風魔の小次郎 風魔血風録
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39部分:第四話 白い羽根の男その八
第四話 白い羽根の男その八
「女の子ですし。それは」
「いやいや、姫様」
項羽が笑って姫子に声をかける。
「はい?」
「蘭子さんは男まさりなのでそうしたことは言わないで欲しいのですよ」
「そうでしたか。すいません」
「いえ、別に」
「それで姫様」
項羽がまた姫子に声をかける。
「そのお弁当ですけれど」
「はい、どうぞ」
あらためて項羽にその弁当を差し出す。
「皆さんでどうぞ」
「有り難うございます」
「今日の昼はうどんを作っていたのだがな」
「それも頂きます」
蘭子にも応える。
「何しろ皆育ち盛りですから。幾らでも食べられます」
「まあ、頼もしい」
姫子は笑顔でそれを聞いている。そうして蘭子に顔を戻すのだった。
「では蘭子さん」
「はい。学校にですね」
「弓道の試合と次の絵画のことで」
「わかりました。それでは」
「小次郎さん」
学校に向かうところで小次郎に振り向く。
「修行頑張って下さいね」
「むぐうっ、うんうん」
こう言われると嬉しいのか目を喜ばせて頷く。二人はそのまま門を出て学校に向かう。すると項羽がまた小次郎に対して言うのだった。
「じゃあ小次郎、俺も行くが」
ここで楽しげに弁当を彼の顔の前にやって告げる。
「これは皆で有り難く頂いておくからな。その修行は断食だしな」
「ぬうーーーーーーーーっ!」
怒ってもどうにもならない。猿轡さえ外れない。項羽はその間に門を出る。ここで下手に動いた小次郎を弓矢が正面から襲うがそれは首を右に捻って何とかかわした。しかしこの時に猿轡が切れしかも縄が緩んだのだった。
「しめた」
口が自由になってやっと笑えた。そうして。彼は動くのだった。
項羽は門を出てそのまま外に向かう。外は山道になっていて竹林が前にある。その門の入り口のところを麗羅が箒で掃除していた。項羽はその麗羅に声をかける。
「じゃあ先に行くな」
「御願いします」
「御前は後から行くんだったな」
「この掃除が終わってからのつもりです」
「もうすぐ終わりそうか?」
「劉鵬さんがいませんし」
笑って言ってきた。
「もうこれで終わりかと」
「あいつのチェックは厳しいからな」
劉鵬の名が出て来て思わず笑う項羽だった。
「まああいつが一番掃除とかは頑張るからな。何も言えないな」
「そうなんですよね。そこは」
「まあ掃除はもうすぐ終わるんだな」
「はい」
また項羽の言葉に頷く。
「ここ掃いたらもう」
「じゃあこれを頼むな」
弁当を麗羅に差し出す。
「皆で食べてくれ」
「あっ、どうも」
「ただ。姫様の手作りだからな」
「ということは」
「小次郎に注意しておけよ」
ここでは笑っていた。
「あいつが全部食べてしまいかねかいからな」
「わかりました。じゃあ」
「後は頼むな」
「・・・・・・わかりました」
今度は真剣な顔になる。そしてまた言葉を交える。
「白虎と紫炎だ。かなり手強いぞ」
「そうですね。僕もすぐに向かいますから」
「ああ。まだ小龍も来ていない」
そのことも言う。
「今ここで一人も欠けるわけにはいかないからな」
「ええ」
「じゃあな。そういうことでな」
ここまで言うとそのまま竹林に向かう。麗羅がその彼に声をかけた。
「あっ、項羽さん」
「何だ?」
「できるだけ早く戻りましょうね」
今度の言葉はこれだった。
「さもないと小次郎君が全部食べちゃいますよ」
「そうだな。そうしよう」
「はい」
こうして項羽は出陣した。それを見届けた麗羅も掃除を終え箒となおし弁当を持って小次郎のところに向かう。しかしそこにあるのは解かれて下に転がる縄だけだった。
「小次郎君・・・・・・」
麗羅はその縄を見て顔を曇らせる。それと共に弁当をなおし。すぐに紅い炎の中に消えて何処かへと向かうのだった。
小次郎は白凰の校舎の中にいた。周りには木々がありアスファルトもその周りも暗い。空が曇っているのだ。
小次郎はその中を進んでいる。右手の木刀を肩に担ぎ周囲を見回している。
「弓道場って何処なんだよ」
「そこに辿り着くことはない」
「んっ!?」
前から声がした。そこにいたのは壬生だった。彼は険しい顔で小次郎を見据えている。
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