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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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133部分:騎士その一


騎士その一

                        騎士
 マンスター東にマンスター山脈という比較的高い山脈がある。その向こう側がフィアナと呼ばれる地である。
 複雑に入り組んだ小さい河川と海岸線で知られ農業や漁業が盛んである。レンスター領にありそれなりに豊かな地であったが戦略的に重要ではなく特に堅固な城塞は建てられなかった。比較的小規模の町や村が存在し民衆は平和に暮らしている。
 そんなフィアナ南部のある村である。村の中の大きい家の中の一室に一人の若者が横たえられていた。
 端正な顔立ちである。引き締まり気品が漂っている。黒い髪は下ろされている。長身であり身体も鍛えられ良い筋肉をしている。どうやら騎士らしい。
 目覚めた。目の前には木の天井がある。右を向いた。窓からのどかな田園が見える。農夫が牛で畑を耕し水車が回る。若い娘が乳牛の乳を搾り幼い男の子が犬と共に羊の世話をしている。水田は緑の稲が並びカラカラと鳥避けの板の音がする。
「ヴァルハラではないようだな」
 騎士は楽しそうな農夫や娘達の姿を見ながら呟いた。ベッドから起き上がる。左肩の傷には包帯が巻かれている。上半身は裸であった。見れば軍服とケープが壁に掛けられている。扉には鍵がかけられていない。どうやら敵の捕虜になったわけではないようだ。
「何処かの農家の家らしいが・・・・・・何処だ?」
 口に右手を当てて窓を見ながら考えたがわからなかった。そもそも何故ここにいるのかさえも解からない。
「とりあえず部屋から出るか」
 服を身に着けケープを手にし扉を開けた。廊下を歩くとやや広い部屋に出た。中年の女がかまどの側で火を焚き幼い娘がそれを手伝っている。家の主人らしき男が息子らしき少年にあれこれ指示を出しながら色々と食器や食べ物を出している。昼食の用意をしているようだ。
 家の主人が騎士に気付いた。にこやかに微笑を返してきた。
「お気付きになられたようですね」
「はい」
 悪い人物ではないようだ。むしろかなり良い印象を受ける。
「丁度昼飯を用意していたところです。御一緒しませんか?」
「そちらがよろしければ」
 主人とその家族達と共に食卓に着いた。ガーリックとベーコン、オリーブ油のスパゲティに生ハム、人参やキャベツ、赤玉葱を煮たもの、そしてトマト味のリゾットとビールであった。量も多く中々美味しそうである。口に入れてみた。
 美味かった。スパゲティはコシがありオリーブと程好くからまっている。ハムは手頃に斬られ弾力があり野菜も柔らかい。リゾットはトマトの味をうまく引き出し温かくよく炊かれている。ビールもよく寝かされていたのか甘味と苦味が調和し喉越しが涼しい。
 騎士は食べながら主人にここは何処か、そして自分は何故ここにいるのか問うた。主人は快く答えてくれた。
 主人によるとこおはフィアナのやや南にある小さな村だという。自分がこの村の村長でマニフィコという。妻はミカエラ、息子はダーヴィット、娘はマグダレーネという。子供達の名がグランベル風なのは二人の名付け親の妻の父がエッダ出身だかららしい。マニフィコによれば一週間程前自分がトラキア河南岸のある港町で麦を売りに行った帰り岸辺に流れ着いている騎士を見つけ救い出したのだという。そして傷の手当てをし船でこの村まで帰り昨日の夕暮れにこの村に着き部屋に寝かせたのだという。
「そうか、あれから一週間も経つのですか」
「コノートでの戦いのことですな」
 マニフィコは騎士に問うた。
 「はい」
「よくぞ生きておられました。あの時は豪雨で河の流れも急でしたのに」
「運が良かったのですかね」
「いえ、そうではないでしょう」
 マニフィコは真剣な顔になった。
「貴方が今生きておられるのは天命なのです、将軍」
「将軍!?まさか・・・・・・」
 騎士は思わず身構えた。自分の事を知っている、そう直感した。思い当たるフシはある。
 
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