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風魔の小次郎 風魔血風録

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37部分:第四話 白い羽根の男その六


第四話 白い羽根の男その六

 夜叉姫は己の部屋でまたチェスに興じていた。駒を置いた時に声がした。
「チェックメイトですな」
「それが何か」
 その声に応えて前を見る。するとそこには黒獅子、闇鬼、雷電の三人が控えていた。
「貴方達を呼んだ憶えはありませんが」
「姫様、申し上げたいことがあり参上致しました」
 黒獅子が畏まって夜叉姫に告げる。
「申し上げたいこと?」
「はい、指揮官の件です」
 彼が言うのはそれであった。
「私もです」
「同じく」
 闇鬼も雷電も黒獅子と同じであった。
「我が夜叉一族の中で八将軍を動かせるのは上杉家の者だけ」
「違うでしょうか」
「それが何か」
 夜叉姫はチェスから手を離したうえで彼等に問う。
「ですからこの場合は壬生が指揮を執るもの」
「武蔵の指揮官は」
「駄目だというのですね」
「そうです」
 三人は一斉に夜叉姫に告げた。
「姫様、申し上げます」
 闇鬼が言う。
「武蔵はおそらく夜叉の乗っ取りを企てています」
「我等を統括する地区から外し。そのうえで」
 雷電も続く。
「この夜叉を」
「一つ言っておくことがあります」
 夜叉姫は彼等を一瞥してから言った。氷の如き冷たく威圧感のある声で。
「何をでしょうか」
「八将軍といえどその地位は同じ」
 まずはそれであった。
「全て私の下に対等の筈です」
「それはその通りです」
「では指揮官は上杉家の者だけとは限りません」
 夜叉姫が言うのはそこだった。
「壬生でなくとも私が任命したからには」
「ですが姫様」
「武蔵は」
 三人はそれでも夜叉姫に言う。
「この夜叉を乗っ取り」
「己こそが」
「三人揃ってそんな下らないことを話しているのか」
「むっ」
「武蔵」
 武蔵が部屋に入って来た。彼等は一斉に武蔵に顔を向けそれから彼を睨みつけた。
「来たか」
「貴様、どの面下げて」
「俺がそんなことを考えていると思っているのだな」
「違うか?」
「何ならその身体に聞いてやろうか」
 黒獅子と雷電が前に出る。闇鬼も身構える。
「容赦はしないぞ」
「今ここで姫様の御前で貴様を」
「貴様等」
 武蔵もまた袋に手をかける。しかしここで夜叉姫の声がした。
「お止めなさい」
「姫様っ」
「ここで争って何になるというのです」
 それが夜叉姫の言葉だった。
「ですが武蔵は」
「その真意は」
「前にも言った筈」
 言葉が強く硬いものになっていた。何者も許さない言葉だ。
「武蔵を指揮官にしたのは私です」
「うっ・・・・・・」
 やはり夜叉の人間だ。この言葉には弱かった。
「そして武蔵の言葉は私の言葉」
「はい、それは」
「確かに」
「それでは問題はない筈です。武蔵の言葉に従うことです」
「・・・・・・わかりました」
 憮然としながらもその言葉を受けるのだった。受けざるを得なかった。
 
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