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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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80部分:合流その二


合流その二

「食事の後総攻撃じゃ。あの小僧っ子の首を陛下に献上するのじゃ」
 グスタフは一際大きな天幕の中に置かれた本陣で椅子に座し配下の将校達に言った。テーブルの上には子羊のスネ肉の赤葡萄酒煮や七面鳥のオリーブ油で焼き香料を効かせたものや新鮮な生野菜に果物、陣中にいるとは到底思えない豪勢な食卓である。
 グスタフは生牡蠣を喉に流し込みながらニイッ、と笑った。白髪に険のある陰険そうな黒い眼、痩せた顔に色の薄い唇をしている。貧相な身体を重厚な鎧で包んでいる。
 彼こそレイドリック、ケンプフ等と並んで『三悪』と称されレンスター中の憎悪を一身に集めている男である。かってアルスターの宰相であったがトラキアのレンスター侵攻においてレイドリックの裏切りにより敗北したレンスター王国にアルスターの主力を率いて援軍に向かいながらもトラキアに寝返り共にレンスター城を陥とした。しかもそれに飽き足らずトラキア軍の先兵となりアルスターへ侵攻してきたのだ。その余りにも恥知らずな行いにアルスターの者達は怒り狂ったが圧倒的な戦力差に歯が立たずアルスターは滅亡の淵に立たされた。だがフリージ家がレンスターに姿を現わすと進撃停止を余儀なくされトラキア軍は兵を引き揚げた。グスタフもそれについて行くものと思われたがレンスターの新たな統治者となったフリージ家に取り入りレンスターの領主に任じられた。
 レンスターの領主となったグスタフの行いは悪逆を極めた。元々賄賂を好み政敵を陥れる等悪行で知られる人物であったが民から税を搾り取り盗賊と結んで豪商達を襲撃し賄賂を要求した。その為『三悪』の一人に称される事となった。これに対し前々から彼を嫌悪していたイシュトー、イシュタルによって査察官が送り込まれなりを潜めるようにはなった。だが蓄えた財によるその力は隠然としてあり他の三悪の二人と同様完全に排除するには至らなかった。レンスター城を奪われたこの度の失態も重臣達に素早く賄賂を贈り手回しをした事で事無きを得、それどころかイシュトーの後のレンスター奪回戦の司令官となった。その男が今豪勢な食卓に囲まれ座していた。
「叛徒共も皆殺しじゃ。そして奴等に加担した愚民共にもわしに逆らう事の愚かさを身をもって知らせてくれる」
 グスタフはそう言いながら席に座している一人の男に目をやった。齢は五十近くであろうか。茶の髪とそれと同じ色の濃い髭を生やし黒い瞳からは力強い光を放っている。筋肉質の巨体を濃緑色の鎧と黒っぽいマントで包んでおりその背には極めて大きな盾が背負われている。
「ゼーベイア」
 グスタフはその男の名を呼んだ。
「はっ」
 ゼーベイアは重く低い声で短く答えた。
「リーフの首を討つのはそなたにやらせてやろう。あ奴もかっての家臣に討たれるのならば本望だろうて」
 グスタフは底意地の悪そうな笑みを浮かべゼーベイアにせせら笑うように言った。ゼーベイアはそれに気付かぬふりをして頷いた。そして一言だけ言葉を発した。
「有り難き幸せ」
 グスタフはその口を三日月の様に吊り上がらせ酒を満たした杯を掲げた。
「いよいよレンスター城をわしの手に取り戻す。報償は思いのままぞ!」
「おお〜〜〜〜っ!」
 諸将達が一斉に立ち上がり杯を掲げる。その中でゼーベイアは暗鬱とした表情でそれに加わっていた。
「セルフィナ、グレイド、レンスター城まであとどれくらいだい?」
 セリスは全速力で馬を飛ばしながら先導役を務める二人に問うた。二人は西の方を指差した。
「もうすぐです。あと反国刻程でレンスター城です」
 グレイドの言葉通りだった。すぐにレンスター城が見えてきた。
「あれがレンスター城か。遂にここまで来たんだね」 
 蔵に止めてあった望遠鏡を外し城を見た。城壁はかなり破損していたがレンスター城の旗が翻っており兵士達が城壁に立っている。
「良かった。まだ陥落していない」
 セリスはホッと胸を撫で下ろした。
「ですがあれ以上持ち堪えられそうにありません。事は一刻を争います」
 オイフェは同じく望遠鏡で城を眺めながら言った。
「よし、すぐに行こう。セルフィナ、グレイド、先導を頼むよ」
「はい」
「解かりました」
 二人は馬上で頭を下げた。全速で馬を走らせている為敬礼では返せない。
「後は先鋒だけれど・・・・・・。二人共、先導役と兼ねて頼むよ」
 その時二騎の騎士が出て来た。
 
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