風魔の小次郎 風魔血風録
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40部分:第四話 白い羽根の男その九
第四話 白い羽根の男その九
「何だよ、また御前かよ」
「今日こそは御前を倒す」
その険しい顔でまた小次郎に言う。
「覚悟はいいな」
「何だよ、また御前かよ」
木刀を構える壬生に対して呆れた顔で言葉を返す。
「だから御前じゃなくて武蔵に用があるって言ってるだろ」
「戯言を」
しかし壬生はその言葉を聞こうとはしない。
「ここで貴様を・・・・・・!」
「どうしてもやるっていうのかよ」
「そうだ」
構えたまま小次郎に告げてきた。
「さあ、その剣を構えろ。私は剣を持たない者には向かわない」
「ちっ、どうしてもっていうのならよ」
小次郎は舌打ちした。それからその木刀を肩から構えるのだった。
「俺だってな。逃げはしねえぜ」
「参る!」
壬生は早速前に出た。素早く間合いを詰め突きを繰り出す。それは正確に小次郎を狙っていた。
「相変わらず素早い動きだな、おい」
「知っている筈だ、私の剣技は」
壬生は言う。血走った目で。
「それで今回こそは貴様を!」
「悪いけれどな。俺は他にやることがあるんだよ」
こう言葉を返しながら壬生の攻撃を右に左にかわす。そして。
「悪いが一気に決めさせてもらうぜ」
「むっ!?」
跳んだ。木に横に立つ。
「さあ、来な」
そのまま木のへりに立ち壬生を見上げる形で見据えている。
「来れるだろ、そっから」
「当然だ。なら!」
「これで決めてやる!」
壬生は跳び小次郎が迎え撃つ。二人の攻撃が打ち合うかと思われた。だがその時だった。
「うっ!」
「ぐうっ!」
壬生の胸が、小次郎の左脚がそれぞれ痛んだ。二人はその痛みに耐えられず地面に落ちてしまった。蹲る二人に対して声がかかった。
「それまで!」
「武蔵!」
「どうしてここに」
「壬生、今は戻れ」
「戻れだと」
「そうだ」
武蔵の声は壬生にこう告げてきた。
「その傷ではこれ以上の作戦行動は無理だ」
「作戦行動だと、馬鹿な」
しかし壬生はそれを否定するのだった。
「私は勝手に出た。御前の指示なくな」
「何、それじゃあ」
小次郎はそれを聞いてわかった。壬生は作戦ではなく己の独断でここに来たのだ。忍としてそれは許されることではない。小次郎が言えた義理ではないが。
「御前は」
「夜叉の掟に従い。私を斬れ」
「これは俺の過ちだ」
「何っ!?」
今の武蔵の言葉には壬生も小次郎も思わず声をあげた。
「どういうことだ、それは」
「伝え忘れていたのだ。御前は白虎と紫炎のサポートとして出陣してもらう筈だった」
「初耳だぞ、それは」
「それも当然だ」
しかし武蔵はこうも壬生に告げるのだった。
「俺が御前にそれを伝える前に御前は出陣したのだからな」
「・・・・・・私に情けをかけるのか」
「そんな義理はないと思うが」
武蔵はそれは口では否定してみせた。
「一介の傭兵である俺が夜叉の御前に対してな。違うか」
「・・・・・・くっ」
「わかったら撤退するのだ」
武蔵はまた壬生に告げる。
「いいな」
「・・・・・・わかった」
壬生も遂に武蔵のその言葉に頷くのだった。こうまで言われては仕方がなかった。
「小次郎、この勝負預けておく」
「おい、待ちやがれ!」
「いや、待て小次郎」
「武蔵、いやがるのか!」
小次郎は立ち上がって周囲を見回す。そのうえで姿が見えない武蔵に対して問う。
「いるんだったら姿を現わせ!俺と勝負しろ!」
「今はその時ではない。御前も怪我をしているな」
「それがどうした!」
「この飛鳥武蔵傷を負っている者、武器を持たぬ者には剣を向けぬ」
「ふざけるな、俺にとっちゃこんなものは何でもねえんだよ!」
しかし小次郎はそれでも言う。相変わらずの調子だった。
「わかったら出て来い!今度こそ御前の飛龍覇皇剣を打ち破ってやるからよ!」
「それはまた今度だ。ではな」
「くっ、待ちやがれ!・・・・・・つっ」
ここでまた左脚が痛む。その痛みに倒れるその間に武蔵の気配が消え去った。壬生ももう撤退していた。彼等と入れ替わる形で今度は麗羅が小次郎のところにやって来た。
「小次郎君、やっぱりこんなところに」
「麗羅かよ。御前出陣したんじゃなかったのかよ」
「だから今ここにいるんだよ」
小次郎を助け起こしながら答える。そのうえでまた彼に声をかける。
「歩ける?大丈夫」
「大丈夫に決まってるだろ」
小次郎は助け起こされながらその麗羅に応える。
「ちっ、余計なことしやがって」
「余計なこと?」
「そうだよ。このままでも俺は武蔵の野郎を追えるんだよ」
こう麗羅に言う。
「それをよ。・・・・・・全く」
「・・・・・・小次郎君」
今の言葉を聞いた麗羅の声の調子が変わった。急に険しいものになる。
「いい加減にしなよ」
「何だよ、一体」
「皆どうして小次郎君にあれこれ言うのかわかっているのかい?」
「だからどうしたってんだよ」
「竜魔さんも項羽さんも本気で小次郎君を心配しているんだよ」
「兄ちゃん達がかよ。まさか」
小次郎には実感のないことだった。言われても眉を顰めさせるばかりだ。
「そんなわけが」
「わからないのならわからないままでいいよ」
麗羅は一旦はこう言って突き放した。
「けれどそれでも。皆小次郎君を心配して。僕だって」
「麗羅・・・・・・」
「一人で歩けるんだったよね」
「ああ、それはな」
一応は、といった調子で麗羅に答える。
「屋敷は帰れるさ。悪いな」
「いいよ、これは」
「それで麗羅、御前はこれからどうするんだ?」
「項羽さんの助っ人に行くよ」
こう小次郎に答える。
「相手は二人だからね」
「そうか、頑張れよ」
「うん」
小次郎の言葉に対して頷く。
「二対二だし項羽さんもいるし」
「いけるんだな」
「だから。これでね」
「ああ、頑張って来いよ」
「小次郎君も。今度は寄り道なんかしないで帰ってよね」
「わかったさ。もうな」
小次郎は麗羅に言葉を返した。こうして二人は別れそれぞれの道に入った。その頃弓道場では白虎が白凰の生徒達に対して姿を消したうえで催眠術を仕掛けていた。
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