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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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ヘイトレッドチェイン

 
前書き
執筆の参考として、なのは世界の設定を見てると思うんですが、表向きは明るくても背景は物凄く暗いんですよね。それこそ、やろうと思えばどこまでもってぐらいに。 

 
新暦67年9月24日、22時08分

ミッドチルダ北部、聖王教会領地、上空。

「雷光輪・追の太刀、極光!!」

激しい雨に打たれる最中、レヴィが飛翔する魔力刃を十字に繰り出すも、アルビオンは全身を回転させてダブルセイバーで相殺。弾丸のような勢いで接近する彼の刃をレヴィはバルニフィカスを交差させ、防ぎきった直後、目まぐるしい速度で両者は刃と気迫を衝突させて鍔迫り合いに持ち込む。

「はぁぁああああ!!」

「怒り任せで戦ったところで、私は倒せん!」

「黙れっ!!」

力任せでアルビオンの剣を弾いたレヴィだが、相手は弾かれた勢いを逆に利用してサマーソルトをレヴィの顎に当てる。軽く身体が持ち上げられ一瞬意識がぐらついて左手の剣を落としたが、すぐに持ち直した彼女は目の前に迫る黄金色の刃を右手の青い剣で受け止める。

「そら、どうした? 負けられないんじゃなかったのか? その程度の力で俺に勝つなどとほざいたのなら、いささか拍子抜けだぞ」

「なめるな!!」

しかし現実では、嵐の空で繰り広げられる激闘はレヴィが若干押されつつあった。一応スペックで言えばスピードは負けていない上、素体が力のマテリアルであるので膂力も彼女の方が上である。だがここで男性と女性、大人と子供での体格の差が明確に響いており、本来の力を上手く活かせずにいた。さらに一度崩されたら徹底的かつ狡猾にその隙を突いてくるため、後手に回らざるを得ないのだ。

だが……、

―――バンッ!!

「なにっ!?」

アルビオンの刃がレヴィの首に迫った瞬間、爆音と同時に彼女の姿が消える。誰がどう見ても直撃必至で避けられるはずがない攻撃がまさかの不発となり、面の皮が厚いアルビオンも思わず驚愕の声を漏らす。
すぐさまレヴィの魔力及び気配を探ろうとしたアルビオンだが、探知魔法を発動させる前に真下から殺気が迫っていることに気づき、半ば無意識に防御態勢をとる。直後、刃を通して衝撃が伝わってくる。

「仕留め損なった!? くそぉ!」

真下から攻撃してきたのは、目の前で消えたはずのレヴィだった。先程落とした左手の剣をどうやってか回収して不意を突くべく振るったものの、攻撃が通らなかったことで苦虫を噛み潰したような表情の彼女を視界から外さず、アルビオンは冷静に彼女が脱出した方法を解析する。

「なるほど、デバイスの片割れがある位置に瞬間転移する魔法か? 落としたのは意図的だったようだが、ずいぶんと奇妙なトリックを使う……。だが種が割れてしまえば、どうということはない!」

「(とっておきのゼロシフト・リンクスを初撃で防がれるなんて! コイツ、勘が良いにも限度があるよ!)」

レヴィが地上本部と契約している間に彼女と頻繁に模擬戦をしていたゼスト・グランガイツですら、初見での対応は不可能だと太鼓判を押されていたゼロシフト・リンクス。しかし今、アルビオンは対処してしまった。この事実にレヴィは内心でかなり驚いていたが、作戦前にディアーチェから聞いた話を考慮すると、コイツならできなくもないのかもしれないと思った。

『出撃前に一応耳に入れておけ、レヴィ。過去の記録を漁ってみたところ、若い頃にアルビオンは“全てのロストロギアの破壊”を目的として、“聖王教会最強騎士”の座まで上り詰めたことがあるらしい。老化した今では当時の強さはもう無いだろうが、それでも管理局のオーバーSSランク魔導師3人を同時に倒せる力は今もなお保持している』

『なにそれ、軽く化け物じゃん。それだけの実力があるにも関わらず、どうしてこんな非道なことに手を貸してるの?』

『まだわからん。歳を重ねる内に思想が歪む出来事でもあったのかもしれんが、今では力に溺れた愚か者だ。されどそれまでに鍛え上げた実力は本物であるが故、強敵であることは間違いあるまい。重々注意して事に当たれ』

「(王様の言ってた通り、聖王教会最強騎士は伊達じゃなかった……! 全てのロストロギアの破壊って考えをどうして抱いたのか、ボクにはわからない。だけど間違いなく言えるのは、コイツは自分のエゴを押し通しているだけってことだ!)」

「もうマジックショーは終わりか? ならば小細工もろとも踏みつぶしてやる!」

「ふん、それはこっちのセリフだよっ!」

鍔迫り合いから弾き飛ぶなり、レヴィは身を翻して手から青色の雷を放つ。それすら難なくダブルセイバーで受け止めて対応するアルビオンに向け、今度は右手の剣を投擲、ゼロシフト・リンクスを合間に組み込んだホドリゲス新陰流の斬撃を無数に繰り出す。

レヴィが自己流に改造した剣術だが、技の噛み合いはバッチリでアルビオンですら先程とは逆に防戦一方に追い詰められていた。レヴィの猛攻を受けて耐えきれずアルビオンが姿勢を崩したところにすかさず一閃、ダブルセイバーの一部を破壊して片方の魔力刃が消え去る。

「っ……図に乗るな!」

「あ、しまっ―――!」

虚を突いてアルビオンはタックルをかまし、レヴィの軽い体躯は空中でバランスを乱す。何とか立て直したレヴィだが、直後に頭を掴まれてそのまま下の礼拝堂に隕石のごとく落下、クレーターが出来るほど強く地面に叩きつけられる。

「……激突寸前で外したか。やるな」

「いったいなぁ……もう!!」

地面にぶつかる直前にアルビオンの手から頭を脱出させていたものの、衝突のダメージは大きく、レヴィは頭からだくだくと血を流していた。激痛に耐えながら彼女はアルビオンの胴体を蹴り飛ばし、一旦距離を取るべく低空飛行で跳躍、礼拝堂の聖王像の前に浮遊する。

「くくく……あっはっはっはっはっは! やっと目が覚めた……今の痛みのおかげで、カッとなってた頭がスッキリしたよ。そうさ、さっきまでのボクは真の力を見せていない。ここからが本当の全力だ!」

「……だったら最初から全力を出せば良かろう。力を出し惜しみして、無駄にダメージを負う意味がわからん」

「コラ! そういうバトルもののお約束にツッコんじゃダメ!」

例によってアルビオンも教会騎士らしい堅物思考をしており、これだから頭の固い連中は! とレヴィは唇を尖らせる。その時、この緊張状態を破るかのように耳小骨を通じて無線が入る。相手はレヴィが連れてきた部下からであった。

『生きてる?』

『君君、生きてなきゃ通信は繋がらないよ。それよりレヴィ遊撃隊長、ターゲット3名は無事確保。フナムシの蟲風呂に押し込められてたせいで発狂してるのもいるけど、まぁ、こっちのミッションは成功したよ』

ターゲット3名とは、即ちカリム・グラシアとシャッハ・ヌエラ、ヴェロッサ・アコースのことである。作戦前にディアーチェは連絡がつかないことから彼女達が恐らく人質にされていると見越し、レヴィがアルビオンと戦闘している間に、レヴィの部下が救出するよう指示していたのだ。なお、部下を二人しか連れてこなかったのは、大勢で訪れたら彼女達を探すために人手を多くしたとすぐに気付かれるためで、あえて少数精鋭で挑む必要があった。

なお、部下の片方は一応戦えるが、主な担当は情報や機械の解析および電子戦といった後方支援で、わずかな痕跡やデータの断片からカリム達の居場所を見つけ出したほか、SOPの解除法次第ではハッキングなども行う予定だ。そしてもう片方は旅してた頃のマキナと浅からぬ縁があり、アウターヘブン社に入社してすぐに頭角を現し、瞬く間に社内でもトップクラスの実力に上り詰めた新入社員である。ちなみにあだ名は首輪付き。今も描写こそ無いが、カリム達の監禁場所を守っていたアルビオン配下の教会騎士10人をたった一人で、かつ30秒で倒していたりする。よって、敵の大将捕縛と人質救出の同時作戦の役割分担は完璧だった。

しかし……アルビオンの実力を見誤ったのが誤算だった。レヴィなら任せられると信じてのこの役割だったのだが、アルビオンには想像以上の力があった。だが……、

「(“何があろうと決してあきらめるな。あきらめないその心が最大の武器となる”……忘れてないよ、お兄さん。ボクにはまだ果たさなければならないことがある。ボクの背中にはマキナの命だけじゃない……ニブルヘイムで戦ってる皆の命も、お兄さんから受け継いだ意思も、これからの未来もかかってるんだもんね!)」

レヴィは己が存在の核である力のマテリアル、その限界を超えた力を今この瞬間、自身の肉体に宿らせる。それは意志の力、魂の輝き……即ちサバタから受け継ぎし月の光。

「(悲しみと怒りは精神を乱すけど、それらは無理に押し込めちゃダメだ。心に還し、己が力としてコントロールする。そう、過去の痛みも、未来を守る意思も……全部ボクの力になってくれる!!)」

直後、レヴィの全身が淡い白色に光りだす。先程とは全く違う気配にアルビオンは剣を構えて警戒、レヴィの一挙一動を見逃さんとする。しかし……、

―――バンッ!!

「ぬぐっ!?」

やられた、と気づき、アルビオンは驚愕した。重々警戒していたにも関わらず、レヴィが消えた次の瞬間に16回も斬られたと理解しながら、礼拝堂の入り口近くの壁にソニックブームで吹き飛んだ周りの椅子ごと叩きつけられる。

「(馬鹿な……! 私にすら見えぬ斬撃とは、コイツはそこまでの境地に至っていたのか……!)」

音速どころか光速にも匹敵する超人的な連続斬り。たった一回のすれ違いの間に、相手を16回斬り伏せるレヴィの奥義。それは力のマテリアルとしての強靭な肉体、サバタから受け継いだゼロシフトとエナジー、ホドリゲス新陰流の居合抜き、全てが重なることでようやくたどり着いた彼女の真髄。

「十六夜光剣……この技を見た時、お前は既に死んでいる!」

「(サルタナ以外の者に負けるとは……私の腕も衰えたものだ)……認めよう、お前は私より強い……」

驚愕と、そして称賛。その言葉を残し、アルビオンは意識を失った。それは彼の中にほんのわずかに残された真っ当な騎士としての矜持から放たれた、最大限の労いであった。

壁に寄りかかって崩れるアルビオンの前に降り立ったレヴィは、クールに決めるべく口の端を釣り上げて笑い、カッコイイポーズを取ろうとして……、

「あ、やばっ、無理っぽい。いててて……!」

これまでの戦闘で負ったダメージの痛みが今になって響き出し、さらに生身で光速の世界に入ったフィードバックもあり、近くの椅子の残骸にぎっくり腰を患った老人のような格好で手を突いたレヴィは涙目で身悶える。まぁ、最後はかっこよく決まらなかったが、それでも彼女は見事にアルビオンを倒し、希望を繋ぐ役目を果たしたのだ。

「(ちょっと癪だけど、勝てたのは運が良かったからだろうね……。ま、後はボクの仲間がSOPの解除とか色々やってくれる手筈になってるから、ボクの方もミッションは成功だ。解除まで時間はちょっとかかるかもしれないけど、次はニブルヘイムにいる皆の番だ。ちゃんと勝ってよね? さ~てと……仲間の皆が来たら、少し休みたいや……)」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月24日、22時27分

第78無人世界ニブルヘイム、アーセナルギア・アルカンシェル内部、上部艦橋エリア。

「ユーリに送ってもらったアーセナルギアの解析データによると、動力炉は中心部にあるらしい。多分、スカルフェイスもそこにいると思う」

「どうしてそう考えたの、ジャンゴさん?」

「ブリッジはスケルトンに任せておけば、どこにいても指示するだけでアーセナルは動かせる。それにマップをよく見ると、なんか中心部の構造がブラックボックス化していて、詳細が表示されていないんだ。僕の予想では、アリシア・テスタロッサはそこにいる。真のサヘラントロプスに囚われて……」

「つまり教会で戦ったサヘラントロプスと同じことを、こっちでもやってるかもしれないんだね……」

当時のオリジナル・なのはの姿や、戦艦のダメージを肩代わりしている現状を思い出し、なのはは表情をゆがめる。

ちなみにアーセナルギアにメタルギアを搭載するのは、機体や配備場所などの細かい違いこそあれど、本来のコンセプト通りではある。実際、かつて地球に存在していたアーセナルギアには、メタルギアRAYが防衛のために複数配備されていたりする。

「う~ん、パーティを分散せずに済んだのは、果たして吉と出るか凶と出るか……」

「アギト……?」

「相手が相手だからなぁ、わざと誘い込まれてるような気になるが……流石に考えすぎか?」

まだ魔法が使えないフェイト達を分散させて、その間に各個撃破する方が効率は良さそうなものを、あえてそうしてこないスカルフェイスに違和感を拭えないアギト。そんな彼女の呟きを聞いたはやて達は、戦艦の設計と本人の戦略を一致させるのは難しいし、まとまってた方が都合が良い、とのことであまり悩み過ぎないように気を遣った。

ちなみにフェイト達局員組にはPMMマカロフが貸し出されている。とはいえ、あくまで封印が解除されるまでの自衛用に持たせているだけなので、1マガジン分しか銃弾は入っていないし、本人達もジャンゴ達がよほど追い込まれない限り使わないようにしている。事実、ジャンゴとなのはが前衛後衛と息の合ってる安定した戦術でスケルトンやグールを倒しているため、今の所はこの銃を抜かずに済んでいる。

「ところで前に西部劇で見たテクニックなんやけど、こう手動で銃弾を込めて撃つのって現実だと有効なん?」

「慣れないことすると、ジャムるからやめとけ」

はやての質問にアギトが答える中、一行は何かと長い通路を駆け抜ける。途中で外に出るシャフトを見つけたりもしたが、今そこを通る必要はないので無視した。所々自動扉が開かない通路もあり、そこは近くのセキュリティレベルを操作したり別の道を行くなどで対応、道中にトラップもあったが地道かつ着実に中心部へと進軍する。

時々遭遇するアンデッドは出会い頭に倒していく内に、一行は禍々しい輝きを放つ動力炉が見える広い空間へとたどり着く。そこにはスカルフェイスと、動力炉と一体化するような姿で鎮座している白銀の巨大な兵器……刺々しいフォルムでもう人型を逸脱しており、下半身は前後に広くて背部装甲の形状から四脚のようにも見え、腕はワイヤー状の筋肉のようなもの、頭部は赤い目が特徴的で、胸部コアは中心が前に突き出しており、その中心にある緑色の部分に……アリシア・テスタロッサが囚われているのが見えた。

「ね、姉さん!!」

「よくぞここまで来れたものだ、雑草の生命力というのもなかなか侮れんな。だが……おや? ここに来るはずの人間が一人欠けているのではないか? クックックッ……もしや救出したどこぞのエターナルエースに殺されでもしたか?」

「……ッ! あんたって奴は……!」

「勘違いしてもらっては困るな、闇の書の最後の主。確かに間接的には私達も関わっているが、直接手を下したのは彼女だ」

「何を白々しい……!」

「大体、私を責める資格がお前達にあるのか? 闇の書は私よりもはるかに長く命を奪い続けた……殺した数ならばこの場の誰よりも上だろう」

「そんなの……言われんでもわかっとる……! 罪を背負うって言った時から、覚悟は決めとる……!」

「主……」

「ほう、ならばこれを見てもそんな甘いことが言えるか?」

スカルフェイスが指を鳴らすと、何かの映像が空中投影される。そこに映し出されていたのを見て、はやては言葉を失い、シグナムは唇を固く結んで俯き、アインスは思わず目を背けてしまう。

業火に飲み込まれていく街。逃げ惑う無辜の人々。必死に抵抗する者達。それら全てを自らの手で、魔法で、技で破壊していくのは、過去のヴォルケンリッター。そう、この映像は闇の書のバグによって彼女達の記憶には残っていないが、しかし現実にあった出来事。魔力を奪い、主に大いなる力を。そのために行ってきた虐殺だった。

『もうやめてくれ! せめて……せめて妻と息子だけは!!』

『我が主は力を望んだ。我らはそれを叶えるまで』

『おめーらは運が悪かったんだよ、諦めな』

『うっ、ぎゃぁああああああ!!!!!!』

『あなた!? お、お願いです! 何でもしますからアルビオンだけは……この子だけは殺さないで下さい!』

『残念だが聞き入れられない。恨むなら自らの不運を恨め』

『い、あぁあああぁあああ!!!!』

『チッ、二人やった所で1ページにもならねぇのか。ゴミだな』

『ッ! 気を付けて皆、複数の魔力反応が近づいてきているわ。管理局に嗅ぎつかれたみたい』

『そいつの魔力を蒐集し損ねたが仕方ない、離脱するぞ』

『と、父さん……!! 母さん……!! う……うぐうぅぉぉぁああああああ!!!!!!!! うわぁあああああああ!!!!!!!!! 許さない……俺から全てを奪ったお前達を、未来永劫決して許しはしない!!!! いつの日か……この手でお前達を殺してやる!!!!!!』

これは闇の書が引き起こした悲劇の一つに過ぎない。他にも……生まれたばかりの赤子がいた。仲良く遊んでいる少年少女がいた。新しい家族となった夫婦がいた。余生を謳歌していた老人がいた。だが……鉄槌の騎士の槌が赤子の頭を潰した。湖の騎士の糸が少年少女の首を絶った。烈火の将の剣が夫婦の心臓を貫いた。盾の守護獣の拳が老人の腹を穿った。何も抵抗できなかった彼らからリンカーコアを奪い、蒐集後にすぐ始末していた光景が、何度も何度も何度も繰り返されていた。

「あ……あんな小さな子まで……!」

「酷い……です……。こんなの……あんまりです……」

「これがお前の守ろうとしている家族の真実のほんの一端だ。その気になれば今でもこのようなことが容易く出来る、騎士の名を騙る殺戮者ども。もはや知らない、忘れた、覚えていない、で済む話ではないのは明白だろう?」

「き、貴様……!」

「憤るのはわかるが、少しだけ堪えてくれ、シグナム。……スカルフェイス、この記録はどこで手に入れた? 半分ぐらいは管理局も把握しているものだが、それ以外は管制人格である私にしか知らないはずの……当時の管理局が把握してない襲撃の映像まで含まれているとは、一体どういうことだ……?」

「ん? もしやマキナ・ソレノイドから何も聞いていないのか? ……ああ、そういうことか。彼女は私の植えた報復心を自らの精神で封じ込めた……いや、暗黒の戦士から受け継いだ遺志のおかげで耐え抜いたのか? どちらにせよ、お前達は死んでもなお彼女に守られている訳だ」

「守られている……?」

「ッ! スカルフェイス、その先は言うんじゃねぇ!」

突然、そう叫んだアギトは火炎弾を発射するが、スカルフェイスが腕を払うだけで霧散してしまった。その時のアギトの強い眼差しを目の当たりにしたはやてとアインスは、自分達に大きく関わるが、しかし未来に伝えるべきではない何かをマキナとアギトは隠しているのだと察した。

「血気盛んな融合騎だ。そこまでして真実を伝えたくないか?」

「伝えたらお前の思い通りになるだけだからな。こいつらまで報復心に飲まれさせる訳にはいかねぇんだ!」

「報復心……? アギト、今まで何度かその単語が出てきとったけど、まるで触っちゃいけないもののように何か特定の話題を避けてるように聞こえるんや。もしかして、私とあいつには何か因縁でもあるんか?」

「そ、それは……っていうか、なんでお前まで訊いてくるんだよ……!」

「隙を突くようでごめんな、アギト。でも、何も知らないままってのはもう嫌なんよ。サバタ兄ちゃんがいなくなったあの時、私は自分だけ真実を知らないってことが怖くなったんや」

「だけど真実を知ることがお前のためになるとは限らない。少なくとも姉御は報復心を受け止めるのは自分だけで十分だと思って、お前達には死んでも伝えないことを選んだんだ。確かに自分に関わる事なら知りたいと思う気持ちは理解できし、知る権利も一応あるだろう。でもそれは同時に、スカルフェイスの掌の上に自ら乗るということを意味するんだ」

「それでも……それでも知りたい。マキナちゃんの遺志をちゃんと理解するには、隠された真実を知らなければならん。真実を知れば途方もない苦しみを味わうとしても、こればかりは逃げる訳にはいかへんねん」

「だそうだぞ、烈火の剣精? ならば望み通りのものを見せてやろう」

スカルフェイスの操作で、一行の眼前にモニターが投影される。そのモニターには海岸線沿いの道路を二人の男女と物心もついてないほど幼い茶髪の少女が乗っている自動車が走っているのを、上から眺めている光景が映し出されていた。

「あれ……? この車、見覚えがある……? なんで……身体が震えとるんや?」

「あのさ、私の気のせいかもしれないけど、後部座席に乗ってる女の人……なんかはやてに似てない?」

「言われてみればこの人、どことなくはやてちゃんを大人にしたような見た目だね」

「ということは後ろの子供は……ッ、まさか……!」

ジャンゴがハッと気づいた次の瞬間、映像の下の方から唐突に赤い光が発射される。その光をなのはとジャンゴ、アギトは覚えていた。“蜜蜂(HoneyBee)”……ポー子爵が地球で高町家に撃ってきたミサイル。その時はマキナが撃ち落としたあのミサイルが、今度は映像の中で何の変哲もない車に向かっていき……。

「やめろぉぉおおお!!!」

アインスが叫ぶが、無慈悲にもミサイルは着弾……暖かな幸せを内包していた車は一瞬の内に炎に包まれて激しく横転する。防潮堤に衝突して回転が止まったものの、運転席していた男性は今の衝撃で全身がぐちゃぐちゃに潰れてしまい、そして……無数のガラスが突き刺さった血まみれの身体で後部座席からはい出てきた女性は、必死に腕の中に抱いている子供を炎から守っていた。

「あ……あぁぁぁ……! お……もい……だした……! これは……こ、これは……!!」

全身が冷水に浸ったかの如く震え出したはやては、車の燃料がさらに爆発を起こし、身を呈して子供をかばった女性を焼き尽くすのを目の当たりにした。それから消防車などが消火活動に当たる中、辛うじて爆発から逃れて生きていた子供の手には……重厚な鎖に巻かれた十字架の本が抱かれていた。

「これが、今の闇の書が転生した瞬間の記録だ」

「お、お父さん……お母さん……! そんな……そんな……!!! う、うあぁ……わあぁああああ!!!!!」

「あ、主! お気を確かに!」

「そうか……そうだったのか……! 闇の書の転生機能は、銀河意思の支配下にあった。闇の書が主はやての下に転生したのは……お前達の計画の一部だった。そのために主はやての両親を手にかけたのか……!!」

「許せません……! あなた達は……はやてちゃんの両親の仇だったんですね!」

「クソッ……ごめん姉御、アタシじゃあ止められなかった。こいつらにも報復心が植え付けられちまった……!」

「アギト……マキナは報復心の連鎖を止めるために、この真実を黙っておくように言ってたんだね。彼女が心で抑えていた闇が、今になってようやく理解できたよ。でも……」

「うん。これって……マキナちゃんが死んでも止めようとしていた報復心の連鎖が、はやてちゃんの真実を知りたいという想いのせいで続いてしまった訳だよね。これじゃあマキナちゃんの気持ちを理解することはできても、遺志を裏切ったことになっちゃうよ……」

はやて達がスカルフェイスに対する報復心を一気に増大させる中、マキナが防ごうとした事が起きてしまい、アギトは悔し気に懺悔する。そしてマキナの真意に気づいたジャンゴとなのははそれを必死に守っていたアギトに対し、非常に申し訳なく思った。

「お前が……お前がお父さんとお母さんを……!! 許さん……絶対に許さん!! もう報復心に飲まれようがどうでもええ!! お前だけは絶対に倒す!! くたばれぇええええええ!!!」

BANG! BANG!! BANG!!!

報復心に身を任せたはやてはマカロフを全弾発砲する。シグナムら他の八神家も一斉に発砲、スカルフェイスに銃弾を浴びせる。だがそれはナノマシンによる肉体の硬質化で全て弾かれてしまい、傷一つつかない結果に終わった。

マカロフが弾切れになるとクルセイダーを抜いて我武者羅にトリガーを引くはやてだが、まだ封印は解かれておらず、魔力弾の一つも撃てなかった。そんな彼女の姿を見てスカルフェイスはテンガロンハットを右手に取り、見下すように笑いだす。

「クックックッ……禁断の果実を手にしたEVAは知識を得た代わりに楽園を追放された。お前の無様な姿はそれに相応しい……真実を求めた結果、お前は永久に安息を得られなくなったのだ」

「黙れッ!! 黙れ黙れ黙れッ!!! 黙れぇええええ!!!!」

「報復心に身を任せ、憎い存在を滅ぼす。それこそが人間らしい本性、この世界を……銀河を構築する根本的な欲求。全ては報復によって繋がっているのだ!」

スカルフェイスが天を仰ぐように手を広げた次の瞬間、真のサヘラントロプスから轟音が発生……動き出した。徐々に空中へ浮かび上がる機体、アリシアのいるコアから突然オレンジ色の光線が動力炉に向けて発射、天井へと向かっていく。

「今のはエナジー!? アリシアからエナジーを奪い取ったのか!?」

「スカルフェイス……今度は何をするつもりなの!?」

固唾を飲んで警戒するジャンゴ達。すると彼らの目の前に浮かぶモニターの映像が変わり、どういう訳かアーセナルギアの外の光景が映し出された。

大量のミサイルを某バルキリー並みの物凄い機動力で撃ち落としていくシュテルとその仲間達。ゴリアテの銃火器から繰り出される砲火。外では星間戦争じみたとんでもない激闘が繰り広げられていた。

「プレシア・テスタロッサ女史はとても良い働きをしてくれた。この小型アルカンシェルに画期的な機能を新たに追加してくれたのだからな」

「なにっ!?」

「相転移砲……この光に触れた対象は分子単位にまで分解される。その威力を……とくと見るがいい!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「はぁ……はぁ……ミサイルは辛うじて撃ち落としましたが、M4カービンのマガジンはこれが最後、カートリッジも残弾ゼロ……。仕方ありません……一度、補給に戻らなくては……」

ここにいる誰よりも敵の攻撃を引き付けながらも生き延びてきたシュテルだが、流石に補給なしでこれ以上戦うのは無理だった。仲間達に一旦補給に戻るのでこの場を任せるように告げた後、エルザに向かおうとした……その時、シュテルは一瞬アーセナルギアの砲台から見えたレンズ……そのオレンジ色の光から凄まじい殺気を感じ、反射的に仲間達の前に出て全魔力を集中、ゴリアテすらも覆う巨大なシールドを展開する。

バシュゥゥゥゥウッッ!!!

「やはり砲撃! しかし……え!?」

シールドにオレンジ色の光線が当たった途端、シュテルは驚愕した。あり得ない速度でシールドがプログラムごと崩壊していき、同時に魔力素そのものが消滅し始めたのだ。

そしてそれは……術者にも及んだ。

「な……こ、これは……分解ですか!?」

ルシフェリオンの先端から徐々に消滅が始まっていき、シュテルの右腕も分子にされて消えていく。

『シュテル艦長!! 今救助に―――』

「来てはなりません!!」

事の次第に気付いた仲間達が急ぎシュテルを救出しようとするが、それをシュテルは止めるように制した。

「この光に触れれば、どのような存在であろうと分子に分解されてしまう! 分子にされれば人間は当然死ぬ……! であるならば、犠牲は既に分解が始まってしまった私一人で十分です!!」

『で、ですが!!』

「至らない艦長ですみません。ですが、私にはあなた達を守る責任があります! あなた達まで死なせる訳にはいかないんです!!」

自分が倒れようと仲間は守る、その確固たる強い覚悟を目の当たりにした仲間達は、シュテルの意志を涙ながらに尊重した。そして右腕、両脚、胴体も消滅していく中、シュテルはまだ残っていた左腕を無意識的に動かし、M4カービンのトリガーを引く。全弾撃ち尽くしてすぐに左腕も消滅……アサルトライフルも雪原の大地に消えていった。ぼぉーっと遠くなっていく意識で、シュテルは上空から飛来するRAYが閉じゆく視界に入る。

「シュテル!!」

「(あぁ、ようやくご到着ですか、ユーリ。とんだ重役出勤ですね……後は任せましたよ……。すみません、王……教主……私は、ここまでのようです……)」

その思考を最後に、シュテルの肉体は完全に分子に分解……消滅してしまった。アサルトライフルの弾でひび割れたレンズに映るのは、まるでユーリの慟哭を代わりに示すかのように雄叫びを上げるRAYと、仲間を失って嘆き悲しみ、怒りを露わにするアウターヘブン社の者達だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そ、そんな……シュテルーーー!!!!」

「バ、バカな……か……簡単すぎる……あっけなさすぎる……」

「嘘だろ……あのシュテルが、き、消え……」

なのは、ジャンゴ、アギトは目の前の残酷な光景に動揺を隠せなかった。アウターヘブン社でもトップクラスの実力を持つ理のマテリアル、星光の殲滅者シュテルが分子に分解され、この世から消滅してしまった事はそう簡単に信じられなかった。

「あの場にいる者全てを分子にするつもりだったが、まさか一人だけとはな。増幅レンズも最後の悪あがきで割れたようだが……まあいい、換装すれば済む話だ」

「ッ……! もうやめろ!!!」

これ以上スカルフェイスをのさばらせておけば犠牲が増えると判断したジャンゴは一気に接近、光り輝く剣を振り下ろす。当然、硬質化で防がれるが、それでもジャンゴは隙を与えないように斬り続けた。

「行くよ、レックス……私に力を! シュートバスター!!」

なのははジャンゴの攻撃の間隙を狙い、マキナの狙撃銃から砲撃を発射、着弾後に爆発が発生する。それに乗じてジャンゴは一旦下がり、様子を伺うが……スカルフェイスにダメージは無かった。

「こそばゆい。まるで蚊にでも刺された気分だ」

「やはり先にナノマシンをどうにかしないと、ダメージが通らない……!」

「マキナちゃんが作ってくれたゼータソルに賭けるしかないね」

「でもあれじゃあ注射器の針が刺さりそうにないぞ。それこそ、どこか一か所にナノマシンのエネルギーを集中させて、その間に別の硬質化していない場所に注射するなんて方法を取らねぇと……」

『オーケィ、話は聞かせてもらったぜ!』

突如聞こえてきた親しみのある声にジャンゴ達は目を見開き、スカルフェイスは警戒を露わにする。直後、スカルフェイスの足元の床がいきなり隆起し、破裂……中から飛び出てきたサイボーグのアッパーがスカルフェイスの顎にクリーンヒットする。

「ぬおぉおおっ!?」

「オラァァアアアア!! ビーティー様の参上だァアアアア!!!」

雄叫びと共にぶちかました一撃でスカルフェイスの身体はぶっ飛び、真のサヘラントロプスの胸部装甲の下に激突、落下した。硬質化していたとはいえ、サイボーグが相手では衝撃を完全に防ぐことは出来なかったのだ。

「ぐ……お前は……! あの爆発で次元空間に放り出されたはず……!」

「そうさ。だからニブルヘイムまでわざわざ泳いできたんだよ、平泳ぎでな! そんでこの戦艦が飛び立つ直前に、ちょいと兵器格納部に忍び込んでやったのさ!」

次元空間はプールみたく泳げる場所じゃないと思うんだが……、とアインスは心の中でツッコんだ。しかしビーティーの発言で、フェイト達はアーセナルギアのシールド発生器の一つを破損させたのが彼女であると確信したものの、プレシアを手にかけた件もあって複雑な気分にはなった。一方でジャンゴとなのは、アギトは非常に心強い仲間が戻ってきたと喜んでいた。

「ビーティー!」

「よぉ、ペシェ。そんなに嬉しそうな声、出すなよ」

「いや普通は出すって。とにかくビーティー、おかえり」

「あいよ、ただいまっつっとこうか、ジャンゴ」

「ほんと……何があろうとお前は変わんねぇなぁ……」

「はっはっはっはっはっ! 面白い冗談だ、アギト。この俺がそう簡単に変わってたまるかよ!」

こんな時でもいつもの調子を見せるビーティーの影響を受け、ジャンゴ達は強張っていた肩の力が抜けたことに気づいた。マキナの死亡だけでなく、はやての両親の殺害、シュテルの消滅と立て続けにショックを受けたせいで、いつの間にかジャンゴ達から心の余裕が失われていたのだ。だが、やはり現実は付きまとうものだった。

「そういやマキナの姿が見えないが、この大舞台にあいつがいないってのはどういうことだ?」

「ビーティー、あの……マキナは……」

「ンン~、今ので大体わかったぜ。あいつの事だから、どうせここじゃない別ン所にいるんだろ? 最近は何かと前に出てたが、本来は後ろから狙撃とか回復魔法とかで援護するってのがあいつのスタイルなんだしよ。つぅかそれを言い始めたら、狙撃手や治癒術師が敵に突っ込んだらダメだろってぇ話にもなるんだがな! ブワァッハッハッハッハッ!!」

「あ~色々言いたいことはあるんだけど、一応今はそういうことにしとくよ」

「んじゃあ、ま……お先に行くぜ!!」

その言葉を皮切りに、ビーティーの足元から爆音が発生……スカルフェイスに殴りかかっていった。スカルフェイスも流石にその拳を受け止めようとせず、回避行動を取って腰のレバーアクションライフルをすぐさま構える。

「させない!」

ビーティーに照準を合わせる直前に、それを阻止すべくなのはは魔力弾を発射、魔導師殺しに特化した貫通弾ごとレバーアクションライフルを破壊する。そのままビーティーはスカルフェイスとのつかみ合いに持ち込み、圧倒的なパワー同士の衝突で両者の足元の床がベコンッと音を立てて凹む。

「今だ、ジャンゴ!」

「はぁあああああ!!」

アギトの火炎弾がスカルフェイスの顔面に直撃、ダメージは無くとも炎が目くらましになった隙を突いて、ジャンゴが炎塵をまといながら果敢に接近、マキナ特製ゼータソルの入った注射器をスカルフェイスの首筋に突き刺す。

「ッ!? これは……! 貴様ら、何をした!」

「マキナの力を借りたのさ。お前のナノマシンを止めるために!」

スカルフェイスの体内で励起状態だった暗黒物質がゼータソルの効果で基底状態に抑えられていき、それをエネルギーにしていたナノマシンが徐々に停止されていく。その結果、ビーティーのパワーを受け止めていた腕の硬質化が目に見える勢いで解除、本来のアンデッドの腕に戻っていった。

そして、ナノマシンの恩恵を失ったことでサイボーグに匹敵する力も失われ、対抗していたビーティーがニィッと笑い、頭突きを放つ。今回は硬質化できなかったため、スカルフェイスにダメージがしっかり通り、彼は頭を押さえてよろめきながら後ろに下がった。

「へぇ? 髑髏の大将にも痛覚はあるんだな、いや勉強になるぜ」

「そんなこと覚えてても、この先何の役にも立ちそうにないんだけど……」

「でも今だけは役に立ってるじゃねぇか、スカルフェイスは倒せるって意味でな!」

「それが出来るのもマキナのおかげだ。彼女の努力が、スカルフェイスのナノマシンを打ち破ったんだ!」

狙い通りにマキナの薬が働いたことで勝機が見えてきたことに、ジャンゴ達は活気づいていた。

「ここまでだ、スカルフェイス。ナノマシンの防護を失った今、お前はもう無敵じゃない!」

「くくく、ははははは! 浅はかだな、太陽の戦士。ナノマシンを無力化したところで、私の切り札たるサヘラントロプスは未だ健在だ!」

高らかに嘲笑ったスカルフェイスは一気に跳躍、真のサヘラントロプスの胸部コアの上に立ち、ジャンゴ達を見下してきた。

「お前達は知るまい……人間がどう足掻いたところで、この世界に未来は無いと。ならばそれを実感する前に死なせてやるのが慈悲というものだ」

「ハッ! 何を言ってるのかサッパリだが、使われる前に倒せばこっちのもの―――ッ!?」

ビーティーが一直線にスカルフェイスの下へジャンプし、右ストレートパンチを放とうとしたその時、突然ビーティーの動きが止まり、空中でバランスを崩した彼女はサヘラントロプスの肩に激突、受け身も取れず落下してしまう。

「ヤッベ……最近血液、ろ過してなかった……! 自家中毒が……げほっ、ぐぼぉ!!」

「ビーティー!!」

白い人工血液(ホワイトブラッド)を口からドバっと吐き出し、悶え苦しむビーティー。人間より強力なサイボーグだが、その分活動時間に制限があったことを思い出したジャンゴ達は急ぎ彼女の回収に向かう。

だがそれを見逃すスカルフェイスではなく、彼はサヘラントロプスに全身を融合させていき、自らの意思でコントロールする巨大人型兵器として君臨した。金属同士が擦れるような耳障りな雄叫びを上げたサヘラントロプスは次の瞬間、アリシアのいる胸部コアが発光し、上空にエネルギーの力場を発生させ、そこからおびただしい量の光の槍を雨のごとく降らせてきた。

刻印を刻まれし罪人に天罰が下る―――プローディギウム。

フェンサリルで戦ったサヘラントロプスのインフィーニートゥムと同様、コアに囚われているアリシアから力を引き出し、この空間全体を巻き込む広域殲滅爆撃が炸裂した。どこにも避ける場所なんてない攻撃は近くにいたジャンゴ達だけでなく、後方に控えていたはやて達すらも爆発に飲み込み、甚大なダメージを与えてしまう。

そして爆発の粉塵が晴れた後には……何とか意識こそあるものの、上手く立ち上がれずに倒れているジャンゴ達が転がる中、禍々しくも威風堂々とした佇まいで君臨するサヘラントロプスの姿があった。トドメを刺される危機に陥った彼らの下へ、先程の攻撃で意識が朦朧となっているはやては、それでも残った力の限りを尽くして立とうとするが、プツンッと糸が切れるように力が抜け、視界が真っ暗になってしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「う……ん……?」

「なんだ、寝てたのか」

「あれ? この声……え!?」

目を覚ますなり、はやては心臓が飛び出るぐらい驚いた。なぜなら目の前には、蜂蜜色の長い髪をポニーテールにした、琥珀色の眼をした少女……マキナがいたからだ。

色とりどりの草花が生い茂る草原の中、真っ直ぐ伸びる道路をマキナはバイクで走らせていた。そのバイクに取り付けられたサイドカーに、はやては座っていた。

「ま、マキナちゃん!? なんで……!?」

「起きるなり何を突然驚いてるのさ、八神。私が傍にいるのがそんなに変?」

「変に決まって……あ、あれ?」

はやてはこれまでの事を思い出そうとしたものの……なぜか今に至る過程の記憶がぼやけていて、よくわからなくなっていた。ただ、これまで色々ぶつかりもしたけど、たまには二人だけのドライブを楽しもうという……そんな“設定”が見つかっただけだった。

「お~い? まだ寝ぼけてるの?」

「う~ん……そう……なんかなぁ? 私、変な夢を見てたんよ」

「へぇ? どんな内容だった?」

「なのはちゃんがヴァンパイアになったり、そのせいでマキナちゃんが殺されたり、私の騎士達が昔やらかしたことを改めて見せつけられたり、私の両親が殺されたのが実は敵の計画の一部だったりと……何もかもが嫌になるような出来事ばかりが続いて……もう訳がわからなくなって……私、報復心に憑りつかれてしまったようなんや」

「あはは! なにその鬱イベントのオンパレード! しかも何気に私まで巻き込まれてるし!」

「そんなに笑わんといてぇな、こっちは真面目に話しとるんやで……」

「ごめんごめん。で、夢の内容だけど……ん~とりあえず最後の、報復心に憑りつかれた、はあり得ないな。なんだかんだ言って、八神は私がいなくてもちゃんと自力で乗り越えてくれる奴だ。報復心云々も多分、事前に私なりのお節介はしてるんだろうけど、そういうのは大抵無駄に終わるのがお約束なんだよね。でも……あんたなら大丈夫に決まってる」

「どうして……そう言い切れるん? 私もそこまで私自身を強く信じられないのに、どうして……?」

「八神が自分を信じきれないなら、それでも構わない。ただ……私の知る八神は図太い神経してるし、弱音も吐くけど締める時はきっちり締める大馬鹿野郎だよ」

「なんや大馬鹿野郎って、それ全然褒めてないやろ」

「上っ面の気持ちで褒めたところで何の意味もないからね。だったら正直に真っ直ぐ答えてやるのが、私達らしい関係でしょ? それに、時代を変えるのはいつだって大馬鹿野郎なのさ。あらゆる障害や脅威を前にしても物怖じせず、自らの心のまま突っ走る……そんな大馬鹿野郎こそがね」

「そっか……はは、それなら良いか。ありがと、ちょっと元気出た。いや~ホント、マキナちゃんには敵わんわ~」

苦笑しながらはやては仰ぐように軽く体を伸ばし、深呼吸する。

「良い風だ。バイクはこの爽快感が心地良いよね」

「せやな……肌で風を感じられるのが、自動車とは大きく違う点やな」

「自動車にもオープンカーがあるじゃん。窓開けるってのもあるし」

「言われてみればそれもあったな。でも雨の日は大変そうや」

「そういう時は適当に本でも読んでのんびりすればいい。読書は八神の趣味なんだし、それに確か晴耕雨読なんて言葉がニッポンにはあるんでしょ?」

「あぁ~、そういや最近は時間に余裕が無くて全然読書しとらんかったわ」

「やれやれ、少しは羽を伸ばしなよ。人生ってのは旅行みたいに、途中で休んだり寄り道したりして、楽しみながら目的地に向かうものだ。……八神、あんたは風だ。何も縛られずに世界を自由に巡り、命の恵みを運ぶ息吹だ。そんなあんたが窮屈にしてたら、自分も周りも息苦しくなるよ」

「そっか……それなら息苦しくなくなるように、私の心にも換気をせなあかんな。……でもなぁ……ごめん、やっぱり辛いわ。本当に……なんで、皆いなくなってしまったんよ……。どうして現実だと、何の気兼ねも無く笑い合えないんや……」

こんなはずじゃなかった現実を思い、はやては静かに涙をこぼした。寂しげな彼女の姿にマキナはため息をついた後、獰猛な笑みを浮かべる。

「バーカ、いなくなってなんかないっつぅの。もう忘れた? 私が右眼(そこ)にいること」

「……」

「だからさ、見せつけてやろう。私達の運命は歪められても、私達の意思を歪めることはできなかったと!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『終わりだ。あの世でよろしくな』

サヘラントロプスの両腕から黒いエネルギー弾(サンクティオ)が放たれ、ジャンゴ達に迫る。絶体絶命の状況下、倒れながらも何とか魔力を引き出したなのははビッグ・シェルを展開し、仲間を守りながらエネルギー弾とせめぎ合う。しかし彼女も満身創痍の状態である以上、障壁に少しずつヒビが入っていき、長くは持ちそうになかった。

「エアッドレイン!」

だがその衝突に突如、横から白い魔力散弾が割り込み、エネルギー弾を消滅させると同時にサヘラントロプスにも直撃、その衝撃で後ろにひるませる。

「全く……手を貸してくれるんなら、最初からそう言ってくれればええのに……」

そうやって苦笑する彼女は右眼から淡くて白い光が放たれており、右手にクルセイダー、左手にシュベルトクロイツを構えていた。

「おかげで頼もし過ぎて涙が出るわ。ま、せっかくやからガッツリ頼らせてもらうで!」

夜天の主の騎士装束をまとい、彼女―――八神はやては君臨した。
 
 

 
後書き
ゼロシフト・リンクス:レヴィの新魔法。フェイトがミッド式ゼロシフトを作ったように、レヴィも頑張って作りました。
首輪付き:アウターヘブン社にはそれっぽい人がいるということです。ちなみにシャロンは過去にThinkerを歌っています。
十六夜光剣:レヴィの新技。御神流で言う神速に神速を重ね掛けしたぐらいの速度なので、使用後はプールに腹から飛び込んだ感じの痛みが全身を襲います。
PMMマカロフ:MGS3 スネークと初めて会った時のオセロットが使っている銃。装弾数は8発、残弾数を体で覚えること。
アルビオン:いわゆる因果応報な関係。はやての代から3つ前の闇の書の主の命により、両親と故郷を含む全てをヴォルケンリッターの手で失った。それから報復心に捕らわれ、闇の書に関わる者は全て敵だと思い、闇の書を含むロストロギア全てを葬ることに執着した。闇の書が無害になったから万々歳という訳ではなく、報復の連鎖は今なお続いていることを一応示した敵キャラ。
相転移砲:ゼノサーガ2 プロト・オメガより。これを喰らってシュテルは消滅してしまいましたが、彼女はマテリアルなのでGODを知っているなら……まぁそういうことです。
シュートバスター:ゼノサーガ E.S.アシェルの技。
薬注入でナノマシン停止:MGS4 ヴァンプ戦のイメージ。
プローディギウム:ゼノサーガ3 オメガ・メテンプシューコーシスの必殺技。
はやてが見た夢:マキナの右眼に宿っていた残留思念との会話。本人ではないが、限りなく近い存在。
サンクティオ:ゼノサーガ3 オメガ・メテンプシューコーシスの技。
エアッドレイン:ゼノサーガ E.S.ゼブルンの技。


ふと思ったんですが、この小説のはやて達って、厨二病要素が多くなっている気がします。

はやて「友の力が宿る右眼がうずく……!」

OR・なのは「くっ……鎮まれ! 封印されし左腕!」

フェイト「当たらなければどうということはない!」


某所での会話。

サバタ「なんでお前達までこっちに来てるんだ?」

マキナ&シュテル「「ごめんなさい」」

サバタ「ま、来てしまった以上は仕方ない。また面倒見てやる」

マキナ&シュテル「「わーい♪」」

割とこんな感じ。特にシュテルは結果的にサバタの傍にいられて勝ち組だと思っています。 
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