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鉄血のベーオヴォルフズ

作者:司遼
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第03話

―――特殊セラミック製の白亜の巨大シールドをまるでサーフィンのような体制で足場にして火星の大気圏に突入してきた深紅のMSグリムゲルデ・プログレッシオ

2年前に鉄華団を援護するに際に使用したMSグリムゲルデを改修した機体だった。

深紅の機体はシールドを蹴り跳躍、降下シールドの大質量がバルバトスに敵対する二機のガンダムに向け墜落する。

『くっ!!新手だと!?』

左右に飛び退くガンダム、その隙を逃すまいとバルバトスルプスが疾走する。そしてソードメイスを投げつける。
大剣での迎撃も回避も間に合わない…それを腕に備え付けられたブレードで弾こうとする紅のガンダム。

大質量の突撃にブレードが折れ飛び、装甲が拉げ、肘関節から火花散る。
そこへ太刀を携えたバルバトスルプスが迫る。


『叔父様っ……!?』
『君の相手は―――私がしよう。』

片腕が機能を失い劣勢となる紅のガンダムを援護しようとする青と黒のガンダム。しかしその前に深紅のMS、グリムゲルデ・プログレッシオが立ちふさがる。


『そこをどけぇっ!!』
『聞けないなっ!』






「あらあら、ずいぶんと派手に大立回りしているわね。」

優美な装飾が施された洋室の一角にて何故か着物を身にまとった長い黒髪の娘がコンソールに表示された戦闘の様子を眺めながら口元を扇子で隠しながら面白可笑しく言う。

『どうする姫さん、もう少し近づけるとは思うが。』
「いえ、結構です。貴方の機体には戦闘力が無いのですから、巻き込まれたらしとたまりも無いでしょう?」

『いや、まぁそうなんですけどね。』
「それに戦いというのは遠目に見ているくらいが丁度いいの。近すぎたら見えるものも見えなくなってしまいます。」
『まぁ確かに……んで、俺はどうしたらいいですかい?』

クスリと妖艶にほほ笑む着物を纏った女性に通信機の向こう側から問いかけがかかる。
各地での戦闘は徐々にだが終息しつつある、その後を問うているのだ。

「軌道上に所属不明の艦艇がいるとの報告を受けたわ。恐らく、そこにいる人間の救出部隊か、本隊ね―――そちらに見つかっても厄介だから程々で引き揚げてくださいまし。
 そのあとは……そうね、海賊行為による犠牲者の絵でも取っておいて下さいな。」
『あいよ、ほんと胸糞わりぃぜ……』


誰しも望んで悲劇を見たいわけではない。画像というのは後世まで残るものだ、ならば綺麗なものを残したいと思うのは人情だろう。
だが、世界の歪みを暴き―――より多くの人々が人間らしく生きるためにはそれが今必要なのだ。

「今は堪えてくださいまし。約定通り、貴方に見せて差し上げましょう―――豊穣の大地となるこの星の姿を。」
『ああ、楽しみにさせてもらうぜ。』


そう言い残し通信が切れる。戦闘の様子は引き続き転送されている。

「……クーデリア、愚かな妹。これが貴方の作った悲劇よ。」

父母にすら相対する事の出来ない弱い子供が癇癪を起しただけの結果。そして多くの人々を不幸に貶めただけの革命。
弱者救済、それは甘美な麻薬だ。病みつきになる遊戯だ―――なんてことない家出した子供が悪い遊びを覚えただけの話。

「それでも、状況は動いた―――ならば私も、動くとしましょう。これ以上、わたくしの故郷を食い物にさせて成るものですか。」

着物を羽織った娘はそのブラウンの瞳に情熱の火を灯して、一人つぶやくのだった。






『なるほど、ガンフレーム特有の反応は検知できない……そしてっ!』

グリムゲルデ・プログレッシオが背中の翼のような可動スラスターを噴射させ疾走する。
それを迎撃しようとバーストサーベルを突き出してくる青と黒のガンダムの刺突を半身を逸らしながら受け流すとシールドから展開されたヴァルキリアソードを叩きこむ。

額に一撃を受けた青と黒のガンダムが仰け反る、そこに尽かさず蹴りを叩きこむ。

『くぅ…っ!このパイロット並じゃない!?』

だが、吹き飛びながら青と黒のガンダムは二丁ハンドガンに持ち替えて射撃を行ってくる。それに対して、両腕のシールドで防御しながら地表を滑るように移動する。

『ガンダムフレーム特有の高出力を背景にしたパワーに加速力も感じられない。』

ヴァルキリアソードを格納、両腰にマウントされたFN-P90に酷似したプルパップ式マシンガンをマニュピレータに保持すると連射を行う、
このライフルの弾は通常のライフルに比べ小口径で威力に劣るが初速が高く狭い範囲に集中させることであっという間にMSのナノラミネートアーマーを剝ぎ取って敵を粉砕することが可能だ。

『そしてこの挙動、阿頼耶識ではない―――むしろ、ギャラルホルン製のプログラム挙動に似ている。』

相手もそれはわかっている、全身のスラスターを使いちょこまかと移動し回避を行っているが―――所詮は予めプリセット登録されたマニューバパターンと機体モーションの複合で成り立っている動きだ。

後はパイロットの選択傾向さえ把握できれば圧勝は容易い。

『隠し方がずいぶんと雑だな。これではギャラルホルン自らが海賊行為に関与していると自白しているようなものだな。』

マシンガンとソードの織り交ざった攻撃で青と黒のガンダムを手玉に取りながらモンタークは微苦笑を口元に浮かばせるのだった。





『ぐぅ―――小童っ!お前は自覚しているか!?俺たちのような存在を生み出したのは貴様ら自身だとっ!』
「っ!」

片腕を潰された紅のガンダムが大剣を振るう、しかし其処には先ほどのような鋭さはない。
当然だ、このような大型兵装は片腕で扱えば重心がぶれるし、また振りが必然と大げさになるため常に一手遅れる。

バルバトスの太刀のほうが一手、いや二手は先手を取れるはずだ―――だが、その剣筋には鈍りが見え、仕留めるには至らなかった。


『お前らは正義の味方気取りで俺たちと戦っている、だがその俺たちを生み出したのは他のでもない貴様ら自身だ!
 このスラムの連中の不幸は貴様らが鉄華団などというモノを立ち上げなければ今も変わらず暮らしていただろうよっ!!』

紅のガンダムが大剣を振り回し迫る、それを太刀で弾く。
が、次の瞬間には紅のガンダムが機体を振り回し、つぶれた左腕を鞭のように振り回す。
バルバトスルプスの頭部に衝撃――機体が仰け反る。

『図星かっ!!そうだ諸悪の元凶は俺らではなく貴様ら自身だっ!貴様らが戦い、勝利すればするほどヒューマンデブリを望む声は大きくなり、莫大な金が動くッ!!
 そして、仮に俺らを倒そうと第二第三の俺らが現れるだろうッ!!』

紅のガンダムが跳ぶ、スラスターで機体を木の葉のように振り回し遠心力を乗せた一撃を見舞ってくる。
余りに苛烈な攻撃に受け流せず、太刀で受け止めたバルバトスルプスの膝が沈む。

『お前たちにたどり着く場所などない!!朽ちて野に屍を曝すだけとなるだろうッ!!』
「―――――ッ!!!」

その言葉、琴線に触れた。

「それは、お前が決めることじゃ―――ないんだよッ!!!」

バルバトスルプスの両肩が展開、胸部ダクトと両方から増大したエイハヴリアクターの出力の余剰熱が噴き出す。

『ぬぅ、なんだ急に出力が……ッ!? 』

スラスターを噴射、敵を押し退ける。そしてよろけた敵の顔面にアイアンクローがさく裂する。
バルバトスルプスの鋭利な爪の一つが深紅のガンダムの片目に突き刺さり紫電の流血を飛び散らす。

そして、地面に叩きつける。

「俺たちは辿り着く、絶対にだ。邪魔はさせな―――」
『なら何処に辿り着くというッ!!』

顔面に爪をめり込ませ、地面に押さえつけられたまま紅のガンダムを駆る男が言う。

『己の目指したい場所すら分からぬ人間がどこかに辿りつけるモノか―――世界を舐めるな(わっぱ)ッ!!!』
「ごちゃごちゃと……うるさいな、アンタッ!!」


バルバトスルプスが太刀を振りかざす、このまま敵のガンダムの胸元にその切っ先を突き立てれば終わる。
引き絞った弦から矢が放たれるようにバルバトスルプスが太刀を振り下ろ――――せなかった。


「っ!?」

二機のガンダムの間に唐突に手榴弾のようなモノが投げ込まれ、さく裂。視界を白く焼く先行が放たれる。

視界を失い、直感的な危機感からバルバトスルプスの機体を引かせる三日月。案の定、
その白い闇の中から数機のMSが鉱山などを突き崩すピッケルのような武装を振るってくる。

それを弾く。機体各部の圧力センサーから阿頼耶識を通じて送られる微細な空気振動から大まかに脅威を察しての回避行動だった。


『くっ新手か―――』

グリムゲルデのほうにも更に2機、人型の肢体に円盤状の頭部が印象的な新手のMS――――ギャラルホルンにてかつて運用されていたMS,ゲイレールを改造した機体、ゲイレール・シュルフリヒターが襲い掛かってきていた。

「くそ、また邪魔が。」

徐々に回復する視界の向こうで、自分と相対するゲイレールのもう一機が紅のガンダムを担ぎ上げている。

『さらばだ小童!!精々、タカを括っていろ―――貴様らのような野良犬ごときには何も成せぬ、どこにも辿り着けぬわッ!!』

紅のガンダムのパイロットの捨て台詞と共に、ゲイレール・シャルフリヒターが両肩のシールドを兼ねる大型装甲を展開――――無数の手榴弾状のものをバラまく。
それは地面に落ちると共に一斉に破裂―――――周囲を農密度の霧で覆い隠した。

『ナノミラーチャフか……この程度の火力では焼き切ることも叶わない。拡散を待つしかないか。』

バルバトスルプスの背後に背中合わせになるように移動したグリムゲルデのパイロット、モンタークが冷静に分析する。
使い勝手の難しいナノミラーチャフ。それにとってあらゆるセンサーやレーダーは機能を喪失する。
こうなっては奇襲を警戒する以外に手はない。鎮火しつつあるスラムの火災程度ではこの霧を焼き払うには火力が足らないし、それを行える装備はバルバトスルプスにもグリムゲルデにもなかったからだ。

「どこに辿り着くか―――それは俺たちが決めるんだよ。」

三日月はその霧の向こうに敵を睨みつけながら、一人呟くのだった。
 
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