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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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アルカンシェル

 
前書き
執筆していると時々思うのですが、人間VS巨大兵器みたいなサイズ差のある戦闘はかなりやりにくいです。ジャイアントキリングは映像だから映えるのであって、文章ではお互いのサイズが大体同じな方が色々と書きやすいです。 

 
新暦67年9月24日、18時55分

「起動。これで少しは手向けになる」

石造りの部屋、壊れたシリンダーを背景にネピリムはコンソールに何かを入力し、暗黒転移で立ち去った。直後、その部屋は大きな振動に襲われた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月24日、19時30分

マザーベース、作戦会議室。

次元空間用レーダー画面に映し出される、巨大な物体。それはL級次元航行艦以上の常軌を逸したサイズのメタルギア……否、最早メタルギアではない。正確にはアーセナルギア級と呼ぶべき代物で、アルカンシェルのツインキャノン砲が甲板の中央部に設置されていた。そしてたった今、その砲台からフェンサリルへ向けて次元跳躍弾頭が発射されてしまった。着弾すれば世界を消し去る弾頭は砲口から出た直後に次元空間へ入り込み、次元航行艦の何倍もの速さで目標地点へ直進していく。

「その速度から逆算した結果、フェンサリルに着弾するまで残り……9分28秒です」

重々しく発せられたユーリの言葉に、通信の向こうにいるなのは達は沈黙する。気持ちの整理をするには十分だが、避難するにはあまりにも時間が足りなさ過ぎた。その死刑を待つ囚人と似た状況は、なのは達にまるで真綿で首を締められるような息苦しさを与えていた。

これまで追ってきた核兵器が自分達を釣るための餌……計画の要でもあったが、同時に本命の居場所を隠し通すための囮でもあったことに、ユーリはスカルフェイスの用意周到さに悔しさを隠せなかった。

「(兵器を量産して管理外世界に売り渡すなら、その銃口が自分に向く可能性も想定します。そうなっても対処できるように、スカルフェイスは全てのサヘラントロプスの性能を上回るか、制御を奪える機体を用意していたのは想像に難くなかった。それに気づいてから私はずっと対策を講じていたのに、まさかアーセナルギア級を作り上げていた上、後一歩間に合わなかったなんて……!)」

だが後悔しても遅い。次元跳躍弾頭は冷徹に、迅速に、無慈悲にフェンサリルへ突き進んでいく。スカルフェイスの居場所を探知した際、ユーリはすぐに次元跳躍弾頭を迎撃する特殊兵器を出撃させていたのだが、想定より早く発射されてしまったため、まだ指定のポイントにたどり着けていないのだ。今すぐ他の対策を取ろうにも、全然時間が足りない。このままフェンサリルが消滅するのを指をくわえて見ているしかできないのか、と誰もが無念に思った……その時。

「なんですか、この反応……! ユーリ技術部長、次元跳躍弾頭の射線上に巨大な物体が移動してきています!」

「識別信号、特定しました。これは……時の庭園です! ジュエルシード事件の後、地球の近くで廃棄されていた時の庭園が、どういう訳か移動しています! このままいけば38秒後に次元跳躍弾頭の射線上へ移動、衝突します!」

その報告を聞いて最も驚いたのは、フェンサリルにいるフェイトだった。2年前の事件が終わってから時の庭園には誰も訪れる者がおらず、また訪れる理由のある者もいなかった。そんな時の庭園が今になって動き出すとか、まるで亡きプレシアの魂がそうさせたのではないかとすら思うほどであった。

「3……2……1……着弾!!」

刹那。人間には感知できない周波数で空間が振動する。レーダー画面に広がるのは、画像の乱れと時の庭園の反応消失、そして……、

「次元跳躍弾頭、消滅! フェンサリルへの着弾は避けられました!」

『ふぅ~! ようわからんけど、とにかく首の皮一枚は繋がったんやな』

『(母さん……リニス……私達を守ってくれたんだね。ありがとう)』

時の庭園の消滅を本能で理解したフェイトは、死んでもなお自分達を守ってくれた母の想いと、育った家に深い感謝の念を送った。

「皆さん、千載一遇の逆転のチャンスです! 理由はわかりませんが、時の庭園が盾になってくれたおかげで、わずかですが猶予ができました! 直ちにスカルフェイスの打倒に着手してください!」

『それはわかったけど、こっちはどうすりゃええねん? 私ら局員は今、SOPでデバイス云々含めて無力化されとるから援護できそうにないで?』

『その心配は無用だ、小鴉』

ユーリが返答する前に別のモニターが展開され、それに映し出されたディアーチェがはやての疑問に答えた。

「あ、ディアーチェ。もう話がついたんですか?」

『皇子がクロノを利用して会談の主導権を握っておったから、周りがあーだこーだ言う前に落としどころを決められたのだ。ダシにされたクロノには気の毒だが、おかげで当初の予定より色々と都合が良くなったぞ』

「マキナさんやジャンゴさん達がアウターヘブン社への信頼を稼いでくれたおかげですね」

『お~い。そっちだけで理解してないで、私らにも説明してくれへんか?』

『急かさずとも説明してやる。現在、我らアウターヘブン社はミッドチルダの聖王教会とニブルヘイムへ同時進攻作戦を決行している。聖王教会の方はレックスから送られた黒幕の違法行為などの証拠を提供したことで管理局地上本部の認可を得て、レヴィや部下達がアルビオンらの拘束に向かった。抵抗すれば撃墜も辞さないが、そもそもマキナの件でレヴィも相当頭に来ているようでな、あれほど怒り心頭の彼女を見たのは我らも初めてであった』

「そして次の発射からは私の作った遠隔操縦の特殊兵器が迎撃を行います。ちょうど今、指定ポイントに到着しましたので、幾ばくかの猶予は稼げるはずです。なのでその間に敵のアルカンシェルを破壊し、発射を阻止する必要があります」

『そのためニブルヘイムにはシュテルが率いるエルザを向かわせておるのだ。スカルフェイスの打倒まではいかずとも、アルカンシェルさえ破壊できれば後は何とかなる。それにジャンゴ達なら魔力封印などの枷はかかっておらんから、十分戦力になるであろう?』

『しかしこっちは次元航行艦が無いで? アースラも墜落しとるし、ジャンゴさんのバイクは今ポー子爵を封印してて使えへんよ?』

『そのことに関してはフェンサリルの協力を得た。ニブルヘイムに赴くならば、彼らに助力を仰ぐがいい。元々我がラプラスでジャンゴ達を迎えに行くつもりだったのだが、ミーミルの皇子はこちらから彼らをニブルヘイムへ送り出せば時間のロスが無くて済むと言って、フェンサリル製次元航行艦に乗艦する許可を出してくれたのだ』

『フェンサリル製次元航行艦……そういやこの世界、技術力は管理局より上やったな。なるほど、状況は把握した。心苦しいけど、ほとんど戦犯扱いの私ら管理局員は力を貸せそうにな―――』

『たわけ、話はちゃんと聞け小鴉。予定より都合が良くなったのはその点なのだ』

『どういうことや?』

『先程の話を首脳会談に伝えたところ、ミーミルの皇子が「形骸化したとはいえ、不可侵条約の使者達と同行していた局員が、真のサヘラントロプスの破壊とスカルフェイスの打倒に全面的に協力し、その貢献度によっては他の局員達の処遇も考慮する」と宣言した。要するに貴様らが身の潔白を証明したいなら、フェンサリルのために最前線で命を懸けろという訳だ』

『外人部隊よろしく、私らにフェンサリルの盾になれっちゅうんやな。まあ、冷静に考えれば好条件やね。私らが戦えば、ここの局員達が処罰されることは無くなるんやし。でも魔法無しでどう戦ったらええの?』

『魔法が使えないならば、質量兵器を使えばいいだろう! 銃が嫌なら剣でも槍でも、それこそ鉄パイプなどでもいい! 人間、やろうと思えば素手でヒグマすら倒せるというのに、そんなこともわからんのか愚か者!』

『そう来たか! ちゅうかヒグマってなんやねん! 普通の人間ができるわけあらへんわ! でもまぁ……確かに魔法無しだと質量兵器を使うしかあらへんなぁ。こうなりゃスカルフェイス相手にランボープレイでもかましてやろうやないか。しっかし管理局員が質量兵器を武器にするとか……後になってマジで懲戒免職処分くらいそうや』

『ふん! もし管理局をクビになったら、貴様らの無様な姿を見下ろして盛大に高笑いしてやる。ま、貴様らがどうしてもというのであれば、清掃員にでも雇ってやるがな?』

「あ、ディアーチェは本当はこう言いたいんです。皆さんが管理局を追い出されたら、アウターヘブン社で面倒を見てあげますよ~って」

『ユゥゥゥーリィィィィーーー!!!』

考えてることをいとも簡単にバラされたディアーチェは一瞬で赤面し、ユーリに怒鳴る。素直じゃないが優しい王様の言葉に、モニターの向こうではやてがニヤニヤ笑うが、咳払いをしたディアーチェはすぐ真顔に戻した。

『コホン……ひとまず今は心配をせずとも良い。質量兵器云々は貴様らが魔法無しでも戦う意思が潰えないか、それを確認したまでのこと。貴様らの魔力封印に対しては、一応こちらで手を打っておる』

『というと?』

「レヴィ達がアルビオン大司教の捕縛に向かったのは先程お伝えしましたね? あちらは大司教を拘束し、その権限を利用して皆さんの封印を解除するつもりなんです。もちろん解除できない可能性も考慮していますが、それでもやってみる価値はあります」

『運よく解除できたのなら魔法で、できなかったら質量兵器で戦え。今の貴様らの立場では非殺傷設定がどうの質量兵器がこうのと綺麗事を言ってる場合ではないのだ』

『なるほど、さっきの確認はそういうわけか。……頭の固い管理局員ならそれでも質量兵器を拒否するんやろうけど、私らは受け入れるで。ただ……さっきからどうも疑問なんやけど、カリム達とは連絡ついとるんか?』

『それなんだが……実はこちらから何度も連絡を繰り返しているのだが、なぜだか彼女達からの応答がないのだ』

『応答がない? ん~、な~んか嫌な予感がするけど……今は無事を祈るしかあらへんな』

「では皆さんも了承したということで、改めて作戦内容を説明します。皆さんはフェンサリル製次元航行艦に搭乗し、ニブルヘイムへ次元移動、先に交戦中のシュテル達と合流し、敵戦艦を破壊してください。同時にミッドにいるレヴィ達が聖王教会に攻め込み、アルビオン大司教らを捕縛し、皆さんの封印の解除を試みます」

『了解や。私らもやけど、フェンサリルの命運は任せるで?』

「任せてください。さぁ皆さん、蹂躙の時間ですよ!」

ユーリから意外に物騒な一声を受け、フェンサリルにいる彼女達は若干の冷や汗をかきながら行動を開始した。直後、まだ通信が繋がっているディアーチェからユーリに指示が出る。

『ユーリは新たに次元航行システムを組み込んだメタルギアRAYに乗り、奴らの援護に向かえ。我も始末を付けに出る』

「わかりました。……ディアーチェ、そちらは頼みます」

そして通信を切り、ユーリも「よいしょっ!」と技術部長の椅子から飛び降り、部下達に見送られながらバージョンアップしたメタルギアRAYのある格納庫へと走った。

「またこの機体に乗る機会が訪れるなんて、できればこのような事態は起きない方が良いんですけどね」

悲し気に呟いたユーリはRAYのコクピットに乗り、発進シークエンスを進める。そしてユーリは徐に隣にある空のハンガーへ視線を向け、先ほどまでそこにあった遊び心満載の……しかし今は次元跳躍弾頭の迎撃のために出撃し、恐らく帰ってこないだろう機体に思いを馳せる。

「ごめんなさい。時間が無かったせいで、あなたに辛い役目を背負わせてしまった……。でも……どうか皆を守ってください」

本来なら子供達が笑えるようなユニークなロボットとして生み出したはずが、状況が状況だったとはいえ、兵器として運用してしまったことに謝罪したユーリは、そのやるせない怒りも胸に秘めて操縦桿を握る。

「メタルギアRAY、ユーリ・エーベルヴァイン。出ます!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

管理局フェンサリル支部、屋上

「――――わかった、すぐ行くよ」

なのはからの連絡を受け取ったジャンゴは、身を翻して地上へと走り出した。深紅のマフラーに付けられたファイアダイヤモンドが輝く中、彼は自分がスカルフェイスを倒す、と亡き友へ固く誓い、決戦に向けて意思を固めていた。

「ちょっと待ってくれ!」

そうやって廊下を駆け抜けるジャンゴに、突然声がかけられた。会議室の方に続く廊下の方から聞こえた声に反応して振り向くと、そこには黒づくめの恰好をした局員の姿があった。

「その黒い制服……もしかして君が、クロノ・ハラオウン?」

「ああ、そうだ。こうして会うのは初めてだね、太陽の戦士ジャンゴ」

「悪いけど、長くなるなら話は後にして。これから―――」

「ニブルヘイムへ行くんだろう? 大丈夫、そう長く引き止めはしない。ただ、一つだけ質問させてほしいんだ。……あなたはこの次元世界を、どう見る?」

単刀直入に尋ねてきたクロノの眼は真剣だった。それは管理局の執務官として、次元世界に生きる一人の人間として、そしてサバタの生き方を見届けた者として、どうしても知っておきたいことであった。

「言葉で全部言うのは難しいけど、一言で表すなら……悲しい世界だと思う。銀河意思ダークに狙われているというのに、協力して立ち向かおうとせず、誰かを貶めようとする人がたくさんいる。世紀末世界のように生命滅亡の危機に陥っているわけでもないのに、そこまでして相手を支配下に置こうとする理由が、正直僕にはわからない」

「支配下……確かに管理も支配も、言い方が異なるだけで実質同じ意味か。僕も管理局のやり方が、最近行き過ぎているとは思う。恐らく組織の力が肥大化し過ぎて暴走しているのだろうな。管理局が最初から相手をありのままに受け入れられれば、今回の事態もここまでこじれはしなかったんだろう……。質問に答えてくれてありがとう。それと邪魔してすまなかった、健闘を祈るよ」

質問を終えたクロノは背を向けて立ち去ろうとする。その背中が少々寂しげに感じられたジャンゴは、何となく彼の背中にささやいた。

「でも……こっちにも一生懸命に生きている人がいる、誰かを救おうと頑張っている人がいる、未来に希望を託して絶望に抗っている人がいる。それを知れただけで、僕は来て良かったと思ってるよ」

言い終わるとジャンゴは、遅れた分を取り戻す勢いで地上へ急いだ。深紅のマフラーをたなびかせて去っていく彼に、

「そうか……ならばその信頼に僕も応えよう。せめてあなたが元の世界に帰るまで、次元世界に失望しないように」

振り向いたクロノは少し嬉しそうに微笑んだ。太陽の戦士、その心の輝きが次元世界も照らしてくれると願って、クロノは自分の戦場へと赴いた。



「あ、やっと来たねジャンゴさん」

支部の入り口に到着したジャンゴは、そこで集まっているなのは達を発見する。なのはもジャンゴに気づき、手を振りながら声をかける。

「遅れてごめん。でも、まだ来てない人もいるようだけど?」

気のせいか、人数がちょっと少ないことに関して尋ねたところ、ニブルヘイムに行かないメンバーがいるからだと皆に説明された。ニブルヘイムに向かうのは、ジャンゴ、クローン・なのは、アギトのアウターヘブン社組に加え、局員組はフェイト、はやてにリイン、シグナム、そしてアインスの8名であった。
居残り組であるザフィーラは先の戦闘で負った怪我が身体中に色濃く残っており、ヴィータも少なくない損傷がある上、オリジナル・なのはの様子を傍で見ておきたいとのこと。シャマルは彼女らを含む局員達を看る医者が一人は必要ということで不参加を決めた。

なお、クロノはここにいる局員を預かる身として前線に赴くわけにはいかず、今は緊急事態なので会談は中断しているが、戦闘態勢に入ったフェンサリルとの協力体制の維持に尽力している。また、先ほどジャンゴと話をした後、彼は必死に解放軍に頼み込んだことで、事態が収束するまで司令部に同席する許可を得ていたりする。とはいえ対外的に協力しているという建前を示すために居させてもらっているので、あくまでお飾りとして指示は出せない立場なのだが。

「あ、皆さん!」

一同がフェンサリル製次元航行艦のある場所に連れて行ってもらう解放軍を待っていると、中身の入ったダンボールを乗せた台車を押しているリスベスが呼びかけてきた。彼女はそのままアギトの近くにやって来ると、徐に辺りを見渡し……、

「本当に亡くなられたんですね……マキナさん」

「………ああ」

「ご冥福をお祈りします……」

命の恩人であるマキナの死が真実であると理解し、深い悲しみを見せた。傍でそれを見ていたなのは達も、そのやり取りでリスベスとマキナが親しい仲であったと知り、辛さを噛みしめた。

「ところでリスベス、どうして君がここに?」

一応顔見知りであるフェイトの疑問に、リスベスは素直に答える。

「お弁当の出前です。解放軍の皆さんにと思って、店から出張してきました」

「あぁ、言われてみれば今、夕飯時だったね。緊急事態でつい忘れてたけど、自覚するとお腹が空いてきた気がするよ」

「先程解放軍の方が他の世界にこれから出撃するとのことで弁当をたくさん買ってくれたんですけど、皆さんもせっかくですし、ご購入なさいますか? マイティマーティ弁当、お一つ850GMPです」

「売ってくれるの!? じゃあ8つお願い! 私、リスベスの料理すっごく気に入ってるから、嬉しいや」

「ご利用ありがとうございます」

という訳で出撃メンバー全員分の弁当を購入した。容器を手に持つとホカホカして温かく、出来立ての料理の良い香りが皆の食欲を大いに刺激した。この緊急事態に何で弁当を? と思うかもしれないが、空腹では力も出ないため、決戦に備えて腹を満たすのは別に間違っていなかった。

それにニブルヘイムまでの移動はどれだけ急いでも2時間以上かかる。理由はいくつかあり、まずニブルヘイムが遠い辺境にあるので移動時間がその分長くなる。次に次元空間の壁とも言える次元断層がニブルヘイムをバリアのように覆っているため、管理局のL級次元航行艦すら突破できないそれをうまく避けて、唯一通れる穴を通る必要があるからである。

移動距離だけならまだしも、この障害物が特に厄介極まりないので、管理局ですらロストロギアの反応が確認されるといったことが無い限り、事故の可能性を考えてニブルヘイムに行こうとはしなかった。そんな次元規模の天然の要塞にスカルフェイスが本命を隠していたことは、監視の目を逃れて活動できる、大軍を一度に送れない、次元跳躍弾頭を安全かつ一方的に発射できる、そういったあらゆる観点で非常に合理的であった。

一方で次元断層のバリアにはデメリットもある。一つは次元断層の穴が目的地に向いていない時は攻撃が不可能で、一つの世界を正面に捉える時間はおおよそ1時間程度である。もう一つはニブルヘイムにいる事自体が自ら袋小路に入るも同然なので逃げ場がなくなるのだ。スカルフェイスほどの資金や勢力があるならともかく、次元世界の犯罪組織がニブルヘイムに拠点を構えないのは、そういった理由があるからである。

「皆さん、お願いですから絶対に生き残ってくださいね。見知った顔がいきなりいなくなるのは、とても辛いことなんですから」

「わかるよ、その気持ち。でも……私達は管理局員だけど、それについてリスベスはどう思ってるの……?」

「店に訪れた人はどんな方でもお客様です。昔、母が言ってました。『100人を倒すより、100人を幸せにする方がはるかに大変だけど、そっちの方がとても尊いことなのよ』って。確かに管理局はミーミルを攻めてきたので当然思うところはありますが、恨んだり憎んだりするよりも、誰もが平等に笑顔になれるように頑張った方が、私は何十倍も良いと信じています」

「リスベス……その……今まで何も知らなくてごめん。その償いのためにも私、絶対にこの世界を守る。約束するよ」

「はい。これから色々大変かと思いますが、機会があればぜひ、また店に来てください。腕によりを振るって美味しい料理をごちそうしますので」

戦争で家族を失い、形見の店しか残らなかったリスベス。敵と戦う力は無くとも笑顔にする力は一人前の少女に、フェイトは心の底から尊敬の念を抱いた。そして彼女のような意思を潰えさせないために、自分達は戦うのだと改めて強く理解するのだった。

それからリスベスが施設の奥に台車を運んでいくのを見届けた後、解放軍の人間が訪れて一同はフェンサリル製次元航行艦までトラックで案内してもらった。なお、トラックに乗る際に局員組はデバイスを返却されたのだが、SOPの影響で機能はストップしたままであり、未だ戦闘に使える状態ではなかった。

自分のデバイスが一切反応しないことに局員組が苦い顔を浮かべていると、やがてトラックはノアトゥンの北にある山脈に建てられた基地に到着する。そしてトラックを降りたジャンゴ達は、滑走路で待機している巨大な次元航行艦を目の当たりにした。

“フェンサリル製次元航行艦ゴリアテ”。無数のプロペラがつき、バルカン砲なども大量に装備した超弩級戦艦だった。あまりのサイズにこれを映像で見たクロノは、「体当たりされたらアースラの方が先に押し潰れそうだ……」と頭を抱えたそうな。

案内されるまま一行が乗り込むと、格納庫には解放軍の戦車やヘリ、シャゴホッドや銃器などの兵器が所狭しと置かれており、兵士達がせわしなくそれらの点検、確認作業を行っていた。大量の質量兵器の山に圧倒された一行は、ゴリアテ内部で一行が待機する客室などを教えてもらいながら最終的にブリッジに到着する。

「火器武装異常なし」

「次元転移ジェネレーター充填完了」

「メインエンジン起動」

「了解ィ! ロック皇子、ゴリアテ発進準備完了しましたァ!!」

クルー達の報告を聞き、艦長がやけに大声でノアトゥンと繋がっているモニターの向こうにいるロック皇子に準備完了の旨を伝える。そしてロックは深呼吸し、威厳を伴いながら言葉を紡ぎだした。

『皆の者、これから赴くのは異なる世界だ。未知なる地への出撃に、当然不安もあろう。だが諸君らの肩には我らの祖先が眠りし大地、我らが同胞の生きる世界の命運がかかっている。知っての通り、フェンサリルは外の世界から訪れた脅威によって、消滅の危機に立ち会っている。これを跳ね除けなければ、我らの祖先から代々受け継がれた誇りが、大地が、祖国が、命が灰燼に帰してしまう。更に言えば、この危機を招いたにも等しい管理局、及び管理世界には我らの大地を己がモノとせんと企む傲慢な者達もいる。彼らは魔法の力にうつつを抜かし、魔法を持たぬ我らの力を侮っている。このままでは諸君らの孫子の代で、この危機が繰り返されることだろう。それではこの愚かな戦争が再び繰り返されるだけだ! ゆえに今こそ、我らフェンサリルの人間は示さねばならない! 魔導師が相手だろうと、我らは心から屈しはしない! どれほど強大な脅威に面しようと、どれだけ強力な存在が立ちはだかろうと、フェンサリルの魂は決して潰えない! フェンサリルには神の喉笛をも抉り取る力があると、全ての次元世界に知らしめるのだッ!!』

『ウォォオオオオオオォォォオオオオォォォオオオッッ!!!!!』

「皇子ィ! 皇子ィ!! 皇子ィィィィーーーーッ!!!!」

ロックの演説にゴリアテのクルー達と艦内の兵士達、及び艦長が雄叫びを上げる。そのボリュームはこの巨大なゴリアテすら轟かせるほど凄まじいもので、はやて達は耳がキーンとするのを耐えていた。ちなみに……、

「え? え?? ロックが……ミーミルの皇子? ど、どういうこと?」

「あれ? フェイトちゃん知らなかった?」

「初耳だよ!? むしろなのは達はどこで知ったの!?」

「それはサヘラントロプスとの戦いで……あ! そういえばフェイトちゃん、あの時撃墜されて気絶してたから知らないんだっけ」

それだけではなく、これまでロックが皇子だという話題が出ている時に限って、フェイトはその場にいないか、いても聞けなかった事が多かった。他にも某国の皇子などと表現されて、単語同士が結びつかないことにもなっており、まるで運命の悪戯が働いてるかの如く、フェイトにだけその情報が届かないようになっていた。

「うあぁ~! もぉ~! 道理で時々話が噛み合わなかった訳だよぉ! 誰か教えてよぉ~!」

ようやく自分だけズレてる原因が判明したフェイトは半泣きで頭を抱え、軽い仲間外れ感に苛まれてしょんぼりと落ち込んでしまった。そんな彼女とは対照的に、ゴリアテのクルー達のボルテージは最高潮に達した。

『第13代ミーミル皇帝ロック・ラピス・ミーミルが命ずる! フェンサリルを守り抜け! 
ゴリアテ、発進!!』

『ラジャーッ!!』

そしてゴリアテは重厚な音を響かせて動き出し、ゆっくりと空へ上がり……次元空間へのゲートを開いて、フェンサリルの外に飛翔していった。

しかし直後、艦内に警報が鳴りだす。

「アウターヘブン社マザーベースより緊急通達! 次元跳躍弾頭、第二射接近!!」

「なんだとォ!? ま、まさか! 敵はたった30分で次弾を発射してくるのかァ!! 通信兵! アウターヘブン社の例の特殊兵器とやらはどうなっているゥ!?」

「現在、迎撃態勢に移行しているようです。レーダーの映像、出します!」

そしてブリッジのモニターに映し出された特殊兵器の全容を見て、なのは達は周りの見る目もはばからずに吹き出した。一目見るだけでたまらずせき込むほどの衝撃が彼女達を襲ったのだ。

一昔前にブリキで作られてそうなレトロなデザイン、真っ黒な鉄腕と真四角の頭部にへちゃむくれな顔、どこか見覚えのある白い制服を着たロボット。明らかに今のシリアスな場にそぐわない外見の機体、しかしその胸に宿るは人を愛し、世界を守る正義の光!

『全人類よ、刮目せよ! 愛と希望を守るために世界の危機に立ち上がった、あのロボットの名は……超次元機動戦士“ナノハンダム”ですッ!!』

なぜか突然、通信に割り込んできたユーリが気迫のこもった表情で叫んだと同時に、ナノハンダムも斜めの姿勢で大股になり、右手の人差し指を天に向け、左手の人差し指と小指を下に向けて、ラグジュアリーなポーズをバァァン! と決めていた。……うん、そろそろツッコミの声を入れてあげるべきだろう。

「アホかぁああああ!! なんであんなボケ満載なロボット作ってんねん!! 効果音と演出付きとか、無駄に気合い入りすぎやろ!! いくらなんでも空気読めやぁああああ!!!!」

「せめて見た目とかもうちょっと何とかならなかったの!? 今から決戦だっていうのに、一気に力が抜けちゃったよ!? ユーリのセンスはどこに向かってるの!?」

「モデルにされた私ですら、もうどこからツッコめば良いのかわからない! っていうかコレ絶対おふざけで作ったよね!! なんか無駄にすごく高い技術で作られてるけど、もっと別の方向に力を注ぐべきだったよねぇ!!」

目を逆三角にしたはやて、フェイト、なのはの猛烈なツッコミが炸裂する。アインスとリイン、シグナムも困惑する中、ユーリの真意を知るアギトはナノハンダムがこのような形で表に出てしまったことを残念に思っていた。

「(マザーベースにいる子供達の遊び相手として、ユーリとレヴィがはまってたアニメのロボを真似て作ったはずのアレが、世界の防衛のためとはいえ兵器に転用される……皮肉だな。なのは達からはふざけてるように見えるんだろうが、一番悲しんでるのは何を隠そう、製作者のユーリなんだよなぁ……)」

そう考えてアギトは画面の向こうにいるユーリが悲しい様子をおくびにも出さないのは、出撃前に心の中でケジメをつけたからだろうと判断した。
それはともかく、エネルギーをチャージし終えたナノハンダムは、なぜかアディオスと言いそうな仕草を取った。その意味がわからず、はやて達は首を傾げるが……ゴリアテのクルー達は“彼女の意志”を察し、思わず敬礼する。
そしてナノハンダムは背中のジェットを展開し、高速で飛翔、はるか彼方の次元空間から超高速で飛んでくる次元跳躍弾頭に向かって……、

ドォーンッ!!

「な、ナノハンダムゥゥゥウウウウウ!!!!!!!??????」

ナノハンダムは次元空間をグングン突き進み、飛来中の次元跳躍弾頭に突撃、巨大な爆発に飲み込まれた。まさかの特攻になのはは目を見開いてナノハンダムの名を叫んだが、ゴリアテのクルー達は“彼女”の命を呈してでもフェンサリルを守ってくれた覚悟に涙を流しながら敬礼を維持していた。

その後、爆発の光が消えて、次元跳躍弾頭が消滅した場所には……“彼女”の姿は一欠片も残っていなかった……。

「ありがとう、ナノハンダム。我々は勇気ある者に敬意を表する。あなたの誇り高き覚悟、しかと見届けたぞ……!!」

『ウォォオオオ!! ナノハンダム!! ナノハンダム!! ナノハンダムゥー!!!』

艦長のしんみりした語りを聞き、ゴリアテ内で号泣しながらナノハンダムコールが響き渡る。そのカオスな光景に、なのははなんかもう言葉にできない虚しさを抱き、早く新しい名前を決めたいと結構本気で思った。


ちなみに……、

「ナノハンダムって……次元世界の人達から見ればカッコイイの?」

「違うに決まってんだろ……」

ジャンゴに純粋な表情で質問されたアギトは、世紀末世界に変な誤解が広がらないことを切に願った。

「そっか、僕はカッコイイと思ったんだけどなぁ……」

「え」





とりあえずナノハンダムの特攻のおかげで、ニブルヘイムの次元断層の向きがフェンサリルから外れるまでの時間稼ぎに成功、次の弾頭を撃たれる事態は免れた。これによって緊張が抜けたことで空腹が強く主張してきたため、ジャンゴが「弁当、食べよっか」と提案し、頷いた彼女達と共にブリッジを出てあてがわれた客室へ移動する。

殺風景な部屋でテーブルを全員で囲み、一斉にマイティマーティ弁当を開ける。直後、鶏の山賊焼きにトマト、レタス、チーズ、レッドハーブのピクルスを乗せ、ライスバンズで挟んだライスバーガーの良い匂いが部屋中を包み込み、食欲の導火線に火をつけた。

『いただきます!』

手を合わせて挨拶し、弁当を食べ始める。ある者は素手でバーガーにそのままかぶりつき、ある者はバーガー用の袋を使って手を汚さないようにしていただくが、誰もが一口目を食べた瞬間、カッと目を見開いて「美味いっ!!」と叫んでいた。

「これは……! こ……、こんなことが料理で……できるなんて!! ガッツリ味を濃くした鶏肉を少し溶けたチーズのとろりとした食感がまるで母の手のように包み込んでいるから、一気にガツンと来るんじゃなくて、スルメみたく噛むごとにじわりじわりと味が溢れ出てくる! しかも噛んでいくうちにレタスのシャキシャキ感が口の中に残った濃い味を優しく緩和し、ピクルスが隙間を埋めるように歯ごたえを堪能させてくれる! そしてトマトの酸味が口の中を綺麗さっぱりにしてくれて、次の一口を早く早くと自然に要求させる! これは一口を楽しもうと思えば飴玉ぐらい長く堪能できるし、一回飲み込むだけで胃袋にすごい充足感を与えてくれる! しかも片手でも食べられるから、忙しい人でも仕事の合間に手軽に食べられる! なんていうか、砂漠で鍛え上げた戦士がお姫様を迎え入れるように紳士的っていうか、どんな絶体絶命な状況でも心の底から力強く支えてくれるパワーがあるっていうか、もうそんな感じだよ!!」

「あ、あのフェイトちゃんがすごい饒舌にリポートしとる……。こんなフェイトちゃん、初めて見たで」

「彼女がこの状態になるのは二度目だぞ。アタシの知る限りでは、だが」

「でもフェイトちゃんの気持ちは私もよくわかるなぁ。だってこれ、すっごく美味しいもん。精力が湧く料理だから元気も出るし、そのおかげでニブルヘイムの寒さで力が出なくなるなんて情けない事態は避けられそうだし、至れり尽くせりだね」

「うん。美味しい料理って、それだけで生きる活力が湧いてくるものだ。僕だって、うますぎる!! って叫びたくなるほどだし」

「それに一緒に入ってたデザートのゼリーも美味しかったし、とても満足できた。食べるだけで幸せにするということの意味が、料理に込められた愛情から伝わってきた気がするよ」

アインスの感想には全員、何の疑念もなく同意した。食事を終えた後も力が溢れてくるような感覚を味わいながら、ジャンゴ達は決戦の時を待った。


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新暦67年9月24日、20時31分

ミッドチルダ北部、聖王教会領地。

台風のような大雨が降り注ぎ、嵐が吹きすさぶミッドチルダ。まだ明るい部屋がいくつか残る教会の中、レヴィはアウターヘブン社から連れてきた信頼できる二人の部下を率いて突き進み、アルビオンの執務室の前に止まるなり、扉を力づくで蹴破って入る。

「邪魔するよ」

ドスの効いた声でそう言ったレヴィだが、鍛え上げてきた戦士の勘が反射的に彼女をバルニフィカスで防御させる。直後、間一髪で相手の不意打ちをせき止めた。

「神聖なる教会に野良PMCごときが攻め込んでくるとは……罰当たりにも程がある」

部屋の主だったアルビオンはレヴィ達が来るのをまるで事前に知っていたかのごとく、既に戦闘準備を整えた状態で襲撃してきた。聖王教会の一画が今の衝突で爆発し、レヴィの身体も防御したとはいえ勢いを抑えきれず後方に吹き飛ぶ。追撃を仕掛けてきたアルビオンの刃をレヴィは歯を食いしばって空中で防ぐ。

「お前達のような根無し草に戦いの礼儀なぞ無用、無謀な勝負を挑んだことを後悔させてやろう」

「他人のこと言えないでしょ、アルビオン大司教。むしろ罰当たりなのはそっちだ。管理局も教会も全部利用して世界の危機を生み出し、挙句の果てにマキナまで死なせて……! 詫びを入れるなら今の内だよ!」

「闇の書の先代主の娘が死んだところで、私には関係ない。むしろ喜ばしいことではないか。あの忌まわしきロストロギアの遺児が、我々の力の汚点でもあるニダヴェリールの生き残りが、ようやくいなくなってくれたのだからな!」

「ッ……! 今のを聞いてよくわかったよ。お前みたいなのがいるから、マキナは安心できなかった。お前みたいな奴に命を狙われてたから、ずっと戦い続けていた。だったらお前に報いを受けさせる事こそが、今ボクが彼女にできる手向けだ!」

「短絡的な奴はそうやって我々の崇高な思想をまるで理解しようとしない。はぁ、この会話すら何の意味もない下らない時間だった。これ以上気分を害される前に、さっさと終わらせてやろう!」

「何一人で思い上がってんの? こっちの要件は何一つ済んじゃいない……クロハネ達を封じたSOPの解除と、お前の身柄の拘束。これ以上余計な抵抗をするようなら、もうどうなっても知らないよ。今のボクは非常に我慢弱いんだ!」

「SOPの解放? 身柄の拘束? はっはっはっ! ずいぶん面白い戯言を言うじゃないか。お前達の要求にこのアルビオンが従うとでも? それにお前如きの実力で、大司教であり少将でもあるこの私に敵うものか!」

アルビオンが手に持つアームドデバイス、柄を挟んで両方に黄金色の魔力刃が伸びるダブルセイバー。扱うには高い技量を要するその武器を得物にしていることから、アルビオンの実力が垣間見えた。

だがそれを知った所で、レヴィの頭に退く考えは微塵も浮かばなかった。刹那、息もつかせぬ速度で切りかかってくるアルビオン。対するレヴィもバルニフィカスのモードを変更、二刀流にして応戦を開始、CQCも交えながら青く輝く刃を衝突させる。

「クッ! 意外に強いね……! でも、お前がどれだけ強かろうが、ボクは負けられない! この落とし前、ここでつけさせてやる!!」

レヴィが啖呵を切るのと同時に嵐で雷鳴が轟き、聖王教会での戦いの火蓋が切って落とされた。


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新暦67年9月24日、22時04分

第78無人世界ニブルヘイム、上空。

「いやぁ……まさか土壇場で、フェンサリルの技術力を思い知るとはなぁ」

「管理局以上の技術力を目の前で証明されちゃったね、はやて」

「次元跳躍弾頭も一応フェンサリルの技術が流用されてるらしいし、アウターヘブン社の技術力も考えると、最近の魔導文明ちょっと出遅れてる感がするよ」

遠い目を浮かべるはやて達に、管理世界の人間が泣きそうな辛辣なセリフを吐くなのは。彼女達がこんな事を言っているのは、ニブルヘイムに突入する少し前、ゴリアテに搭載されていた新機能ゲートキーパーによって、管理局では不可能だった次元断層をまさかの力づくで突破したのが理由だ。
はやて達が唖然とするのを尻目に、極めて最小限のタイムロスでニブルヘイムに到着したのはいいが、同時に管理世界と管理外世界の技術力の差が思った以上に狭いどころか、むしろ管理外世界の方が上回りつつある状況に、アインスは「時代が変わりつつあるのかもしれない」とぼやいていた。

「外気温、マイナス8℃。気圧、968ヘクトパスカル。風速11メートル。典型的な氷雪気候です」

「前来た時……あ~オリジナルのことね。その時も思ったけど、とにかく寒いんだよね、この世界」

「吹雪のせいで全く外が見えないけど……大丈夫なの?」

「ゴリアテの気象レーダーによると、もう少し飛べば吹雪を抜けられるそうだ」

「つまり吹雪を脱出してからが、決戦の始まりっちゅうことやな」

はやての言葉でなのは達も一旦緩んだ気を引き締めなおす。数分後、ゴリアテは吹雪を抜けるが、すぐさま視界に入った光景にクルー達もつい息をのむ。

「ゴリアテも相当デカいとは思っとったけど、あちらさんもどっこいなレベルのデカブツを出してきよったなぁ……正直、魔導師だろうと人間が相手するもんじゃない規模や」

敵戦艦名、アーセナルギア・アルカンシェル。マキナが教会で手に入れたデータをユーリが道中で解析したことでその名前が判明したが、“アルカンシェル”の名を冠している辺りに自らの兵器に対する自信と、『管理局の技術が生み出したもの』という側面を大っぴらに見せることで敵意を煽らせる目的があるのは察せられた。

「戦艦名もアルカンシェル、主兵装もアルカンシェル……なんかアルカンシェル尽くしだね」

「わざとややこしくしとるんやな、名称を同じにすることで私らが識別しにくいように」

「こんな所まで面倒くせぇ真似するんだな、スカルフェイスの野郎は。もう戦艦の方を言うときはアーセナルギアでいいだろ。んで、どうやって攻め込む?」

アギトの質問を受けて、再度通信が繋がったユーリから説明が入る。

『データ上のスペックではありますが、あのアーセナルギアの迎撃能力は管理局のL級次元航行艦モビーディック10隻分に匹敵します。外部からの破壊は不可能と言って良いでしょう。よって何とか迎撃網を突破し、内部へ突入する必要があります』

「なるほど、戦艦相手なら魔法があろうが流石にキツイけど、白兵戦なら今の私らでも戦えそうやな。問題はどうやって入るかやけど……先行して交戦中のシュテル達から連絡はあらへんの?」

『早速、私をお呼びですか』

話を持ち出した直後、ゴリアテにシュテルからの通信が入る。モニターに映ったシュテルはルシフェリオンにシールドを張りながら、M4カービン・アサルトライフルで敵アーセナルギアから放たれたミサイルや空中機雷などを撃ち落としていた。魔法の使用を最小限にしているシュテルの後ろでは、『攻撃の手を緩めるなぁー!!』と叫んだり、『敵の目を引き付けろ! ここで持ちこたえるんだ!!』と味方を鼓舞する彼女の部下達と、無慈悲な攻撃を続けるアーセナルギアとの間でまるで戦争同然の爆発や銃撃が飛び交っており、一瞬の気の緩みも許さない緊迫した状況が広がっていた。

『シュテル! 状況はどうなってるんですか!?』

『見てわかると思いますが、敵の攻撃を引き付けるだけで精一杯です。ほとんどの仲間達が大なり小なり損傷を負いながら、それでも戦うことで辛うじて持ちこたえています』

「シュテルがそこまで追い込まれてるって、かなり切羽詰まってるよね! 急いで私達も援護に―――」

『ダメです、ナノハ達はこちらに来てはなりません! それより敵戦艦への侵入に専念してください!』

「でも!」

『敵の目がこちらに向いている今、あなた達への迎撃は最小限になります。その隙を突けば、敵戦艦に入り込めるはず……! 私達の援護に回るくらいなら、スカルフェイスの打倒に専念しなさい! あの男を倒さない限り、この戦いは終わりません!』

「くっ……!」

『シュテルの援護なら私がRAYで向かっています。もう少しで着きますから、それまでの辛抱です!』

「ゴリアテもアーセナルギア内部に兵士を送り届けた後、彼女達の援護に向かうぞォ! 外での大規模戦闘ならともかくゥ、白兵戦では悔しいが魔導師の方が強いからなァ!!」

『え~聞きましたね、ナノハ。このようにユーリ達が来る以上、あなた達がこちらに来る必要はありません。あなた達はあなた達の戦いをするんです』

「……わかった。防御に関してならユーリは最強だもんね、シュテル達は負けないって信じるよ」

『それでいいんです。では、こちらが掴んだ敵戦艦の情報を伝えます。アーセナルギアには特殊なディストーションシールドが存在しているのですが、これには魔法を吸収する性質があります』

「吸収!? だからシュテル達も質量兵器で戦ってたんだ」

『ここからが肝心なのですが、吸収された魔法はアリシア・テスタロッサを間に挟んで、アーセナルギアに供給されてしまいます。要するに砲撃魔法を撃てば、ダメージはアリシアに通ってしまい、魔力はアーセナルギアの動力に注がれるということです』

「なっ!?」

簡単に言えばあのシールドは、アリシアにダメージを肩代わりさせて、エネルギーだけ手に入れている訳である。敵戦艦の非道なシステムに、なのはもそうだが誰よりフェイトが怒りを露わにした。それこそ握りしめた手から血が滴るほどに。

『とにかく質量兵器なら吸収はされませんが、シールドの強度は想像以上に強固です。恐らく核シェルター並みに頑丈でしょう』

「じゃああのシールドを突破するには、核兵器に匹敵する火力が必要ってこと!?」

「冗談キツイわ! どうやってそんな火力を用意せいっちゅうねん!」

『データによると、アーセナルギア内部にいくつかあるシールド発生器さえ破壊すれば、シールドの展開が一部出来なくなるようですが……今この状況でアーセナルギア内部に味方がいるはずが―――』

―――ドーンッ!!

ユーリの説明中に、いきなりアーセナルギアの左舷から爆発が発生する。直後、シールドが波のように揺らぎ、一部に六角形のノイズが走ってガラスの穴のようなものが開いた。

「アーセナルギア内部のシールド発生器の一つが破損! シールドに乱れが発生しました!」

「な、何が起こったのかわかりませんが……シールドの一部が展開できなくなっています! あそこからなら侵入は可能です!」

「うぉぉおおお!! これは天の采配かァ!? この機を逃すなァ! 操縦士、ゴリアテを全速力であの穴に向かわせろォ!!!」

「アイアイサー!!」

艦長の雄叫びと同時にゴリアテの速度が上がり、シールドの破損部へ一気に飛行する。まさかの展開にユーリもなのは達も驚いたが、このチャンスに乗らない理由はなかった。

『今の内に作戦を確認します。皆さんはアーセナルギア内部に侵入後、スカルフェイスの打倒、およびアーセナルギアの動力炉を破壊してください。アルカンシェルの砲台はディストーションシールド並みに頑丈です。直接攻撃しても効果は薄いですが、動力炉を破壊すれば連鎖的に崩壊できるはずです。……ジャンゴさん、次元世界の命運はあなた達に託します!』

「了解! そういえばこんな時、マキナはリーダーとしてビシッと決めるように言ってたっけ」

「考えてみればそんなに月日は経ってないのに、あれからずいぶん遠くまで来た気がするね」

「ああ……その上、姉御はアタシらより更に遠くまで行っちまったがな」

「うん。でも……彼女が何を求め、何のために生きたのか……共にいた僕達は知っている。それは大切な……言葉にはできないけど、とても大切なものだ。だから守るんだ、僕達が。生きて未来に伝えるんだ、皆で。……さて、あんまり長く話すのも野暮かな。皆、今こそスカルフェイスと決着をつける時だ! 行くぞ!!」

『応ッ!!!』

ジャンゴの声に同調して雄叫びを上げた彼女達を乗せ、ゴリアテはアーセナルギアの迎撃を真正面から受け止めながらシールドの穴に最短距離で接近する。徐々に閉じつつあるシールドの穴に向かって、ゴリアテのハッチからジャンゴ達はフェンサリルの兵士達と共にアーセナルギアの甲板へ飛び移る。だがあまりの強行作戦ゆえ、アーセナルギアの攻撃などによる激しい振動や衝撃によって数人の兵士達が足を踏み外しかけるが、なのはとアギトの飛行魔法でギリギリ落下を免れていた。

乱れが収まってシールドが修復されたため、ゴリアテはシュテル達の援護に向かうべく脱出していく。一方で内部に入れる扉を抜け、他のシールド発生器の破壊に向かった兵士達と別れたジャンゴ達は、薄暗い機械仕掛けの空間を足早に突き進む。その先に待つ髑髏を、この世から浄化するために。
 
 

 
後書き
時の庭園再起動:ネピリムが教会のサヘラントロプス戦に来れなかった理由。
アーセナルギア・アルカンシェル:MGS2のアーセナルギアと、ゼノギアスのメルカバーを融合させたような戦艦です。ちなみにゼノギアスにもアルカンシェルという巨大ギアが存在します、乗ってる奴はアレですが。
素手でヒグマを倒せる:MGSVより、やればできます。
マイティマーティ:ゼノギアスより、キスレブD地区で食べられる料理。あっちでは特に効果はありませんが、この小説ではバフが付きます。……気分的に。
ゴリアテ:ゼノギアスよりキスレブの空中戦艦から引用。ゲートキーパーなども同様ですが、艦長だけは何となく濃くしてみました。
ナノハンダム:全長11.8メートル、重量6トン、武装無し。動力は電気で、主に太陽発電と接続して充電。ジェットエンジンは水素を使用。入力された音声は『リリカルマジカル』、『ゼンリョクゼンカイ』、『ミンナヲマモル』、『マモレナカッタ……』。元ネタは紫天ロボですが、楽しませるためのロボットが兵器として使われ、最期を遂げてしまった悲しき機体。
レヴィVSアルビオン:かなりガチの勝負。なお、不安要素込み。
M4カービン:MGS4 スネークのメインウェポンで、カスタムパーツが豊富です。夜での戦闘のため、シュテルはライトとスコープを付けています。


シールド発生器の一つを破損させたのが誰か、察しの良い人はお気づきでしょう。ちなみに真のサヘラントロプスとアーセナルギア・アルカンシェルはイコールではありません。

現在の予定ではエピソード3は、世紀末世界からスタート、エピソード1みたいな一人称プラスαに戻す、冥府の炎王イクスヴェリア参加、所々にばらまかれてある伏線の回収をしようと思っています。エレン達ラジエルの行方や、この時期に何をしているのかなども色々判明させるつもりです。 
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