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殺人鬼inIS学園

作者:門無和平
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第十一話:転校生と殺人鬼3

 
前書き
 投稿する話の順番を間違ってました。申し訳ないです。

……ハーメルンの時も間違ってたな。此処の箇所。 

 
 織斑一夏は現在進行形で数奇な運命を歩んでいる。誘拐されたり女性でしか動かせないはずの機械を動かしたり、そのせいでその機械を取り扱う女子校に強制入学させられたり、その機械をぶっつけ本番で操って決闘したり、幼なじみと無人機と戦ったりと言った、ちょっとした本なら小冊子二冊分位の出来事に巻き込まれている状態だ。
 だが、本人は厳しい現実にへこたれること無く今日も今日とて勉学に励んでいる。だが、運命というものは彼を嘲るようにハプニングを立て続けに遣わしていた。
 放課後の第一アリーナ。今日も今日とて一夏はクラスの専用機持ちであるセシリア・オルコットとセカンド幼なじみこと鳳涼音、二人目の男性操縦者にして念願の男友達ことシャルル・デュノアと共にISの操縦技術を磨くべく切磋琢磨しようとしていた。
 因みにファースト幼なじみの篠ノ之箒とはあの一件以来授業中以外には口をきいていない。生徒の生命の危機を脅かした箒は一夏に謝るばかりで、被害を受けた生徒やラシャには一切の謝罪をしていない。停学と反省文提出の処分を受けたのにもかかわらず、1番謝罪をしなければならない人間に然るべき対応を見せていないのだ。その態度が更に一夏を失望させていく。

「一夏さん、そろそろ篠ノ之さんを赦して差し上げたら如何です?」

 セシリアが心配そうに観客席の一角に視線を送る。そこには憔悴しきった様子の箒がこちらに遠慮がちに視線を送っていた。

「いいや、停学明けとはいえ俺はまだ箒を許さない。せめてラシャ兄に謝らないとな」

「ところでさ、一夏が言うラシャ兄ってどんな人なの?前に会った時は自己紹介しか出来なかったし」

「わたくしも気になりますわ、一夏さんがそこまでおっしゃられるのですもの、どのような殿方か気になりますわ」

 会話に加わったシャルルの言葉にセシリアが興味を持つ。それに対して一夏の表情が喜悦でガラリと変わる。

「ラシャ兄はな、俺と千冬姉の命の恩人なんだ」

「命の恩人」

「ちょっと、長くなるならあたし席外すわよ?」

 若干引き気味で鈴音が引きつった笑みを浮かべる。

「まあそう言うなよ鈴。ラシャ兄の素晴らしさはここからなんだぜ」

「ああもうあたしは十分分かってるから!!小4からずっと聞かされてきたからわかってるから!!」

 抜けだそうとする鈴を怪しく光る目で追い詰めつつ引き留めようとする一夏に全員が何かしらの危機感を覚え始めた頃、アリーナの一角がざわついた。

「嘘……ドイツの第三世代機だ」

「まだ本国でトライアル段階って聞いたけど…?」

 ざわめきの中心には、漆黒のISを纏ったもう一人の転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒがそこに居た。クラスメイトの皆とは全くつるまず、会話さえ行わない拒絶の塊のような少女はこちらを視界に収めると、オープン・チャネルで回線を開いてきた。

「貴様も専用機持ちか、織斑一夏。丁度いい、私と戦え」

 棘のある声色がアリーナに反響した。明らかに敵意を込めた声だ。勝負を挑むにしてはあまりにも不躾な態度に一夏はむっとした。

「やだね、戦う理由なんて無いし先約が居るんだ」

 一夏の反論に、ラウラは嘲笑を浮かべた。

「逃げるのか?仮にも教官の弟が?」

「千冬姉は関係ないね。そもそも物事には順序があるって習わなかったのか?」

「順序?……ああ先程からお遊戯をしているそいつらのことか?」

 ラウラの嘲笑にカチンと来たのか、鈴のISが衝撃砲を具現化させたが、一夏は彼女を手で制した。

「よせ、鈴。挑発に乗るな!ラシャ兄が言ってたぞ。『容易く挑発に乗る奴はよく負ける』って」

 その時、ラウラの表情が無に帰った。

「ラシャ……?貴様、ラシャといったか?」

「あ、ああ……そうだよ。それがどうかしたのか?」

 嘲笑を浮かべていた時とは明らかに異なる威圧感に気圧されつつも、一夏は臆すること無く返答する。

「その男は編田羅赦という名前では無いだろうな?」

「ああ、だったら何だよ?」

 一夏は自然と身構えながら告げる。一夏の変化を察したのかセシリアやシャルルは銃を構え、鈴音も青龍刀を構える。緊迫した空気がアリーナを満たす──と、思いきや。

「……ふん、あの男が居るのならば話は別だ。今日はこの辺にしといてやる」

 ラウラはそう告げるとあっさりと背を向けた。

「ちょっと待てよ!ラシャ兄が何の関係があるんだよ!!」

 慌てて一夏が向かおうとするも、顔面にレールキャノンの銃口を突きつけられてしまった。

「勘違いするな。私はお前たちを許さない。教官の栄光に泥を塗り、弱点で在り続ける貴様らを長く生かしておくつもりなぞ無い!!」

「なんだよ、何なんだよお前は…っ!!」

 ラウラが出て行ったアリーナには、呆然とする一夏を始めとする生徒達が残された。



 一夏達がアリーナで鍛錬を行っている頃、IS学園武道場にてラシャは千冬と対峙していた。双方が手にしているのは根本から三寸先で折れてしまった木刀だった。周囲にはかつて木刀であったのであろう木片が無残にも散らばり、先程まで武道場内を渦巻いていた激闘の軌跡が伺えた。

「やっぱ……木刀じゃあ……無理だぜ……千冬ちゃん」

 肩で息を切らせながらラシャは何とか会話をする。対する千冬は少々赤く上気しているものの、まだまだやる気が十分有るようで若干不服そうな表情を浮かべている。

「だらしがないぞラシャ。もう少し根性を見せろ」

「俺とて……三十路に手が届いて久しい……後は下り坂だよ。緩慢に老いていくのみだ」

「そうか、もう三十路か。長いものだな……」

 木刀を下ろした千冬は何処か遠い目をしていた。

「私もお前のように誰かを救えればと思っていた……だが、どこかで教育を間違ったのかもしれん」

 どこか弱々しさを含んだ声色に、ラシャは眉を顰めた。

「何があったんだ?」

 千冬は暫くの沈黙の後、重々しく口を開いた。

「第二回目モンド・グロッソの際、一夏が誘拐された。下手人からバックの組織さえ不明だった……私は第二回大会決勝戦辞退と引き換えに一夏を救出した。その際操作に協力してくれたドイツ軍に恩を返すべく一年間軍の教官を務めることになり、その時に一人の少女と出会ったんだ」

「それが、ラウラ・ボーデヴィッヒだったりするのか?」

 千冬は意外そうな顔をした。

「何故分かった?」

「この時期に軍属が転入してきただけでなく、転校早々問題行動をしでかしたと話題が持ちきりでね、一介の用務員でも耳に入ってくるのさ」

「そうか…なあ、ラシャ。私はお前のようにラウラを導こうとした。落ちこぼれで居場所を失ってたアイツを部隊1番の使い手にしてやった。だが、あいつは私の教えを履き違えて覚えてしまったんだ。力こそが全てだと、力以外は己の存在の証明にならないと思うような奴になってしまった…」

「随分難儀な弟子だなオイ」

「なあ、どうすればいいんだ。ラシャ……私は全力を尽くしたが、ラウラは歪んで育ってしまった……」

 ラシャは暫く思案していたが、ふと手を叩いた。

「お前、仮にも先生なんだから生徒指導の一環で話し合ってみたらどうだ?」

「話し合い、か」

 噛みしめるように千冬は呟く。

「まあ、相手が聞く耳を持たないのであれば、叩きのめして解らせるっていうのもアリなんじゃないか?オススメしないけど」

 千冬は思案していたのか、暫く俯いていたが、吹っ切れたように顔を上げた。

「そうだな、始めたのは私だ。最後まで責任を持つさ」

「ペットじゃないんだ、巣立ち出来るまでにしておきなさい」

「そうだな、ブリュンヒルデの地位が対等な相手を遠ざけてる……肩の力を抜いて話せるのはお前か山田くん位だよラシャ」

「まあ、ガス抜きは必要だな。どうだ?今度食事にでも……」

「良いのか!?」

 ラシャの誘いに、身を乗り出す千冬。

「お、おう。お互い暇があると良いが……」

「暇なら作るさ!忘れるなよ!!」

 そう言うと、千冬は「忘れるなよ!!」と再度釘を刺すと、武道場から出て行った。

「ありゃー、片付け忘れて行ってら……」

 ラシャは虚しく呟くと、散らばった木片を片付け始めた。



 数十分後、散らばった木片を片付け終わったラシャの前に一人の少女が現れた。銀髪のロングヘアーに怜悧な眼帯がトレードマークのナイフを思わせる少女がそこに居た。ラシャは噂の転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒだと確信した。

「君は、ラウラ・ボーデヴィッヒ君かな?織斑先生が君を…」

「教官はおられるか?」

 ラシャの言葉を遮ってラウラは尋ねて来た。その声色は想像以上に冷たく、ラシャに対する敵意が容易に感じられた。

「いいえ、入れ違いですよ。今すぐ追いかければ……」

 そこでラシャは何も言えなくなった。突如、ラウラの身体が光に包まれ、歪な黒鉄の巨人と化したからだ。

「編田羅赦は貴様で合ってるな?」

 ラシャは数瞬思考が停止したが、何とか応答する。

「俺がそうですが何か?」

 瞬間、ラウラの表情に険しさが増した。それは明確な殺意となって彼女の筋肉を動かし、鋼鉄の豪腕をラシャに向けて振り下ろした。

「っうおおおおおおお!?」

 結論から書くと、ラシャは死ななかった。表情から只ならぬ殺意を読み取ったラシャの身体は真っ先に回避運動を取り、どうにか絶命を免れていた。ラウラのISは武道場の床を見事にぶち抜き、奈落のような大穴を開けていた。

「編田羅赦、教官のアキレス腱……いや、背中の葉っぱよ。教官を完璧な存在にするために死んでもらう」

 眼前のドイツ代表候補生にして、黒兎隊「シュヴァルツェア・ハーゼ」隊長。ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐は確かにそう言い放った。
 
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