Unoffici@l Glory
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1st season
5th night
前書き
じっくりじっくり。前半のR4Aは、ビスマス様(Twitter ID:f01bismuth)よりご提供いただきました。氏に、感謝。
連日現れる挑戦者。その度に一瞬で置き去りにする、R35を駆る「若き老兵」。バトルそのものが嫌いな訳ではないが、目の敵のようにいくつもの相手から挑まれ続けていれば流石に疲れてくるものがある。今日は、彼にとってのそんな日だった。
「おい、そこの新人!」
「はっ、はい!何ですか!?」
「仕事中に他の車を気にするな、手元が狂うぞ!」
「すみません!」
彼の表の仕事も終わろうかという夕方、そんな声が聞こえた。新人スタッフを叱りつけたのはR4Aでも古株の整備士だ。
「マッさん、あの新人は?」
「ん?あぁ、三ヵ月前入った佐々木ですよ。覚えは良いが如何せん気が散ってるみたいで……」
「アイツ今までに何か失敗しました?」
「いや、特にそういう報告は受けてないですよ。むしろ仕事ぶりは新人にしては立派なもんです」
「ふむ……ちょっと借りても良いですか?」
「良いですよ、ただ今の作業が終わってからにしてやって下さい」
そういうと、マッさんと呼ばれた整備士は新人スタッフを呼びつける。
「おい新人!その作業終わったらちょっとこっちに来い!」
「は、はひっ!!」
「……噛みましたね」
「噛みましたねぇ……」
その反応に思わず苦笑いを漏らす二人。しかし上役からいきなり来いと呼びつけられれば何かをした覚えがなくてもビクビクしてしまうのが新人というものである。
「あまり新人をいじめないでやってくださいよ、叩かれて強くなるばかりじゃないんですよ」
「そうは言っても、これしかやり方を知らんのです。お恥ずかしい話ですが」
「まぁ、うちの会社なら他にフォロー役も居るし大丈夫なんじゃないですかね……」
二人がそんな話をしているうちにいつの間にか、佐々木と呼ばれた新人が仕事を片づけてやってきた。
「お、終わりました」
「よし、お疲れさん。チェックは他の奴にさせるから、ちょっとこの人に付き合え」
「直接話すのは初めてかな?専属ドライバーの柴埼だ」
「初めまして、佐々木です……」
古株の整備士と仲良くしており、しかも高い評価を受けている専属ドライバーから呼びつけられれば緊張してしまうのも無理はない。そんな彼に「老兵」は笑顔で誘いをかける。
「突然だけど、今夜空いてるかな?予定があるなら別に良いんだが」
「いえ、今日は何も無いですよ。……何かあるんですか?」
「なに、君に隣に乗ってもらおうかと思ってね。コイツの」
その指先を見た佐々木の目が輝いたのは、彼の錯覚ではないだろう。
「まぁ申し訳ないが残業って事になる。私の個人的な頼みだし、上に掛け合って残業代も出させる。期が乗らないなら断ってくれても……」
「いえ!乗ります!乗らせて下さい!」
「……オーケー、わかった。じゃあ仕事終わったらガレージで待っていてくれ」
そう残すと、若き青年整備士はまるで飛び上がって喜ぶかのごとく仕事に戻っていった。それを「若き老兵」と壮年の整備士は笑顔で見送り、仕事に戻る。
「何を仕込むつもりなんですか?」
「何、老兵なりのお節介ってやつです」
その夜、横羽線下りを流しながら、彼は新人に話しかける。
「昼間怒られてたとき、このRを見てただろ?」
「いえ、そんな事は……」
「誤魔化さなくてもいい。ウロチョロ走り回らされても目線は必ずコイツに惹かれてた」
「う……はい」
狼狽える新人に「若き老兵」は表情を和らげて話しかける。
「Rは好きか?」
「はい」
「何故好きか、自分の言葉で説明出来るか?」
「とにかく速くて、カッコイイからです」
「そうか……まぁ、答えとしてはシンプルだし、悪くないな」
あくまで巡航速度。ずっしりとしたボディから伝わる安定感が、むしろ眠れる獅子のごとき雰囲気を匂わせる。
「Rがなぜ速いと言われているか解るか?」
「それは……やっぱりエンジンとか足回りとか……」
新人らしく、わかりやすいところを挙げていく彼に、老兵は表情を変えずに叩き返した。
「違うな。他にもいい造りをしているマシンはいくらでもある。Rだけが特別な技術で作られてる訳じゃない」
「……だとしたら、一体あの凄さは?」
「Rの速さは、余裕と汎用性だ」
手元のスイッチを操作し、システムをパターン2に変更。その瞬間、マシンが雰囲気を変えた。目立たない滑らかな雰囲気が、鋭利な槍のように研ぎ澄まされていく。
「これは……!?」
「大体どこに行ってもRは速い。どんなサーキットでも、どんな峠でも、そこに合わせたチューニングが出来るからだ」
「っ……後ろから何か来ます」
「F40……フェラーリか、丁度いいから見せてやる」
甲高い咆哮を上げながら追走してきたのは、スーパーカーと名高いF40。圧倒的パワーがタイヤを唸らせ、路面を掻き毟る。
「さて………」
一瞬アクセルを抜き、F40を前に立たせると一気に踏み込んだ。強烈な加速Gが二人を襲う。
「ッッッ!!」
「喋ろうとするな、慣れてなきゃ舌噛むぞ」
凄まじいトラクションで二台は駆け出した。かたや12気筒を搭載する真紅の跳ね馬、かたや極限まで改良された赫い重戦闘機。
「今のパワーはあっちの方がある、当然の事だ」
フェラーリはコーナーを抜ける度に突き放そうとアクセルを開け、タイヤに悲鳴を上げさせながらも前に出る。しかし、Rはピッタリと張り付いて離さない。
「だが、踏めないパワーは無いも同じだ」
コーナーを抜け、狭い直線を疾り、一般車を掠めながらも淡々と狙い続ける。
「も、もうみなとみらい線です!前に出ないと……」
横羽からみなとみらい線へ接続されると車線が一気に開ける。その瞬間を待っていたとばかりに咆哮を上げ、真紅の跳ね馬が遠ざかっていく。
「それが切り札か、まだ若馬だな」
オペレーションパターン3、みなとみらい線用ハイパワーセッティングに変更。雰囲気猛々しく、R35が猛追を始める。
「っ………!?」
慌てたのはフェラーリの方だった。パワーで勝ると思っていたのに、みなとみらい線で距離を詰められている。
「モータースポーツの世界、とりわけこの首都高というステージにおいてパワーは何よりも重要だ。だが、それを生かせなければ何の意味もない」
「す、凄いですね……」
F40がブロックしようと車体を揺らすが、Rはフェラーリより速く車線を刻んでいた。たちまち横に並び、じわじわと前に出ていく。
「これが出来るのがこのRだ、ほかのマシンじゃいくつものセッティング幅を作れない。その気になればC1用だって組める」
そして、不幸にもF40の前には一般車がいる。アクセルを緩めたら一瞬で置き去り、しかし緩めなければ事故という二者択一を強いられた。
「もちろん、こういう汎用型は本当に特化したマシンには劣る。だがその差をここまで詰められた」
「なるほど…」
「最大限の効率を引き出す余裕、それがこのマシンの武器だ」
そして、戦意を失った跳ね馬はゆっくりと後退していく。
数刻後、彼らは適当に止めたPAで煙草を燻らす。新人スタッフが「老兵」に尋ねた。
「あの……『D』って知ってますか?」
「よく聞かれるよ、18年前の伝説だろう?何も知らないんだがね」
「そう……なんですか?」
「その時私はまだ業界に居なかったからね、あまり興味も無い。ただ……」
煙草を踏み消し、灰皿に落としてマシンを見据える。
「R4Aの看板を付けて走ってる以上、売られた喧嘩は買わなきゃならない。生半可な伝説なら撃墜するだけだ」
赫い重戦闘機はその身を静かに伏せ、次の獲物を待ち構えていた。
同じころ、グレーラビットがC1外回りを流していると、一台の車がパッシングしてくる。
「Passing……この時間に、こんな車にわざわざ絡んでくる……Battleの合図……」
グレーラビットがハザードを返すと、横に並んだのは深紫のロータスエリーゼ。二台ともギアを落とし、臨戦態勢に入る。
「……どこからでも踏めばいい。逃げる気はしないし、逃がしもしないさ……」
江戸橋を直進し、9号線へと入ると二台とも全開。エリーゼが先行するが、グレーラビットもぴったりと張り付く。
「ふぅん……そっちでいいのか?そんなMachineで……Crazyな奴だ……」
不敵に笑うグレーラビット。だが追撃のアクセルを緩めることはない。彼にパッシングしたエリーゼは、以前C1で四つ巴のバトルを繰り広げた青年だった。
「こないだのバトルは結局決着つかなかったからな……今度こそ勝ち星を挙げて見せる。この車で勝たなきゃ意味がねぇんだ」
9号線の細かいコーナーをほぼノーブレーキでクリアしていく二台。
「俺とこいつは、まだこんなところで止まれはしない!」
しかし、そうやって必死に逃げるエリーゼの後ろを悠々と食らいついていくグレーラビット。
「……冗談じゃねぇ……もっと踏んで見せろ……こんなSPEEDじゃ、奴には勝てはしない……」
その姿はまるで静かに狙いを定めつつも、踏み込めないルーキーをせかすよう。だが積極的に動くことはなく、ただ静かに追い続ける。
「やべぇよ……やべぇよ……とんでもねぇ奴に吹っ掛けちまった……」
焦っているのはエリーゼのドライバー。なんとか走りに出さないよう抑え込みながらも、彼の集中力は乱れ始めている。
「どんだけすっ飛ばしても振り切れねぇ……このままじゃ、この先は湾岸合流……どうあがいてもこの車で勝てるステージじゃねぇ……」
頭ではわかっている。しかし彼からしかけたバトルである上、負けそうだから引き下がれるほど、器用ではなかった。
「細かいコーナーを処理する技術も、車のパワーも向こうが上……車体こそ軽いから多少の無茶は効くが、それにも限度がある……」
アクセルを踏み込む右足が震える。いや、その震えは彼の全身を襲う。その車での未体験ゾーンにいるという恐怖。一歩間違えればどこに吹っ飛ぶかわからない、ライトウェイトスポーツならではの浮遊感。
「湾岸……湾岸までだ……そこまでは付き合ってくれるはずだ……」
今や、彼に戦意は残っていない。あるのは、ただ板挟みになった恐怖。
「この車で……籠の外に出ちゃいけなかったんだ……俺には、まだ早かった……」
そして、そのままポジションが変わることはなく、枝川の先、右の直角コーナーを抜けて湾岸合流。立ち上がり重視でアウトに振ったエリーゼに対し、進入で無理をせずアウトからインに抜けてきたZ32がエリーゼをパス。そのままパワーの差を生かし、完全に振り切った。
「冗談じゃねぇ……そんな車で、ゆりかごの外に出てくるんじゃねぇよ……」
後書き
一番時間かかるのはバトルシーンなのです。ええ。
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