共に、自分の光武が揺れた。
「しま…!」


「くそ、敵はどこなんだ…!!」
霧が、さらに濃さを増していく。そのせいで、ついには仲間たちの姿さえも黙視できなくなっていた。
「こちら大神、本部応答願います!」
大神は一度、帝劇本部にいる米田たちに連絡を入れることにした。さっきはこの霧の影響で敵の妖力反応が探知できなくなったというが、光武の反応が追えないとは言っていない。せめて仲間の居場所を聞かなければ。
『こちらかすみです!大神さん、いかがしましたか!?』
「霧の中から攻撃を受けて仲間の位置が特定できない。そちらからナビゲートを頼む!」
『はい!現在マリア機は………!!?』
通信先のかすみが息をのんだような声を漏らしてきた。何かあるのか?そう聞く前に、椿が大慌ての様子で叫びだした。
『大変です!マリアさんのすぐ傍に、一瞬だけど強力な妖力反応が出たんです!!』
「なに!まさか!?」
脇侍?それともあの刹那という少年?それとも、最悪…噂に聞いた、巨大降魔か!?
『大神さん、お願いします!!早くマリアさんたちの方に行ってください!』
『もう椿ったら、慌て過ぎ!冷静にならないと、大神さんたちまであたふたするだけよ!』
『す、すみません…』
憧れの存在でもあるマリアの危機に取り乱す椿を、さすがに由里も見てられなくなって叱り付ける。
しかし彼女の気持ちもわかる、時間が経つにつれ、仲間全員の姿がついには見えなくなってしまったのだから。
『大神さん、すぐそばです!!』
すると、由里の声が聞こえる。まさか敵が近づいて…いや!かすかだが、黒い霧の中からわずかに小さな輝きが見えた。
そして大神は、海軍での訓練で見張りの演習も行っていたためか、見えた。黒い霧の中で、わずかに見え簿絵のあるシルエットが、さっきから目視できる光と共に見えた。
あの形は…見間違いでなければ光武だ。しかし妙だ。光武がまるで何かに引っ張られ、それを嫌がって何か電柱のようなものに捕まり続けているような…。
…いや、その通りだった。
マリアの光武は、暗闇からはい出てきた触手のようなものの先についた、ハサミのようなものに挟まれ、引っ張られていたのだ。マリアはそうはさせるかと、近くに目についた、公園の桜の木に捕まっていたのだ。
触手を払うために、マリアは光武に装備された銃で触手を攻撃するが、触手は肉が分厚くてマリアの銃撃にもなかなかびくともしなかった。それどころか、自分が捕まっている桜の木が、光武の握力と触手の引力に耐えきれず、今にもへし折れそうにミシミシと鳴っている。
「マリア!!」
このままではマリアが今度こそ危ない。大神がすぐに彼女を助けに向かおうとした。
緑色に輝く閃光が、マリアの光武をとらえている触手を貫いた。
その途端、霧の中から「ギイイイイイイ!!」と、巨大な生物の悲鳴が聞こえてて、ハサミ付きの触手はマリアを解放し、霧の中に消えて行った。
「マリア、無事か!?」
「…心配いりません。それより…」
大神はすぐにマリアのもとに駆けつけると、マリアの光武は、彼女の動揺でも隠すつもりのようにそのまま立ち上がった。
二人は顔を見上げる。霧の中からさらに別の光が見えてきた。
黄金の目に、その中央から少し上に位置する縦長の緑色の光。かすかに見える赤くて巨大な体。
「赤い巨人…」
帝都の危機を救ったという、赤い巨人…ジンのもう一つの姿がそこにあった。



間に合った。大神たちは無事のようだ。赤い巨人に姿を変えたジンは、地上に見える大神たちの光武を見てホッとする。
だが安心はできない。巨人となった彼の目でも、この黒い霧に包まれた公園はあまりに視界が悪かった。
(殆ど見えない。敵は一体どこに…)
周囲をくまなく、目を凝らしながら彼は敵の位置を特定しようとする。だが、妙だ。赤い巨人のジンは、以前水路の水面に隠れたデビルアロンの位置を特定し、反撃されることなく撃退することができた。だから、こんな黒い霧も彼にとってなんでもなく、霧を発生させている敵も難なく見つけられるはずだった。
いや、彼は見つけようにも見つけられなかったのだ。記憶はなくしたが、体は覚えていた。自分には、見えない者を見通す力があるのだ、と。現に、暗闇の中に隠れている桜の木々がどこにあるのか、そして大神たちの位置がどこなのかを、目に力を入れるのと似た感覚で見つけることができた。だが、いくら探しても、さっきマリアを狙ってきた敵の正体がつかめない。刹那が何か仕掛けてそのまま姿をくらましたのか、それとも…
しかし、疑問を抱く間も与えられなかった。背後から、触手の先についたハサミが伸びてきて、ジンの背中に激突する。
「デュ!!?」
背後に傷を負わされ、背後を振り返るジン。だが、背後を振り返っても見えるのは霧だけ。馬鹿な、この霧の中でも、晴れている時と比べたら確かに見え辛いが、今の自分には全く見えないというわけではなかったはず。動揺している間にもう一撃、霧の中からハサミが飛び出してきて彼を襲う。
ジンは反撃しようと、霧の中に向けてジャブを一発放ったが、空を切っただけだった。
その隙を突くように右肩に見えざる敵の一撃が叩き込まれ、ジンは肩に着けられた傷を抑える。
(ん…?)
ふと、ジンは公園の一角に、あるものを見つけ近づいてみる。それは、穴だった。それも光武が4機全部入りそうなほど深く、大きく口を開けている。しかも、霧が穴の中から吹き出ているように見える。もしや、敵はここに逃げ込んでいたのか。
しかし今度飛んできた攻撃は、全く違う方向から飛んできた。背後から二本ものハサミが飛び出してきてジンを突き飛ばした。
「グアアアア!!」
地面に背中を打ち付ける形で落下したジン。彼を突き飛ばしたハサミはそのまま伸びてきてジンの首を挟み込むと、その巨体を宙に持ち上げて地面の上に引きずり回す。
ジンは自分の首を挟んでいるこのハサミを強引にほどこうとするも、かなりの力でがっしりとつかんできているせいで簡単にほどける気配がない。だったら…彼は額のビームランプから光線を、霧の中に向けて放つ。しかし敵が見当たらない以上、命中率は著しく低下する。現に今の光線が何かに直撃した音さえもなかった。だがその際、ジンの首元を挟んでいたハサミが彼の首から離れ霧の中に消えた。
(…そうか、どうやら驚いてひっこめたのか…)
さすがに今の光線が当たることがなかったと言っても、敵への威嚇射撃になったようだ。おかげで解放されたが、敵の姿が見えない状況に変わりなかった。逆に見えない敵はこちらの位置を手に取るようにわかっている。なんとか居場所を突き止めることができたらいいのだが…敵の足取りがまだつかめないことに変わりない。
こちらがまだ自分の居場所を突き止めていないことをいいことに、見えない敵は、今度は鞭のように闇の中から振り回しながら攻撃を仕掛けてくる。対するジンは、反撃がロクにできない状態だ。
(一体どうすれいい…どうすれば、こいつを…)
悩む暇さえ与えてくれない正体不明の敵は、さらにジンに対して追撃を加えていく。


大神は、今自分の目の前で起きている現象に戦慄し続けていた。こんな危険極まりない敵に、さくらたちは何度も戦ってきたというのか。あの、降魔戦争で人類の味方として戦ったという赤い巨人さえも苦戦する、そんな恐るべき敵に。
「グアアア!!」
しかし、赤い巨人からは苦痛の声が聞こえてくる。彼もこの悪天候下で戦うのは厳しいのだ。黒い霧のせいでよく見えないのだが、赤い巨人の大きな影がわずかに見える。激しくけりや拳を叩き込もうとしているのが見えているが、それらのいずれもが空を切っているようにしか見えない。それどころか、逆にどこからか殴り返されているように見えた。
『大神さん、マリアさん!聞こえますか!?大神さん!』
ふと、耳にさくらの声が通信越しに聞こえてきた。
「さくら!」
「さくら君、無事か!?」
『はい!』
「すみれは?」
『私ならここですわ…』
すみれも後から続く形で大神たちの前に現れ、自分の生存を伝える。
「みんな無事だったみたいね」
皆の無事を確かめることができて、大神は安心する。
「それにしても、うっとおしい霧ですわね」
公園を今なお覆い続ける黒い霧を見て、すみれが不快感を露にする。実を言うと風組のナビゲートを借りることで大神たちと合流できた。それがなかったら、今もこの霧の中でさまよい続けていたかもしれない。
「なんとか、この霧を消す方法はないんでしょうか?」
「霧…」
大神は黒い霧に包まれた周囲を見渡す。とある日、士官学校時代に甲板から見た景色と似ている。彼は自分が乗船していた軍艦が海外に出たこともある。その際、とんでもなく黒くて大きな雲が立ち込めたり、時には霧が立ち込めてしまうなどの悪天候が発生し、艦の周囲がまったく見えない状態に陥ったほどだ。
「普通の霧なら、太陽が昇るにつれて晴れてくるが……ッ!」
そこまで言いかけたところで、大神は何かを思いついて顔を上げた。
そういえば、さっきまでの脇時との戦闘中、すみれが長刀を振るったときのことだ。
(すみれ君の長刀の刃から炎が出ていた。もしかしたら…)
その思い付きがどこまで通じるかわからない。だがいずれにせよ、このまま
「すみれ君、君は確か炎を使った技を使っていたね?」
「え、ええ…私の霊力は炎を起こすものですから、当然…」
急に大神から尋ねられたすみれは少し驚いたように戸惑いを覚えたが、大神の質問の意図に気づいたのか、すぐに不適に笑う。
「なるほど、そういうことですのね」
「すみれさん、どういうことですか?」
「あ~ら、さくらさんはまだお分かりにならないのかしら?これだから田舎娘は…」
「む…ッ」
素朴な疑問を投げかけてきたさくらに、すみれは調子に乗っていやみったらしく言うと、見かけによらず意地っ張りなさくらはムカッとする。そんな彼女の視線を軽く無視。
「朝霧が時間が経つにつれて太陽の熱で消滅するように、すみれの持つ炎の霊力による熱を周囲に拡散させることで、この霧を消す…そういうことですね、少尉?」
マリアからの問いに対し大神は頷く。
「ああ、そのとおりだ。最も、この霧は普通とは違う。本当に消せるかどうかはわからないが…ここでじっとしていても倒されるのを待つだけだ。
すみれ君、可能性が見えない賭けだが、頼む」
すみれは光武の通信モニターに映る大神の、自分に向けるまっすぐな視線に当てられる。剣のような純粋で直線的な強いまなざし。すみれの心にそれは強く突き刺さる。
「そ、そのような目で頼まれては断れませんわね。よろしくてよ」
ちょっとわがままなすみれでも、ここまで本気の目をした人間の頼みを断る気になれなかった。彼女は自分の光武が握っている長刀を握る力を強める。
「ならば、先ほどよりも強い火力を帯びた、華麗なる奥義でこの霧を晴らして見せましょう!みなさんは少し下がっていただける?」
「ああ、頼む」
すみれ以外の全員が一度下がる。それを確認したすみれは目を閉ざし、光武の腕で長刀を握る力を強める。すると、彼女の周囲から炎がちらつき始め、燃え下がり始める。キャンプファイヤーの比較にもならないほどの、人の心に宿る情熱のような業火。
「行きますわよ。神崎風塵流…」
カッ!と目を見開いた彼女は、その手に握る炎に包まれた長刀を華麗に振り回し、地面に突き刺した。

「〈胡蝶の舞〉!!!」

火柱が、黒い霧の中に立ち上った。熱を帯びた炎が、黒い霧をも切り裂き、熱で溶かしていく。炎の熱を浴びた影響で、黒い霧が次第に晴れ始めた。


 
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