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風魔の小次郎 風魔血風録

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80部分:第八話 聖剣伝説その三


第八話 聖剣伝説その三

「木刀は幾らあるといってもだ」
「んっ、蘭子か」
 その彼のところに蘭子が来た。彼女はすぐに声をかけてきたのだった。
「幾ら何でも無茶苦茶だろう。石を木刀で割れるものか」
「やってみなくちゃわからねえだろ。御前の家には済まねえがな」
「木刀は壊れるものだ」
 蘭子はそれはいいとした。
「それに構うことはない」
「随分気前がいいな」
「幾らでもあるとも言ったな」
「ああ」
「そういうことだ。それはいい」
「そうかよ」
「しかしだ」
 それでも言うのである。ここが蘭子だった。
「本気で馬鹿なのか?石を木刀で割れる筈がないだろうが」
「それだけのものがなけりゃ駄目なんだよ」
 蘭子の言葉を聞き入れようともしない。最初からないとも言えるが。
「あいつに勝つにはな」
「飛鳥武蔵か」
「壬生もいたよな」
「ああ」
 やはりこの二人だった。今の小次郎の敵は。
「あの二人、特に武蔵の奴はな。尋常な技じゃ勝てはしねえ」
「今最強の傭兵だ」
 蘭子は武蔵を評してこう言った。
「剣技だけではない。その力もな」
「力もか」
「あの男に勝てた者はいない」
 こうまで言い切る。
「八将軍ですらな。一人一人で太刀打ちできるかどうか」
「へっ、あいつ等は所詮雑魚ばかりじゃねえか」
「連中が雑魚かどうかは御前もわかっていると思うが」
「・・・・・・まあな」
 この言葉は小次郎といえども否定できなかった。真顔になった口を引き締めさせた。
「風魔九忍っていえば俺達風魔の最強の存在だ」
「うむ」
「それが一度に八人も出るなんて今までなかったことだ。しかも」
「しかも?」
「項羽と林彪が負傷してあいつ等は全員生きていてもうすぐ戻って来るんだったよな」
「そうだな、そろそろだ」
 蘭子もその時期を見計っていたのだ。関わっている者として。
「来るぞ。間も無くな」
「有り得ねえんだよ。どの勝利も紙一重だしな」
「勝てはしても、か」
「陽炎の奴には十蔵と雷炎がやられたことがある」
 風魔の兄弟達である。
「あの二人だってよ、九忍程じゃねえがかなりのものなんだよ。それがよ」
「陽炎は夜叉八将軍の参謀だ」
「そうなのかよ」
「代々夜叉において名を馳せた忍を出している名門の嫡子だ。その実力も頭脳もまたかなりのものだ」
 蘭子は陽炎について語る。彼についてかなりの知識があるようだ。
「夜叉姫の知恵袋でもある。それだけにだ」
「あの二人でも敵わなかったってわけかよ」
「壬生にしろだ。あの時は勝てたが」
「次はわからないってわけか」
「先の勝負がそうだったな」
「ああ、強い」
 そのことを素直に認めるしかなかった。
「剣を交える度に強くなっている」
「夜叉で最高の剣の使い手と言われるだけはある。それを覚えておけ」
「じゃあやっぱりよ。俺はもっともっと強くなって」
「あの二人を倒すつもりか」
 意気込む小次郎に対して問うた。すると小次郎はすぐに言葉を返してきた。
「そうだよ。それでいいだろ?」
「好きにしろ。ただしだ」
「ただし?」
「早く食べてしまえ」
 こう告げて踵を返すのだった。
「いいな。鍛錬は何時でもできるが朝食はそうはいかない」
「まあそうだな」
「わかったら食べろ。今日は御前の大好きな納豆を用意しておいた」
「納豆か」
「それと若布と豆腐の味噌汁に玉子焼き、後は漬物だ」
 日本の朝の定番だ。
「いつも通り好きなだけ食べていいからな」
「悪いな、何かいつも作ってもらって」
「料理は好きだ」
 小次郎に背を向けて前を歩きながら答える。
「昔からな」
「そうなのか」
「家事も任せておけ」
 こうも言う。
「一応は何でもできる」
「大和撫子なんだな、実は」
「実はか」
「ああ、外見だけ見たらな」
 そうは見えないというのだ。
「全然な」
「その言葉は余計だ」
 しかしこうは言っても今回は不機嫌そうな顔ではなかった。意外にも。
 
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