もう友達じゃない

「他の子達もね。初心者の子達もね」
「いいか」
「ええ、皆いい子よね」
「そうだな。何か野球部に碌でもない新入生がいるらしいけれどな」
「そんなのいるの」
「清原とかいったな」
　自由はその野球部の一年生の名前を出した。
「そいつは酷いらしいな」
「清原君ね」
「素行が悪いらしいんだよ。野球部の奴等がぼやいてたよ」
「ふうん、そんなに酷いの」
「喧嘩っぱやくていきがってて他の一年にすごんだりな」
　そうした素行の悪さだというのだ。その野球部の一年生は。
「女の子にもちょっかいかけたりな。何でも酷い奴らしいな」
「問題児なのね」
「完璧にな。けれどうちはな」
「そうよね。皆素直で真面目でね」
「それは有り難いな」
　二人でそんな話をしていた。その彼等にだ。一年達が尋ねてきた。彼等も一緒に休んでいるのだ。
「あの、間先輩と桜庭先輩って」
「クラスも同じですよね」
「ああ、そうだよ」
「一年の頃からね」
　まさにそうだとだ。二人も返す。
「一緒だよ」
「同じクラスなのよ」
「ってことは」
「まさか」　
　そのことを確めてだ。それからだった。
　一年達は少し覚悟を決めた感じでだ。また二人に尋ねたのだった。
「先輩達って付き合ってるんですか？」
「そうなんですか？」
「えっ！？」
　一年生達のこの質問にだ。二人はというと。
　その目を丸くさせてそのうえでだ。同時に声をあげたのだった。
　そしてそのうえでだ。二人同時にすぐにこう言った、
「いや、そんな筈ないから」
「そうよ。ただの友達だから」
「そんな。付き合ってるとかな」
「そんなのないから」
　即座に否定したのである。
「俺達本当にな」
「只の友達よ」
「彼氏とか彼女とかな」
「そんなのじゃないから」
　素っ気無くすらだ。完全否定したのである。
　その素っ気無い否定を聞いてだ。後輩達も言うのだった。
「あっ、そうなんですか」
「いつも一緒におられるからまさかって思いましたけれど」
「違ったんですか」
「ただのお友達同士ですか」
「ああ、そうだよ」
「本当に違うからね」
　自由も真子もまた言った。二人にそんな気持ちは全くなかった。この時点では。
　だがとにかくいつも一緒にいるのだ。クラスでも部活でも。登下校でもよく一緒になる。
　よく話もする。それでだった。
　自由はふとだ。帰り道の電車の中で真子にこう言ったのである。
「何か俺な」
「俺って？どうしたのよ」
「いや、彼女とかいる奴いるだろ」
　後輩達に言われたことを思い出しながらの言葉だった。　
　二人は今電車の席に隣同士で座っている。その隣に座る真子に言っているのだ。
「俺ってそういうのな」
「必要ないっていうの？」
「何かそんな気がするんだよ」　
　こう言うのだった。
「実はな」
「そうなの。それってね」
「えっ、桜庭もかよ」
「ええ。彼氏っていってもね」
　そうした相手はだというのだ。
「特にね」
「いらないっていうんだな」
「そんなの意識しないわね」
　欲しいとかだ。そうしたことは思わないというのだ。
「自分でも不思議な位ね」
「だよな。何か俺達ってな」
「いつも一緒にいるからね」
「そのせいか？彼氏とか彼女とかな」
「そうそう。欲しいとかって思わないわよね」
「だよな」
　お互いにだと話すのだった。