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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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75部分:血の絆その四


血の絆その四

「お母様・・・・・・」
 ポツリと呟く。眼は上の方をぼんやりと見ている。
「私、どうしたらいいの・・・・・・」
 翌日の朝解放軍の偵察隊がフリージ軍を確認した。その軍の規模、編成等を素早く見取ると解放軍の本陣へ駆けて行った。
「そうか。そして将は?」
 シャナンは本陣で偵察隊を率いていたディムナに問うた。
「緑地のフリージ王家の大旗が掲げられていました。おそらく王家の者かと」
「やはりな。誰だと思う?」
 本陣にいたリンダに声を掛けた。
「イシュトー兄様にしては傷の回復が早過ぎます。それに十六万の大軍を率いるとなるればブルーム叔父様か・・・・・・」
「イシュタル王女だな」
「はい。若しそうだったならば御気をつけ下さい。イシュタル姉様は軍略も秀でておられますが何よりもその魔力が恐ろしいのです。その気になれば軍を一つ消し飛ばせる程の・・・・・・」
「だとしたら厄介だな。その時は私が相手になるとするか。それに数では劣勢だ。・・・・・・あれで行くか」
 シャナンは腕を組みながら人差し指を唇に当てながら考え喋った。どうやら彼の頭の中で何やら絵が描かれている様だ。 
 昼の一刻程前に両軍は互いの姿を認めた。まず解放軍の騎兵隊がフリージ軍の先軍に向けて突き進んで来る。
「射て!」
 弓が放たれる。身を屈めそれをやり過ごす。避け損ねた数騎が落馬する。
 フリージ軍も突撃しようと剣を抜き槍を構えたその時だった。解放軍の騎兵達が一斉に向きを変え逃走しだしたのだ。
「なっ・・・・・・!?」
 フリージ軍の将兵達は暫し呆然とした。今まで無敵を誇ったシアルフィ軍のあまりにも呆気無い敗北だったからだ。それを見てケンプフは他の者達と同じ様に暫し呆然としていたがすぐにそれを勝機と確信した。彼はすぐに行動に移った。
「追え!一兵たりとも逃がすな!!」
 自ら馬を飛ばして追撃にかかる。先軍の将兵達もそれに続く。
 続いて左軍と右軍が活気付きだした。
 望遠鏡で追撃を始めたケンプフを見てザイルは欲深そうな笑いを浮かべた。そして己が軍を見やった。
「ケンプフ将軍に続け。メルゲン以西の宝は皆我等のものだ」
 同じくバルベデスもケンプフを見ていた。彼は馬の尻に乱暴に鞭打つと駆けながら己が将兵達に言った。
「手柄と財宝は俺たちのものだ!」
 中軍を無視して左軍、右軍共に進撃しだした。それを見た三姉妹達は驚いた。
「馬鹿な、自殺行為だ!」
 ヴァンパは望遠鏡から眼を離し顔面蒼白となり絶叫する。その姉の姿を見たフェトラはすぐに伝令達を呼んだ。
「ケンプフ将軍に伝えて、今動けば敵の思う壺だと!」
 すぐさま伝令が飛ぶ。しかしその様なものはお構いなしに彼等は解放軍を追撃していく。
 既に中軍及び本軍と三軍との間はかなり開いていた。ヴァンパは苦い顔で舌打ちすると左にいたエリウに言った。
「ティニー様にお伝えして。我等は先軍及び左右両軍との合流に向かうと。そして本軍も合流に向かわせて欲しいと!」
「解かったわ!」
 エリウが後方の本軍へ伝令を飛ばした。ヴァンパ土煙の中にある前方の友軍を見た。
「間に合ってくれれば良いが・・・・・・」
 眉間には皺が刻まれ額や頬を汗が伝う。整った顔が蝋の様に白くなり紅い唇から見える歯は苦々しく噛まれている。
 シャナンは退却する解放軍の部隊と追撃するフリージ軍を少し離れた高い場所から数人の将兵達と共に見ていた。腕を組み落ち着いた表情で双方を眺めている。
「どうやら連中は引っ掛かってくれた様だな」
 シャナンは両軍を見つつほくそ笑む。そして傍らの兵に問うた。
「軍の配備は?」
 兵士は答えた。
「全て完了致しました」
 敬礼をする。それはシアルフィ式のものであった。それを見てシャナンは満足そうに頷いた。
「よし、機は熟した。フリージ軍を今ここで打ち破るぞ」
 シャナンはゆっくりと右手を上げた。
「合図を」
 兵士の一人が敬礼し後ろに下がった。火矢が放たれ派手な音を立て爆発する。
「何だあれは?」
 追撃するフリージ軍の兵士の一人が左手に上がり爆発した火矢に目をやった。シアルフィ軍か、そう思った。前に視線を移す。あの連中はさっきから全速で追撃しているというのに一向に距離が縮まらない。それどころかこちらに合わせて距離を一定に保っている様だ。疑念が沸き起こり一瞬で極限まで膨れ上がった。その時だった。
 周りから一斉に喚声が轟いた。同時に青地に白い剣の旗を掲げた解放軍が左右から現われた。そして今まで逃げるだけだった前方の解放軍が踵を返してきた。
 
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