風魔の小次郎 風魔血風録
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12部分:第一話 小次郎出陣その十二
第一話 小次郎出陣その十二
「見事・・・・・・風魔」
「御前もな」
決着がついた。壬生は前に倒れる。小次郎はその背で木刀を掲げていた。
「俺の勝ちだな」
「まさか壬生を倒すとはな」
武蔵はその手に得物と思われる紫の包みに入れられたものを抱きながら小次郎に言ってきた。
「風魔の小次郎だったか」
「ああ、そうだ」
小次郎は武蔵のその問いに答えた。
「覚えておくんだな。何なら御前も相手してやっていいぜ」
「言った筈だ」
だが武蔵は小次郎のその挑発に乗ろうとはしなかった。
「やらねえっていうのかよ」
「俺は今回は立会人だ」
そう言いながら倒れている壬生に向かう。
「だが。今度は」
「相手するってわけかよ」
「小次郎!」
ここで誰かが来た。蘭子だった。
「蘭子かよ」
「ここにいたのか」
「ああ、今終わったぜ」
駐車場に駆けつけてきた蘭子に対して告げた。
「それで試合はどうなったんだ?」
「我々の勝ちだ」
蘭子はこう小次郎に対して告げた。これは武蔵の耳にも入っていた。
「そうか、姫様が勝ったんだな」
「ああ、記念すべき勝利だ」
蘭子はこうまで言う。表情はあまり変わらないが喜んでいるのがその言葉からわかる。
「御前のおかげでな」
「当然のことを言っても何にもならねえぜ」
「そこで調子に乗るな」
蘭子はやはり厳しい。
「そんなのだから御前は」
「ああ、わかったよ」
小言がはじまったと見て逃げる小次郎だった。
「わかったから言うなって。こっちも何とか終わったしな」
「蘭子」
武蔵は倒れている壬生を助け起こしていた。それから彼を肩に担いでその場を後にしようとする。その時に蘭子に対して振り向いたうえで声をかけてきたのだ。
「どうやら白凰はナイトを手に入れたようだな」
「そうだ」
蘭子もまた毅然として武蔵に言葉を返すのだった。二人の中には敵意はなくただ向かい合っているだけだった。しかしそれでも場に緊張を漂わせている。
「最高のナイトをな」
「わかった。ではまた会おう」
こう蘭子に告げた。
「その時こそ。この飛鳥武蔵が」
そう言い残してその場を後にする。壬生との闘いはまずは小次郎の勝利に終わった。
試合を終えた姫子は汗や砂を落とす為にシャワーを浴びていた。そのシャワールームのある場所に近付こうとしているのが小次郎だった。
「確かここだよな」
彼は抜き足差し足で窓のところに近付いていた。
「姫様のいる場所は。忍は何時でも主を守らないとな」
「その必要はない」
しかしここで蘭子の声がした。
「それは私の任務だからな」
「んっ!?その声は」
振り向いたそこに蘭子がいた。鞭を手に腕を組んで仁王立ちしている。長いスカートであるがそれでもその脚の長さが目立つのだった。
「うわっ、蘭子!」
その蘭子の姿を認めて思わず声をあげた。
「何で手前がここに!」
「覗き見をしようとはいい度胸だ」
既に小次郎の魂胆はわかっているのだった。
「その性根。叩き直してやる」
そう言って鞭を放ってきた。その鞭は小次郎の右足を絡め取ってそのうえで側にある木に逆さ釣りにするのだった。そのうえで背を向けるのだった。
「一晩そこにいろ」
「おい、一晩かよ!」
「姫様を覗き見すればこの程度では済まない」
忠告どころではなく完全に本気だった。
「命は覚悟しておけ」
「おい、それでも一晩かよ!」
「一晩で済んで有り難いと思え」
蘭子はここでも本気だった。
「何なら一週間でもいいぞ」
「おい、そこの美人モデル!」
「私のことか?」
「そうだよ、秋のトップアスリートか何かか?」
「わかりきったことを言うな」
平然と聞き流す。
「それではな」
「ちっ、効かねえか」
遂に諦めた。諦めるともう蘭子の姿は見えなくなってしまっていた。
「・・・・・・今日はここで一晩かよ。ったくよお」
最後に呟く。観念して寝はじめる小次郎だった。
武蔵はその夜にすぐに小次郎と壬生のことを夜叉姫に報告していた。報告を聞き終えた夜叉姫のその秀麗な顔に見る見るうちに不吉な険が増していく。
「壬生を。倒したというのか」
「はい」
こくりと頷いて答える武蔵だった。
「霧氷剣を破ったうえで」
「信じられぬ」
夜叉姫はその不吉な険を言葉にもこもらせてきた。
「あの攻介を」
「傷は深く暫く満足に闘うことはできません」
こうも報告する。
「やはりここは八将軍を」
「・・・・・・夜叉の総力でその風魔の忍を倒すというのですか」
「獅子は鼠を倒すその時にも全力を尽くします」
古くからある言葉だった。
「だからこそ」
「・・・・・・・・・」
「夜叉姫、御決断を」
決断の時だとさえ述べた。
「八将軍を」
「・・・・・・風魔の九忍の動きは」
「里に集結しているようです」
武蔵はこれも報告した。
「何時でも出陣できるとか」
「わかりました」
それが決め手だった。夜叉姫はそれを聞いて遂に決断を下した。
「矢の用意を」
こう告げて席を立った。
「火矢を。放ちなさい」
「わかりました」
その後セーラー服を着た女が誠士館の玄関にて矢を上に向けていた。その後ろには武蔵がいる。
「上にだ。わかっているな」
「はい」
女は武蔵のその言葉に頷く。顔を彼に向けることはなかったが。
「では。放て」
その言葉と共に矢は引き絞られ上に放たれた。すぐに炎となり漆黒の夜空にその赤い光を見せるのだった。
その光は小次郎も見ていた。彼は逆さ釣りになったまま言うのだった。
「流れ星か。姫様とのことでも祈ろうかね」
彼は呑気なものだった。しかし。
その光を見て顔色を変える八人の忍がいた。その彼等はすぐに姿を消した。戦いが本格的にはじまろうとしていた。風魔と夜叉の戦いが。
第一話 完
2008・3・6
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