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風魔の小次郎 風魔血風録

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36部分:第四話 白い羽根の男その五


第四話 白い羽根の男その五

「くっ・・・・・・」
「普段の御前なら今のは楽に左にかわして反撃を入れていたな」
「油断していただけだ」
「その油断だ」
 武蔵はそこを指摘する。
「油断が命取りとなる。傷に焦りがそれを呼んでいる」
「それは」
「御前の出陣の時はある」
 武蔵はそれを壬生に強い言葉で告げた。
「その時までに傷を癒しておくのだ。それに」
「それ。何だ?」
「もう白虎と紫炎が出陣した」
「ほう、あの二人か」
「そうだ」
 今度は陽炎に答えた。
「もう伝えておいた」
「その人選はいい」
 陽炎はそれは認めた。
「しかし。今回もこの陽炎に話はしていないな」
「それがどうかしたのか」
「この陽炎は八将軍、いや夜叉全体の参謀ぞ」
 それを強調するのだった。
「話もなしに決めるとは。姫様直々に指名された指揮官といえど」
「指揮官は俺だ」
 横目で剣呑な光を向ける陽炎に背を向けて答える。
「それだけだ」
「武蔵。あまり増長するのはよくないとだけ言っておこう」
「そうか」
「そういうことだ。貴様が傭兵だということを忘れるなよ」
「憶えておこう」
 武蔵はこう一言言うと道場を後にした。陽炎はその武蔵の背を見つつ今度は壬生に対して言うのだった。
「本来ならば上杉様の末息子であり姫様の弟である御前が指揮官なのだが」
「それは言うな」
 壬生は陽炎のその言葉を退けた。
「姉上、いや姫様の決められたことだ」
「だからいいのか」
「夜叉の掟を忘れたか」
 壬生の言葉が強いものになった。
「我等夜叉は姫様の御命令には絶対に従わなければならない。そのことを」
「・・・・・・わかっている」
 陽炎はその顔を忌々しげなものに変えた。その顔で壬生に答える。
「俺もまた夜叉の一員だからな」
「ではこの話はこれで終わりだ」
 壬生は話を終わらせにかかった。
「それでいいな、陽炎よ」
「・・・・・・わかった」
「それでだ」
 ここで壬生は話を変えてきた。
「どうした?」
「不知火はどうなったのだ」
 不知火のことを気遣って彼にそのことを問うた。
「怪我は大丈夫なのか」
「とりあえずはな」
 こう答えを返した。
「大丈夫だ。暫くしたら戦線に復帰できる」
「そうか。それは何よりだ」
「しかし。あの不知火が敗れるとはな」
 これは陽炎にとっても思わぬ出来事だったのだ。
「風魔の林彪。噂以上だ」
「あの男は風魔一の剣の使い手だ」
「あの不知火の体術を超えるとは」
「だったらその林彪を俺が倒してやろうか?」
 ここで妖水が話に入って来た。
「切り刻んでやってな」
「妖水」
「武蔵が命令を出したらそれでいいぜ」
「武蔵が指示を出し続けてもいいのか」
 陽炎は妖水がそれでもいいと言ったのを聞いてまた顔を顰めさせる。
「貴様、それでも」
「陽炎っ」
 また壬生が彼を咎める。しかし妖水はここでまた言うのだった。
「俺は別に権力争いとか指揮官とかは興味ないんだよ」
「どういうことだ、それは」
「夜叉姫様がおられ」
 やはり夜叉としてこれは絶対だった。
「それで闘えればそれで満足なんだよ」
「ふん、それだけしかないのか貴様は」
「少なくとも貴様みたいに参謀の座にこだわるつもりはないさ」
「何っ、言わせておけば」
「それにだ。陽炎」
 激昂しかけ木刀を強く握った陽炎にまた言う。
「貴様もうかうかしているとやられるぞ」
「むっ」
「あの不知火がやられたってことは。よく考えるんだな」
「それはわかっている」
 陽炎とてプライドがある。それがこう言わせていた。
「この陽炎の目を甘く見るな」
「だといいがな。それにしても」
 ここで陽炎から視線を離し道場の天井を見上げる。そのうえでヨーヨーを右手で弄びながら呟くのだった。
「退屈だねえ。どうにも」
「貴様の退屈なぞ知るものか」
 陽炎はこう言い捨てると道場を後にした。そのうえで何処かへと向かうのだった。
 
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