魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic29希望と絶望を併せ持つ者~The Future Threat~
†††Sideキャロ†††
ルーちゃんとリヴィーちゃんの姉妹と交戦して、エリオ君がリヴィーちゃんと相打ちになってことで、残るは私とルーちゃんだけとなった。気を失ってるリヴィーちゃんを膝枕してるルーちゃんに、「まだ、続けるの・・・?」って確認してみる。
「・・・もちろん。リヴィーが居なくても私にはもう1人、ガリューって言う相棒がいるから」
ガリュー。人型の召喚虫だよね。私には飛竜フリードが居てくれるけど・・・。でもこのまま交戦に入りたくない。出来るだけ説得を試みて、上手く行けば最高。ダメでもシグナム副意隊長との合流までの時間を稼げれば・・・。
「メガーヌ准尉の事はちゃんと助けるよ。だからもうやめよう・・・!」
「確証の無い話なんて聞きたくない。絶対にママを助けられる確証を得てからにして」
「ルーちゃん! もう少し話をし――」
「うるさいっ! 話はこれまで! ガリュー!」
私の話を怒鳴り声で遮ったルーちゃんは、リヴィーちゃんの頭をゆっくりと床に降ろしてすぐにガリューを召喚した。ガリューはリヴィーちゃんをお姫様抱っこして、部屋の隅っこに連れて行った。
(これ以上は引き延ばせない・・・か。エリオ君・・・)
私もエリオ君の頭を太腿からゆっくりと降ろして「よいしょっ!」っと、エリオ君の両脇に両腕を差し込んで上半身を持ち上げる。私たちの戦いに巻き込まないように部屋の隅っこにズリズリと引き摺っているとトントンと肩を叩かれた。振り向いてみるとそこには「っ!? ガリュー・・・!?」が居た。
「え? え? あの? え・・・?」
「その子もガリューに運んでもらって。あなたじゃ時間掛かるし」
すでにスタンバイしてるルーちゃんがそう言った。やっぱり優しい子。騙し打ちとか奇襲とか、そういった考えが思い浮かばないくらいにガリューやルーちゃんから敵意が感じられないからお言葉に甘えて「お願いします」お礼を言って、エリオ君をガリューに預けた。
「ねえ、ルーちゃん」
エリオ君がリヴィーちゃんの隣に優しく横にされたのを見て、私は「本当に止まってくれないんだね?」って最終確認を取った。ルーちゃんは「しつこい。私たちの意思は変わらない!」って答えて、周囲に短剣型の魔力弾を12発と展開した。側に控えるガリューもルーちゃんに合わせて構えを取った。
「・・・フリード、行くよ。ケリュケイオン、サードモード!」
両手にはめた“ケリュケイオン”をフルドライブモードにする。両手の甲にあるクリスタルから1対ずつ、計4枚の翼を展開する。
「ブーストアップ・バレットパワー!」
足元にミッド魔法陣を展開して、射撃系魔法の威力を強化する魔法を発動。効果は私とフリードに及ぶ。私も周囲に魔力スフィアを3つと展開。あと「我が乞うは、城砦の守り・・・」コソっと詠唱して、防御力強化のエンチャント・ディフェンスゲインを発動。
「往けっ!」
――トーデス・ドルヒ――
「ケリュケイオン!」
≪Protection≫
私1人にだけ狙って放たれたルーちゃんの攻撃をバリアで防御したと同時、フリードに「目標ガリュー!」を狙ってもらって、火炎砲ブラストレイを発射させる。ガリューは砲撃をジャンプして避けて、そのまま私に向かって飛び蹴りを繰り出そうとしたけど、フリードの翼による払い除けを受けて宙を舞った。私はバリアを即解除して・・・
「シューティング・レイ!」
ルーちゃんに向けて誘導操作弾4発をクリスタルから展開されてる翼4枚から発射。すぐに別の射撃魔法をスタンバイ。詠唱も必要無くて、チャージ時間もほとんど無くて、しかも多弾連射が可能で、咥えて弾速も速い直射弾の「ウイングシューター!」を6発と発射。
「っ・・・!」
最初の誘導操作弾より早くルーちゃんに到達する直射弾。ガリューが羽を羽ばたかせて無理やり射線上に割り込んで、クロスさせた両腕で直射弾を防御。直後にガリューを回り込んでルーちゃんを直接狙った誘導操作弾も、その身を挺して防御した。
「ガリュー・・・!」
装甲(虫だから外殻?)がボロボロと崩れるガリューの姿にルーちゃんが不安そうな声を上げたけど、ガリューは大丈夫って言いたそうに構えを取った。私とフリードも迎撃に備えたところで、「ぅあ・・・?」ルーちゃんがふらついて、その場に崩れ落ちそうになったのをガリューが抱き止めた。
「何アレ・・・?」
ルーちゃんだけじゃなくてリヴィーちゃんの首と額に環状テンプレートが展開されて、ガシャン!と砕け散った。
「ルーちゃん・・・!?」
「ガンマ・・・が負けた・・・!? 監視の目が無くなった・・・」
ルーちゃんの口から洩れたガンマっていう名前。確か“スキュラ”ってサイボーグ姉妹の1人だったはず。
「・・・どうしよう。ガンマが倒れたらママを調整する人が居なくなる・・・!」
「ルーちゃん・・・?」
「管理局! 急いでママを確保して、技術力の高い技官と部署に搬送して!」
顔を真っ青にして涙を浮かべたルーちゃんが叫んだ。だけど通信も念話も阻害されちゃってるし、どうやって連絡を取り合えば・・・。ううん、そんな事を考えてる暇があるくらいなら、行動あるのみだよね。
「待ってて、ルーちゃん! 私、外と連絡できるように一度脱出し――」
――火龍一閃――
「「きゃ・・・っ!?」」
そこまで言い掛けたところで、火炎砲撃がこの部屋を横断して行った。あまりに突然起こった事態だったから、私やルーちゃん達は小さく悲鳴を上げることしか出来なかった。砲撃で開けられた壁の奥から複数の足音が聞こえてきた。
「・・・シグナム副隊長!」
数人の武装隊員を伴って姿を見せたのは、背中から炎の羽を4枚と展開したシグナム副隊長だった。
†††Sideキャロ⇒シグナム†††
アギトとユニゾンしたメガーヌ准尉と火炎砲撃の撃ち合いをした私は、「ごほっごほっ」なんとか勝つことが出来た。ルシルのカートリッジが無ければもう少し時間も魔力も消費していただろうな。私の火炎砲や押し返された自身の火炎砲の直撃を受けたメガーヌ准尉は、仰向けで床に倒れ伏していた。
「・・・アギト」
メガーヌ准尉の防護服が解除されたと同時、アギトとのユニゾンも解除されたらしく、准尉の胸からアギトが出てきた。准尉は「あいたた・・・」と呻きながらもゆっくりと上半身を起こし始めた。
「頭がクラクラする・・・。メガーヌ、大丈夫?」
「ええ、なんとか。アギトもブラックアウトダメージを起こさなくて良かった」
アギトも頭を押さえながらふわりと宙に浮き、互いに体調を気遣いあった。私としても2人が無事で良かったと安堵する。思念通話も通信も妨害されている今、2人に何かあった際に助けを呼べんからな。
「メガーヌ・アルピーノ准尉、そして融合騎アギト。武装を解除し、投降して頂けると助かります」
「この・・・!」
アギトがかぶりを振って、周囲に火炎弾を4発と展開した。しかし准尉の「アギト、やめなさい」という制止の言葉に「むぅ・・・」渋々だが従い、火炎弾を霧散させた。そして准尉の肩に着地して、「これからどうすんだよ」と訊ねた。
「ユニゾン状態で負けちゃったんだし。もう魔力もすっからかんだし。これ以上の抵抗は無意味よ。降参しましょう」
「・・・メガーヌがそう言うならしゃあなし、か。おい、そこの騎士。今すぐ、優秀な局の技術者と医者を用意しろ。あとルールーとリヴィーも確保しとけよ。メガーヌはな、くそガンマの調整を定期的に受けないとヤバいんだよ」
アギトが嫌悪感を剥き出しにガンマという“スキュラ”の名を口にした。即答してやりたいが、外界との交信手段が封じられているとなると、艦外へと脱出しなければならない。しかしエリオとキャロの2人とも合流をしなければ。副隊長としての最低限の務めだ。
「局員さん。あなたの部下の子供たちは今、私の娘と一緒に居るはず。所在地はココよ」
准尉が展開したモニターに“アンドレアルフス”の詳細なマップが表示され、エリオ達を示すであろうポイントが4つと点滅しているエリアが判明した。私たちが居るのは左翼の中央付近だが、あの子たちは右翼の中央付近。直線距離にして3km程だ。
「私に行われた調整は今朝だったから、1週間は調整を受けなくても平――っ?」
「准尉!?」「メガーヌ!?」
准尉が頭を抱えたままドサッと倒れ伏した。彼女の額と首に環状テンプレートが展開され、ガシャン!と砕け散った。それが何を示すのかが判らないため、「どういうことだ?」とアギトを問い質す。
「判んねぇ! メガーヌ、しっかりしろ! メガーヌ!」
ペチペチと准尉の頬を叩くアギトに、私は「アギト。力を貸してくれ」と伝える。私に「は?」と振り返る奴に、「ユニゾンだ」と提案する。回りくどく正規ルートを走っていたのでは時間が掛かり過ぎる。ならば大火力魔法による壁抜きをして直線ルートを作った方が手っ取り早い。ということを伝えてみると・・・
「お前、雑すぎねぇ? 確かにそりゃルールー達と合流すんの早くなるけどさ」
呆れ顔になった。なのはやルシルもよくやる手段なのだが・・・。とにかく「どうする? 悪い提案ではないだろう?」と確認し直す。
「・・・しゃあねぇな! やってやんよ! メガーヌを早いとこ医者に診せてぇし! あ、1つ言っておくけどよ、この1回きりだかんな!」
早々にアギトに記憶を戻してやりたいな。しかしベルカ時代の頃の記憶を取り戻した時、現在の記憶はどうなるのだろうか。それだけが少々不安だが・・・。
「しょうもねぇ真似だけはすんなよな、管理局!」
「お前こそしっかりと付いて来い」
「「ユニゾン・イン!」」
アギトと数百年ぶりにユニゾンを果たす。胸の内にアギトの存在感を感じつつ“レヴァンティン”のカートリッジを装填し直していると、アギトが『・・・あれ?』と漏らした。
「どうした?」
『・・・シグ・・・ナム・・・』
震えた声で私の名前を口にしたアギト。そこには先程までの親しみの欠片も無い声色とは違い、明らかに私を知っている風な声色だった。
「アギト・・・? まさか、お前・・・!」
『シグナムだ・・・! あたしの本当のロード・・・!』
アギトが泣き出した。私はすぐにユニゾンを解除させ、目の前に出現したアギトを手の平に乗せる。大粒の涙をポロポロ流すアギトに「長らく待たせてすまなかったな」と謝った。アイリとは違い、洗脳までされて戦わされていた。しかも数百年と。もしその間の記憶もあるのだとしたら、どれだけの悪夢だろうか。
「ううん! こうしてまた逢えただけであたしは・・・!」
私の胸に飛び込んで来たアギトを抱き止めて「また共に戦ってくれるか?」と訊ねると、アギトは両手で涙を拭い去った。
「もちろんっ! あたしは烈火の剣精アギト・セインテスト! マイスターはオーディン、ロードはシグナム、お前だ!」
当時と同様にニッと笑みを浮かべたアギトが右手を差し出して来てくれた。私は「ああ! では行くぞ!」その手を取り、「ユニゾン・イン!」を再度果たす。
「さて。准尉はどうしたものか」
『メガーヌ・・・。今はとにかく、ルールーやリヴィー、あとシグナムの部下・・・、エリオとキャロ?だっけ。ソイツらとも合流しよう』
「洗脳されていた間の記憶も残っているのだな」
『つってもここ2年くらい前からしか残ってねぇから、それ以前にどんな悪事を働いたか判らないけどさ』
「気にするな。・・・ではアギト、頼む」
『おうよ! ひっさびさの! 猛れ、炎熱! 烈火刃!』
炎熱付与武器強化魔法を発動してもらい、私の炎熱魔法の火力をさらにグッと跳ね上げさせた。体の正面を向けるのはエリオ達の居る右翼。そしてカートリッジを2発とロードし、壁抜きを行うために左手に火炎の剣を作り出す。
「『剣閃烈火!』」
振り上げていた左腕を・・・
「『火龍・・・一閃!』」
振り下ろした。左手の炎剣は前に真っ直ぐ伸び、火炎砲撃として壁を撃ち抜いて行く。砲撃の威力は減衰することなく、順調に壁を撃ち抜き続ける。
『なあ、シグナム。目標の部屋のどこにルールー達が居るのか判らないのに、大雑把に撃って良かったのかよ』
「・・・あれほどの魔力反応だ。来る前に感じ取れるだろう」
『今の間は何だよ・・・』
別に考えていないわけではない。いくら大火力砲撃だろうが、幾重もの鋼鉄の壁を数kmに亘って貫通できるものではない・・・はず。とにかく「壁に開いた穴を通って行こう」っと歩き出した時・・・
「こっわ! 目の前で火炎砲通過とかこっわ!」
穴の向こうの通路から聞き憶えのある声がした。ひょこっと穴から顔を覗かせたのは「クララ・・・!」だった。同じ特別技能捜査課に所属する先輩局員だ。彼女の後ろには武装隊員が10人ほど居た。
「クララ、どうしてここに・・・?」
「シグナムさん、その姿・・・って、そうだった! ついさっき、機動六課の高町教導官とハラオウン執務官、教会の騎士プラダマンテの手により確保されたプライソンから、新たな声明が出されたの」
なのは達は自らの仕事を無事に果たせたのだな。その安堵の次にはプライソンの真の目的とやらに目眩がした。よもや隕石を降らせてミッドを壊滅させ、大気圏外に在る兵器・“アグレアス”の特攻で不老不死の自分を殺すなどと。
「大火力遠距離攻撃が出来る局員・騎士のみんなが本局の艦隊が到着するまでの間、隕石の迎撃を行うことになったの。スキュラのサイボーグ達もプライソンを裏切って、各兵器で迎撃を行ってくれているし」
「そうか。・・・そうだ、クララ。そこに居る女性を確保してくれ。彼女も救出・保護対象の1人で、メガーヌ・アルピーノ准陸尉だ」
「洗脳されてるメンバーの1人でしたっけ。了解です」
技術部のマリエル技官と医務局のティファレト医務官の名を出し、准尉の調整とやらの話も伝えておく。クララは転移スキルを使い、准尉と共に本局へと直通転送した。そして私は武装隊を引き連れ、エリオ達の元へと急ぐ。その間に砲撃を撃つこと2回。それでようやく「・・・シグナム副隊長!」キャロの姿を視認できた。
「ああ。無事で何よりだ。エリオは・・・」
部屋の隅の方でリヴィア・アルピーノと共に横にされていた。武装隊のメンバーの中には医師資格を持っている者も居り、エリオとリヴィアの治療に当たってもらえることになった。しかしリヴィアはともかくとして、何故かルーテシアは顔色が悪く、涙も浮かべている状況。ここでアギトからの『シグナム、ユニゾン・アウトお願い!』という願いのため、ユニゾンを一旦解除する。
「アギト・・・!?」
「ルールー。ごめん、あたしさ、記憶が戻ったんだ。管理局の八神シグナム。コイツがあたしの本当のロードなんだ」
アギトが私を紹介するとルーテシアは「そっか。いつの日かそうなるって判ってた」と素直に受け入れた。あの子はアギトから私へと視線を移すと、「ママはどうなったの?」と訊ねた。アギトと共に居たのだから、私が准尉と戦ったことは察せられるだろう。
「本局の医務局へと転送した。優秀な技術官と医務官に対応してもらえるようにした。そう不安がらなくても良い」
「・・・良かった」
「シグナム二尉。モンディアル二士とこちらのお嬢さんの治癒を終えました。直に目を覚ますでしょう」
「了解した。感謝する」
それからすぐにエリオとリヴィアが目を覚まし、私たちは状況を簡潔だが確認し合った。ルーテシアとリヴィアは洗脳されてはおらず、准尉の命を盾にされたことで従わざるを得なかったとのことだ。私からはミッドの現状を伝える。隕石と“アグレアス”の脅威によってミッドと人類が滅亡の危機に瀕していると。
「そんな・・・!」
「ミッドチルダを道連れにした自殺なんて・・・!」
プライソン一派の属していたルーテシアとリヴィアの顔色が真っ青になる。そして私はこれより隕石の迎撃に移り、エリオとキャロは現六課の本部であるアースラへ帰艦。ルーテシアとリヴィアもアースラで保護されるよう伝えたのだが・・・。
「シグナム副隊長! 僕たちにもまだ手伝えることがあるかもしれません!」
「ヴォルテールを召喚すれば、隕石の迎撃が出来ます! それにミッドに居る以上はどこに居ても危険なのは変わりません」
エリオとキャロがアースラへの帰艦を拒み、隕石迎撃の手伝いをしたいと申し出てきた。ヴォルテールについてはデータでしか知らんが、確かにかの竜ならば迎撃も出来よう。
「では手伝ってもらおう。ルーテシアとリヴィアは――」
「待って。私にも巨竜・白天王が居る。あの子なら隕石の迎撃も簡単」
「うんうん!」
ルーテシアとリヴィアも隕石の迎撃を申し出た。その白天王とやらの話を聴けば、「私のヴォルテールと同じだ」キャロの言うように巨大な二足歩行も可能な竜であることが判った。
「でもルーちゃん、リヴィーちゃん。本当に良いの? 手伝ってもらって」
「良いも何もこのままだとミッドは滅ぶし、何より・・・」
「これまで私たちがしてきた事の償いだから」
今は1つでも多く隕石を迎撃できる戦力が欲しいのは確かだ。故に私の独断になるが「頼む!」と、2人の協力を許可した。そして私たちは“アンドレアルフス”から時間を掛けずに脱出するため、再度ユニゾンをしたアギトとの「火龍一閃!」で床に穴を開け、そこから脱出を行った。
「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手。我が元に来よ。黒き炎の大地の守護者。竜騎招来、天地轟鳴、来よ、ヴォルテール!」
フリードに跨って脱出したエリオとキャロ。キャロの詠唱によって召喚された巨大な黒き竜・ヴォルテールが咆哮を上げる。ルーテシアとリヴィアは女性隊員に背負われての脱出で、ルーテシアは簡潔に「来て、白天王!」と声を上げ、白き巨竜・白天王を召喚した。
・―・―・―・―・―・
プライソンのアジト、その居住区の最奥にあるガンマという名の、“スキュラ”シリーズの三女の私室にて、聖王教会騎士団の騎士であるクラリスが率いる隊、それに時空管理局本局は第零技術部の次女・ドゥーエ、本局内務調査部・査察課のヴェロッサが、死体を改造したサイボーグ・LASの一群と交戦していた。
「ダメだ。陸戦兵器は騎士団に殲滅食らったし、空戦兵器も局の空戦戦力に蹂躙されたし。グレムリン程度じゃ外のLASを破壊することしか出来ない」
卵型の椅子に座り、必死にプライソンの真の目的である自殺を食い止めようとするガンマ。しかしこれまでの戦闘で受けた被害の大きさに、彼女の出来ることがあまり無いことが判明したことで悲嘆に暮れていた。今の彼女に出来ることは、列車砲・“ディアボロス”の転送室にミサイルを転送させて補充することくらいだ。
『ふふ、ははは・・・ハハハハハハ! アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン! 創造主である俺からの離反! 楽しませてもらったぞ! だが裏切りは裏切りだ!』
ガンマ私室内のモニターから発せられるプライソンの非道な声。ガンマの前髪に隠れた瞳から涙が溢れ流れ出す。父と慕った男の真の目的が自殺にあることを知らされず、ずっと騙されて来たことも悲しければ、用済みだと処理されそうになっている現状も、彼女の心を軋ませていた。
『プライソン!』
『嫌だね。俺は死にたいんだ。いっちょう派手にな。お前たちを道連れにして。そういうわけで・・・先に逝っていてくれ、我が愛おしく、そして最後に弓を引いた愚かな作品たち! さらばだ! 音声認識! ペニテンツィアジテ!』
瞬間、室内に居たLASが一斉に自爆した。ガンマは「~~~~っ!?」声にならない悲鳴を上げ、爆炎と爆風によって吹き飛ばされた卵型椅子と共に宙を舞い、そして落下して「っ・・・!」背中から床に激突した。
「・・・っ!(体が・・・動かない・・・。まずい。システムとリンクしたままケーブルが外れたから・・・!)」
ケーブルを用いてのアジトの全システムと有線接続中はフルガーディアンモードと呼ばれ、タイムラグ無しに意のままにアジトの全機構や防衛戦力、アジト外の各陸戦兵器などの操作などが行える。だが、その最中はその場から大きく動けず、身体能力も通常時の3割程度しかない。FGモードを解除してケーブルを外す際にはいくつかの工程を踏まねばならず、今のように無理やりケーブルが外されるとしばらく体が上手く機能しないのだ。ちゃんと機能できるように調整するのに約1分。その間、彼女は一切の無防備となる。
――トランスファーゲート――
(誰・・・?)
黒煙の中、ガンマの目の前で誰かしらの足が止まった。黒の革靴、ズボンはスラックスではあるが、ヴェロッサの白いスラックスではなく茶色。つまりたった今まで彼女の私室に居たメンバーの中の誰でもないことを示す。その正体不明の人物は片膝立ちをした上で彼女の頭に触れてきたため、彼女は(なにを・・・?)と息を飲んだ。そしてその人物は彼女の耳に口を近付けた。
「迎えに来たんですよ、ガンマ。僕は貴女を生かしたまま拉致するように命令を受けました。ですのでこのまま貴女を転送スキルで連れ去ります。どうかご容赦を」
耳打ちで聞かされた話にガンマは、自分を拉致しようとしている目の前の人物がどこに所属しているのか、すぐに察することが出来た。そしてこのまま拉致されたら、恐らく自分はガラクタ同然にまで使い潰されるまで扱われると理解できた。
「(くっ・・・!)・・・父さん・・・たすけて・・・」
ガンマが僅かに発することが出来た声は誰にも届くことは無く、彼女は謎の人物の言う転送スキルというもので、その人物と共にこの部屋から消えた。
†††Sideアリシア†††
プライソンの本当の目的がミッドチルダを道連れに自殺することだって判った。さらにはもう用済みだってことで、自分を父親だって慕ってる娘・“スキュラ”の後始末を始めてくれちゃった。それを食い止めるべく、わたしとトリシュとアンジェの3人で、イプシロンを始末しに来たLASを撃破してく。
「お前たち如きに倒されないと、イプシロンは確信しています!」
――ISマグネティックドミニオン――
そんな中、イプシロンがスキルを発動した。途切れることを知らずに屋上まで這い上がって来るLASが一斉に屋上に這い蹲った。これってわたし達が居なくても問題ないっぽい。まぁとりあえず、両手に携える小型拳銃型デバイス・“ラッキーシューター”の銃口をLAS達に向けて、直射型射撃魔法の「ブルーバレット!」を撃ち込んで奴らの両腕をへし折っておく。
「なるほど。万が一にも磁力の拘束から抜けた場合を考えて、ですね」
トリシュが大弓型デバイス・“イゾルデ”の魔力弦に魔力矢1本を番えると、矢尻を空に向けてから「滅び運ぶは群れ成す狩り鳥!」射った。矢は10mほど空に向かった後、小さな矢尻に分裂、そして雨のように降って来てLASの両肩を撃ち抜いてった。そんな中でプライソンがもう1つの手段を講じてきた。
『音声認識! ペニテンツィアジテ!』
プライソンがそう発した直後、ドォン!って爆発音がして、付近に倒れ伏してるLASが一斉に自爆。さらに「ひゃあ!?」ビルが大きく揺れた。その振動にわたし達は立っていられずにしゃがみ込んだ。階下から爆炎と黒煙が立ち上ってくるから、這い上がって来てるLASもまた爆発したんだって判る。
「イプシロン・・・!?」
「きゅ~~~?」
どこかに頭をぶつけたみたいで、額から血を流して倒れてるイプシロンにアンジェが駆け寄った。それと同時に磁力の拘束から解放されたLAS達も起き上がって、イプシロンを抱き起したアンジェの元へ向かおうとする。わたしとトリシュで「させない!」立ちはだかって迎撃するんだけど・・・。
「さすがに数が多過ぎますね・・・!」
――皆伝・紫電一閃――
トリシュが火炎を纏った双剣形態になった“イゾルデ”を振るって、2体のLASの首を刎ね飛ばした。
「本当に・・・! アリシアさん、イプシロンをヘリに避難できませんか?」
――ハルトファーネ――
アンジェもイプシロンを庇いながら旗型デバイス・“ジークファーネ”を振り回して、硬化した魔力幕を帯状に伸ばしてLASの首、さらには両腕と両脚を一瞬で寸断してく。んでわたしは、“ラッキーシューター”2挺を使っての誘導操作弾、「ホーミングシュート!」でLASが開けた口に撃ち込んでく。
「うんっ。ヴァイス、ヘリを寄せられる?」
『うす! つうか、アリシアさん達の今居るビル、さっきから窓ガラスは割れるわ、外壁にヒビが入りまくるわで、今にも倒壊しそうなんすけど! アリシアさん達も避難した方がいいっすよ!』
言われてみれば確かに足元から振動が伝わってくる。わたし達は頷き合って、とりあえずこのビルから避難を優先することにした。アンジェが「では私がイプシロンを・・・」背負って、ヴァイスにビルの屋上の直上に来てもらう。一時でも着陸するとLASが乗り込んで来るかも知んないし。
「アンジェが先に乗って、次にトリシュ、んでわたしが殿を務める!」
「判りました!」
ハッチを開けた状態のヘリが屋上の直上に到着して、まずはアンジェがイプシロンを抱えたままジャンプしてハッチに着地。次第に振動が大きくなり始める中、わたしはトリシュが跳び易いように「邪魔ぁっ!」魔力弾で周囲のLASを吹っ飛ばして制圧する。
「アリシアさん!」
――天翔けし俊敏なる啄木鳥――
目に留まらない高速射撃魔法での援護のおかげで、トリシュに続いて「よっと!」わたしもヘリのハッチに乗り込むことが出来た。すぐにヴァイスにヘリを「出して!」もらって、屋上から離れ始めたところでビルが倒壊して、LASも瓦礫と一緒に40mの高さから落っこちた。
「にしても、これからどうします? 隕石の落下が続いてるっすよ」
格納庫内に展開されるモニターに、空から地上に向けて流れ続ける隕石が映し出される。ここ中央区画に落ちてくる隕石は、航空空母の“アンドレアルフス”が迎撃してくれてるけど、それでも対処しきれそうになさそう。
「あ! 八神部隊長たちが動くみたいっす!」
別モニターには“夜天の書”をペラペラ捲ってるはやてや、ブラスタービット4基を展開したなのは、それに“バルディッシュ”をライオットザンバー・カラミティにしたフェイトの3人が映った。
「グランセニック陸曹。近場のビルの屋上に寄って頂けますか? 私も隕石の迎撃を行います」
「了解です! アリシアさんか騎士アンジェリエのどちらかは残ってくれますか? イプシロンの護衛が1人も居ないのはまずいんで・・・」
「隕石を砕くだけの威力を持つ魔法は無いし、わたしが残るよ」
デバイスに埋め込まれた魔石の効果時間も残りわずかだし、元よりそこまで威力も無いわけで。だからわたしはヘリに残ってイプシロンの護衛を買って出た。
「私も残ります。残念ながら遠距離攻撃系の魔法は持ち合わせていないので」
アンジェもそう言う理由で隕石迎撃に不参加になった。そしてヘリは倒壊したビルから100mと離れた80階建て相当のビルの屋上にトリシュを降ろして、その近くでホバリング待機。ヘリの窓から、隕石に向かって魔力砲撃を放ち続けるトリシュや、モニターに映る砲撃連射のフェイト達を見守り続けていると・・・
「ん? ありゃあエリオとキャロじゃねぇか・・・?」
ヴァイスがそう言った。列車砲“ディアボロス”の攻略に向かったアリサ達や航空空母“アンドレアルフス”の攻略に向かったすずかとシャルとトーレの様子は、プライソンの全体通信の時にチラッとだけ見れた。だけどシグナムとエリオとキャロの様子は判らなかった。だからちょっぴり不安だったけど・・・。
「あ、ホントだ。フリードに跨ってる!」
ヘリのキャノピーから覗いてみると、飛竜フリードの鞍に座ってるエリオとキャロの姿を確認できた。他には女性武装隊員に背負ってもらってるルーテシアとリヴィアの姿もあった。あの2人をちゃんと救え出せたみたいだけど、メガーヌ准尉が居ない。
(あー、でもクララも居ないし。ひょっとして転移スキルで局か教会の系列病院に送ったかな?)
「召喚魔法陣・・・! 機動六課にも召喚士が居るんですね」
「にしては1つ多いっすね。1つはキャロのだが、もう1つは・・・」
「ルーテシアだね。意識があるみたいだけど・・・。まさか、ここでキャロと召喚バトルなんてしないよね・・・?」
――竜騎召喚――
ちょこっと不安があったけど、キャロの召喚したアルザスの守護竜・ヴォルテールと、ルーテシアが召喚したヴォルテールと同サイズの白い竜は戦うことなく、一緒に隕石の迎撃に参加してくれた。
「アルピーノ家の洗脳もちゃんと解けてるみたいだし一安心・・・」
「っすね~。・・・お、シグナム姐さん・・・! ん? なんだ、あの姿は・・・?」
「今度は何ぃ~? って、ユニゾンしてる! え、一体誰と・・・? あ、アギトじゃない!?」
シグナムの姿がこれまで見たことも無いものに変わってた。髪の色が明るい茶色になってるし、背中から2対4枚の炎の羽が展開されてる。考えられるのは融合騎とのユニゾン。でもリインは今、はやてとユニゾン中。アイリは相性的にユニゾン不可だし、今はルシルとユニゾン中だ。だとすれば残る答えは1つ。レーゼフェアに洗脳されてるかもって話のアギトだけだ。
「取り返せたんだ! というか、ルシルもひょっとしてレーゼフェアを倒したのかな!?」
隕石を振らせるためのミサイルを撃つ基地であるらしい“アグレアス”を止めるには、管制機のレーゼフェアを倒さないといけないらしくて、ルシルはそのためにアイリとユニゾンしたまま転移魔法で“アグレアス”に乗り込んだ。
「どうなんすかね。連絡がねぇってことは、まだなのかも知れないっすし・・・」
「ルシル・・・」
ルシルがレーゼフェアに勝たないと。しかも時間制限ありで。そうでないとミッドチルダが滅んじゃう。わたしはルシルの勝利を祈りながら、隕石迎撃を続けるフェイト達を見守るしか出来ない自分の非力さに歯噛みした。
「まずいですね。八神部隊長が迎撃できる隕石は、そのサイズが大気圏でかなり燃えて小型化したものだけです。これまで以上のサイズが落ちて来ると、さすがに迎撃は不可能です。さらに言えば・・・」
「魔力も有限で、いつ終わるとも知れない精神的負担で、そう長くは続けられない、だよね。でも・・・」
アンジェの話も尤もだ。いくらみんながすごい魔導師でも、その魔力や威力には限りがある。だけどキャロのヴォルテールとルーテシアの竜が居てくれる。さらにクロノ達、本局の艦隊も到着してくれたら隕石の迎撃に入ってくれるって言うし。だからそれまでなんとか凌いでくれれば、あとはルシルが“アグレアス”を止めて、それで事件は解決だ。
「今は信じるしかない、っすか」
「絶対大丈夫って信じるに値する仲間たちがいるって、結構幸せな事だよ、ヴァイスぅ~?」
「違いないっす」
「いい言葉です。胸にしっかりと刻んでおきますね♪」
アンジェにそう言われたら急に恥ずかしくなった。でも事実だし、わたしは「えっへん」胸を張った。みんなが大気圏の摩擦で燃えて小さくなった隕石を順調に迎撃してたんだけど・・・。
『こちら本局・観測室です! 現在、ミッドへ向けて直径400m級の隕石が5つ向かっています!』
ミッドの各戦力に全体通信で入った報告に、わたしの抱いてたこれまでの希望が一気に絶望に変わった。100m級の隕石の直撃で一体どれだけの被害が出るか判んないのに、400m級が同時に5つとか。
『艦隊の到着時刻と隕石の到着予測時間は?』
『艦隊到着時間まで残り6分。隕石の1つ目の到着予測時間まで3分、2つ目が4分、3つ目と4つ目が5分となっています』
「間に合わない・・・ではないですか・・・!」
はやてと観測室の通信士の通信にアンジェや、「んな馬鹿なことが・・・!」ってヴァイスが頭を抱えた。わたしもその場に崩れ落ちた。艦隊が間に合う前にミッドが隕石で滅んじゃう。しかも小型の隕石は今もなお落下して来てる。
『ですがご安心ください! たった今、本局よりトップエースが出撃しました! あの方なら必ずこの危機をどうにかしてくれます!』
通信士の話に出て来たトップエースという単語に、ヴァイスは「おお!」ってグッと握り拳を作って、アンジェは「噂に聞くあの・・・!」目を爛々と輝かせた。でもわたしは複雑な思いだった。親友の――ルシルの敵はわたし達チーム海鳴の敵だ。でもこの状況をひっくり返せるのはきっと、リアンシェルトだけ・・・。
『こちら本局・総務部、リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサです。これより隕石の迎撃を行います。私の魔法の属性上、少々気温が10度ほど下がりますので、風邪をひかれぬようにご注意を』
突然空に現れたリアンシェルト。長いクロークと後ろ髪を風に靡かせて、『では始めます』そう一言。足元にミッドチルダ魔法陣を1枚と展開して、魔力を放出した。遠く離れたこの場所にすらビリビリと感じられる強大過ぎな魔力に、「すげぇ・・・」ヴァイスが感嘆の声を漏らした。
――蒼天に座して輝く氷神十二冠――
ミッド式でもベルカ式でもない、見たことのないデザインの超巨大な魔法陣?がミッドの空を覆い尽くした。魔法陣を通してるからか太陽の光が綺麗な青色になってて幻想的だ。巨大隕石の先駆けな小型隕石が魔法陣を通過すると、一瞬にして凍結されて粉々に砕け続ける。その様を見て、地上から歓声が上がり始めたのが判る。
「マジですげぇ人だな、リアンシェルト少将!」
「これでこれより来る隕石も問題なさそうです!」
大喜びするヴァイスとアンジェとは違ってわたしは「ルシル・・・。本当に勝てるの? あんな化け物に・・・」不安でいっぱいだった。
後書き
リアンシェルト降臨回です。惑星1つの気候を冬だけにするようなチートキャラのおかげで、隕石によるミッド壊滅は100%回避となりました。
そしてもう1つ重大なイベント。そう。アギトおかえりなさい回です! 今後に詳しい説明を入れるかどうか判らないので、ここで出しておきます。アギトが記憶を取り戻せたのは、シグナムとのユニゾンがトリガーとなったからです。何故そうなったのかだけは、本編で出す予定です。はい。
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