| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

To Heart 赤い目

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

滅殺

「あの、滅殺です」
「姫川…… 琴音」
 おまけシナリオのように、琴音の背中には真紅の「天」の文字が浮かんだ。
 どうやら「不幸の予知」から解放された少女は、自分以外にも「なでなで」してもらったロボットがいたり、空手部の先輩から部に戻るように言われた同学年の女が、運命の人に「股割り」してもらったり、緊張しないよう「体をほぐして」もらって先輩と戦って勝ったり、幼なじみとも恋人同然の暮らしをしていたり、来栖川のお嬢様ともゴン太君方式で会話ができて、怪しい儀式にも何度か付き合い非常に親密にしていて、その妹とまで格闘関連で親しくして一緒にトレーニング、毛唐の帰国子女は運命の再開などしやがったので、全員を二度と浩之の前に立てなくなるよう叩きのめすつもりで来ていた。

「ふっ、私も舐められたものね、視線も合わせられないような大人しい子が、どうやって私を倒すの」
 構えを取って力を込め、琴音を威圧する綾香、坂下、セリオ、葵。
「こうやって、です」
 ヒューン! ドカッ!
「ぐはっ!」
 琴音が片手を上げると、見えない衝撃波が綾香を襲い、後ろに吹き飛ばした。
「なっ、何だこいつっ、気功使いか?」
「テレキネシスだ」
 綾香達が怪我をしないよう、琴音の力の正体を喋ってしまう浩之。
「そんなバカなっ」
「藤田さんっ、それは私達だけの秘密じゃなかったんですかっ! それをその人に簡単に… はっ! そうなんですね、この人が藤田さんにとって大切な人なんですね… 私なんかよりずっと!!」
 すっかり出来上がって、逆上する琴音。 目付きが危ない領域に到達し、綾香に殺気が向かう。
「違うっ! こいつに怪我させな 「いやあっ! 聞きたくありませんっ!」 いように言ったんじゃないかっ」
 すでに琴音は耳を塞ぎ、大声を出していたので、浩之の言葉なんか聞いちゃいなかった。
「聞きたくないっ! 藤田さんの口から他の女の名前なんか聞きたくないっ! それも愛の告白なんてっ!」
 すっかり暴走して、浩之が「おれはこの女が好きだーー!」とでも叫んでいるように見えたらしい。
「許さない… 私から藤田さんを奪って行くなんて、絶対許さないっ!!」
 左手で耳を塞いだまま、右手を伸ばして何かを掴むような動作をする琴音。
「ぐううっ」
 そこで何故か、胸を押さえ、苦しそうにうずくまった綾香。
「どうした? 綾香っ」
「綾香さんっ」
「琴音ちゃん、何したんだっ?」
「私、あれから練習したんです、この人達に勝つためにどうすればいいか。 どうです? これなら大きな力を使わなくても、貴方達を倒すなんて簡単」
「アヤカサン、心拍ガ低下シテイマス」
 倒れた綾香を仰向けにしたセリオが、心臓マッサージを始めた。
「まさか? やめるんだっ! 琴音ちゃん」
「いやっ、来ないでくださいっ!」
 浩之の言葉で集中が切れたのか、綾香の心臓を掴むような手付きを止める。
「大丈夫デスカ,アヤカサン」
「ゴフッ、も、もういい、セリオ」
 セリオに支えられながら起こされ、懲りずにまた琴音に向かう綾香。
「何て奴だ、超能力だと?」
「超能力じゃ不満ですか? それなら、これでどうです」
 ヒュン! ガキッ!
 その時、綾香の隣に坂下が割り込み、何かの攻撃をガードした。
「好恵…?」
「何をボーっとしている? 真横からの攻撃にも気付かないのかっ!」
 真横から綾香の後頭部に向けて、背中を折り曲げるように繰り出された、信じられない角度からの蹴り。
 機械のように正確に急所を狙った攻撃を受けていれば、綾香と言えど、ただでは済まないはずだった。
「だ、だって…」
 自分を攻撃した相手を信じられないように見ている綾香、それはすでに坂下と向かい合って構えを取っていた。
「まさかセリオが私をっ!」
 反射的に体が動き、致命の一撃はかわせたが、よもや自分を支えていた相手から攻撃を受けるとは思っていなかった。
「それがあいつの狙いだ、マルチと同じで、こいつも操られている」
「琴音ちゃんが?」
「私、人間の友達は出来なかったけど、メイドロボの皆さんとはすぐに仲良くなれました、今日も私の為に、沢山のお友達が集まってくれてます」

 ヒュゥゥン! バキバキッ! ゴゴゴゴゴゴゴッ!
 周囲から機械音がすると、神社の境内に何台ものメイドロボや、作業用ロボットが現れた。
「あのデカいのは、メイドロボじゃないだろ」
 工事現場で働く巨大なロボットを見て、一応ツッコミを入れてみる浩之。
「ヨシエサン?」
 キュウウウウウウン!
 セリオもあり得ない加速をして、坂下に届く範囲に入ると、モーター音を響かせながら人間には到底繰り出せない手数の突きを放ち、拳や打掌ではなく殺人のための手刀で突かれ、脚が届く範囲の物を全て薙ぎ倒す、鉄の回し蹴りに翻弄される。坂下は防御を崩され、急所を突かれてあっという間に倒された。
「坂下さんっ!」
 そう言った葵の前でも、独楽のように回転するマルチが現れ、手足の防御など鉄の脚で弾かれ、その間にも急所への手刀を叩きこまれて、鋼鉄の脚で吹き飛ばされた。
「葵っ!」
 人外の攻撃には成すすべもなく倒された格闘家、綾香も一時心臓を止められたダメージからは回復しておらず、逃げ道を探した。
「くっ! 私達を傷付けて、ただで済むとでも思ってるのっ?」
 自分の力では葵や浩之を守れないと悟り、一番嫌な来栖川の力で琴音を威圧しようとする。
「思ってません、だから藤田さんの前から消えて下さい」
 ザムザムザムザム!
 包囲の輪を縮め、ゆっくりと群がって来るロボット達。そこで綾香は諦めて、長瀬博士から渡されていたスイッチを作動させた。
 ボシュッ
 自爆装置が作動してマルチの首が飛び、関節も外れて無力化され、その場に転がった。
「ふふっ、一つぐらい減らしてどうするんです? 今頃、来栖川の工場でもこうなっているはずです、もし失敗しても工場は閉鎖でしょうね、でも、成功すれば…」
「「成功すれば?」」
 ニヤリ……
 琴音は悪魔の微笑みで答えた。

「逃げるぞ綾香っ! 坂下を頼む!」
「ええっ」
 琴音の手に落ちたマルチやセリオを諦め、今は倒れた葵や坂下を連れて逃げる事にした浩之。葵を背負い、走り出そうとした浩之だったが……
「ひ… ひろゆきさあ~~ん、捨てないで下さい~~」
 壊れた手で浩之の足を掴みながら、スローモーションのような低い声で呼ぶマルチ。
「うわっ!」
 グシャッ!
 綾香がマルチの手を踏み潰し、残骸を振り解く。
「ひどいです~~、綾香さん~~」
「くそっ! 囲まれた! え?「奇遇ですね」って」
 浩之が視線を向けた先、境内の石段の上には、綾香の姉の芹香が立っていた。
「何言ってるんだ? 先輩。 危ないから逃げてくれっ」
 フルフル
 首を振って、琴音を指差す芹香。
「…琴音ちゃんと話してるのか?」
 コクコク
「え? 「私も友達は出来なかったのですが、「人間じゃない方」とはすぐに仲良くなれました」だって?」
 コクコク
 その言葉を聞いて、とても嫌な予感がする浩之と綾香。
「な…「だから今日は、もしもの時の為に、沢山のお友達が集まって下さ…」ギャアアアアアッ!!」
 地面の中や、自分の体の中から沢山の「お友達」が出てきてしまい、悲鳴を上げる浩之。
「あっ! あああっ! ふうっ」 
 沢山の怨霊、幽霊、魔物、悪鬼羅刹を認識できず、ブレーカが飛び、即座に機能停止するマルチ。
「識別不能、衛星カラノデータ………… 照合無シ、理解不能、眼球モシクハ視覚野ニ異常ガアリマス、コレハ例外0100882ニ該当シ、メンテナンスヲ必要トシマス、10秒後ニ再起動シマス、本起動中ノデータハ保存サレマセン、7,6,5,4……」
 目の前を飛んでいる、「何か」を目線で追いながら、セリオも機能停止し、リセットマシンに成り下がった。
「キャアアアアアアアッ!」
「ひぃいいいいいいっ!」
 坂下と葵も、「インディ*ョーンズで聖櫃が開いたようなシーン」を生で見てしまい、息も絶え絶えな状態から、白目をむいて泡を吹いて気絶する状態にレベルアップした。
「いやっ! イヤアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 そして、あの綾香にも苦手な物があったらしく、浩之にしがみ付いて壮絶な悲鳴を上げていた。
(え?「綾香ちゃん楽しそう」 ってそうじゃないだろ、先輩)
 クスクスッ
 すでに自分の体を離れ、上から自分達を見ていた浩之には、芹香が笑っているように見えた。

 そして勿論、琴音も…
「キャアアッ!」
 ロボットの力や、テレキネシスが全く通用しない相手には、対抗する方法も無く、他の者と同じように悲鳴を上げていた。
「来ないでっ!」
 情け容赦無く、芹香のお友達が飛び回り、明らかに芹香とはお友達ではない少女を威嚇する。
『ワンワンッ!』
 しかしそこで、犬の鳴き声がすると、お友達も琴音への攻撃を止めた。
「えっ?」
 振り返るとそこには、「不幸の予知」で雨の日に車にはねられ、怪我をした子犬の幽霊が、琴音を庇うように立ち塞がり、芹香のお友達から守ろうとしていた。
「やっぱり、助からなかったのね」
 病院には連れて行き、治療は受けたが、結局、野良の子犬は長生き出来なかったらしい。
『ワンッ!』
「え? 「私のせいじゃない」それに「一人じゃない、ずっと見守っていた」ですって?」
『フゥーーー!』
『キャンキャン!』
『ピヨピヨピヨ!』
 琴音の周りを沢山の動物達が取り囲み、芹香のお友達を近寄らせなかった。
「そう、そうだったの、ありがとう、ありがとう……」
 偏見に曇った琴音の赤い目を、暖かい涙が洗い流して行った。

 サク、サク、サク、サク
 やがて、琴音の気持ちの変化を悟ったように、芹香が沢山の「お友達」と動物達の間を、道を開くように歩いて来る。
「あ、貴方は来栖川、芹香」
 コクコク
「貴方の勝ちです、マルチさん達もお返しします。 それに… 藤田さんもっ!」
 子犬?を抱いたまま瞼を閉じて、悔しそうに顔を背ける琴音。
 フルフル
「え? 「違います、勝ち負けではありません」ですって?」
 コクコク
 琴音とも「ゴン太君方式」で話ができる芹香、この場合、間違いなくテレパシーだと思われる。
「え…「マルチとお友達になって下さってありがとうございました」、それに…「今日は楽しかった」ですって?」
 コクコク
 自分達の命を狙った相手に向かって、平然と「楽しかった」と言う芹香、少し器の大きさが違うらしい。
「よくもそんな事をっ! 私から藤田さんを奪っておいてっ!」
 そこで琴音に向かって手を差し出す芹香。
「キャッ!」
 身の危険を感じた琴音は、身を硬くして胸の子犬を守るように抱きしめた。
 なでなでなで
「あっ! …「怖がる事はありません? 誰も…貴方から藤田さんを奪ったりしません」ですって?」
 コクコク
「どうして? 私は貴方も、藤田さんに近付く女の人を全部…」
 なでなでなで、なでなでなで
「うっ、ううっ」
『ワン、ワンッ!』
「え? 「ワンちゃんも言っています、貴方は良い子だから悪い事なんかできません」ですって?」
 コクコク
「…「綾香ちゃん達も、大好きな格闘をして楽しそうだったので満足でしょう」…?」
 コクコク
 その3人と2体は、楽しそう?に気絶して、泡を吹きながら仲良く倒れていた。
『クゥ~~ン』
 鼻を鳴らし、芹香の手をペロペロと舐めている子犬の幽霊。
「え? 「ワンちゃんとはお友達になれましたから、もう貴方ともお友達です」って、 そんなっ」
 なでなでなで、なでなでなで
「あ…… はい…」
 まだ琴音を守る霊は、芹香には及ばなかったが、似たような才能を持つ二人は、お友達になった。
『ニャ~~~』
『ワンワンワンッ』
『ヒャオウウウウウ』
『ウオオオオオオォン』
『ギャアアアアアッ!』
 そして琴音にも、周囲を飛んでいる沢山の「新しいお友達」ができた。

(あ、あの、先輩、日も呉れたし、きょうは解散にしないか? こいつらも家に送るか、病院にでも入れないと?)
 リミッターが効いて、気絶した二人と違い、気絶もできず最後まで抵抗して、体を乗っ取られたのか、押し出されて霊体のまま浩之に抱き着いて、まだ壮絶な悲鳴で泣き叫ぶ綾香。
 体は何かに憑依されて動いているようで、そろそろ精神が焼き切れてしまいそうな大変な状態になっていた。
(ひぎゃああああああっ!! あああっ! うわああああああっ! ZSDFくげるいお;GふいおうぇGHふぁういおQFるHげGHLS;!!!)
(頼むっ、先輩っ! もう綾香が死にそうだっ!)
 芹香が指を動かし、綾香と浩之の霊を体に戻すと、綾香は気を失って倒れ、お友達にも話しだした。
「え? 「みんな今日はありがとう、もっと沢山遊びたいけど、この子たちと下に待たせている人がもう耐えられないから、解散しましょう」だって?」
 コクコク
 そう言う配慮ができるなら、早めに救ってやれば良いのに、とは思ったが、芹香と琴音は楽しんでいて、結構離れている階段の下では、はみ出した幽霊が挨拶しに行っただけで壮絶な悲鳴が聞こえている。
「ああ、「また会いましょう、さようなら、おみやげをどうぞ」だって?」
 コクコク
 お友達はビン詰めの品や、何かの薬品を持って、楽しそうに帰っていった。
 辺りが静まった頃、地面に転がっていた人物とメイドロボも回収され、浩之や芹香と一緒に来栖川邸に送られた。神社の神職などは救急車に収容され病院に向かった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧