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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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179部分:バルドの旗の下にその二


バルドの旗の下にその二

ーミレトス城ー
 ミレトス、この地の名を知らぬ者は大陸にはいないであろう。ロプト帝国の時代暗黒教団が行なった『ミレトスの嘆き』は数百年経た今でも人々の心に染み付いていた。
 父や母の手から幼な子を奪い取りその目の前で生きながら業火にくべるーーーー。『大粛清』『エッダの虐殺』と並んでロプト帝国の残虐さを物語るこの悪夢の犠牲となった子供の数は数万人に達した。それ以後も暗黒神への生け贄として炎に焼かれる子供は後を絶たず十二聖戦士によって帝国が討ち滅ぼされるまで続けられた。
 ロプト帝国が倒れ聖戦士達の指導者的存在であったヘイムを中心としてグランベル王国と六公国、五王国が建国されるとミレトスは一転して暗黒教団の信者達が連れて来られる場所となった。そこに連れて来られた教徒達は今度は自分達が生きながら炎の海の中に落とされた。まず親から子供が引き剥がされ泣き叫ぶ幼な子を親の目の前で焼き殺し親はあえて餓えさせておいた猛獣達の生餌とするーーーー。その他にも真っ赤に焼けた鉄の靴を履かせたり両手両足を縛り上下から引き千切れるまで引っ張ったり身体を寸刻みにしたりといった血生臭い処刑が執り行なわれた。暗黒教団の者ばかりでなく疑いをかけられた者までその処刑に課されようとするに及んで十二聖戦士の中で最も仁愛に満ちた心を持つ大司祭ブラギが十二聖戦士の指導者である聖者ヘイムにとりなすよう求めたことでこうした惨劇は幕を降ろした。やがてヘイムと他の聖戦士全員の名をもって暗黒教団の滅亡が発表されるに及んで人々も残虐な報復を忘れていった。やがてミレトスはシアルフィ家やエッダ家と友好を結ぶ小都市群となりミレトス城は十二聖戦士を祭る神殿が設けられ巡礼地の一つとなった。ミレトスは歴史の重要な舞台であった。
 そのミレトス白に今一人の少年がいた。紅い髪と瞳を持ち白い肌、豪奢な黒と金の軍服、紅のマントで包んだその少年を知らぬ者はいない。
 魔皇子ユリウス、人々は彼を怖れを込めてそう呼ぶ。冷酷にして残忍、子供が虫を殺すように人の命を玩ぶその所業とそれでいてその忌まわしき行いを全て正当化出来る弁舌、世の者とは思えぬ程の強大な禍々しい魔力と何処か人を惹きつけて離さぬ妖気すら漂う魅力、それはかって大陸に絶望と殺戮の帳を降ろしたガレのようであった。実母でもある皇后ディアドラの死と共に帝国の表舞台で表われると恐怖政治を敷いた。人々はアルヴィスを責めたが最早彼には何の実権も無く事実上帝国の独裁者として君臨していた。
 遠く離れたバレンシアに棲むと言われるガーゴイルやゾンビの像が飾られ上にはバーハラの宮殿の地下にあるのと同じ紅水晶の髑髏で作られたシャンデリラがある。黒檀の扉をノックする音がした。
「入れ」
 扉の前に黒い渦が生じた。やがてその渦は人の背丈程の大きさになり中から人間が現われた。
 それは血の様な赤いフードが付いたローブを身に纏った老人だった。やや高めの背に皺だらけの禍々しい顔付きをしている。右目は無い。潰れているようだ。驚くべきはその左眼である。何と瞳が二つある。その険しい眼つきからこの男が邪眼の持ち主であるとわかるがこの二つの眼からは人のものとは思えぬおぞましい気を発していた。だがユリウスはこの男を見て微笑んだ。
「相変わらず面白い入り方をするな」
 ユリウス自身の声も奇妙である。透き通り高くそれでいて邪な感じのする声と地の底から響く獣のような声が二つ同時に同じく発せられている。
「勿体無きお言葉」
 男は一礼した。ユリウスの笑みがまるで道化師の仮面のようになった。
「ここに来た理由はわかっている。遂にユリアの居所がわかったのだな」
「はい、東のセリス皇子の軍におりました。どうやらレヴィン王が匿っていたようです」
「セリス皇子か・・・・・・。『光の皇子』と愚か者共に持て囃されているバルドの者だな。そしてヘイムの血も引く私の兄弟・・・・・・」
「その通りでございます」
「セリス皇子が『光の皇子』ならばさしづめ私は『闇の皇子』か。世を絶望の闇に染め上げる闇の後継者。そしてユリアは・・・・・・。フフフ、まあ良い。それにしても二人が同じ場所にいるとはな。各個に消す手間が省けるというものだ。既に手は打っているのだろうな」
「はい、ペルルーク城に私の部下を数名潜り込ませました」
「ペルルーク?あそこはまだ我等の勢力圏だぞ」
 ユリウスはそう言って悪戯っぽい、それでいて邪悪な笑みを浮かべた。
 
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