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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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97部分:動きはじめた時その八


動きはじめた時その八

ーアルスター城ー
 セリスはオイフェと共にアルスターの有力な市民や貴族達との会見を終え部屋に入った。伝わってきたのは自分達への感謝と圧政者から解放された事に対する喜び、そしてグランベル帝国、ブルーム王、とりわけ隣国であるトラキア王国への憎しみだった。
「ふうっ」
 セリスはベッドに腰を下ろし一息ついた。イザークからこのアルスターまでの嵐の様な進撃と激戦の繰り返し、シャナンとの再会、新たな仲間達、トラバント王との対峙、そしてレンスターの解放ーーー。絵巻物の如く今までの事が思い出された。
「けどまだまだこれからかあ」
 次は今まで押されていたフリージ軍も反撃に転じてくるだろう。司令官はおそらくイシュタル、アルスター城攻略の際解放軍の並み居る諸将を全く寄せ付けなかった恐るべき女である。苦戦は免れまい。その様な事を考えていた時だった。扉をノックする音がした。
「どうぞ」
 レヴィンが入って来た。
「悪いが少し付き合ってもらえないか」
 その真剣な顔から何か重要な事だと感じた。断らなかった。
「いいよ」
 レヴィンは杖を取り出した。淡い緑の光が二人を包んだ。
 着いた先は砂漠だった。目の前に見た事のある古ぼけた城があった。
「イード城?どうしてここに」
 セリスの問いにレヴィンは答えなかった。
「ついて来てくれないか」
 そう言うと城の中へ入っていった。セリスは言われた通り彼について行った。
 城の中は廃墟だった。建物には人影すらなく砂埃が風に吹かれ舞っている。夜の深く黒に近い紫の空を無数の色とりどりの星達が宝石となり飾っている。だが宮殿に入るとそれも見えなくなった。
 宮殿の中も何も無かった。シャナンに倒された賊達のむくろは動物達に喰われ風に飛ばされてしまったのか骨の一片も服の切れ端も残っていなかった。
 レヴィンは部屋の隅にある小路に入った。そこから墓地に出た。
 墓の石の下に階段があった。下へと降りていく。どうやらカタコンベらしい。
 カタコンベらしく中は迷宮の様だった。レヴィンはトーチの魔法で照らした。
 レヴィンはある部屋に入った。セリスもそれについて行った。
 そこにはセリスが幼い頃エーディンやミデェールから聞いた暗黒教団の祭壇があった。禍々しい紋章と暗黒竜ロプトゥスの像が祭られていた。
「暗黒竜・・・・・・まさか」
「滅んだというのだろう。先の聖戦で。だがこれは真実だ」
 レヴィンはセリスを別の部屋へ案内した。そこは居住区だった。壁に落書きがあった。
「子供の・・・・・・」
「どうやらロプトゥスの復活を願うものらしいな。字は読めないが」
 レヴィンは話を続けた。
「おそらくここに潜んでいた者達にとってはロプトゥスこそが正義だったのだ。そして再び陽の当たる場所を歩きたかったのだ」
「ロプトゥスが正義・・・・・・」
「解からないか、まあ今は良い。いずれ解かる事だ。だがもう一つ言っておかなければならない事がある」
「それは・・・・・・?」
「グランベル帝国皇帝アルヴィス、彼の母シギュンは聖戦士マイラの末裔だった」
「えっ、じゃあ」
「そうだ。アルヴィスには暗黒神の血が流れている。そして彼の背後には暗黒教団が蠢いているのだ」
「まさか・・・・・・」
「かって御前の父と母がヴェルダンで闘ったサンディマという魔道師も暗黒教団の者だった。シグルド達も殆ど信じていなくてある時私にポツリと言っただけだったがな。私も今まで信じていなかった。先の聖戦で滅亡したと思っていたからな。しかしここを見た時私も教団の存在を確信した。そして帝国と教団の繋がりも知った」
「帝国と教団・・・・・・」
「今ユリウス皇子がミレトスを鎖国しているのもその為だろう。今ミレトスで恐ろしい事が行なわれている筈だ。もっとも帝国でそれを知っているのはアルヴィスだけだろうがな」
「虐殺、子供狩り・・・・・・」
 セリスの脳裏に暗黒教団がかって行なった残虐な行為が浮かんだ
「おそらくな。だからこそ我々は勝たねばならない。再び暗黒竜が支配する世界にしない為にもな」
「うん・・・・・・・・・」
 セリスは頷いた。青い瞳に強い決意の光が宿る。
「だがこの事はまだ誰にも言うな。大混乱に陥るかも知れない。今のところは私達の心の内だけに留めておくんだ」
「うん」
 二人はワープでアルスターに戻った。風が墓所の中に吹き込み暗黒竜の像を落とした。像は床に落ち粉々に砕けた。風が破片を連れ去り後には何も残らなかった。


第二夜  完


                  2003・12・7
 
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