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風魔の小次郎 風魔血風録

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130部分:第十二話 聖剣の真実その四


第十二話 聖剣の真実その四

「それにだ」
「それに?」
「今は我等の戦力をこの本陣に集めておくべきだ」
「制圧した八つの地域はどうなる?」
「そう、それだ」
 不知火と雷電が指摘したのはそこだった。
「今は我等の不在でその支配が揺らいでいるが」
「その地域を放棄しかねないことになるがいいのか?」
「放棄すべきだな」
 陽炎の今度の言葉には誰もが息を飲んだ。
「ここはな」
「貴様、何を考えている」
 妖水もこれには陽炎に問い詰めた。八将軍の中で最も彼と付き合いの深い彼でもだ。
「我等が苦労して制圧した地域を放棄するなぞ。一体」
「そうだ。関東、いやこの全国の忍」
 壬生も口を開いて陽炎を問い詰める。
「全てを支配下に収めて忍の世界に君臨するという我等の望み、忘れたわけではあるまい」
「壬生。俺も夜叉の者だ」
 陽炎はその目に強い光を含ませて壬生に答えた。
「忘れる筈があるまい。それは」
「ではどうしてその様なことを言うのだ」
「そうです。陽炎よ」
 夜叉姫もまた彼に問うてきた。
「八将軍の中でも随一の頭脳を持つ貴方がそう言うとは。どういうことですか」
「姫様、今は戦力を分散させることも拡大させることもあまりにも危険だからです」
 頭を垂れた後で主に対して告げてきた。
「ですから。ここは」
「この誠士館にまで戦力を退かせるのですか」
「その通りです。さもなければ滅びるのは我々です」
「滅びるだと」
「我等がか?」
「そうだ。今各地の忍達が壊滅していっているのは聞いているな」
 右手で扇を使いつつ同志達に問う。
「そのことは」
「ああ、それはな」
「我等の耳にも入っていた」
 他の八将軍達もそれは知っていたのだった。
「何者がしたかはわからないがな」
「それもまた関係しているのか」
「その壊滅させている者達がわかったのだ」
 これまで以上に陽炎の顔が強張ったものになっていた。顔も俯き加減になっている。
「恐ろしい者達がな」
「何者だ、その連中は」
 武蔵が彼に問うた。
「各地の忍を壊滅させているその連中は」
「華悪崇」
「華悪崇!?」
「何だそれは」
 部屋にいる誰もが眉を顰めさせる。誰もが聞いたことのない名前だったのだ。
「忍ではないな」
「その様な忍軍は聞いたことがないぞ」
「その詳しい出自や忍術については俺も知らぬ」
 陽炎もそこまでは知らないようだった。
「しかしだ」
「しかし?」
「その者達が各地の忍を襲撃し壊滅させているのは事実だ」
「そうなのか」
「そう、そしてだ」
 彼はさらに同志達に語る。
「奴等は銀色の髪と目を持っている」
「銀色の!?」
「では近頃周囲をうろついている連中は」
「そう、その華悪崇だ」
 陽炎は今このことを同志達に語ったのだった。
「だからだ。今は制圧地域を全て放棄してでも奴等に備えるべきなのだ」
「そうだったのか」
「それで同志達を全員この本陣に集めるというのか」
「姫様」
 陽炎はそのことを同志達に話し終えるとあらためて夜叉姫に顔を向けた。そのうえでまた彼女に対して問うのであった。
「如何でしょうか、それは」
「我等の望みは大きく後退することになります」
 夜叉姫はまずは表情を変えずにこう述べた。
「それはその通りです」
「ですが華悪崇の戦力がわからず彼等が各地の忍を滅ぼしている以上」
「止むを得ないですか」
「まずは風魔です」
 陽炎はこうも夜叉姫に進言する。
「華悪崇の相手をするのはまずは奴等を倒してからにしましょう」
「姉上」
 壬生も怪訝な顔で姉に対して言ってきた。
「陽炎は嘘は言いません。ですからここは」
「そうですね。八将軍よ」
 ここで夜叉姫は他の八将軍達の言葉も聞くことにしたのであった。
「貴方達はどう思いますか」
「はっ、それは」
「やはりここは」
 そして八将軍達もまた彼女の言葉に応えて。言うのであった。
「退くべきと存じます」
「それぞれの地域への統率も弱まっていますし」
 これは今彼等がこの誠士館に集まっていることも大きな要因である。
「その様な者達が姿を現わしているのならば」
「やはりここは一時的にしろ」
「撤退すべきかと」
 不知火、雷電、妖水、白虎、紫炎、黒獅子、闇鬼の意見も一致したのであった。
「そうですか。貴方達もまた陽炎と同じ考えですか」
「では姉上、やはりここは」
「待ちなさい。武蔵」
 慎重に慎重を重ねていた。今度は武蔵に対して問うのであった。
「貴方はどう考えていますか」
「華悪崇については私も初耳です」
 彼ですらその存在は全く知らないのであった。
「ですがその戦闘力はかなりのものなのは間違いありません。彼等と風魔両方を一度に相手にするのはあまりにも危険です」
「では貴方も」
「そうです。ここは戦力を本陣に集結させましょう」
 冷静に戦局を見ての判断でもあった。
「陽炎の意見を支持します」
「礼は言わぬぞ」
 陽炎は武蔵の言葉を聞いても横目で彼を見て右手の扇を使うだけであった。
 
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