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Fate/PhantasmClrown

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MySword,MyMaster
Act-2
  #2

――果たして。
 そのサーヴァントは、ある意味においては『異様』であった。 
 摩天楼の只中――スクランブル交差点の中央に陣取り、槍を大地に突き立て仁王立ちをし、獰猛な笑みを浮かべて対戦相手を待っていたのだから。

「ははははは!! はははははは!!」

 吹き荒れる。
   荒れ狂い。
     狂い叫ぶ。
 何が? 風が。大気が。この世界そのものが。

 セイバーの黄金の剣が動く。重々しい金属音が鳴り響き、同時に発生した凄まじい衝撃が、はるか後方で見守るグレーシャの元まで届く。思わず腕を上げて顔を覆ってしまうほどの、魔力による突風。

 だがそれは、セイバーが攻撃しているから発生しているのではない――逆だ。
 押し負けているのはセイバーの方。彼の足が、徐々に、徐々に、後ろに下がっていく。

「楽しいな……楽しいなセイバー! 良い、良いぞ。この聖杯戦争とやら、どのような戯れごとかと思ったが、存外に愉快だ!」

 相手は、偉丈夫だった。狼や獅子の鬣の様に刈り上げられた髪。後頭部のそれは長く、首筋で一纏めにして流された、まるで尾のような髪型。銀色のボディスーツに包まれた肉体を、更に獣の皮と思しきモノで作られたローブで覆っている。

 両腕にて構えた金属の槍は、長く、太い。穂先は異様なまでに巨大。蕾のような形状をしたそれは、重々しくセイバーの剣とぶつかり合う。その度に暴風が吹き荒れて、周囲のビルを軋ませる。アスファルトに、ヒビを入れる。

 ――これが、サーヴァント同士の戦闘……!

 グレーシャは内心で驚嘆する。想像を絶する攻防。言葉では言い表せない交戦が、この短い時間で行われていた。


 ***


 夜の二時を回った頃、サーヴァントの気配があるな、というセイバーの言葉に対応して、その気配がする、という場所までグレーシャとセイバーは足を向けた。胸中には緊張感、興奮、一抹の恐怖、そして――覚悟。聖杯を必ず持ち帰るという、強い。

 アスファルトで舗装された道路の上を、ちいさな靴音と共に進む。霊体化があまり意味をなさないこの世界に於いて、セイバーを現界させ続けることが可能な程度には、グレーシャにも魔力はあった。故に、常に防勢に移れるように、という意味も込めて、セイバーを実体化させていた。
 最初はセイバーの鎧の音を少しだけ気にしたのだが、実際の所彼のの鎧はほとんど音を立てなかった。相当な重装備なのにまるで重そうな気配も見せない。これがサーヴァント、ということなのだろうか。

 そう考えながら十分ほど。
 ついに到着した目的地には、例の男が一人。ヴン、と、グレーシャの視界に、男のステータスが表示された。そのほとんどは閲覧不可能だったが、しかしそれで、彼がサーヴァントで在ることが確定。

 ――槍、か。
 セイバーが、口の中で呟く。

「オマエ……その得物、ランサーのサーヴァントか」
 
 蒼銀の騎士は問う。獣革の偉丈夫へ。

「いかにも。私はランサーのサーヴァント。この戦に、我が魂を振るわせる一瞬のあることを願う者」

 にやり、と口角を上げると、ランサーを名乗った男は、大地に突き立てた大槍を抜きはらった。

 そしてグレーシャが瞬きを終えた時には――

 既にセイバーは抜刀し、駆け出して。
 ランサーもまた、進撃していた。

 互いの武器がぶつかる。轟音。雷と聞き紛うほどの。閃光。此処が戦場であると、証明する。
 最初の打ち合いで、大地が割れた。
 数秒の後互いに武器を放し、再び。二合目。今度は、周囲のビルの下層、その窓が粉々に吹き飛んだ。

 慄く。これが、聖杯戦争か、と。
 畏敬する。これが、遥かな過去にありて、人類史にその名刻みし英雄たちの戦いか、と。

 心の底から楽しそうに武器を振るうランサー。一切の感情を見せずに剣を振るう、セイバー。

 互いに大きく弾き合うと、後退。
 ランサーが再び構える。彼は、戦闘を止める気はないのだろう。
 セイバーは、どうするのか。グレーシャは、彼の方を向いた。場合によっては指示を出さなくては。先ほどの打ち合いにおいては、セイバーが微妙に不利に見えた――

 ――が。
 その心配は、直後に杞憂となった。

 セイバーが、構え方を変えた。黄金の聖剣を、両手で、しっかりと握る。

 ズン、と地を踏む。震脚。彼の足もとの大地が、放射線状に割れた。

「ォォォ……」

 地の底から響くような、深く、罅割れた声。セイバーの、これまでの若々しい声とは対極。まるで―――まるで、死霊か何かのような。

「オォオォオオオオオオオ!!!!」

 絶叫。大地が爆発し、セイバーの身体は一瞬でランサーに肉薄する。猛烈なラッシュ。黄金の剣を重々しく振り回すセイバー。しかしそれは決してめったらやたらな暴走ではなく、一つづつ、確実に、ランサーの退路を奪っていく切り方。ランサーが目を見開く。グレーシャもまた、まるで人が変わったかのような猛攻に、唖然として声を失う。

「は、はは、ははははは!!」

 ランサーはそれらを受けてなお、荒々しく、そして心底嬉しそうに、笑う。

「素晴らしい……素晴らしいな! 貴様、恐らくはセイバーのサーヴァントか! 貴様のような猛者と、この戦争において最初の戦を繰り広げることが叶ったことを、私は――いや……『俺』は神に感謝する!!」

 ――ハイル・ヴォーダン!!

 ランサーはそう叫ぶと、巨槍を振り回し、穂先にて聖剣と打ち合い始めた。

 ランサーが大地を踏みしめ、豪快に槍をスイングする。セイバーは回避の後に切りかかる。
 セイバーが大地に剣を突き立てると、彼を中心に魔力の波動が炸裂する。【魔力放出】スキルによるものだ。ランサーは大きく飛び退くと、狂気的な笑みと共に全身を使っての刺突。

 互いの実力は、ほぼ全くの互角。グレーシャが此処にいるように恐らくどこかにランサーのマスターもいる。
 故に、ほぼ完全な同アドバンテージ。サーヴァントに疲労は無い。グレーシャの魔力はまだある。このままでは、決着はつくまい――
 
 そう、彼女が焦り始めた時。


「OOOooooo!!!! RooooooooooMeeeeeeeeeee――――――!!!」

 
 咆哮が、聴こえた。

 ズゥン、と形容すべき音。地響き。そして直後、更に大きな音と地響きが轟きわたり、『ソレ』は戦場に現れた。


 ――『ソレ』は、大樹のような巨躯であった。


「……何……?」
「……」

 ランサーとセイバーが、剣撃の応酬を止める。
 二人の英雄に見据えられた、『ソレ』。

 一言で形容するならば、『人型のカブトムシ』であった。
 それも、ただのカブトムシではない。南米はブラジルに生息する、ディナステス属の中でも特に大型の種。
 学名、ディナステス・ヘルクレス――――日本においては、『ヘルクレスオオカブト』の和名で知られる、大型甲虫。
 
 闖入者は、それとよく似た姿をしていた。後頭部から伸びる長い角。そして、額から伸びる、短い角。蟹のハサミのような形状の頭部。まるで翅の様に広げられた、背中から生えた器官は、よく見れば枝と葉の様になっている。全身が城塞の如き、威容。

 二足歩行をするその謎の巨体は、何処にあるのか分からない口から、もう一度絶叫した。

「UoOoooOoOoOoooooooo!!!! RooooooMeeeeeeee!!!!」

 グレーシャの視界に、再びステータス画面。では『アレ』は、サーヴァント……!

「え……っ!?」

 そして思わず、その口からは驚愕の声が漏れる。理由は、簡単であった。

 ――ステータスが、高すぎる……!!

 その木製のカブトムシは。
 ステータスが、全て、Bを超えていた。

「RoooooMeeeee――――!!!」

 咆哮する異形のサーヴァントは、次の瞬間には駆け出していた。

「来るか!」

 ランサーが槍を構えて、激突。とてつもない衝撃波が発生し、交差点が陥没。地割れが起こり、土が盛り上がる。

 しかし、先ほどセイバーと互角に渡り合ったその揚力を以てしても。

「ぬ、ぅう……!?」

 ようやく、均衡を保てるか、あるいは、押し負けるか。それは即ち、闖入者はセイバーと同等かそれ以上の力を持つ事になる。当然だ。そのステータスが全てBを超えるだなどと、トップサーヴァントで在るセイバーですらそうではないのだから。

「ぐぅっ!!」
「Uuuuuuu……!」

 異様のサーヴァントがランサーと弾き合う。先ほども聞いた、唸り声。
 高すぎるステータス。とてもではないが、理性があるとは思えない言語能力。
 ならば。もはや、結論は一つしかつけられない。

 あれは――

「バーサーカーの、サーヴァント……!」 
 

 
後書き
 バーサーカー……一体何祖誰ムスさんなんだ……

  
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