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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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150部分:幕が開きてその四


幕が開きてその四

ートラキア城ー
 トラキア王国南東部トラキア地方にトラキアの王都はある。トラキアが北のレンスターと分裂するより前からトラキア王国の王都であり古い歴史がある。地味が比較的良くトラキアでは数少ない人口密集地帯でもありトラキア一の都市としても有名である。つくりは豪壮でありながら装飾などは一切無く他の国の宮殿と違い大理石や宝玉等も無く内装らしいものも見受けられない。宮殿にはトラキア王国の旗が翻り厳重な警護が敷かれている。
 王宮の奥には王の間がある。扉は木製の質素なものであり廊下にはかろうじて赤絨毯が敷かれているにすぎない。その木の向こうから雷の如き声が響いてくる。
「マンスターを攻め落とせぬばかりか前線基地であるミーズまで陥されるとは一体どういう事だ!」
 声の主はトラバント王であった。玉座から立ち上がり激しい口調で下に控えるアルテナを叱責する。
「それもそなたは前線に出ずほとんど後方で控えコルータやマイコフ達に任せたきりだったというではないか、王家の者は最前線で剣をとるというトラキア王家の伝統を忘れたか!」
「・・・・・・」
 アルテナは一言も発しない。二人の間にはアリオーンが控えている。
「アルテナ、わしを甘く見るなよ。わしは貴様が女ながら武芸に秀でているが故アリオーンと共にわしの両腕として貴様を育ててきたのだ。もし役に立たぬというのであれば実の娘であろうとも容赦はせぬ!」
「・・・・・・父上」
 アルテナはようやく言葉を発し顔を上げた。トラバントの叱責も止んだ。
「何だ!?」
「シアルフィ軍と講和いたしましょう。非は我等にあります」 
「講和だと!?馬鹿を言え!」
 王は声を荒わげる。だがアルテナも退かない。
「混乱の隙に乗じマンスターに侵攻し多くの民衆を手にかけたのは我等です。しかし彼等は我が軍の捕虜を返し講和を申し出てきました。大儀は彼等にあります。シアルフィ軍と結び先の大戦を引き起こしバーハラ王家とシグルド公子を亡き者にし帝位を簒奪したヴェルトマーこそ討つべきだと存じます」
「帝国を?何を戯言を。我がトラキアは帝国の同盟国だぞ」
「帝国には最早大儀なぞありませぬ。帝国を討つ事こそトラキアの民の為です。大儀なくして国はありませぬ」
「フン、大儀だと。そんなものが何になるというのだ。取れるものは取れる時に力づくで奪えばよいのだ」
「父上、それでは・・・・・・」
「黙れっ!貴様はわしの言う通りにしておればよいのだ!」
 二人の間に火花が散ろうとする。その間に今まで一言も発しなかったアリオーンが入った。
「もう良いアルテナ、御前は疲れているのだ。部屋に帰って休め」
「兄上・・・・・・」
「さあ、行け。そして疲れを取りまた参上するがいい」
「はい・・・・・・」
 アルテナは父王に敬礼をし部屋を後にした。後には王とアリオーンが残った。
「父上、お許し下さい。アルテナはまだ子供なのです。父上に甘えているだけです」
「アリオーン、御前がそうやって甘やかすからアルテナがつけあがるのだぞ」
「ハッ、申し訳ありません」
「フン、まあ良いわ」
 王は顔をアリオーンから今しがたアルテナが出て行った扉の方へ向けた。
「それにしても血は争えぬな。親に似てきおったわ。あ奴はわしを嫌っておる」
「・・・・・・・・・」
 アリオーンは顔を下に向け言葉を発しなかった。王はそれ以上語ろうとせずただ扉へ顔を向けたままであった。
 アリオーンも部屋を後にした。暫く王が一人で部屋にいたが扉を叩く音がした。
「入れ」
 十人程の騎士が入室してきた。皆横一列に習い王に敬礼する。王はそれに手で鷹揚に応え絨毯の左右に並ばせる。騎士達は直立不動の姿勢で左右に同じ数ずつ並んだ。
 また扉を叩く音がした。王が入るように言うと若い騎士が入室し敬礼した。
「ハンニバル将軍が来られました」
「通せ」
 若い騎士に連れられ壮年の男が入って来た。
 大きい。長身で知られるトラバント王より頭一つ高い。その上胸板も厚く全身が筋肉で覆われている。薄茶色の髪と髭は長く濃くツヤがある。黒い瞳は強い光を放っておりこの人物が只者ではない事を知らしめている。濃緑色の軍服と白ズボン、白マントは質素ながら手入れが行き届いている。彼こそがトラバント王の長年の腹心にして『トラキアの盾』の異名で知られるトラキアが誇る名将ハンニバルである。
 
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