風魔の小次郎 風魔血風録
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8部分:第一話 小次郎出陣その八
第一話 小次郎出陣その八
「そうだ」
「だったらどうやって出るんだよ」
それを蘭子に対して問う。表情は変わらない。
「流石に出られないだろ」
「御前は忍だな」
それをまた言うのだった。
「だったら何だってんだよ」
「それだ」
小次郎の反論を半分流してまた言う。
「変装だ。いいな」
「変装!?」
「そうだ。丁度いい具合に一人レギュラーが腹痛で出られなくなった」
「また随分と都合がいいな」
それを聞いて突っ込みを入れる。しかしそれが通用する相手ではなかった。蘭子は手強かった。
「とにかく。わかったな」
「変装かよ」
「そうだ。更衣室は用意しておいた」
つまり既に何もかも用意しているのだった。蘭子は最初からそのつもりだったのだ。
「着替えろ。今すぐな」
「わかったよ。じゃあな」
こうして小次郎は用意に入った。そうして暫くして。更衣室に蘭子が姫子と一緒に入ると。そこにいたのは。
「・・・・・・酷いものだな」
その小次郎を見た蘭子の最初の言葉だった。
「こうして見てみると」
「おい何だよその言い方」
呆れ果てた口調の蘭子に対して言い返す。見れば彼と姫子は上が赤、下が白のサッカーのユニフォームである。それを着ているのであった。しかしだった。
「俺の変装に文句あるのかよ」
「なければこんなこと言うものか」
蘭子の言葉はここでもきつい。
「そもそもだ。女装になっていないぞ」
「そうか?」
「それではまるで」
そうして言う。
「仮装だ」
「仮装ってな、おい」
「全く。自分の顔を見てみろ」
今度の言葉はこうであった。
「自分の顔を。どんな顔をしていると思う」
「超いけてる」
彼の主観だった。あくまでそれだけだ。
「どっからどう見ても美少女じゃねえか」
「何処がだ」
見れば小次郎の顔はそのまま化粧をしただけだ。それで頭の右の方にちょんまげを作っている。それだけで女装していると主張しているのだ。図々しいと言えばかなり図々しい。
「全く。それで出るつもりか」
「ああ、そうだぜ」
悪びれずに蘭子に答える。
「悪いのかよ」
「全く。だがいい」
これ以上小次郎と話す気にはなれなかった。それには理由があった。
「時間がない。早く行け」
「わかったよ。じゃあな」
「あとだ。くれぐれもだ」
「今度は何だよ」
「目立つなよ」
それを釘刺すのであった。きつい顔で。
「わかっていると思えないがな」
「何だよ、全然信用していないんだな」
「だったら信用されるようなことをしろ」
さらにきついことを言う。
「全く。最初から目立つことばかりして。私の気が鎮まらん」
「御前がかよ」
「そうだ。だから試合だけは大人しくしろ」
それをまた言う。
「目立たないようにな。活躍しろ」
「わかったよ。それじゃあ行くぜ」
「はい。それでは小次郎さん」
それまで黙っていた姫子がにこりと笑って小次郎に声をかけてきた。そうして彼に告げる。
「行きましょう」
「ああ。もう完全完璧に頼りにして下さい」
小次郎は姫子に声をかけられてさらに上機嫌で話を進める。
「この小次郎、姫様の為なら喜んで全力で」
「御願いしますね。可愛いですよ」
「ほら見ろ」
姫子に可愛いと言われて得意げに蘭子に顔を向けて言う。
「可愛いって言ってくれるじゃないか。やっぱり姫様は違うね」
「全く」
何だかんだで試合に向かう。こうして試合がはじまった。グラウンドには誠士館の黄色いユニフォームがある。その中で三人女とは思えない背の高い連中がいた。
「来たな、白凰」
「ああ」
外見は女だが。それでもその気配と声は男のものであった。
「ここで奴等に勝ち」
「また我が誠子館の勝利を手にするのだ」
「壬生はいるな」
今度は壬生の名前が出た。
「ああ、見ろ」
三人の中の一人が観客席を立つ。見れば誠士館の応援団の隣に二人の超長ランの男が立っている。発している気配がただものではない。
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