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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#36
  星魔の絶戦 千変VS星の白金Ⅳ~Blood scissor's King Leo~



【1】


「オッッッッッッッラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ
ァァァァァァァァァァ―――――――――――――――ッッッッッッ!!!!!!!」
 覇気に充ち充ちた少女の喊声と共に射出される炎輪斬月、
紅の魔術師新生剣技 『贄殿遮那・火車ノ太刀/熔斗(メルト)
「ひっ――!」
 押し殺した悲鳴を発したのは兄ではなく双子の妹、
先刻己の防御陣を容易く撃ち破られ
その可憐な肢体を無惨に穂揃殺(ほぞろそ)がれた心傷は
深く刻まれているのか対応など度外視してただ躱す事のみに全霊を尽くす。
 優れた才能ほど意外に脆い、美しく整った器ほど儚く崩れやすい、
事前に設置した恒久再生法儀 “ピニオン” の加護が在ろうとも、
亀裂の入った精神までは再生出来ない。
「国家」 の為にいともたやすく(おのれ) を捨てられる、
“捨て続けられる”能力と『愛国心』でも無い限り。
 圧倒的優位の状態で致命的な惨撃を蒙った少女の心中は、
今や混乱の極みに達していた。
「ティリエル! 「前」 お願い!」
 その少女とは裏腹に、まるで心が特殊なスタンドで入れ変わったが如く、
双子の兄ソラトが的確な指示を告げる。
(え――!?)
 想うと同時に開ける視界、一面の紅蓮、灼熱の双翼を羽撃かせた死天使が
殺威ギラつかせる大刀を斜に突っ込んできていた。
(来ないでッ! あっち行って!!)
 恐慌に精神は乱れまくるも躰に染み着いた法儀は造反せず、
無数の蔓が(しな)って気流を裂きながら迫る紅蓮の凝塊に殺到する。
「――ッ!」 
 しかしここで少女はいきなり躰を反転、通常の飛行形態なら当然、
死角となる頭頂背面に向き直りその勢いを無駄にする事無く
やや大雑把に手にした大刀を斬り上げる。
「ウォォォォォォォリャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ
ァァァァァァァァァァァァ――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」
 絡み合うその構造上、頭上から打ち据えるか
真横から薙ぎ払うしかない幻想の大樹。
(真下からの攻撃は蔓同士の空中衝突を引き起こす)
 繰り返される鞭撃にいい加減その軌道を見切ったシャナは
突進の勢いを消さず即座に対応、
進行方向を塞ぐ無数の蔓を中間部から一挙に殺ぎ落とす。
 慣性の変換、ベクトルの反動によりのたうちながら飛散する先端、
(近接) 上部への攻撃に対しては、当然それより底部に位置する者の方が有利。
 承太郎との訓練時、低身姿勢からの斬り上げを厭がったのがその理由。
 此処に於いても際立つ無頼の貴公子の存在、
最早少女の一部として融け込んでいるのではないか、
そう断じるに充分な戦形。
 蔓の障壁を打ち破った少女は、そのまま反転した躰を錐揉み状に旋回、
腕のみではない全身を使った螺旋の貫撃で真空諸共にティリエルへと迫る。





 ズギャギィィィィィッッッッ!!!!




「ぁ……あぁ……はぁ……はぁ……」
 台座の上で腰砕けになる幻想の美少女、
一番強固に編まれた最終障壁が貫かれ
その末端部から剥き身の大刀が飛び出していた。
 刀身と峰の中間、(しのぎ) 部分まで露出しているため
(かが)まなければ左胸を貫かれていただろう。
 しかしそんなモノはただの気休め、
この至近距離で二度目の突貫を受ければ、
体勢を崩した自分は避けられない。
(もう、ダメ――ッ!)
「ティリエル、ナイス!!」
 三度の惨殺を諦念し双眸を瞑った妹に、兄の声が闇に響いた。
「な――ッ!?」
 鍛えた膂力を振り絞るように、
双翼に力を込め迫撃を放とうとしていたシャナが瞠目、
障壁越しのティリエルを討つのに四半秒かからないという優位。
 しかし全身を走る怖気が少女の突貫を止めた、
確信めいたソラトのかけ声が拍車をかけた、
以前の彼女なら迷わず突っ込んでいたという戦況。
 しかし、此処に至るまでの経緯、
鋭い洞察と卓越した危機感がなければ生き残れないスタンドバトル、
その中で培われた 「直観力」 が有利に流れようとする
少女の思考に待ったをかけた。





 ギャギィィィィィッッッッッ!!!!!




“後から” 聴こえた金属の反発音、否、打撃音、
一閃で裂けた蔓の障壁から加速した炎輪が
行使者の意志を無視して叛逆の威を示す。
 反射的に髪が(かかと)(かざ)るほどに仰け反ったシャナ、
その可憐な風貌をすれすれを灼煉の鎖が通り過ぎて行く。
 散った髪が灰も残さず蒸発した、燻る熱気が否応もなく肌を焦がした、
本当に、自ら放ってゾッとするほどの殺傷力だった。 
「……」
 開けた視界、うねって枝分かれした蔓を足場に、
ソラトが大剣を振り抜いている。
 斬撃の構えではない、停止した遮蔽物を砕く時に
最も破壊力を生み出すときに用いる撃ち方。
 そう、文字通り “撃ち返した” のだ。
 前方のティリエルがシャナを止めている間に
射出後戻ってくる熔斗(メルト)の軌道を見切ったソラトが
その威力を加速して撃ち返す。
 咄嗟に大刀から手を離して仰け反らなければ、
生まれた直観に身を委ねなければ、
意識も追いつかないまま胸部から上を穂揃殺がれていたのは自分だった。
“アイツの鎖で” 絶命していたのは私だった。
 ましてや此方(こちら)に致命傷を負った躰を再生する術などない。
「――ッッ!!」
 言い様のない憤激が、シャナの全身を劈いた。
 しなやかな炎髪さえ、夜叉の如くささくれ立った。
 戦慄さえ凍結する恐怖、しかしソレは生存の希求とは別の理由から。
 いつからだろう?
“死ぬコト” が、この上もなく怖ろしくなった。
 戦いの申し子とも云えるフレイムヘイズにとって、
「死」 はコインの裏表ではなく常に 「(かたわら) 」 へと在るモノ。
 王との 「契約」 に拠って不老とは云っても、
それは永遠の盟約ではなく破滅への誓約。
 いつか必ず訪れる戦場での死を、安息を棄て去って
受け入れるのがフレイムヘイズとしての使命。
 故に恐怖する事は赦されない、
使命よりも生に重きを置く者はその資格がない。
 幼き頃より “フレイムヘイズそのもの” として
養育されてきた少女に、この矜持は揺るぎない神聖なものとして
心中に刻まれてきた。
 しかし流転する 『運命』 の中で、
その存在を根底から覆す者が現れる。
 包み込む陽光のように、吹き荒ぶ嵐のように。
『その存在』 を知ってから、知れば知るほどに、死ぬのが怖くなった。
 二度と逢えなくなる事に、自分がこの世から消滅する事に、
心の底から戦慄した。
 今まで、使命の為ならいつ消えても構わないと想い込んでいた生命。
 それが死んでも失いたくない存在を知ったその日から、
この上もない重さと脆さを同時に孕んだ。
 ずっと一緒にいたい、いるのが当たり前、
邪魔するモノは喩え 『神』 で在っても―― 
 その強い想いのもと、いつかは必ず別離(わかれ)を余儀なくさせる
「時間」 にさえ、無垢な少女は牙を剥いた。
 本人は無論、アラストール、ヴィルヘルミナにさえも
告げていない、確かな決意。
“空条 承太郎をフレイムヘイズにする”
或いは、自分が 「宝具」 を生み出して
“ミステスに生まれ変わらせる”
 それが、ずっと一緒にいられる、確かな方法。
 当該の問題解決にはほぼ論外的だった為、
ジョセフから聞かされた 『石仮面』 は除外されたが
もし他に方法がなければ、少女がどう転んだかは解らない。
 狂気も恋情も紙一重、その 「根底」 は同じとも云われている。
 そも、逸脱しなければソレは 「本物」 ではないのかもしれない。
 未曾有の大戦の引き金を弾いた古代の王子が如く、
自らの忠節さえ裏切った背徳の騎士が如く。
 ただ、戦い以外は何も知らない少女だった故に、
その影響がモロに出てしまったと言って差し支えないだろう。
 故にソレを無関係な他者に、
何の脈絡もなく蹂躙、消滅させられかけた
シャナの憤激は筆舌に尽くし難い。
 対手のソラトはポカンとしているが、
彼が少女の触れてはいけない逆鱗に
触れてしまったのは疑うべくもない。
 状況の優位は変わらないが、
“流れ” は完全にシャナへと移項してしまっているため
ソレを引き戻すのは容易なコトではない。
ましてや精神的に立ち直っていない妹を抱えながら。
 元より頭脳戦、心理戦はティリエルにまかせ
自身はその指示に従うのが主であったソラトに
現状を明確に認識出来ていたかどうかは甚だ疑問。
 しかしそれ故に、本能的な危機感はひしひしと胸中を切迫していた。
 両親の不和を感じ取る赤子のように、母親の亡骸を舐め続ける仔犬のように。
 ジャギンッ! ソラトが “そうなるように” に撃ち返していた斬月が、
無数の鉄筋ビルを大根切りにして戻り背後からシャナの首を刎ねる直前で
大刀に絡め取られた。
 炎蛇(えんだ)の如く巻き付いた黄金長鎖は針の形状へと圧縮する猛威で
刀身を灼き締め刃を絞るが、やがて白い蒸気を立ち上らせながら鎮静する。
 束の間の安堵、それが少女の気勢を一瞬ソラトから逸らした。
 もし預かった鎖が己を窮地に晒すだけでなく
“戻ってこなかったなら”
その煽りをモロに喰うソラトに憐憫を禁じ得ない。
 しかし自覚のない少年が蔓に腰下をつける妹に手を伸ばす、
震える指先を片腕であっさりと引っ張り上げ
そのまま肩を寄せながら悠揚とした口調で訊く。
「ねぇ、ティリエル? “アレ” つかってもイイ?」
 子供のような問いかけとは裏腹に、ティリエルは先刻の脅威以上に
その顔を青ざめさせた。
( “アレ” ?)
 柄を口に銜えて鎖を腕に巻き直しながら、
シャナは遠隔系の能力を警戒してソラトの大剣に意識を尖らせた。
「いけません! いけませんわお兄様! 
危機に瀕したのは私の未熟なれば、
お兄様がその非を蒙る理由など!」
 理性的な妹の抗弁を、その切迫した心情以外
彼は殆ど理解していない、しかし狩猟に挑む野生動物が如く、
その本能は眼に視えない風の色まで感じ取っていた。
「でも “ピニオン” 一個壊されちゃった。
さっきのお兄ちゃんがやったにしては速過ぎない?
シュドナイだってイルヤンカのおじちゃんだっているのに。
誰か 「仲間」 がいるんだよ、ボク達の知らない。
もたもたしてると “そいつも” 合わせて相手が三人になっちゃうよ」
 伏兵。
 そうだ、どうしてその可能性を考えなかった?
 数でも力量でも圧倒的に相手を上回る余裕から生まれた傲りか?
 しかしそんな事をまるで考慮しないソラトが明確な解答を導き出した、
“欲望の嗅覚” が示すとおり本能的に生きているため、
論理(ロジック)が生み出す相反(ジレンマ)とは無縁だった。
「でも、でも、お兄様……」
 認識では解っても感情がどうしようもないティリエルは、
哀願するようにふるふると輪郭を震わせ両手を組む。
 対してソラトは意味が解らないという風に
妹の潤んだ(まなじり) を拭い小首を傾げる。
「何でティリエルが心配するの? 
大丈夫だよ。お兄ちゃんだもん」
 およそ識者である妹への返答ではなかったが、
理ではないが故にその言葉が心中の奥深くまで浸透した。
 いつもいつも、自分が世話を焼いて支えてあげなければ
という焦慮に駆られていたが、
本当に支えられていたのは自分の方だった。
 こんなに脆く壊れやすい精神(ココロ)、それでも必要としてくれる、
護ろうとしてくれる存在が当たり前のように傍に在った。
「……」
 炎気を練る時間は十二分、
麗しき兄妹愛を黙って見守る感傷はシャナになかった。
 無論あからさまに構えれば気づかれる、
故に警戒していると見せ掛けて細く、静かに、
点描画の如く少女は焔儀を形成していった。
 発動の瞬間、出来れば着撃の時まで気づかせない、
今の自分は未知の能力を看破しようと試みる観察者、
その事実を悟らせないため執った擬態に精神が同調していった。
 膠着という霧の中に刃を潜ませるシャナの策、
ソレに気づかず懸念も持たず、
ソラトは手にした宝具の大剣を抱えるように(ささ)げ持つ。
「――!?」
 しかしその構えは、およそ一切の流派に存在しない奇怪な、
否、構えと呼ぶのも馬鹿馬鹿しい破綻した姿。
 剣の持ち手が逆、相手に向けられるべき切っ先が自身の胸部中心を差している。
 切り札、必殺の概念とは真逆な、自決の光景。
 コレが戦闘の構えであったなら、如何に高度なものにしろ怯まず
シャナは策を実行しただろう、しかし予測の遙か向こう側、
気が違ったとしかいいようのない行状にはただ唖然とする他ない。
「えいやっ」
 放心する少女を余所に、ソラトは切迫感のない声で、
“己の躰を貫いた”
 血塗られた刀身はするりと何の抵抗もなく
持ち主の胸を裂き反対側へ突き抜ける。
 咄嗟に浮かんだのはヴィルヘルミナと交戦した男、
しかしアレは相手から受けた傷を恨みに転化するものであり、
何よりこの少年は 『スタンド使い』 ではない、同じ能力は二つ存在しない。
 自身が混乱している事に気づかないシャナを置き去りに、
その 『能力』 は発動した。
『スタンド能力』 と “紅世の宝具” の異能偏差。
 後者の能力は “一つとは限らない”





   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッッ!!!!




 シャナと承太郎に見舞った時同様、血色の刃紋が浮かび上がった。
 しかしソレは刀身にではなくソラトの全身に。
 ズグン、ズグンッ!
 大きく歪曲を繰り返し、脈動する感覚を伴って拡がっていく血の刃紋は、
()うのではなくナニカを()き出しているように見えた。
 溜めに矯め込んだ苦悶を、惨苦を、そのままソラトへ注ぎ込むように。
「お兄様……」
 蔓の台座に立ち、哀切の祈りを捧げながら兄を見守る双子の妹。
 それを嘲笑うように突如身を貫いた大剣が無数の刻刃に変形し、
瞬時に散開してソラトの四肢に絡み付いた。





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!





「――ッッ!!」
 承太郎との関わり合いにより、
その戦闘思考がスタンドバトルに傾倒しつつあった
少女を誰も責められない。
 しかしその少女でなくとも、
己の認識を根底から覆すような事態を目の当たりにすれば
驚愕に躰が硬直するのを制御出来ないだろう。
 紅世の宝具、惨苦の邪剣、 “吸 血 鬼(ブルート・ザ・オガー)
 シャナは元よりその存在を知るシュドナイ、ヴィルヘルミナであっても、
その本質は変則的殺傷力を宿した 「武器」 としか認識していないだろう。
 持つ者の力量と合わされば、
それだけでも充分脅威と呼べるため妥当な見解ともいえる。
 だが違う、違うのだ。
“吸血鬼” の名を冠していながら、その剣は血を “吸わない”
生命エネルギーも喰らわない、能力によって噴き出す血は単なる二次殺傷の余波だ。
“では一体ナニを()っているのか?”
 苦痛だ、苦悶だ、巨大な刃に断殺される、敗者の絶望の嘆きだ。
 正確に云えば、形而上、形而下、何れの血と肉が生み出す 『存在の力』
 変則的殺傷力は、その 「主力」 を充たすための副産物に過ぎない、
邪剣が嘆きを掻き喰らった後に派生するただの残滓に過ぎないのだ。
 つまり、紅世の宝具、 “吸 血 鬼(ブルート・ザ・オガー)” の
真の能力(チカラ)とはただの剣ではなく、
遣い手の総力を爆発的に高める生贄(エサ)
 啖いこむ苦悶の量に事実上制限がないため、
嘔き出す存在の力を呑み込めるだけの 『器』 がなければ
当然裡から決壊する。
がもし、それを可能とする者がいるならば…… 
 紅世の徒 “愛染自” ソラト。
 ティリエルの双子の兄にも関わらず彼は焔儀を遣わない、
炎弾は疎か封絶すらも修得していない。
 しかしそれは素質がないのではなくこの邪剣の本質を知った
ティリエルが意図的に行ったコト。
 無意識下の潜在領域、莫大な量の存在力を注ぎ込まれても器が決壊しないように、
(あらかじ) めその容量を 「空白」 にしておいたのだ。
「な……なに!? コ、レ……」
 少女の白い首筋に、チリチリと痛みにも似た痺れがザワめいた。
 いつかの “アノ男” と対峙した瞬間を想起するような、
得体が知れずしかし歴然とした脅威が否応なく胸を逼迫する。
 その真紅の双眸に映るモノ、それ、は。
『LUUUUUUUUU……GGG……』
 二本脚で屹立する獅子、血色の甲冑、刃の鬣で形創られた、魔想の獣王。
 ギザギザの牙を剥き出しにした頭部、鎧の継ぎ目さえ被甲で覆われた鋼の胴体、
しなやかに伸びた手足の先に、その機能性とは裏腹の凶々しい裂爪が生えている。
 装甲内部の無垢な美少年の姿など想像もつかない、
まさに凄惨と暴威が具現化したかのようなその形態(フォルム)
 (いにしえ) よりの伝承として、吸血鬼は獣にその姿を変える事が出来ると云う。
 しかしその特性はおそらく、封絶無き時代、
邪 剣(ブルート・ザ・オガー)を遣った者の姿を、
狂乱に陥った人々がそう錯覚したのだろう。
(或いは、また別の魔具によるものか……)
 いずれにせよ、承太郎、シャナの見解は間違っていた。
 この戦いの主導権はティリエルに有り、彼女を戦闘不能に追い込めば
勝利したも同然と。
 しかし “真に怖ろしいのは” 大樹を操るティリエルではない、
邪剣を(たずさ) えるソラトの方だったのだ。 





『LUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOO
OOOOOOO――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!』




 その咆吼は、周囲に吹き荒ぶ血色の暴威を伴い、幻想の大樹全体を震撼させた。
 (ヘルム) の部分が兇悪な顎と化した獅子の王が、
両腕を押し広げ天空に向かって吼えたと同時に、
その体躯は駆け巡る残響すら置き去りにする。





 グァヴゥッッッッ!!!!




「――え?」
 気がついた時には、既にその牙が少女の左肩口に深々と喰い込んでいた。
 肉の壊滅音も骨の掘削音も、頭蓋を劈く激痛すら全て後からヤってきた。
「あぁ!! ぐぅ!! あううううううぅぅぅぅぅッッッッ!!!!」
 状況を認識出来ないまま、少女は空中で剥き出しの叫声をあげた。
 スタープラチナよりも迅い!? そんな疑念を呈する暇すらない不可避の速攻。
 ギリギリと喰い込む鋼の牙は痛ましく噴き出した鮮血に塗れたが
同色であるため(すす)られるように装甲へ融け込んでいく。
 傍で間断なく聞こえる悲痛に一片の慈悲すらなく、
ソラトはシャナの躰を貪った。 
対象の存在など意に介さない、余りにも純粋な殺戮衝動だった。
「こ、このぉッッ!!」
 凄まじい激痛の累積に、瞳に涙すら滲ませて少女は双翼に力を込める。
 まずは脱出、能力を見極めるもなにも、このままでは心臓まで喰い破られる。
 だがその僅かな挙動、微かな空気の振動すら獅子の王は鋭敏に感じ取った。
 ガシィ!! 鋼鉄の檻すら飴細工のように捻じ曲げる
スタープラチナと同等の力が裂爪越しに翼を掴んだ。
 そのまま表皮(ひょうひ)が灼けるのも厭わず、獲物の腹を割くように力任せに押し拡げる。




 ヴァシュウウウゥゥゥゥゥッッッッ!!!!




 背に込められた存在の力ごと根刮ぎブッこ抜くように、
天使の羽根が引き千切られた。
 残酷の中に映える可憐、空間に無数の羽根吹雪が鮮血を彩りに舞い散った。
「――――――ッッッッ!!!!」
 極限の悲鳴を発する少女、しかしその声すら血染めの獅子が撃ち放った
鋼の前蹴りにより腹腔(ふくこう)で押し潰される。
 ヴチィ!! 肩に喰い込んだ牙に肉を抉られながら、
少女は地へと堕ちていった。
 恐怖も驚愕も感じる暇がなかった、
ただ、魂を蝕むような苦痛にその身を嬲られただけだった。
(承……太郎……)
 大地への着弾、その秒速の随。
( 『約束』 ……護れないかも……ごめんね……)
 頭上で猛る獅子の咆吼を浴びながら、少女は悲愴な想いを囁いた。


←TOBE CONTINUED…

 
 

 
後書き

はいどうもこんにちは。
吸 血 鬼(ブルート・ザ・オガー)』の能力はアレだけじゃ弱いと想ったので
「第二の能力」を付け足しました。
っていうかアレだけだと正直「出オチ」になってしまうので
(2回目以降はインパクトがないし、荒木先生クラスの『構成力』が無いと
危機感も演出出来ない。事実初撃以降は能力が一切使われていない)
「変身」させようと想いました。
(狂暴な獣で、中が内気なソラトというのも面白い(個人的に))
まぁその結果アノ娘がドエライ事になってますが、
ライトノベル、特に「萌え系」の作品はキャラを『(無駄に)大事にし過ぎる』
傾向があるのでコレで良かったと想っています。

自分が考えたキャラですから「愛着」が湧くのは当然ですが、
ソレに(かま)けて『大事にし過ぎる』とそれは「私情」になってしまい
読者の気持ちを蔑ろにするコトに繫がってしまいます。
事実ワタシはシャナの翼の能力が出た時「一体いつ引き千切られるんだ?」
とワクワクしながら待っていたのに待てど暮らせど羽毛一枚落ちてこないので
自分で引き千切るコトにしました。
誰も作者 (何をどう考えてもロ○コ○)の
「シャナタ○カワ○イ~♪ 萌○♪○え~♪」等の
キモイ私情(妄想)が透けてみえる描写など読みたくはないでしょう。
第一「私情」を「優先」させていいのでしたら荒木先生だって
ジョナサンやシーザーを死なせたくはなかった筈です。
(悪役のキャラにも強い「愛着」を持ってしまい、
吉良 吉影が死亡したシーンを描き終えた時は涙が流れたそうです)
しかし前述のキャラが死なずに生きていたら
間違いなく一部、二部は「名作」になってはいないでしょう。
(打ち切り喰らったかも・・・・('A`))
だからキャラを無造作に殺したりボコボコにしろと言っているのではなく、
キャラをネコッ可愛がりするのは「作品」のためにならないというコトです。
(ワタシだってルルゥとイルルン死なせたくなかったよ・・・・('A`))
だから吉田サンなんか設定的に絶対途中で死ぬと想っていたのに
(そうすればあの○タレが本気で紅世の徒と戦う「理由づけ」になりますし
「闇オチ」するにもスムーズにコトが運びます)
ソレをしないからいてもいなくてもどうでもいい
非常に中途半端なキャラに成り下がってしまいました。
(彼女の最後の役目は他のキャラでも出来るでしょう)
ある意味死亡するよりそっちの方がよっぽどキャラには残酷だと云えます。
過度の可愛がりは「愛情」ではなく『虐待』であるように、
愛着を持ち過ぎるのはキャラを本当に愛していないと言えるのかもしれませんネ。
少なくともそういう作品をワタシは「面白い」とは想いません。
ソレでは。ノシ

 
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