μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜
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第44話 脱走
前書き
~前回のあらすじ~
真姫の別荘に足を運んだμ`s9人とおまけの1人。以前よりもお金をかけているだろう別荘にタジタジでありながらも、真姫のサンタを信じる説や、穂乃果の駄々甘えな態度に合宿初日の出だしはかなり好調であった……。
しかし……事態は急展開を迎える(かもしれない)!?
───花陽はこう言った。
「海未ちゃんとことりちゃんと真姫ちゃんがいなくなりましたぁっ!!!」
~第43話 脱走~
「……」
「……」
「……」
きっとこの場にいる誰しもが同じことを考えているだろう。
正確には真姫、海未、ことり以外の7人は頭上に疑問符を浮かべて”間違いなく”同じことを考えている。
───なぜに???
……そう、なぜに。
何故彼女ら三人が脱走したのかまったくもって理解できないのだ。凛やにこ、穂乃果が脱走したと聞かされたら、それはまだ納得ができる。そういう立ち位置にいるだろう三人だからまだ、頷ける。
しかし、だ。
今回は少なくともμ`sの数少ない常識人の三人が脱走したという。だから頭を抱えているのだ。
脱走する理由が見つからない。
「私が、新曲作りを頑張ってる三人の為に冷たいお茶と和菓子をそれぞれの部屋に持って行ったんです」
花陽は自白するかのように説明しだした。誰も特に何も言わずに花陽の話に耳を傾けている。
「ノックしても反応が無かったのでそっと開けたら真姫ちゃんがいなくなってて」
「なにか…メモとか置いてなかったん?」
「はい……ピアノには作成途中の楽譜が置いてあるだけでした」
どこから持ってきたのか、希は片眼鏡とキセルを装着して、如何にも探偵です感を出している。もう完全にノリがミステリーのソレである。
花陽も花陽でハンカチを目に当てて嘘泣きをしている。
花陽がそんなことをする子だとは思ってなかったので、ちょっと悲しい。
俺の心境を知らずしてこのしょうもない茶番は続く。
「その後不安になって海未ちゃんの所にも言ったんですけど、同じように誰もいなくて.....」
その様子だと、ことりの部屋ももぬけの殻だったのだろう。
多少なりとも気を紛らわすためにか、花陽もノリで言ってるけどやはり不安の方が大きくて肩を少し震わせている。
「海未の部屋も、ことりの部屋も何も無かったのか?荷物とか」
「荷物はちゃんとありました。でもことりちゃんの部屋には......」
「部屋には?」
ぐずった花陽は一拍間を置いて、
「......ホノカチャンタスケテ、と机の上に書いてありました」
そうして差し出したのは1枚の紙切れ。それを見た瞬間にあー、と俺と絵里、にこは頭を痛そうに抱えてしまう。
知ってた。ことりは大の穂乃果好きだから意味あり気なカタカタ表記も簡単に頷ける。
───ホノカチャン症候群
俺は誰にも命名した事ないが、ことりの末期的な穂乃果大好きオーラの病名をこう名付けている。というか最近になって浮かんだ病名ではあるが、時折見せることりの穂乃果に対する笑顔や雰囲気は百で合的なモノに近い。
それを俺だけでなく生徒会長や部長......もしかすると副会長も感じ取っていたらしく、頭を痛そうにおさえていた。
「どうしましょう!何か知らぬ間に不審者とか入ってきて連れ去られたのではないでしょうか!!」
どこかこの近くにいるだろう。
もし仮に不審者が入ってきて連れ去られたとしたら、海未や真姫が犯人の手がかりを残してくれている"かもしれない"。
もしかすると、ただ単に俺達をからかっているの"かもしれない"
そう、全部"かもしれない"なのだ。
不用意に断言をできそうにない状況の中、俺はまず最優先にすべき事を行おうと手を叩いて注目を集める。
「考えられる事は多々あるが......最悪の事態を予測してやるべき事を進めておこう」
「最悪の事態って?」
にこも気付いているだろうことを敢えて質問する。そうでも無いと落ち着いていられないように。だけど俺は遠まわしにせず直球で答える。
「当たり前だろ……"誘拐"だよ」
「ちょっとお前ら静かにしてろよ」
「だ、だってにこちゃん小さいからって押してくるんだもん!」
「私じゃないわよ!絵里と希の大きな胸が邪魔なのよ!」
「そそそんな事言われても!怖いものは怖いのよ!」
「にこっちは後でワシワシな?」
「かよちん……真姫ちゃんどこなの?」
「だ、大丈夫だよ。きっと真姫ちゃんはいるから」
……あまりにも最後の一言が効いたのか、正直言ってこうなる事態は予想外だった。
罰執行中だったにこを解放し、要件だけ伝えるとすぐさま気持ちを切り替えてくれた。
家の中の様子を見てくると言った直後に、まるで団子みたいにぎゅっと固まって行動を始めるみんな。
それぞれモップや枕を持って、不審者対策したものの、その怯えきった表情がなんとも頼りない。
というか甘い匂いと柔らかい何かのおかげで緊張感に欠ける。
ガクブルガクブル震える彼女らに『リビングで待ってろ』という言葉は『3人を探し出す』という気持ちによって無効化されたのだ。
しかし。
「ちょっとにこちゃん!痛いよ!モップが背中に刺さってる!」
「だからにこじゃないって!」
「にこぉー!怖いよ~!」
「えりち落ち着いて!ウチのこのモップ技で追い払うから!」
「真姫ちゃん……どこにゃ?」
「うぅ……大地くん怖いです」
俺を戦闘に背後でぎゃいぎゃい騒ぐから非常に鬱陶しい。
イライラしながらも、何故か手に馴染んだモップの柄が少しだけ心強い。
まずは1階から見て回ることにした。三人の部屋は2階。
侵入経路は考えられて3つ。
一つは玄関。しかし、三人と俺の穂乃果、そしてリビングからお茶とお菓子を持っていこうとした花陽以外は玄関前の広場でトレーニングしていた為に見つかる可能性が高く、一番あり得ない手段。
もう一つは窓から。全部内側から鍵がかけられていると仮定しても窓を割られたような音を誰も聞いてない事からこれも使われていないと考えられる。
しかし、あくまで"鍵をかけられていた"という前提において成立する結論なために保留。
最後に、どこかの隠し扉的な場所からの侵入。
まぁ完全に推理モノの小説の読み過ぎだが、真姫の家くらいのお金持ちならあってもおかしくない。
そうなると、真姫の身内が濃厚。しかし、今回は誰も従者を呼んでいないと真姫から来る前に聞いているために難しい。
すべて可能性は低いが、有り得ないということは有り得ないので、こうして怯えながらも1階の捜索をしている。
「じゃあ、開けるね?」
穂乃果がドアノブを握ると、俺と手の震えたにこがぎゅっと"武器"を構える。
「よし、開けてくれ」
俺が頷くと同時に、にこはドアを開いてその陰に隠れる。そして俺は頼りない仲間を引き連れてモップや枕を突き出しながら中へと入っていく。
同じ様な事を一つ一つ確認していきながら、捜索していった。
全員が一つの部屋に入ったのでは、その間に逃げられる可能性がある事と、狭い部屋に何人もいると乱戦になった時不利になるから、という理由で中に入るのは一番肝が据わった俺とにこだけ。
その他は廊下で待機して俺らの行く末を見守っている。
最初は緊張していた事も同じ事を繰り返す内にだんだんバカらしく思えてきた。
さっきまでガタガタ震えていた絵里も同じらしく、緊張や怯えきった顔も元に戻っている。
「こんな大それた事してるけど、本当に真姫らは誘拐されたのか?」
「……は?」
しかし、にこの反応は『コイツ何言ってんの?』という小馬鹿にされたリアクションだった。
「最初に"誘拐"という言葉使ったアンタがそれ言う?!」
「……それもそうか」
リビングやキッチン、書斎、防音ルームも含め一通り見て回ったが、一階には人の気配は無かった。
残るは2階だけ。
ギシ、ギシ、と軋む階段をゆっくり上る。
「そういや希」
「んー?」
「希ってなんか柔道とかやってたりしたことない?」
「……それ、ウチが暴力女と遠まわしに言われてるような気ぃすんねんけど」
「気のせいです」
ジト目とモップが怖いのでこの話題はすぐに打ち切った。
2階へ上がると、さっきと同じ要領で部屋を調べていく。しかし、人はおろか、ネズミ一匹も隠れていなかった。
「ねぇ大くん。三人ともどこに行ったんだろうね?」
「そうだな……って、おい。知らぬふりしてひっついてくるなよ」
さっきの余韻が残っているのだろうか、甘えた声で穂乃果はぴとりと腕に引っ付いてくる。
当然胸を当たるわけで柔らかい感触がなんとも言えない。
「だからなんでくっついてくるんだって」
「怖いんだもんしょうがないじゃない」
上目遣いにやられそうな俺は視線を逸らす。
だけど、逸らされたと思ったのかわざわざ俺の視界に入ろうとぐるぐる俺の周りを回りだすから、当然みんなから変な目で見られていることに気づく。
「穂乃果、何してるのよ」
「ん~?大くんに飼われた犬になってるの!わんっ!」
そして視線は俺に集まる。
割ることをしてたつもりは無いが、犯罪臭漂う穂乃果の発言に一同は冷めきっていた。
……本当に何やってるんだろうか?
「この部屋がことりの?」
とある一室、ことりの部屋と割り振られた部屋の前に立って花陽に確認をとる。
「うん、中は特に変な様子じゃなかったけど……一応見た方がいいのかな?」
「ま、なんか見落としてるかもしんねぇかんな」
言い終わるのと同時に、不審者への脅しを兼ねてドアを思い切り蹴飛ばす。
バン!、という大きな音にビクリと反応した彼女らを放置して俺はずかずかとことりの部屋へ足を踏み入れる。
ぐるりと室内を一通り見渡して違和感がないか探る。
特に目立った箇所は無かったので改めて花陽に質問する。
「で、この机の上にその紙があったんだな?」
「うん……」
確かに花陽の言っていた通り荷物も、置いてそのままという感じで何か触られたという形跡はない。
ここまで来て何もないと、誘拐されたわけではなさそうだと本気で思えてきた。
念のため、ぐるりと部屋を確認する。
窓が少し空いていて、何故か机を引きずった跡が残っている。
「大地くん?」
「や、なんでもない。次、行こうか」
結局のところ。その後も真姫の部屋も海未の部屋も見てみたが、本当に花陽の言う通りもぬけの殻だった。流石にこんな展開なるとは思わなかった一同。どこか探せばいつか見つかる、絶対に見つかると思い込んでいたからこそ、どうしようもない不安が俺らの間を風となって吹き抜ける。
全部屋くまなく探し終え、落ち着かせるためにリビングに集まって紅茶を飲んでいた。
会話も続かず、ただ紅茶を啜る音だけが物静かに響き渡る。
「どこ、行っちゃったんだろうね。三人とも」
静寂に終止符を打ったのは凛。
ぽつりと誰もが思っていることを呟いた。
「多分、不審者とか……そういうのはいないんだろうな」
と思い込んで別の案を考えてみる。
考えてみようと頭を働かせるも、想像ができない。彼女たちが無断で誰にも言わずにいなくなること自体が考えられないから。
……でも。
もしかしたら……?
瞬間。
ぞわり、と背筋が凍りつく感覚を感じる。
”信頼している子が無断で誰にも言わずに自分の前から急にいなくなる”ことなんて前にもあった気がした。
気がしただけ。だけど、その感覚はあまりにもリアルで鮮明で何か忘れている事があったような気がした。
「(前にもこんなことがあった……?)」
無意識にそんなことを考えてしまい、ふらりと、足元がもたついてしまう。
「大くん!」
異変にすぐ気がついた穂乃果に支えられる。
穂乃果がまるで別人のように見えて、俺は思わず彼女に掠れたこう言ってしまった。
「君は……誰?」
「え……?」
俺の声は穂乃果にしか聞こえなかったのだろう。
驚いて青ざめた表情が見て取れる。
「大丈夫大地?熱あるの?」
絵里の心配げな声に俺は『大丈夫』と無理矢理言って穂乃果の腕から離れる。
今考えるべきことはそっちじゃない。
「ごめん、気にしなくていい。それよりも、一度、外も見てみようか」
もしかするといつの間にか外に出たのかもしれない。
考えられるだけの策はとりあえず全部つぶしていく。正直これで何も得られなかったら完全にお手上げだ。
────と、思っていた時期が俺にもありました。
「......茶番かよ。最初から最後まで」
外は室内と違って、空気が澄んでいた。
自然の香りと遠くにある川のせせらぎ、鳥や虫の鳴き声がなんとなく田舎を連想させる。
別荘周辺を散策しようと、出て左からぐるりと一周し始めた時だった。
曲がってすぐ目の前にある数本の木々。
どうということの無い、どこにでもあるようなサイズよ木の陰の下にもぞぞぞ、っと動く三つの塊があった。
それぞれグレー、赤、青を特徴とした髪の色をしていた。
体育座りでお互い向き合い、何かを話すでもなくただ俯いている三人の女の子。
「......」
「......」
流石のみんなもジト目で彼女らを見ていた。
誰も、何も言わずに。ただ、ただ今までの俺達の苦労はなんだったんだ、と思っていた。
「......はぁ」
赤い髪の子が溜息を零すと、まるで感染するかのように残りの2人も大きな溜息を零している。
「お前ら、なにしてんの?」
我慢ならず、俺は呆れた声で声をかける。
ピクリと反応した3人はゆっくりとこちらに振り向いて───
その表情はげっそりと、青ざめていた。
「助けて……ください」
後書き
読了ありがとうございました。
タイトルは某機動戦士ガソダムにちなんで名付けたわけではありませんので悪しからず。
※すべて企んだ茶番ではなく、個々の事情が重なりに重なって生まれた......オチなしのしょうもない茶番です
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