レーヴァティン
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第七話 炎の剣と氷の刃その一
第七話 炎の剣と氷の刃
久志と英雄は神殿の中に入った、その中は白い大理石で造られていた。
下は奇麗に磨かれ鏡の様だ、廊下の左右には整然として神々の像が並べられていたが。
英雄は隻眼で魔術師の様な服と帽子を身に付け槍を持った老人を見てだ、久志に言った。
「オーディンだな」
「ああ、俺もわかった」
久志もその石像を見て応えた。
「北欧神話の主神だよな」
「嵐と戦いと魔術の神だ」
「そうだったな」
「この神殿でも祀られているか」
「それでこっちの神様はな」
久志は半裸で右手にハンマー持つ濃い髭を生やした逞しい肉体を誇示する神の石像も見た、そのうえで英雄に言った。
「トールだな」
「あの神父さんが仕えていた神様だったな」
「そうだったな」
「こっちは雷と農業の神様だったな」
「そして巨人を倒す神だ」
神々の宿敵である彼等をだ。
「その神だ」
「その神様も祀られているんだな」
「他にもいるな」
そのオーディンやトール以外にもだというのだ、見れば実際に神々の像は他にもあり実に色々な神々の姿があった。
その中の燃える様な髪を生やしシニカルな笑みを浮かべた美男子の神を見てだ、英雄は鋭い目になり言った。
「ロキだな」
「あのやたら謀略や悪戯を働く神様だな」
「北欧神話のトリックスターだが」
「あの神様裏切り者だろ」
「どうもこの世界では違う様だな」
英雄はそのロキの像を見つつ久志に話した。
「祀られているのを見ると」
「そうなんだな」
「これはニーベルングの指環か」
「指環?ワーグナーのか?」
「そうだ、あの楽劇のだ」
それだとだ、英雄は久志に話した。
「そのロキ、ローゲだな」
「よくそんなのわかったかな」
「こうして祀られていてだ」
神々の一柱として、というのだ。
「そのうえで燃える様な神をしているな」
「火だな」
「あの楽劇ではローゲは炎の神となっている」
「へえ、そうか」
「途中でヴァルハラから離れて最後に全てを焼き尽くすが」
第三夜神々の黄昏の最後で出て来る、炎となって神々も神々がいるヴァルハラもそこを攻めようとする小人達の軍勢も焼き尽くすのだ。
「しかし神としての性質は失っていない」
「神話じゃ巨人に寝返るっていうか戻ってたよな」
「しかしだ」
「指環じゃ最後まで神様か」
「厳密に言うと炎そのものだがな」
元は炎の精霊だったのをオーディンが神として自身の助手としていたのだ、この辺りはワーグナー独自の解釈だ。
「そうなっていた」
「そうか」
「そちらのロキだな」
「炎の神様でか」
「そしてオーディンの助手だな」
「俺達の世界とはそこは違うか」
同じ神でもだとだ、久志はこのことを認識した。
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