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高潔な教師

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第三章

 生徒達はあくまで言う、フーシェは高潔かつ公平でしかも知性も備えた素晴らしい教師だと。生徒達は主張し続ける。
 誰もが疑いそれでフーシェ、教師としての彼について調べてみた。するとだった。
 蓄財はなかった。それは全くだ。
 そして確かに高潔で温和、公平な教育者だった。知性も教養もかなりのものだった。
 尚且つ家庭ではよき夫であり優しい父親だった。このことを知ってだ。
 誰もが唖然となりだ。こう言ったのだった。
「馬鹿な、フーシェが高潔だと!?」
「あのカメレオンがか」
 常に権力の場にあり仕える者を替えてきた彼はこうも言われてきたのだ。常にその立ち位置を替えて冷酷な辣腕を発揮する彼はだ。
「リヨンの虐殺を見ろ」
 その彼が住民の一割を粛清した事件だ。
「ギロチンだけでは埒が明かず粛清する者に墓穴を掘らせて大砲で吹き飛ばしたのだぞ」
「そこに何の心がある」
「公平さもあるのか」
「あれが人間のすることか」
「ロベスピエールも鼻白んだのだぞ」
 全て事実だった。こうしたことも。
「あのロベスピエールですら嫌悪を示した男だ」
「総裁政府にも取り入り皇帝にも取り入った」
「何処に倫理観がある」
「そのフーシェが高潔なのか」
「人格者である筈がない」
 これがおおむねの意見だった。だが、だった。
 調べれば調べる程だった。教師として、家庭人としてのフーシェは。 
 人格者だった。批判される要素は何処にもなかった。
 それでかつて彼の生徒だった者達は確かな顔で言うのだった。
「私達は嘘を言ってはいない」8
「フーシェ先生の人間性は事実だ」
「あの方の悪口は許さない」
「例え何があってもな」
「私達はあの方を知っているからだ」
 だからだ。彼等はフーシェの人間性を擁護するというのだ。だが当のフーシェは一切発言をしなかった。
 彼は殆ど誰からも憎まれ嫌われ恐れられた。しかし生徒達は違っていたのだ。 
 時折彼のところに来てだ。贈りものを差し出して言うのだった。
「私達は知っていますので」
「有り難う。だが」
「贈りものはですね」
「私は受け取りません」
 穏やかで礼儀正しい声だった。冷徹なカメレオンとは思えないまでの。 
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