Unoffici@l Glory
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1st season
4th night
前書き
今回でメインとなるキャラはほぼ出る……はず
中古車販売と修理工場を兼ねるショップ「Garage CARCASS」。そこを一台の車が訪れた。車から降りてきたのは一人の青年。店舗の受付へと向かい、事務員への挨拶もそこそこに工場へと向かう。
「こんにちはー」
「よう。どうよ、あれの乗り心地は」
「すごくいいですねぇ。乗りやすいしパワーもある。こないだなんか、調子こいてたアコードいたんでチギってやりましたし」
近所の兄ちゃんかの如く彼に接するのは、このショップのオーナーである「ゴシップハンター」。どうやらこの青年は、以前「流離いの天使」のCL7を置き去りにしたXK8のドライバーだったようだ。
「おいおい、まさかとは思ってたけどお前かよ、あの「天使」を湾岸でチギったジャガーって」
「あれ、噂になってたんですか?大した奴には見えませんでしたけどね」
「そらお前、湾岸でアコードがアレに勝てるわけねぇだろ。こっちはメンテしただけとはいえ、車の格が違いすぎるわ」
灰皿が置いてある来客用の喫煙コーナーに移動しながら、自慢げな表情を浮かべる青年を窘めるオーナー。併設してある自販機で缶コーヒーを二本買うと、青年にも渡す。
「アイツは本来C1がメインだからな。お前さんがもしC1一周でも勝てたら本物になれるだろうが」
「勘弁してくださいよ、あんなせまっこいところ……まともにアクセル開けれやしない。何が楽しいのか」
「そらお前、車と格闘するのが楽しいんじゃねぇか。腕磨くにはもってこいだぞ?」
そのまましばらく続いた話が一段落し、オーナーが煙草に火をつけると、青年がふと切り出す。彼は何も暇を潰しにここにきたわけではない。
「ところで、何かわかったんですか?『Dの遺産』のことは」
「いんや、サッパリだ。こっちもそれなりに当たっては見たが、その筋の連中に聞いても、『アレはもう滅んだ』って一点張りよ。ネット探っても眉唾物の情報しかねぇしな。蜘蛛の糸すらありゃしねぇ」
「……なんとか、拝めないモンですかねぇ」
「……すまねぇなぁ……力になれなくてよ」
オーナーの吐き出す煙が虚空へと消える。青年は空を見上げ、どこか疲労したような表情を浮かべた。それを見たオーナーも顔を伏せ、深くため息をつく。
「もし『アレ』が現れたら……撃墜できるマシンは、ここにありますか?」
「さぁなぁ……『ソレ』がそれほどのもんかわからねぇ以上、作り手としては断言できねぇさ」
「そうですか……まぁ、それもそうか……」
「そも存在するのかすら曖昧なブツである以上、商売としては太鼓判は押せねぇよ」
はっきりと断言したオーナーの言葉に、青年は落胆を隠せない。しかし、煙草を灰皿でもみ消したオーナーがこぼした一言に、少しだけ彼の表情に明るさが戻ったようだ。
「……だが、横浜にいるR4AのR35。アレと戦えるマシンなら用意してやれるぜ?」
「え?本当ですか!?」
「ああ。奴なら、何か知ってるかも知れねぇ。俺が以前奴の店に行ったときは知らねぇの一点張りだったが、あれだけ速い奴がいるんだ。何も情報がねぇなんてことはねぇだろうさ」
「なら、その車に勝てば……」
「もしかするかもな。ただし相当なじゃじゃ馬に仕上がる。腕のない奴が乗ったら一瞬でオシャカになっちまうほどの、な」
そう言い放ったオーナーの表情は厳しい。それもそのはず、現役でみなとみらいエリアにおけるトップクラスと闘うとなると、彼自身にも相当の覚悟で車を作らなくてはならない。生半可なドライバーに託せる代物ではないのだ。
「それでも、今のXK8よりは速い、違いますか?」
しかし、それを聞いた青年は不敵な笑みを浮かべる。どこまでも食らいついていこうとする、野獣のような眼光を携えながら。
「当然だ。乗りこなせれば、が枕詞につくがね。興味はあるか?」
「もちろん。ベースはなんです?」
「イギリス好きのお前さんにはピッタリのマシンだよ。だがその前に、お前さんにはソレに乗るためにやってもらうことがあるがね。すぐに出来上がるもんでもないし、まぁそれまでのレベルアップも兼ねて、な。ついてこい」
それだけ言うと彼はガレージへと向かう。残った中身を飲み干した青年は、空き缶をゴミ箱へと放り込むと、急ぎ足でオーナーの横へと並んだ。
その夜。今夜もC1を外回りでランデブー走行をしているエボⅤとインプ22B。心なしか以前よりペースが上がっているようにも見受けられる。現在は銀座の分岐路をクルーズ速度で通過中だ。
「このところ、何かと出会うたびに負けっぱなしだからな……そろそろチームの外でも勝ち星が欲しいところなんだ」
そんな彼らに、一台の車がパッシングを仕掛けてくる。挑まれたバトルであり、車の動きからも殺気じみたやる気が溢れる彼らに、もはや逃げの選択肢は存在しない。
「今夜一発目のバトルか。どこの誰だか知らないが、今度こそ絶対に勝たせてもらう!」
ギアを落として加速状態に入る三台。4WD特有のトラクションを生かして加速していく二台に少し遅れる後続の車は、黄色のDC2インテグラであった。
「やはり置いて行かれるか……駆動方式と過給機のあるなしはどうしても違うな」
グイグイと車間距離が開き、置いていかれつつあるのに、あまり焦っているようには見えないインテグラのドライバー。彼は「Fine Drive」とは違うチーム「Electric Sun」に所属する新米の首都高ランナーである。
「だが、あまり車にばかり頼っているようなら動きでわかるぞ。どういう走りをするのか、後ろから見せてもらおうか!」
しかし、離されても諦める様子はない。最初から織り込み済みといわんばかりにアクセルを床まで踏みこみ、テクニカルな銀座エリアを抜けていく。
「この先の汐留、その先の浜崎橋。さぁ、どう抜けるか見せてもらおうか!」
汐留トンネルで追いつかれるも、その先の上りながら入るS字コーナーでインテグラを引き離す二台。しかし、浜崎橋を抜けて芝公園付近で追いつかれ、はっきりとした差はつかない。
「くっそ、あそこで食いつかれたのはデカいな……」
エボⅤのドライバーに焦りが見え始めた。しかし、一ノ橋を抜けてから霞が関トンネルまでは高速ステージ。立ち上がりで大きく突き放し、そこからもじりじりと離れていくインテグラのヘッドライトをバックミラーから確認すると、少し安心したように表情に余裕が戻る。
「ん……アイツ、何があった?」
しかしそこで突然、インプレッサがエボⅤの後ろに着くと、ハザードを出す。それを察知したのか、霞が関トンネルでのブレーキングをいつもより早く深く踏み込む。すると、追いついてきたのは今競っているインテグラではなかった。
「っ!?最近こんなんばっかりじゃねぇかよ!」
その二台、いや、三台をあざ笑うかの如く抜き去っていったのは、深い紫に塗装されたロータスエリーゼSCであった。
そのエリーゼのドライバーは、昼間に「ゴシップハンター」のショップを訪れていた青年であった。
「こういう車で走りこんでみると、意外と楽しいもんだな、このエリアも。好き放題振り回せるのは病みつきになるわ。車には狙ったステージがあるってのは間違いじゃなかったってわけか」
どうやらこのマシンは、青年が「ゴシップハンター」から課せられた試練に関わってくるようだ。いったい彼はどんな恐ろしい車を作ろうとしているのか。
「車は軽くてパワーあってナンボ。だからイギリス車は辞められないってもんよな。こういう頭悪い設計だからこそ、クスリ決めてる感じになれてたまんねぇ」
霞が関トンネルを一気に抜け、すぐに千代田トンネルに入る。一般車を平然とすり抜けていくその様からは自信に満ち溢れた様子しか見えない。
「流石に怖くてまだあんまり攻め込めてないけどな……しかしあのオーナー、どこからこんな車調達してくるんだ?」
するとそんな彼に、まだ混戦状態にあったさっきの三台が同時に襲い掛かる。どうやら、一瞬離れただけで、バトルモードが冷めたわけではなかったようだ。
「おっと、流石にこんな車でこんな走りしてりゃ見逃してはくれねぇよな……いいぜ、どうせ決着なんかつきやしねぇ、誰が最初に降りるかだ」
エリーゼ、エボⅤ、インプレッサ、インテグラ。終わりの見えない異種格闘技戦。誰も見届けるもののない長い闘いが、今改めて幕を開けた。
後書き
たまには、はっきりと決着つかない締め方してもいいかな、と。
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