ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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180部分:バルドの旗の下にその三
バルドの旗の下にその三
「これは意地のお悪い。すでに我等が同志達はペルルークを引き払い残されたのは僅かな将兵のみ、陥落は時間の問題です」
「そして奴等が気を抜いたところを、か」
「はい。ユリアを捕らえるのは私が直接行きます。必ずやユリウス様の御前にユリアを連れて来ましょうぞ」
「よし。マンフロイ、全てをそなたに委ねよう。吉報を待っているぞ」
「ハッ」
「ところで外に出ないか?是非見せたいものがある」
「喜んで」
二人は笑みを浮かび合わせると黒い渦の中に消えた。
二人が現われたのはバルコニーだった。周りには黒と赤の軍服に身を包んだ不気味な者達がおりその下には広間を埋め尽くさんばかりの子供達がいた。皆親や兄姉の名を呼び泣き叫んでいる。
「どうだ、素晴らしい歌だろう」
「まことに。我等が神の復活を祝う麗しき賛美歌ですな」
「そうだ。もうすぐイシュタルが新たな子供達を連れて来る。そうすればこの子供達を互いに争わせ残った者を暗黒教団の信者に敗れた者はいけにえにしてくれる」
ユリウスは周りの者が持って来た水晶の杯に紅い葡萄酒を注ぎ込みつつ子供達を見下ろしながら言った。
「よろしいのですか?陛下は子供狩りだけは反対しておられましたが」
マンフロイの意地の悪そうな笑みを浮かべた質問にユリウスは目を閉じ口だけで笑った。
「父上?フフフ・・・・・・・・・」
すぐにその目を見開いた。
「父上も私には逆らえんよ。それはそなたが一番よく知っている筈だがな」
紅い瞳が竜のそれになっていた。大きく裂けた口からは牙が見える。
「皆の者、我等が時代が復活する日は近い。世を暗黒で包み絶望と恐怖で彩り断末魔の叫び声で満たし地獄の業火で全てを支配しようぞ!」
「はっ!」
禍々しく伸びた爪で杯を高々と掲げるユリウスに周りの者達はいっせいに敬礼した。その敬礼は右手の平の先を右目尻に付けるヴェルトマー式でも右拳を左肩に付けるバーハラ式でもなかった。両方の踵を付け右手を真っ直ぐ斜めに突き上げる敬礼だった。それは百年以上前に滅び去った帝国の敬礼であった。
ーペルルーク城ー
ミレトスとレンスターの境にその城はあった。都市としても大規模であったがこの城の最大の役目は要塞としてミレトスへの侵入を防ぐことであった。その為三重の城壁は高く濠は深く広かった。かって魔法騎士トードがこの城において暗黒教団の軍を迎え撃ちガレ十一世の重臣でもあった敵将モンフォールを壮絶な一騎打ちの末に倒したことでも知られておりその堅固さはレンスターの諸城よりも数段上と言われている。そのペルルーク城で今歴史の歯車がまた一つ組み合わされんとしていた。
「珍しく静かな夜だな」
一番外の城壁の上で夜空に浮かぶ満月を見上げながら槍を持った歩哨の一人がポツリ、と言った。白いバーハラの軍服を着ている。
「ああ。あの不気味な連中がいなくなったおかげだよ」
相方がその言葉に同意する。彼も同じ軍服を着ている。
「・・・・・・それにしても何であの連中が生き残ってたんだ?確か先の聖戦で滅んだ筈だろ」
「ああ、それが今頃・・・・・・もしかしてアルヴィス皇帝が?」
「その話詳しく聞きたいわね」
不意に城壁の方から女の声がした。
「ん!?」
二人は声のした方を見た。そこには満月を背に城壁の上に立つ女剣士がいた。
長い黒髪を風にたなびかせている。月を背にしているが黒い瞳と白い肌を持つ凛とした美しさを持つ女性である。紫の上着と白いズボンに白の胸当てを着けている。右手には業物と見られる剣が握られている。
「いっ、何時の間に!?」
「さっきの貴方達のおしゃべりからね。さあ続きを聞かせてくれる?」
女は悪戯っぽく笑った。
「誰がっ!」
「痴れ者!」
槍を手に向かって来る。女剣士は舞うように城壁から飛び降りると剣を振るった。
二本の槍が回転しながら夜空に舞った。彼女は呆然とする歩哨達の方を振り返り微笑んだ。
「これで話してくれるかしら」
女が兵士達を屈服させたのを合図とするようにペルルークの三重の城壁の門が次々とこじ開けられていく。その門を軍勢が疾風の如く突き抜ける。
「無駄な抵抗は止めろ!命を粗末にするな!」
迎撃に来たバーハラの兵士達の剣や槍を弾き飛ばす長身の剣士が言った。金髪碧眼の美男子で濃緑のズボンに黄色の上着、そして青い胸当てに銀の大剣を持っている。
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