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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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252部分:壊れぬものその四


壊れぬものその四

「ユリウス様をお助けし暗黒教団の大司教にあるこのマンフロイの力、しかと見るがいい」
 彼はそう言うと全身から黒い瘴気を出してきた。瘴気は黒い巨大な円球となり彼の全身を覆った。
「ラグナロク!」
 イシュタルのトゥールハンマーに匹敵する巨大な黒球がセリス達に向けて放たれた。
 黒球はすぐに人の頭程の大きさになった。そして複雑に曲がりくねりつつセリスに向かって来た。
「しまった!」
 それには皆虚を衝かれた。一同を狙っているのではなかった。マンフロイは最初からセリスだけを狙っていたのだ。
 セリスは身を屈め黒球をかわした。だが黒球は反転し再びセリスに襲い掛かる。
「くっ!」
 黒球がセリスの胸に迫る。間に合わない。マンフロイがそれを見て会心の笑みを浮かべる。その時だった。
 咄嗟に誰かがセリスの前に出た。何か小さい影だった。
 その小さい影を黒球が直撃した。黒い光が辺りを包んだように見えた。
 何かが焦げる様な音がする。見れば黒い瘴気が少女の胸を蝕んでいた。
「ユリ、ア・・・・・・!?」
 セリスの前に立っていたのはユリアだった。マンフロイのラグナルクの邪悪な力を小さな身体で受け止め懸命に耐えている。
「兄様・・・・・・」
 ユリアはセリスに対して言った。
「申し訳ありません。やっと全てを取り戻せました」
「心を取り戻したんだね、良かった」
 セリスはそれを聞いて言った。彼女は必死にその黒い瘴気と戦っている。そして何としても兄を護ろうとしている。
「フン、洗脳が解けおったか」
 マンフロイはそれを見て苦々しげに舌打ちした。
「だが我がラグナロクの直撃を受け生きてはおれまい。ナーガの脅威はこれで消え去った」
 そう言うと右手で黒い渦を作り出した。
「待て、逃がすか!」
 シャナン達が突進する。
「心配しなくともすぐにまた会うことになる。そして貴様等全員我が神の生け贄にしてくれるわ」
 そう言い残すと黒い渦の中に消えていった。
 そしてユリアの身体を撃つ瘴気の消え去った。彼女は床に崩れ落ちた。
「ユリア!」
 セリスが駆け寄り抱き起こした。
 顔を近付ける。息が弱い。額からは脂汗が流れ顔は蒼ざめている。死相であった。
「にい・・・・・・さま・・・・・・」
 そう言ってうっすらと微笑んだ。紫と青の瞳が光を弱めていく。
「私を護って下さると・・・・・・言って下さいました・・・・・・ね・・・・・・」
「うん、うん」
 両手でユリアの小さい手を抱き締める。温もりが除々に感じられなくなってくる。
「けど・・・・・・兄妹は・・・・・・助け合って・・・・・・生きるもの・・・・・・。だか・・・・・・ら・・・・・・わたし・・・・・・も・・・・・・。にいさまを・・・・・・おまもり・・・・・・した・・・・・・い・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
 青い瞳が霞んで見えなくなってきた。
「けどいま・・・・・・おまもり、でき・・・・・・て・・・・・・。これで・・・・・・わたし、も・・・・・・にいさま・・・・・・を・・・・・・」
「ユリア、もういい。喋らなくていいんだ」
「・・・・・・・・・」
 ガクリ、と頭が落ちる。瞳から光が消えていき急激に身体が冷えていく。
「ユリア!?ユリアーーーーーッ!」
 返事は無い。いくら叫んでも揺さ振っても何も返っては来ない。
「そんな、やっと兄妹だってわかったのに・・・・・・」
 動かなくなってしまったユリアを抱き締める。涙が溢れ出ユリアの顔を濡らす。
「ユリア・・・・・・ユリア・・・・・・」
 それでも名を呼ぶ。しかし彼女の唇は開かれなかった。
「セリス」
 ここでレヴィンが出て来た。
「ユリアは死なない」
 一同その言葉に振り向いた。
 そこにはレヴィンがいた。絶望に沈み込んだ部屋の中で一人希望を持って立っている。右手に何か厳重に作られたダイアの箱を持っている。
「バーハラに行くぞ。そこでユリアは帰って来る。全ての幕を降ろす為にな」
「幕!?」
「そうだ。遂に来たのだ。全てが終わる時が」
 彼は一同に対して言った。
「行こう、そしてその時を見るのだ」
 一同はレヴィンに促されユリアの遺体を抱えヴェルトマーを後にした。
「蛍・・・・・・!?」
 夜ユリアの棺が置かれている天幕の中で巡検の兵士が青と紫の二つの光を認めた。
「蛍にしては少し大きいな。何だろう」
 それは近寄ると遠くに飛んで行った。そして何処かへ消え去ってしまった。
 
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