| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/PhantasmClrown

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

MySword,MyMaster
Act-3
  #1

 サーヴァント、というものに、睡眠や食事などは必要が無い。
 そもそも彼らは霊体で在るが故に、疲労や空腹などを感じることがない。真エーテルで構成された彼らにとって必要なのは、現世に繋ぎとめられるための楔――マスターと、その魔力だけである。
 この場合、極論すればマスターも不要となる。ある種の楔の代わりとなる概念礼装があれば、あとは魔力は別の供給源から手に入れればいいからだ。
 食事などは魔力供給の代わりとなるため、中には人間の食事を好んで行うサーヴァントも存在するだろう。

 しかし、そうやって手に入る魔力は、現界にひつようなそれの、ほんの足しにしかならない。基本的にはマスターから魔力を得る方がはるかに効率がいいのはそのためでもある。もっとも、マスターの魔力が非常に少ない、と言うのであれば、食事をとらせる、というのは非常に有効な手段ではある。
 だがそれよりも、もっと効率的に、そしてかつ大量の魔力を賄う方法が、聖杯戦争には存在する。

 ――魂食い。
 そう、呼ばれる。
 この魔力供給方法は、読んで字のごとく。生きている人間の魂を喰らうことで、魔力に変換する、というものだ。
 サーヴァントは真エーテルで構成された、物質を持つ霊体である。第三魔法の産物ともいえるその力こそが聖杯の奇跡の一端と言っても過言ではないが――問題はそこではない。

 魂で構成されている、ということは、同じく魂を継ぎ足すことで、更に強化をすることができる、ということなのだ。

 サーヴァントの現界を保つだけではなく、更にサーヴァントの性能を安定させることができるのが魂食い。

 しかし、留意しておかなくてはならないのは、ここにおいて犠牲となるのは無辜の一般市民――即ち、聖杯戦争の存在を秘匿しなければならない、表の世界の住人たちである、ということだ。
 大っぴらに魂食いを行えば、たちまちのうちに神秘の漏えいにつながり、監督役によって処罰される…具体的には、他のサーヴァントたちによる袋叩きにあうであろう…ことになる。いかに聖杯が聖堂教会からもたらされた物であり、超常の存在達による殺し合いである、とはいえ、あくまでも聖杯戦争は魔術儀式なのである。

 サーヴァントにも願いがある。それを達成するために聖杯戦争に挑む。故に、中途敗北を引き起こしかねないこの方法は、あまりとることは無いだろう。
 故にマスターの殺害というのが裏の戦術として存在し得るのである。

 (ゆめ)、忘れるなかれ。

 聖杯戦争に於いて、最も重要な存在は、ある意味ではマスターである、ということを。



 ***



「マスターが存在しないサーヴァントがいる、ですか?」
「うん。サーヴァントとマスターの数が合わない。サーヴァントは全部で七基いるのに、マスターだけは、どうしてか分からないけど六人分しか反応がないんだ」

 聖杯戦争開始から一日。二日目となる朝のこと。
 昨夜、雪華とセイバーのコンビと、複数のサーヴァントが交戦した。非常に強力な反応、セイバーを含む強力な反応、そして、あまり強大ではないけど、確かにサーヴァントとして、人間とは隔絶した反応。
 どれもがサーヴァントだ。幸いにして脱落者は出ず、雪華とセイバーは無事一日目の夜を超えたらしい……けど、翌日になって問題が発生した。

 僕の術式ハッキングはこの時点で、舞台となっている鏡面界全体の規模の把握に成功していた。おおよそ、東京都――それも、新宿区と同じくらいの規模。かつて聖杯戦争が行われた街を再現したと思しき広さだ。
 そして同時に、内部にある反応全てを把握することに成功したのだ。
 
 ――けれど。
 そこには、在るはずのモノが欠けていた。

「鏡面界には、マスターとサーヴァントの両方が揃っていなければ入れないのでは?」
「うん。そのはず……そのはずなんだけどなぁ」

 そう。
 マスターとサーヴァントの数が、釣り合わないのである。サーヴァント七基に対して、マスターと思しき弱い反応は六人分。明らかにおかしい。
 
 残念ながら、現状では理由に関しては『良く分からない』、としか言いようがない。この聖杯戦争は特殊で、サーヴァントは一人のマスターにつき一基ずつ、しかも令呪の譲渡や再召喚は不可能。
 つまり、必ず七基のサーヴァントと七人のマスターがいるはずなのだ。

 なのに、今、現実に、マスターは足りない。

 そもそもおかしい。この聖杯戦争には一般人が介入しないため、サーヴァントがマスターを失ったまま現界することは大変難しいのだ。せいぜいが、話に聞くスキル【単独行動】を高いランクで有しているから、としか考えられないが……。

 そうだとすれば、生き残っているサーヴァントはアーチャーだろうか。だとすれば逆に、アーチャーのマスター(?)はどうして死んだのか、という、新たな疑問が浮かび上がってくる。

 もちろん、アーチャーのマスターが死んだ、という確証はない。死んだのは別のマスターかもしれないし、【気配遮断】スキルのように、反応を隠す能力を持っているだけかもしれないからだ。

 しかし。

 しかしもし――このマスターが、最初からログインしていない、あるいは、鏡面界とこの世界を行き来する術を持っているのであれば?
 その方法が、誰にでも行えるようなことなのであれば?
 あるいは――術式ハッキングで、コピーすることが可能なのであれば?

 それは可能性につながる。未来への道を切り開く。
 雪華の命を繋ぐための方法を、僕にもたらしてくれるかもしれない。

「……調べよう」

 僕はオペレーターや幹部たちの中から、特に情報収集に向いたメンバーを集め、言う。

「この聖杯戦争について。令呪を宿したマスターのみがその脳裏で閲覧できる、此度の戦のルール……そこに記されていない抜け道があるのか、無いのか。
 そしてあるのであれば、それはどのようなものなのか」

 ――手始めに、するべきことは。

「聖杯戦争に参加したマスターについて。僕たちは、雪華以外のマスターについて何も知らない。時計塔が送り込んだ参加者も知らないし、聖堂教会からの参加者についてもそうだ」

 僕たちは、知る必要がある。
 僕たちは、探る必要がある。

 かつて、アーサー王の時代。
 円卓の騎士たちは、総力を結集して、聖杯を求めた。

 結果として円卓の騎士たちは次々にリタイアしていき、最後に残ったのは円卓の騎士次期十一位のボールス。二位にして、僕達『現代円卓騎士団』のモデルとなった『聖杯騎士団』の団長、パーシヴァル。そして、円卓最強の『完璧な騎士』たる『湖の騎士』ランスロットの息子――『完全な騎士』ギャラハッド。
 最終的に、三人は聖杯に辿り着いた。だが、ギャラハッドは、聖杯を手にするとそれに選ばれ、神の元へと召されたという。彼の菩提と、遺された聖杯を護るためにパーシヴァルは円卓を抜け、それを護り続けた。
 キャメロットはこれによって荒廃し、後のモードレッド卿の反逆を引き起こす原因の一部を担う事になる。
 
 ――僕は別に、この聖杯戦争(グレイル・シーク)を以て、騎士団が解散しようが何しようが、本音の所ではどうでもいい。いや、どうでも良くは無いんだけど、それほど重要視はしていない。どうせ崩壊しないし。父さんが無駄にその辺は基盤固めてったからなぁ……。

 問題なのはそこではなく。
 ギャラハッドの最期――聖杯に選ばれたが為に、ついぞ帰らなかった完全な騎士。

 ――雪華を。彼女を、あの騎士の様にしてはいけない。

 彼女を、必ず。
 僕は、あの虚ろの世界から取り戻す。 
 

 
後書き
 さってさてAct-3ですよ~つまりこの章もあと僅かですよ~まぁ次の章を書くかは未定なんですがね!!

 以上、相棒の誕生日なのにガチャ爆死したAskaでした! 次回は明日の18時更新です!

  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧