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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第75話 不測

 
前書き
キリが良いので
少し短めですみません 

 
詳しくは教えられない
そもそも我々も全てを知っているわけではないが......

ララの身体はとっくの昔に限界を超えていた
学園都市の科学力をもってしてもこれ以上の延命は不可能だったんだよ
全ては予定通り
ララ自身もきっと分かっていたんじゃないかな

降りしきる雨は学園都市の陰影をぼかす。
食蜂は未だに頭の理解が追い付かずに呆然と漠然と彼の居た部屋に閉じこもる。

大量のぬいぐるみや玩具に囲まれ、降りしきる雨粒が硝子に当たり破片となって窓辺から名残惜しそうに少しの抵抗を持って流れていく。
雨粒は絶えず叩きつけて、砕けていくか全体の印象は変わらずに「雨が降っている」に留まる。
誰も砕けた雨粒を気にする事もなく「恵の雨」だと言って良い奴を演じる。
何処にも当たる事なく地面に落ちるモノもあれば、硝子やビルに当たり削りながら地面に到達するモノもいる。

落下した場所が悪かった
良いモノもあれば悪いモノもいる
物理の係数や初期値で運命が決まっているかのようで吐き気がする

ララが死んだ......
闇に飲み込まれて私の前から消えて居なくなってしまった

予定通り?
ララが死んだのは予定通り?
分かっていた?
あんなにやりたい事を言っていた人が分かっていた?
ふざけている......
ふざけているにも程があるわぁ
ラグビーボールを頭にはめ込んで研究の時にしか呼ばない
カルテに書いたら、さようならを言う奴らにララの苦しみが分かるはずがない

最後に投与された薬剤か何かが急速にララの身体を蝕んだ。
あんなにガリガリに痩せて、身体が裂けて血みどろになってもがく体力もない彼を置いて、奴らはさっさと最期を看取る事もなく論文を書きに行ってしまった。

科学の発展には犠牲が付き物だよ
彼らのような人のおかげで科学が発展して豊かな世界になったんだ
だから、感謝しなさい
「ありがとうございます」と祈りなさい

反吐がでるわぁ

最期の瞬間を見ないで、分かりきった結果(死)に時間を割く程、奴らは暇じゃないみたい

食事の前の「いただきます」と同じだ。
美味しそうな料理が出てきて、感謝よりも自分の欲を満たすのが先攻して貪り食う。
背景にどんな過程を経て
どんな状況があったのかすら考えようとしない
子供の時は言わないと親に叱責されるから、大人になれば自然と言わなくなり当たり前のように顎を動かして咀嚼する

あは
あはははははは
全部自分勝手じゃないかしらぁ
怒られるのが嫌だから
褒められたいから
認められたいから
誰もかれも人の視線を気にして視えない何かにがんじがらめだ

人は認識で世界を創り上げている。
風鈴を知らない外国人はその鈴の音を指摘されるまで知る事はおろか聴き取ることが出来ないとされる。
それほど曖昧で軸が無くて、自分勝手な生き方をしているのが人間だ

食蜂は一頻り狂ったように感情を歪ませて笑いだす。
防音効果のある部屋で何倍も何十倍も笑い狂った声がこだまして嘲笑う。

良いじゃない
やってやるわよぉ
やってあげるわよぉ
馬鹿で愚かで自分勝手な人間の為の人間による人間の支配をしてあげるわよぉ!

彼女の能力はその日を境にして化け物クラスへと変貌していく。
繊細な心は砕け散り、闇が深まれば深まる程に能力の力は増し、手がつけられなくなる。
ララのように......

******

ヤレヤレ今度は食蜂君に不具合発生か

随分塞ぎ込んでいるようですな

あんな子にも人の情があったのねぇ

ララがクローン人間であると理解出来れば吹っ切れるのでは?

人の心に干渉できる能力が仇になって彼女の証言には証拠能力が無いですし
物証になりそうな物は上に持っていかれましたから話しても構わないかと
ララがだだの造りものとわかれば、わだかまりも解けるでしょう

フム......まあ
今のような状態が続くようであれば考慮するとしよう
『エクステリア計画」は上から押し付けられた目的すら定かでない人形遊びとは違う
我々『影月読(クローンマダラ)』の悲願の結晶だからね

でもどうします?
食蜂操祈がこのまま成長していけば、いつかメンタルガードでは防ぎきれなくなる日が来ますよ

そうなると計画の真意を隠し通すのは難しいかと

フン、別に大した問題ではない

「あらぁ、それはどうしてかしらぁ?」
中央会議室で行われているカンファレンスで話される食蜂の処遇についての議論。
そこの長官席に食蜂がリモコンを片手にさも滑稽な喜劇でも観戦するかのように座っていた。
まるで居ないかのように
視えていないかのように
投げ掛けられた質問にだけ素直に答えていく研究者。

エクステリアが完成してしまえばあんな小娘は用済み
機を見て処分すればいいだけのことだ
上手くいけば『影十尾』なるものの素晴らしい頭脳になり、我々は神に等しい存在となるのだからな

ではこれで定例報告会議を終了します

おつかれさまでした


ぞろぞろと足並みを揃えて軍隊のように出入り口に向かう研究者のメンバーの瞳は星が宿ったかのように燻んでいた。
「ま、こんなことだろうと思ってたわぁ」
リモコンの『停止』ボタンを押して静かに心の干渉を解いた食蜂は大人用の椅子から飛び降りると無人の会議室を軽く睨みつけた。

ここでララの死を話していたのかしらねぇ
人形だから大丈夫だ
造られた命だから好きに粗末に扱って良い
誰かのコピーだから居場所を削り取り、意のままに操る
だけど彼は生きていた
生まれた過程なんて関係なかったし、生きていて欲しかった
私と過ごした日々を無駄にしないために行動をしなくてはならない


その後実験のどさくさに紛れて掌握していた下級研究員にメンタルガードを細工させて、私は水面下で支配を広げていった
ジワリジワリと彼の命を削ったように奴らの心から自分を消させていく
エクステリア計画の関係者は全員洗脳済みであるが......ただ1人
ただ1人『ゼツ』という協力者だけは雲隠れしていて洗脳が出来ていない
ララの命を奪った張本人だけが......

******

ホテルのスイートルームで元学園都市第1位の一方通行(アクセラレータ)がグルグルの面を着けてベッドに大の字で横になっていた。
「あー、あー、本日は曇り後雨の糞最高な天気でごさいますっすな。糞みたいな能力者の糞みたいな試合を楽しみに......うーむ、インパクトが弱いっすね~」

手には何やらルーズリーフを持ってあれこれ呟きながらペンでグリグリとアイディアを書いている。

「やはり糞よりもウンコの方がオイラ的には......ウンコみたいな天気にウンコみたいな能力者......ぷっ!ぎゃははははー!サイコーっすね」

するとホテルのスイートルームから染み出すように黒白はっきりとした食中植物のような外見をしたゼツが頭部から出現してきた。
「トビ......」
「ウンコみたいな試合って......ありゃま!?休養中だったはずだったんじゃなかったんすか?」
態とオーバーリアクションをしたトビが腕を振り上げながらびっくり仰天のポーズをした。

「少し気がかりな事があってね。その前にそれって何?」
白ゼツが質問する。
「あ、これ?今度の祭りで読むスピーチ原稿っすよ。爆笑間違いなしの傑作が出来るはずっす。最近オイラも忙しくってね~、トロフィーのデザインやキャラクターのデザインやらやら」

「チャクラ感知ヲシテイルノカ?」
「そんな暇なんかにゃーっすよ」
「最近、サソリ達の動きが活発になってきてね。僕らなりに調べたんだ」
「先輩が?そういえば、何で写輪眼が使えたんっす?」
「......マダラノクローン......零号『ララ』ダ」
「!?あれって仙術取り込んだら崩壊して死んだはずっすよね」

大き過ぎる仙術チャクラに耐えきれずに写輪眼が生み出した時空崩壊に吸い込まれた。
時空崩壊した場所では原子レベルでバラバラにされる為遺体すら遺さない写輪眼術者の成れの果て、墓場のようは場所だ。

「そうだと思ったんだけどね。どうもサソリを転生させたみたいなんだよ」
「へぇ~、先輩は実験体ララっすか?まあ、それが分かってどうしたんすか?」
「新タニ暁ヲ組織シ始メタヨウダ」
「あららららら......暁っすか~。メンバーはどんな感じっす?」
「第3位の御坂と第4位の麦野が主要みたいだね。ちょっと無視出来ない勢力かな」
「なるほどっすね~」

トビアクセラレータは能力を使ってベッドからはね起きると机の引き出しからトランプの束を取り出した。
その中で悪意のある道化師(ピエロ)のイラストが入ったカードを弾いてキャッチした。
「謂わばサソリ先輩はオイラ達が予期しなかったジョーカーっすね。ならはオイラ達も......」
トビアクセラレータはジョーカーのカードをズラすともう一枚月に乗った道化師が現れた。
「こちらもジョーカーを使うっすね~。裏表になるっすけど」
「影十尾ハドウナッテイル?」
「あと少しで完全復活になりそうだね」
「じゃあ、予定を繰り上げて『暁』とやらを潰すっすかね」

トビアクセラレータは祭り用のメモ帳を指先から炎を飛ばして燃やした。
「六道はどうするの?」
「クク、俺ニ良イ考エガアル。偶然トハイエサソリノ存在ハカナリ好都合ダ」

本日の学園都市の天気は晴れ後曇り、時々雨

******

常盤台中学の膨大な書物を保存してある図書館に大量の本を抱えた御坂が中央に配置されたテーブルの上にどっさりと置いた。
「はいよ」
「ああ」
フワフワとした癖っ毛の強い女性が目付きを鋭くしながら本と睨めっこしていた。
「何か分かった?」
「あと少しで結論が出せる」
「湾内さん達にも手伝って貰った方が良かったかもね」
「オレが化けているんだから無理だろ......それに別件で動いているし」
「それを見越してやっているんじゃない?」
「まあな」
「そこは否定しなさいよ......ん?別件?」
「ああ、レベルが高い奴らと接触しようと思ってな」
「へぇー......大丈夫?」
「そこも含めての判断になる」

湾内に化けたサソリが高速で本を読んである記述がないかを探していた。
知らない用語にぶち当たるたびに別の文献を読んでは彼なりの答えを出そうと思案し続けている。

意味の無い事はしない合理主義のサソリにとって今回の調べものは御坂の言葉による説明は要らないようだ。

割と他の人が調べものをしているのを待っているのって暇ね
持って来た本を一掴みするとするりと薄い絵本が歴史書の間から滑り落ちてきた。
「ん?」
御坂が落ちた絵本の表紙を見てみると『砂漠の王子様』というタイトルの児童向けの絵本だった。

パラパラと暇潰しがてら開いてみるとサソリそっくりの赤い髪の王子が悪の魔女を倒す話で良く作り込まれている作品だった。

サソリそっくりだけど
人助けしたら視えなくなるのか
なんだか切ないけど、最後は一緒になれて良かったわ

御坂は『砂漠の王子様』の絵本を閉じるとチラリと隣にいるサソリ湾内に視線を向けた。
出会った頃は生意気な子供だと思ったけど、いつも困った時には文句を言いながらでも助けてくれるサソリ。
どこかでこの『王子様』とサソリの姿と重なる。
どんな困難にも諦めずに立ち向かって相手の裏をかいて逆転してしまう。
頼れる兄のような存在。
ひねくれた性格で物語のように紳士ではないが

「何だよ?見てきやがって」
「何でもないわよ」
「?まあいいか......」

隣で絵本を片手にニヤニヤしながら御坂が資料を読み込んでいるサソリを感慨深げに眺めた。
サソリは御坂の態度に疑問を思いながらも些事だと判断して独り言を呟きながらある仮説の検証に入り始めると今の今まで気にならなかったはずの金髪で瞳がキラキラと輝いた女性が大きな胸を揺らしながら現れた。

「!?うげ」

あまりの嫌悪感に御坂は即座に視界から金髪女性を外した。
「御坂さん」
一回目は目を閉じて聴こえないフリをするが隣に座っているサソリから要らぬお節介が。
「呼ばれてるぞ」
視線を本から外さずに声だけを飛ばすが御坂は梅干しを噛み締めたように苦い顔をしながらサソリ湾内に耳打ちをした。

「余計な事しなくて良いの!」
「何がだよ......」
「良いから!!」
「お、おう」

あまりの御坂の迫力に若干気圧されながらも首を重力に従い傾けた。
女性は明らかに猫撫で声のような声を出しながら「みぃーさぁーかぁさぁーん」と朗らかに馬鹿にするように肩をチョンチョンと指で叩いている。

「図書室内の私語は厳禁」
「あらあら、そっちは話すクセにぃ?」
「うぐ」
「なんかぁー、最近転入生や無所属のコを手籠めにしてるって聞いたんだけどぉー」
「いっ!?」
「?」

何だこの娘?
やたらにちょっかい出してくんな

「一匹狼を気取って影で裏番力をつけてるってコトかしらぁ?」
「そんなんじゃないわよ」

派閥を立ち上げたのは御坂が影で力を誇示する為でもなければ人を良いように操るアンタ達の政争ゴッコとは違う
無茶するサソリを守るための派閥

「御坂さんの取り巻きを私の洗脳力で奪っちゃえばいーんだ」
「!」
「あたしの友達に手ぇ出したら許さないわよ」
御坂の片手にある児童向けの絵本に金髪の女性が注目すると吹き出した。
「あはははぁ、随分幼稚なものを読んでいるわねぇ。だからそんな体型なのよ」
「なっ!?体型はカンケーないでしょ!」

御坂がガタッと椅子から立ち上がると常時上から目線の女性に向けてビリリと雷撃を走らせた。
「さっきから何?喧嘩売ってるわけ?」
「さあね、御坂さんてば私の干渉力が効かないんだモン。やっかいよね電磁バリア」
金髪女性がチェーンが付いたカバンからリモコンを取り出すと『一時停止』を押した。
図書室に居た他の数十名の生徒が無言で立ち上がり、濁った眼で御坂達を不気味に見つめていた。
人間特有の気配さえも押し殺されて人間としてではなく人形のように立ち尽くしている。

「くっ!相変わらずとびっきり下衆い能力ね。学園都市最強の精神系能力者『心理掌握(メンタルアウト)』」

「これは警告。私の縄張り(テリトリー)に手を出したらー......お隣の学友もろとも」
と手を伸ばしてフワフワした栗毛を掴もうとするが高速で腕が弾かれて、予期しない痛みに戸惑った。

??!
どういうコトぉ?
まだ御坂さん以外は洗脳下に

サソリ湾内は金髪女性からの干渉から無意識的に身を守るためなのか両眼に万華鏡写輪眼を光らせて、ゆっくりと立ち上がり振り向いた。

真っ赤に光る瞳に巴紋に端に向かって線が伸びている幾何学模様が妖しく浮かんでいる。

「!?」
「さっきからゴチャゴチャとうるさい奴だ。文句があるならオレに言え」

しかし金髪女性はその瞳を見た瞬間に持っていたリモコンを落として驚愕したように息を吸い込んで止めた。
信じられないものを見るように死んだ人を捉えるように軽く震えながら目の前の人物を大きくした目で見て立ちすくんでいた。

「?」
「な......なんでぇ?!ら、ララ?」

決して交わる事のなかった過去と現実が入り混じり、受け止められない諦めていた未来を確かめるように食蜂は静かに歩み寄った。
 
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