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風魔の小次郎 風魔血風録

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13部分:第二話 夜叉八将軍その一


第二話 夜叉八将軍その一

                      夜叉八将軍
 誠士館の夜叉姫の部屋。そこに今八人の男達が集結していた。いずれも超長ランに身を包んでいる。
「陽炎」
 黒い髪を中央で分け波立たせた中性的な顔立ちの男だ。その右手には多くの龍が描かれた白い扇子がある。
「妖水」
 赤と黄色に髪の毛を染めた男だ。両手にヨーヨーを持っている。
「黒獅子」
 黄金色の髪に彫の深いふてぶてしさを感じさせる顔の大男だ。
「闇鬼」
 目を閉じた長い髪の男だ。
「雷電」
 髪を短く刈りその両手に黒い皮の手袋をしている。
「白虎」
 長い髪をした鋭い目の男だ。
「紫炎」
 紫の長い髪の男である。左手にライターを持っている。
「不知火」
 オレンジの髪をした鋭い顔の男である。手にはまるで中国の方天戟を思わせる得物がある。
「夜叉八将軍、全員揃いました」
「御苦労」
 夜叉姫はまずは集まった彼等に対して労いの言葉をかけるのだった。
「はい。しかし武蔵」
 陽炎が扇子を扇がせながらその蛇に似た目を武蔵に向けて問うていた。
「また我等を呼ぶとは。何の考えがあるのだ」
「そうだな」
 闇鬼もそれを問う。目を閉じたまま。
「しかも全員をだ。風魔が白凰学園に入ったのは聞いているが」
「所詮一人ではないか」
 紫炎は言う。
「何をそんなに恐れているのだ」
「壬生が敗れたのだ」
「何っ!?」
「壬生が!?」
 八将軍は今の武蔵の言葉を聞いて一斉に驚いた声をあげた。
「馬鹿な、あの壬生が」
「敗れたというのか」
「そうだ」
 それに応えてか部屋に一人に男が入って来た。見れば苦悶に顔を歪め歩くのがやっとという有様だ。
「壬生!」
「まさか御前程の男が」
「見ての通りだ。この様だ」
 自嘲めかした言葉を彼等に返す壬生だった。
「風魔の小次郎にな。敗れた」
「小次郎!?知らんぞ」
 黒獅子はその名を聞いて顔を顰めさせた。
「誰だ、それは」
「風魔の忍の一人だ」
 武蔵が黒獅子に答える。
「俺も今まで知らなかったがかなりの手練だ」
「それでも。信じられんな」
 白虎は目を鋭くさせて武蔵に言葉を返す。
「壬生や我等八将軍に対抗できるといえばだ」
「一匹狼の傭兵伊達総司」
 不知火がまずこの名前を出した。
「そして飛騨一族の龍王院狂須」
 妖水が出したのはこの名前であった。
「それと風魔の九忍。近場にいるのはこの程度の筈だが」
「しかしだ。実際に壬生は敗れた」
 武蔵はそれをあえて言う。
「俺はこの目で見た。俺も信じられんがな」
「まぐれに決まっている」 
 雷電はこう言い捨てた。
「風魔にあの連中以外に我等や壬生に対抗できる者がいる筈が」
「風魔が手強いのは事実」
 陽炎が言う。
「前にこの陽炎が相手をして退けたあの十蔵にしろ雷炎にしろ中々のものだった。中々でしかないがな」
「それでです」
 ここで夜叉姫がそこにいる全員に対して声をかけた。
「はっ」
「夜叉姫、何事でしょうか」
「その風魔と白凰学園を倒し若し風魔九忍が出て来るならばそれをも倒し我が誠士館の制覇を確実なものとするこの戦いに」
 それだけのものであるとまずは自身の前に並び片膝をつく彼等に対して述べる。
「指揮官を任命します」
「それでしたら夜叉姫」
 まず顔をあげたのは雷電であった。
「この雷電こそが」
「馬鹿を言え」
 だがそれは黒獅子によって否定された。
「御前はまだ八将軍になって日が浅い。無理な話だ」
「俺には荷が重いというのか」
「そうだ。夜叉姫」
 今度は黒獅子が夜叉姫に対して言う。
「この黒獅子こそが。壬生に代わり奴等を」
「本来ならばこの場合は壬生が指揮官となるのだが」
 紫炎は残念そうに壬生に顔を向けて呟く。
「怪我をしていてはな」
「済まぬ」
 壬生はあらためて彼等に詫びた。
「私がふがいないばかりに」
「攻介。今は身体を休めるのです」
 夜叉姫もまたその壬生をあえて今は出さないのであった。
「その間の指揮官は」
「指揮官は」
「武蔵」
 ここで意外な者の名前が出た。
「貴方が務めなさい」
「わかりました」
「馬鹿なっ」
「何故武蔵がっ!」
 言葉で頷く武蔵と反比例するかのように八将軍達は一斉に驚きの声をあげるのだった。思わず立ち上がる者すらいた。
「生粋の夜叉ではない貴様がどうしてだ」
「例え壬生が負傷しているとはいえ」
「待て、夜叉姫の御前だぞ」
 その彼等に壬生が言った。
「うっ・・・・・・」
「静かにしろ、いいな」
「そ、そうだったな」
「申し訳ありません、姫様」
「わかればいいこと。武蔵のことも」
 夜叉姫は武蔵のことも含めて言うのだった。
「一つ言っておくことがあります」
「はっ」
「何でございましょうか」
「指揮官の言葉は私の言葉」
 夜叉姫は夜叉一族においては絶対の存在である。主家の娘でありそれと共に夜叉一族の頭領であるのだからこれは当然のことであった。
「それを忘れぬように。いいですね」
「わかりました」
「それでは」
 主である夜叉姫にこう言われては彼等も従うしかなかった。しかしそれはあくまでこの場だけのことであった。如何に夜叉姫といえどもであった。
 
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