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夢値とあれと遊戯王 太陽は絶交日和

作者:臣杖特
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レベル7後編 その眼に映るもの全て

 
前書き
前編と中編のあらすじ
哀手(アイデ) (モク)は友人の九衆宝(クシュボウ) 毛糸(ケイト)に誘われて、決闘(デュエル)をする。しかしそれは、樢の中のサンサーヴを目覚めさせる為の作戦だった。そして毛糸は樢の中のサンサーヴを起こし、決闘で下した。
そして、完全覚醒したサンサーヴを無力化し破壊するという毛糸の計画の、最終段階が始まる…… 

 
「あいつ、不完全とはいえサンサーヴの力に勝つとはな」
「大したものですね」
 老伍路(オイゴロ) 夢値(ムチ)とダードが勝者を称えるのんびりとした空気の中、最早完全にサンサーヴに意識を乗っ取られたであろう哀手(アイデ) (モク)はぬらりと顔を上げた。
「あぁ…………」
 そして樢は腕をぐるんと回す。
「お前を倒さなきゃな」
「そう」
 決闘(デュエル)がひとまず終わり、再び対峙する樢と九衆宝(クシュボウ) 毛糸(ケイト)
「さっき負けた人間の言い方とは思えないな」
「毛糸さんにとっても、サンサーヴにとっても、これからの戦いが本当の戦いなんでしょう」
 呆れたダードに夢値が応えた。
「いくぜ!」
 樢が腕を縦に振るうと、室内の空から大きな箱が2つドスンと降ってきた。丁度樢と毛糸の目の前に1つずつだ。
 そしてそれらは、地面に安定すると透明になった。
「これから見せてやるよ、俺の力を」
「似たようなものをさっき見たわ」
 両者が箱の上にデッキを置く。
「「決闘!!」」


「先攻は当然俺だ。《王立魔法図書館(おうりつまほうとしょかん)》を召喚」
「……」
「明らかにとんでもないことする気満々ですね」
「ただ、相手があの女だ」
「毛糸さんの使う『PSY(サイ)フレーム』デッキならば、相手の先攻1ターン目の行動にも対応しやすいですからね」
 表情が読み取れない毛糸の顔を確認しながら夢値とダードは好き勝手に話す。
「まず手始めに、《手札断殺(てふだだんさつ)》。俺が捨てるのは《毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン》と2枚目の《王立魔法図書館》だ」
「私は《PSYフレーム・ドライバー》と《和睦(わぼく)使者(ししゃ)》」
「そして互いに2枚ドロー。魔法を唱えたので、《王立魔法図書館》の第1効果で《王立魔法図書館》に魔力カンターが乗る。……ふん、さっさと終わらせてやる。《死者蘇生(ししゃそせい)》だ。墓地の《王立魔法図書館》を特殊召喚。1体目の《王立魔法図書館》に魔力カウンターが乗る」
「……まだ九衆宝 毛糸は動かないんだな」
「《手札断殺》の効果で手札の質を上げられたとは言え、毛糸さんが対抗出来る手段自体が限られていますから」
「さて、《妖刀竹光(ようとうたけみつ)》を1枚目の《王立魔法図書館》に装備。これで3つだ。1枚目の《王立魔法図書館》の第2効果を発動。魔力カウンターを3つ取り除いて1枚ドロー」
「回り始めましたね」
「こっからえげつないことになったりするんだが、九衆宝 毛糸は大丈夫か?」
 《王立魔法図書館》は、魔法カードを3枚唱える毎に1枚ドロー出来る。そして、この効果は1ターンに何度でも発動出来る。《王立魔法図書館》1枚から、何枚ものドローを引き出すことが出来るのだ。
「当然揃うよなぁ!《黄金色(こがねいろ)竹光(たけみつ)》発動。《妖刀竹光》があるから2枚ドロー。そして2枚の《王立魔法図書館》に魔力カウンターを1つずつ乗せる。《黄金色の竹光》をもう1枚。これで2枚ドロー。2体目の《王立魔法図書館》の第2効果で更に1枚ドロー」
 《チキンレース》、《トレード・イン》、《成金(なりきん)ゴブリン》。樢はそこからずっと、悩むことも迷うこともなくカードをドローしていった。
「《成金ゴブリン》だ。1枚ドロー」
 そして、
「デッキがもう無くなったな」
「ですね」
 樢のデッキは全て引き切られ、手札、墓地、フィールドに還元されていた。
「要はあいつが欲しいカードが全部揃ってるってことだ。仕掛けてくるぞ」
「そしてそれに、毛糸さんがどう対応するかですね。手札誘発の回数も限られて……」
「おい、そこの観客共」
 ふと、樢が夢値達の方を見やった。
「はぁい、どうしました?」
「まさか、これがまともな決闘になると思ってんのか?」
 樢は嘲るように口元を緩めた。
「まともじゃない決闘ってなんですか?」
 夢値は首を傾げた。
「あぁ、遊戯王で坊主めくりでもしたらまともじゃないですね」
「どうもお前らはこいつがスカした顔してるのが気になってるみたいだな」
 樢は夢値の話を解せず毛糸を指差した。
「それは気になりますね」
「こいつはなぁ、別に好きで無表情やってんじゃねぇんだ」
 毛糸の親か教師のように、樢は話を続ける。
「変える表情が無いからずーっとおんなじ顔なのさ」
「変える表情が、無い?」
「…………」
 ダードと夢値は怪訝な表情をした。
「決闘を始めた瞬間、もうあいつに選択肢は無い。先攻を取られ、俺の全ての行動をボーっと黙って眺め、そして負けるしか無いんだよ。要はなぁ……」
 樢はニヤリと笑うと再び毛糸の方を向いた。
「手袋投げて向かい合って流儀だなんだってやる決闘(けっとう)じゃねぇ、これは俺の一方的な虐殺なんだよ!儀式魔法、《リチュアの儀水鏡(ぎすいきょう)》!」
「儀式魔法!?」
 ダードの叫びを背景に、効果の処理が進んでいく。
「儀式召喚するのは《イビリチュア・マインドオーガス》。儀式のリリースは手札のもう1枚の《マインドオーガス》だ」
 毛糸はこれにも反応しない。
「《マインドオーガス》の効果発動。俺の墓地の《死者蘇生》、《黄金色の竹光》3枚、《成金ゴブリン》をデッキに戻す。そして墓地の《儀水鏡》の第2効果。墓地の《マインドオーガス》を手札に戻し自身をデッキに戻す。手札の《アルカナフォースXXI(トゥエンティーワン)THE() WORLD(ワールド)》をコストに《トレード・イン》。2枚ドローだ」
「今のあいつのデッキは、《マインドオーガス》と《儀水鏡》によって仕組まれた6枚だ。何を企んでいるんだ?」
 ダードは4枚になったデッキを見ながら呟いた。
「手札に来たのは2枚の《黄金色の竹光》。一気に4枚ドローだ」
「仕組んだデッキを全部引ききった!?」
「《死者蘇生》だ。墓地の《THE WORLD》を特殊召喚。《THE WORLD》の効果は……一応コインを投げるか……当然表だ」
「……なんかあいつ、おかしくないか?」
 ダードはぼそぼそと夢値に話しかけた。
「自分が何引くか、それどころかコイントスの結果まで見透かしてるようだぜ。何かのイカサマか?」
「イカサマじゃないですよ、恐らく」
「じゃあ、何なんだ?」
「……あれはただの強運です」
「強運?にしたって程度が」
「尋常じゃない程度の強運です」
「はぁ?」
「だって……」
 夢値はこっそり毛糸を一瞥した。
「毛糸さんに変える表情が無いんですから」
「変える表情?ってなんだ?」
「《儀水鏡》で手札の《マインドオーガス》を、フィールドの《マインドオーガス》をリリースして儀式召喚。効果で《死者蘇生》と《黄金色の竹光》2枚をデッキに戻す。墓地の《儀水鏡》の効果で《マインドオーガス》を手札に《儀水鏡》を手札に加える。さっき引いた《黄金色の竹光》で2枚ドロー。今引いた《黄金色の竹光》で残りのデッキ全部引かせてもらう。そして《死者蘇生》。《毒蛇王ヴェノミノン》を墓地から特殊召喚だ。そして《儀水鏡》。手札の《マインドオーガス》を、フィールドの《マインドオーガス》をリリースして儀式召喚。効果で《黄金色の竹光》2枚と《死者蘇生》と《成金ゴブリン》をデッキに戻す。さて、《THE WORLD》の効果発動。フィールドの《王立魔法図書館》2枚を墓地に送り、再び俺のターンになる。カードを1枚セットしてターンエンドだ」
「そうか《THE WORLD》の効果を使えば、後攻1ターン目を迎える前に戦闘で相手のLPを0に出来るのか!」
「いいえ、戦闘で毛糸さんのLPを0にする気はありませんよ」
「え?」
 夢値の冷静な声にダードは思わず振り向いた。
「態々無限コンボを敷いてきていますから」
「無限コンボなのか。やけに同じことをすると思ってたが」
「《マインドオーガス》と《儀水鏡》のコンボで、もし無限にカードを引くことが出来るなら、墓地の好きなカードを好きなだけ手札に加えられるようになります。そして、無限にカードを引く方法ですが、例えば、今回なら《死者蘇生》をデッキに戻したいとして……」
 夢値は少し思案げに上を向いた。
「デッキが0枚で、手札に発動出来る《黄金色の竹光》と《マインドオーガス》と《儀水鏡》。フィールドに《マインドオーガス》がいる状態で、えっと、」
 夢値はそこで少し止まると話を再開した。
「《マインドオーガス》を儀式召喚してその効果で墓地の《黄金色の竹光》2枚と《死者蘇生》をデッキに戻します。これでデッキ残り3枚。そこで手札の《黄金色の竹光》を使えば必ず《黄金色の竹光》が手札に入ります。これでデッキ残り1枚。そこで、墓地の《儀水鏡》の効果で《儀水鏡》をデッキに戻しつつ《マインドオーガス》を墓地から手札に加えます。これでデッキ残り2枚なので、さっき引いた《黄金色の竹光》を使えばデッキが丁度残り0枚になって、」
「手札に《黄金色の竹光》、《マインドオーガス》、《儀水鏡》、場に《マインドオーガス》という状態に戻った上で、《死者蘇生》が手札にあるのか!」
「はい。そうやって無限に《死者蘇生》を回収することで、墓地の《図書館》をあるだけ出せるので、《THE WORLD》の効果の犠牲に困らなくなるので、無限に自分のターンを得ることが出来ます」
 視点を樢に戻すと、《死者蘇生》で2体目の《王立魔法図書館》を蘇生していた。どうやらメインフェイズまで進んでいたようだ。有り余っているドローソースを存分に使ったのか、デッキ枚数は再び0枚になっている。
「さぁまだ終わんねぇぞ。《儀水鏡》で《マインドオーガス》をリフレッシュ。そして戻すカードは……」
 夢値達が会話している間に回収していたのだろうか、樢はまた儀式魔法を唱える。
「《妖刀竹光》2枚、そして《毒蛇神(どくじゃしん)ヴェノミナーガ》だ」
「ヴェノミナーガ!?そう言えば……」
 ダードは弾かれたように樢のフィールドを見返した。
「前のターンに《THE WORLD》を《死者蘇生》した後に《ヴェノミノン》も《死者蘇生》していた!ってことは、前のターンに伏せたカードは……」
「《シールドクラッシュ》で守備表示の《ヴェノミノン》を破壊。そしてそれをトリガーに《蛇神降臨》。その効果でデッキから、《ヴェノミナーガ》を特殊召喚だ!」
毒蛇神ヴェノミナーガ 攻500
「《ヴェノミナーガ》出したはいいが、攻撃力500じゃ…………っ!?」
 ダードは跳ねるように目を見開いた。
「まさかあいつ、」
「バトルフェイズ!《ヴェノミナーガ》でダイレクトアタック!」
毛糸 LP11000→10500
「《ヴェノミナーガ》が戦闘ダメージを与えたことによって、その第4効果が発動する。それにより、このカードにハイパーヴェノムカウンターを1つ乗せる。これでターンエンド、再び俺のターンだ」
「お、おい……」
 ダードは震えた声で毛糸を盗み見た。
「どうしました、ダード?」
「……いや、」
 ダードはゆっくりと夢値に振り返る。
「あの女、まだ何もしないな」
「あの女……あぁ、毛糸さんの方ですね」
「あぁ」
「毛糸さんなら、何もしませんよ」
「はぁ?」
「だってさっき言ってたじゃないですか。もう毛糸さんに選択肢は無いって」
「いや、そんなこと言ってたけどよ」
「恐らく、その通りなんですよ。それが、サンサーヴの力なのでしょう」
「ま、待てよ。自分のデッキならともかく人のデッキだぜ?」
「それでもです」
「九衆宝 毛糸のデッキは先攻1ターン目に動けるカードが多めに入ってるんだぜ?」
「それでもです」
「しかも、《手札断殺》で新しいカードまで引いたんだぜ?」
「それでも、です」
「なっ……!」
「《ヴェノミナーガ》でダイレクトアタックだ。通るからハイパーヴェノムカウンターが2つ目だな」
毛糸 LP12500→12000
「ターンエンド、再び俺のターン、ドロー……くくく」
 樢は笑いを漏らした。そしてニヤついた顔で毛糸をねめつける。
「俺の勝ちだなぁ?勝ちだよなぁ?」
「そうね」
 毛糸は悲しみも怒りも見せない。
「はん、泣いて謝れば、許してやらんこともないぞ?」
「あなたのターンよ」
「……俺に戦いを挑んで敗れたやつがどうなるか、知っているか?」
「知っているから、早くあなたのターンよ?」
「おい、いいのか?」
「あのー、その話長くなりそうですかー?」
 夢値が横槍を入れた。
「話長くなりそうなら、毛糸さーん」
「何?」
「サンサーヴを封印する装置ってどこにありますか?」
「……」
 毛糸は黙っている。
「おい、夢値!」
 ダードが大声を上げた。
「はい?」
「決闘中にいきなり何言ってんだよ!?」
「だってー、これから謝るだの謝らないだの延々とやりそうですしー。勝敗も決まり手も分かりきってるからこれ以上真剣に観る気になりませんよ」
「お前どんだけ失礼なんだよ。というか大体な、サンサーヴっていう共通の敵がいるとは言え、あいつとは最終的な目的が違うんだぞ。そんなやつが協力する筈が……」
「……夢値、と言ったわね?」
「はい、老伍路 夢値です」
 そう言いながら夢値が振り向くと、毛糸は小さい何かを夢値に放った。
「っと」
 夢値が受け取ったそれは、何かの鍵だった。
「あっちの方に私用のロッカーがある。『毛糸』とシールが貼ってあるから分かる筈」
 毛糸はこの部屋の奥を指差した。
「その中にある小さい箱を、この鍵で開ければあるわ」
「ありがとうございます」
 夢値は一礼をした。
「サンサーヴと、ついでに樢さんは、なんとかしておきます」
 そして、戦いの場から離れた。
「無駄なことを。俺に勝つ?人間如きが阿呆らしい」
 樢は呆れるように一笑した。
「さぁ、どうかしらね」
「まぁ、いいや。取り敢えず、これはもういい、終わらせる。バトルフェイズ。《ヴェノミナーガ》でダイレクト」
毛糸 LP12000→11500
「《ヴェノミナーガ》の第4効果で3つ目のハイパーヴェノムカウンターが乗り、《ヴェノミナーガ》の第5効果を発動。俺の勝利だ」
 すると突然、樢の体から紫色の細長いオーラが幾本も伸びだした。
「な、なんだ!?」
「《ヴェノミナーガ》で勝ったんだ。こういう演出もオツなもんだろ?」
 樢はニタリと笑った。
「俺に負けるとどうなるか、教えてやるよぉ!」
 樢が毛糸を指差すと、オーラ達が一斉に毛糸に向かっていった。
「……」
 毛糸は黙ったまま、人形のように、安らかそうに。そして、
 毛糸は全身を貫かれた。
「九衆宝 毛糸!」
「毛糸さん!」
 ダードは思わず駆け寄った。夢値も逆から近づいてくる。
「っはははははははは!」
 走り寄る音を効果音に、樢の高笑いが響く。
「これは……」
 夢値が毛糸の顔を見つめた。悪夢でも見たかのように顰められたその顔には、紫色の痣のようなものが刻まれていた。
「そいつには、俺の兵士になったっていう証を全身に刻ませてもらった。俺がこの星の支配者となる為に、粉骨砕身してもらう」
「そ、そんな……」
 夢値は体を震わせた。
「あーーっはっはっは!怖いか!?逃げたいよなぁ!」
 樢は至極愉快そうに大笑いした。
「これじゃあ……」
「逃さねぇぜ。てめぇら2体とも、俺に出会ったことを後悔させながらじっくりいたぶってやるよ」
「毛糸さんは……」
「あーっはっはっははははっはぁああ!」
 樢は止まらない笑いを流し続けた。
「全身に包帯巻いて外出しなくちゃいけなくなる……!!」
 毛糸の顔が、紫に光った。 
 

 
後書き
基本的にキャラの使用デッキはADSに作って保存してあるんですが、今回サンサーヴが使ったデッキの名前は、【究極勝利】でした。
……いや、なんかいい名前が思いつかなくてね、うん。 
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