kissはいつでも無責任!
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前途多難だとか思わないようにしてたけど、やっぱり前途多難ですぜこいつはぁ……
それから時は変わって翌日の昼休み。昨日の予想外に、僕は唖然とするのみで打つ手なしだった。だって浦の星に曜ちゃんがいるなんて思わないじゃないか!
で、その結果――
「だからいらないって!」
「えー、だってお昼ごはん持ってきてないんでしょ? 私の分けてあげるから!」
「いーらーなーいー!」
すっかり流されて、僕は微妙に曜ちゃんとイチャコラしてしまっていた。普通なら喜ぶところだろうな。ただ、これは能力によって成立している偽物のラブ……僕としてはどうしても複雑だ。
あと、僕が昼ごはんを持ち合わせていないのはきちんとしたワケがある。朝学校に向かっていた時にたまたま死にそうなホームレスに出会い、同情した僕は自分の弁当箱を手渡した――だから食べるものが無くなってしまったのである。
「あっ……もしかして、食べさせて欲しいの?」
「どうしてそうなる!」
あさって方向なアイデアを閃いてきた曜ちゃんに至急ツッコミ。ああ、ため息が出る。こんなことしてる場合じゃないのに。一刻も早く曜ちゃんを元に戻さなければ。でもここは女子高、隙なんてあったら苦労はない……。編入早々、前途多難だ。
ひとまずあーんをくらわないようにそっぽを向いていると、横から声が。
「曜ちゃん曜ちゃん、たぶん旗口くんはお腹が空いてないんじゃないかな」
なんと助け船……かどうかは断言できないが、とりあえずそいつを出航してくれたのは蜜柑っぽい色の髪――特にアホ毛が特徴的な女の子、高海千歌。なんでも曜ちゃんの幼馴染みらしい。元気いっぱいで可愛らしい。
なお、彼女は曜ちゃんが僕に対して明らかにベッタリな所を見てもあまり動じていない。果たして単なる鈍感なのか、それとも別の何かがあるのかは不明だが……正直、これくらい反応薄い方がありがたい。
……と、今度は後ろの方から強い視線を感じた。
こっそりと首だけを斜め後ろに動かして確認してみる。こちらに視線を向けている主は――桜内梨子だった。なんとなくパッとはしないものの、整った容姿をした女の子だ。腰辺りまであろうかというロングヘアーもまた美しい。彼女は可愛いというよりかは綺麗なタイプという感じか。
僕は梨子ちゃんのことを千歌ちゃん以上に知らない。昨日学校から帰る前、なけなしの勇気を出して1度話してみようとしたが、上手くいかなかった。どうやら彼女も曜ちゃんと親しいっぽいが……。
さて、梨子ちゃんは僕と曜ちゃんの様子を不可解そうに眺めている。だがその態度、僕はおおいに納得した。
そりゃそうだ、『浦の星にいきなりおかしな男子が編入してきた上に、自分の友達がそいつに恋人の如き態度で接している』当然不安にもなるだろう。僕が君の立場だったら、同じように警戒するに違いない。
ちなみに他のクラスメートたちも似たようなもので、殆どがマイナスな印象を僕に抱いているようだった。異物を見るような目をしてるからわかる。
――この数多の考え事に要した間、僅か2秒。
ごめんなさい嘘つきました。
なんにせよまだ会話の途中、いつまでも黙っていたって仕方ない。
「そう。空いてないんだ。うん、空いてないんだ」
とりあえず僕は千歌ちゃんの発言に乗っかって、大事なことだから2回(以下略、的な要領で軽快に返事して腹をポンポンと叩いて見せる。しかし曜ちゃんは引き下がらず。
「ちゃんと食べておかないと、放課後までもたないよ。いいから、ほら」
「うんうん、気持ちだけもらっておくね」
「そう言わずに!」
「いやいや……曜ちゃんこそ分けたりしないで、全部食べておかないと足りないんじゃない?」
「私そんな食いしん坊じゃないよぉ」
長らく、そんなやりとりを繰り広げるのだった。
○●○●○●○
「ふー、食った食ったぁ」
最終的に食べましたとさ。曜ちゃんの心配と優しさが込もった眼差しに負けた。いただいたのは卵焼きとタコさんウィンナー、ほどよく柔らかかったりジューシーだったりで僕の舌は控えめに言って大喜びでした。曜ちゃん……君は将来いい奥さん、あるいはいいお母さんになるのだろうね。
僕は校門付近の木の上にいる。下手に曜ちゃんたちと絡みすぎるのは良くないので、あれから教室を抜けて校舎をぶらぶら歩いていたら、ふとこの木が目に入った。それで漠然と上ってみたくなり、今に至る。
居心地は良い。時々風で穏やかにそよぐ枝や葉っぱは、見ていて何故だか飽きない。地面からは5メートルくらいあるだろうか、そこそこに高い。しかも気を抜くと下に落っこちてしまいそうではある。高所恐怖症の人にはここは厳しそうだと、他人事のように思った。
「しっかしまぁ……曜ちゃんを元に戻さないと本当にまずいぞ……」
澄みきった精神なら、木が答えてくれるかもしれない――中二病くさい願望を抱きながら、僕は語りかけるように心境を吐露する。が、当たり前ながら無反応である。残念だ。所詮は現実ということか。
ともかく色々と疲れたから、もう少しここで一休みして英気を養おう。僕は背中を幹に預け、ぼうっと空を仰いだ――
「なっ! あなたは編入生の……いや、刺客!」
――その矢先。下から痛々しい変な台詞が聞こえてきた。きっと気のせいなので、僕はそのまま沈黙する。
ところが、バッチリ気のせいではなかったらしい。ガサリと枝が揺れたと思ったら――僕の前には美少女の顔があった。
「えっ、ちょっちょっ、近い近い」
「ヨハネ以外にこの木へ堕天する者がいるなんて……!」
ヨハネ? とかいう美少女は焦る僕をよそに、感心するようにまじまじとこちらを見つめている。こうしてすぐに上ってくるあたり、身体能力は相当良さそうだ……?
って、それよかちょいと待ってくれ。
――――いったいヨハネって何ぞや!? 変な女の子来ちゃったよ!
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