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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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194部分:魔女その三


魔女その三

「よく言ってくれるねえ。帝室に弓を引きながら。やっぱりあの女の娘だよ。恩知らずなところはそっくりだ」
「・・・・・・・・・」
 ティニーは答えない。ヒルダはさらに毒づいた。
「まあいいさ。ここで私がこの手であの世に送ってやる。母親と同じようにね」
「えっ・・・・・・」
 ティニーはその言葉に絶句した。ヒルダはそれを見て構えを取ろうとした手を止めた。
「おや、知らなかったのかい。イシュタルが御前達親娘を匿ってから私はいつも隙を窺っていたのさ。そしてあの女の食事に一服盛ってやった・・・・・・。やっぱり苦しみながら死んでいく姿を見るのは気持ちよかったねえ」
「御母様が・・・・・・。そんな・・・・・・」
 幼い頃の悲しい記憶が甦る。病み衰えベッドの上で苦しみ涙を流しながら自分の名と兄、そして父のを呼び死んでいく母、従姉に抱き締められてそれを泣き叫びながら見る自分、その全てが目の前にいる叔母の仕業だったのだ。
「御母様・・・・・・」
 俯き呟く。ヒルダはそれを見て邪に笑った。
「悲しむ事は無いよ。今からすぐに会わせてやるからねえ」
「・・・・・・・・・さない」
「んっ!?」
 ビクッ、とした。一瞬ティニーから凄まじい気が発せられたように感じた。
「許さない・・・・・・」
 今度は一瞬ではなかった。間違い無い。気を発してるのはティニーだ。
「許さない!」
 目から炎が燃え上がり銀色の髪が生き物の様に波打つ。全身から発せられる気がはっきりと見えた。
「ほお、でどうするんだい?まさかこの私とやり合おうってんじゃないだろうね!?」
 そう言い終らぬうちであった。
「トローーーーン!」
 ティニーの右腕から雷の光線が放たれる。それも一撃ではない。二撃、三撃と立て続けに放たれる。
 ヒルダはそれを巧みな動きでかわす。かわしながら体勢を整える。
「やるねえ、あのいつも泣きべそをかいていた頃とは大違いだよ。だがこれはどうだい?」
 右手で何かを足下に叩き付けた。火柱が地を走りティニーに襲い掛かる。ボルガノンだ。
 だがティニーの方が上だった。彼女の放ったボルガノンがヒルダのボルガノンを完全に打ち消した。
 ティニーは間髪入れずトローンを連射した。周りの者は全て撃たれヒルダの脇もかすめた。
「畜生、小娘の分際で・・・・・・」
 形勢不利を悟った。ティニーはまだ攻撃を止めようとしない。
「忌々しいがここは退散だ。ティニー、覚えておいで」
 淡い緑色の光に包まれる。ワープの魔法だ。
「あっ・・・・・・!」
 慌てて魔法の照準を正確にする。だが遅かった。
 ヒルダも逃亡しクロノス城は完全に解放軍の手中に陥ちた。次に解放軍は西のラドスへ主力を、別働隊をミレトス峡谷にやり北への侵入を阻むゴート砦へ向けた。
 セリスは主力部隊と共にラドスへ向かった。やがて目の前に六万程の軍勢が現われた。
「帝国軍!?」
「いえ、このミレトスには帝国軍正規軍はもう残っていない筈です」
「じゃあ暗黒教団か!?」
「セイラムの話によると暗黒教団は野戦を好まないとか。あの軍は騎士団を中心とした正規の軍勢です。教団とは思えません」
「じゃあ何処の軍なのだろう」
「暫しお待ち下さい。私が確かめます」
 オイフェは望遠鏡を取り出した。そして思わず笑みを浮かべた。
「どうしたんだい?」
「セリス様御覧下さい」
 セリスに望遠鏡を手渡した。セリスは望遠鏡に映るものを見て驚いた。
 前から来る軍の旗は三つあった。一つは白地に黄色の杖、もう一つは緑地に黒い弓、そして最後の旗は解放軍にもあった。
「エッダ・・・・・・ヴェルダン・・・・・・そしてドズルか」
 望遠鏡から目を離し半ば無心で言った。オイフェは主君に対し笑みで頷いた。
「アグストリア解放軍です。おそらくヴェルダンから海を渡ってここまで来たのでしょう。・・・・・・セリス様、行きましょう。あの場所には貴方をお待ちしている者がいます」
「うん」
 ラドス城東の平原において解放軍とアグストリア解放軍は手を握り合った。ペルルークの時と同じくここでも多くの再会があった。
 青い軍服とズボン、白いマントに身を包み青い髪を後ろに撫で付けた青い瞳の騎士がブリアン、ヨハン、ヨハルヴァの三兄弟と会っていた。
「時とは不思議なものだな。あの幼な子達がこんなに大きくなるとは」
 感慨深げに見る目が温かい。
「叔父上も・・・・・・。御久しゅうございます。今までよく御無事で」
 いつも謹厳で表情を変えぬブリアンが珍しく顔を崩している。三人の叔父、彼こそレックスである。
「バーハラの戦いからアグストリアに潜み十七年、長かった。だが何時か必ずこの日が来ると信じていた。シグルド公子の無念を晴らす日が」
「そして我がドズルの汚名を晴らす日が」
 ヨハンが続いた。
「叔父貴も戻って来たしこれでドズルはまた一つになった。爺様と親父がしでかしてきた過ちを清めスワンチカの旗をもう一度正義の下にたなびかせようぜ!」
「ああ!」
 ヨハルヴァの言葉に四人が一斉に同意した。長きに渡って引き裂かれていたドズルの結束が今ここに甦ったのだ。
 ファバルが茶の髪に黒い瞳をした浅黒い肌の長身痩躯を緑の服とズボンで覆った男と抱き合った。そして喜びを周りに撒き散らして話し掛ける。
「親父、久し振りだなあ」
「ファバル、大きくなったな。まさか俺より大きくなるとはな」
 ファバルに父と呼ばれたかってシグルドと共に戦場を駆け巡り『神の弓』とまで称えられた歴戦の勇士ジャムカは頬を綻ばせた。
 
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