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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#32
  ETERNAL PUNISHMENTⅣ~Little Flower~


【1】



「だ、ダメだッ! やはりこんなモノ! どうしようもないッ!
ボクの能力(スタンド)じゃ! ウィルスの進行なんて防ぎようがないッ!」
「くっ、ああぁッ! 躰に編み込んだ自在法も役に立たない!
細胞の内側に直接浸蝕されてるから! 増殖を止められないッ!」
 裂けた皮膚、服の内側から血を噴きながら二人はウィルスのされるがまま、
狂ったマリオネットのように破滅への輪舞を強いられていた。
 互いを想う余裕すらない、どうしようもない、
『本当にどうしようもない』
絶望の中、残酷過ぎる 『運命』 の乱流に翻弄されるのみ。
 血に(まみ)れた互いの手が、意図せず苦悶の中で触れた。
(ごめんなさい……本当にごめんなさい……マージョリー……
なにも……出来なかった……)
 細い指先、力無く落ちる手。
(――ッ!)
 その瞬間が、嘗ての絶望を否応なくマージョリーに想起させた。
 時の流れを超えて、フラッシュバックする無数の光景。
 垂れ下がった手を、強く掴む。
 今度は離さないように、絶対絶対失わないように。
(負け、ない……!)
 アノ時と同じように血染めの双眸ではあったが、
今はその時にない決意の光が在った。
 怒りではない、悲しみでもない、
ただただ、眼の前で散り逝く生命を
がむしゃらに救いたいという強い気持ちと共に。
(私は負けない! 絶対に死なせない!!) 
「マルコ――ッ!」
 既に、自分と散り逝く覚悟を決めた愛しき魔狼に、
その契約者は渾心の想いで叫ぶ。
「 “()ってッッ!!” 」
「ン? あぁ~?」
 万事は休す、敵として実体のないモノには挑みようが無いため
半ば諦観していたマルコシアスだが、
しかしすぐに “その手” が在ったかと得心し閉じていた双眸を開く。
 閉じたグリモアが開き、その感覚を至近から大きく拡げていく。
「――ッ!」
「――ッ!?」
 突如、頭蓋を執拗に苛む悍ましき苦悶が淡雪のように消えた。
 躰の内側から蒼い火の粉を伴い流れていく紫色の微粒子、
それが花京院、マージョリーの至る所から抜け出て
グリモアの中に吸い込まれていく。
 その現象はトーガ内の二人に止まらず、
既に半径500メートルの位置まで増殖を続けていた
ウィルスの活動領域スベテに隈無く降り注いだ。
 紅世の徒の 「特性」 血肉ではなく生命でもなく
“存在そのものを”喰う 『能力』
 この能力の前には、殺人ウィルスの獰猛性も残虐な被毒性も関係ない。
 その存在の本質、生物の在るがままの姿が露わとなる為
生物の定義から外れている、細胞すら持たないウィルスは
最強で在っても 「最弱」 の本性を剥き出しにされる。
 窮地に於ける機転、と呼ぶには些か爆発力に過ぎるが
トーガに効果がない事、そしてマルコシアスが 『実体』 を伴っていない事から
マージョリーはこの結論を導き出した。
 フリアグネやシュドナイ、ソラト、ティリエル、果てはイルヤンカに至っても
厳然とした「実体」を以て存在しているためこの世の 「理」 に縛られ、
殺人ウィルスの魔の手からは逃れられない。
 しかし実体を伴っていないモノ、
「生物」 として認識されないマルコシアスなら
ウィルスの撒き散らす破滅から逃れられるのではないかと
マージョリーはあの最中瞬時に類推した。
 そしてその予感は見事的中。
ワクチンは疎かレトロウィルスすら開発できなかった悪魔の生物兵器は、
封絶を突き破って未曾有のバイオハザードを引き起こす寸前で
発する瘴気諸共喰い尽くされた。
 極限の獰猛さを更に超えた存在、狂猛(きょうもう)さで多くの同属を屠り
暴虐無尽に掻き喰らってきた蒼き魔狼によって。
「ヒャーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハアアアアアアアアアア
アアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!」
 開いた神器の裡側から、蹂躙の王が高らかに吼える。
 その狂声は唖然とスコープを凝視する闇の鷹にも、
強化ガラスをビリビリと震わせて届いた。
 やがて、夥しい数の白き(むくろ) が散在するシンガポールの街並みは、
その惨状とは裏腹に浄化された空気で充たされた。
「ぐえぇぇっぷ、あぁ~、マズかった。
こんなマジィもん生み出すとは、やっぱ人間なんてロクなもんじゃねぇ。
オレが好き嫌いなくて良かったな?
えぇ? 我が僥倖の月姫、マージョリー・ドー」 
「えぇ、ホント助かったわマルコ。
一か八かの賭けだったけど、どうやら上手く転んだみたいね」
「本当に、ありがとう御座います。
あんな失礼な事を言ったのに、ボクまで救ってもらって」
「あぁ? 何か言ったか? 忘れちまったぜ、ンな昔の事」
 深い敬意と謝意を以て頭を下げる花京院に、
鉤爪を出したマルコシアスはめんどくさそうに軽く振る。
 ただ、同じ女の為に必死になっただけ。
男であるならそれは当然で、衝突しない関係などつまらないと考える
魔狼は本当に何の隔意(かくい)も抱いていなかった。
「に、しても、本ッ当マズかったぜあの “うぃるす” とかいうの。
この世と紅世のモンじゃねぇくれぇマズくて…………
もう一発撃ってこねぇかな?」
「はぁ!? 今さっき私達死にかけたってのに、何言ってんのアンタ!?」
 顔と首の血を上品なハンカチで拭う花京院の行為を当然のように受けながら、
マージョリーは声を張り上げる。
「いやぁ~よう、本当に死ぬほどクソマズくて……
でもクセになるマズさっつーか、いったん味わうと引き擦り込まれるマズさっつーか、
例えばオメーの晩酌の時に齧ってたナッツを、気がつけば大して好きでもねーのに
3袋空にしてた時っつーかよぉ~」
「好きなんじゃないッ! ソレ!」 
 ここも、と胸元を寄せる美女へ、いやそれはと逡巡する美男子を後目に
マルコシアスは遠い空を見つめた。
「――ッ!」
 自分の狙いを予測も付かない奇策で、悉く破ってくる二人に
さしもの闇の鷹も血が滴るほど口中を軋らせた。
 絶対なる勝利の確信、尚かつ己が信念に罅が入ったような
屈辱感が総身を苛んだ。
“コレだけは” 温存して置きたかったが。
 人倫の禁忌に抵触するのみならず、
世界の形容をバラバラにしかねない
【最終兵器】
 だが殺戮の狂気に取り憑かれた男に、
その使用を躊躇う理性は存在しなかった。
 己が全霊を賭して仕える主への狂信が、
その暴挙に拍車をかけた。
 コレを使えば、間違いなく戦いは終わる。
 舞台であるシンガポール首都、その悉くを焼き尽くして後には黒い雨が降る。
 自分も生き残れる保証はない、仲間も何人死ぬか解らない、
しかし、忌まわしきジョースターの血統、
アノ空条 承太郎は確実に葬れる。
 歪んだ覚悟と狂った決意、ドス黒い混沌なる精神のもと男は動いた。
【小型核ミサイル・タルタロス】 
 小型ではあるがその威力、焦熱、汚染力、何れも 「現物」 に劣らない。
 重水素、三重水素(トリチウム)の核融合反応による威力可変型の水素爆弾。
 直径45,7㎝ 長さ3,67m。
 その核出力は嘗てヒロシマ、ナガサキに投下されたモノの
数百倍にも及ぶという正に奈落の業火。
 昏きブロンズ色をしたその弾頭は今、一番安全な場所、
宙に漂うスタンド 『マンハッタン・トランスファー』 の裡で眠っている。
 絶対に目醒めてはいけない歴史の忌み子、人類の負の遺産、
顕現した紅世の王すらも焼き尽くす人間の闇そのもののカタマリが、
膨張したスタンドの底部から堕ちた。
「クハハハハハハハハハハハハハッッ!! これでオワリだ!!
空条 承太郎ッッ!! 如何に強力なスタンドだろうと核の爆発は防げまい!!
コレでいい!! 仮にオレが死んでも貴様等全員道連れに出来るなら本望よッッ!!」 




“Dirty deeds done dirt cheap”
  (いともたやすく行われるえげつない行為)




 狂気の行き着く果て、狂乱の直中でジョンガリ・Aは叫んだ。
 最早スコープから眼を離し愛銃も足下へ無造作に転っている。
 最強の兵士、闇の鷹。
 この男にとって、 「任務遂行」 こそ至上のコト。
己が生きる意味であり充足を実感出来る瞬間。
 その為に犠牲に出来るモノは、“自らの生命” までも含まれた。
 正に暴挙と狂乱、それ以外の何ものでもない。
しかしそのような愚挙こそが、この男にとっては 「幸福」 だった。
 破滅と悪意と絶望の中で凍てついた血、
それを溶かし “熱” を与えてくれたアノ御方。
 神など信じていないしこれからもそうだが、
アノ御方は自分の 『神』 だった。
 ただ戦場に生き永劫に続く虚無の中、
初めて生きる 「目的」 を与えてくれた
紛う事なき 『救世主』 だった。
 その方の為なら死は怖くない、アノ御方の未来への(いしずえ) となる事、
それこそが自分に与えられた大いなる 『使命』
「DIO様!! お先に失礼仕ります!! 
アナタの絢爛足る永遠をッ! このジョンガリ・A! 
地獄の底から祈っておりますぞッッ!!」
 軍人ではあったが一度も使った事ない 「敬礼」 を、
ビシィ! と精悍なる姿でジョンガリ・Aは執った。
 脳裡に過ぎる、ここ数日間だけ共にいた者達。
 彼等に対する懸念がなかったわけではないが、
男は最後の最後まで己が矜持に殉じた。
(もし……生き残れたら……また……DIO様の為に……
貴様との決着も……まだだったな……フフ……) 
 脳裡に走る閃光、男の口元には微笑が浮かんでいた。
 いつまでもいつまでも、 “浮かんでいた”
「――ッ!」
 動かない筈の躯が、動いた、溶けて跡形もなくなった眼球が視界を捉えた。
 思考を巡らす余裕もなく飛び出したバルコニー、
スコープ越しではなく見渡した街並み。





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!




 頭上、空と雲の随に、不可思議な紋章と紋字を鏤めた光の 「(おび)」 が覆っていた。
 どこまでもどこまでも、限りなく、その終わりが見えないほどに。
 コンコン、背後からノックの音。
 返事を待たずドアが開き、栗色の髪を流す鮮血の美女が姿を現す。
How are you?(ご機嫌よう) BASTARD?(クソヤロー)
 流暢な英語でするりと中に入った美女は、
長い栗色の髪を揺らしながらゆっくりと近づいてくる。 
「ダ、ダークブルー、ムーン……!」
 一体どうして? それ以前に何故弾頭が爆発しない?
 困惑する男の疑問に美女は妖艶な笑みを浮かべて答えた。
「おまえの浅い考えなんて、ノリアキにはお見通しって事よ。
現代社会の事には詳しくないんだけど、
細菌兵器を強奪できるなら核ミサイルを盗むのも難しくないようね? 
事実は隠蔽されたらしいけど、数年前ヨーロッパで有った
国際問題(いざこざ)をノリアキが覚えてたのよ。
情報操作の不自然さと流言の錯綜振りから
ソレが『スタンド使い』の仕業だってずっと疑ってたらしいわ。
その 「張本人」 がおまえだって、
さっきウィルスの攻撃を受けたとき確信したんだって」
「――ッ!」
 息を呑むジョンガリ・Aの前で、その美女マージョリー・ドーは
たおやかに豊かな髪をかき上げる。
「おまえのスタンド、大分珍しい能力みたいね?
物質に取り憑いて効果を発揮するスタンドもあるそうだけど、
おまえみたいに “兵器そのもの” を主体とするタイプは珍しい。
ならば 『兵器』 に強い思い入れがあるはず。
同じ能力者が二人いない前提を踏まえれば、
強奪した “犯人” はおまえしかいないのよ」
 語気を強めるでもなく鋭く指差すわけでもなく、
甘く諭すように紡がれる美女の言葉。
 魔女に魅入られた少年の如く、ジョンガリ・Aは微動だに出来ない。
「あとは簡単。おまえの戦いの傾向上
次はより強い兵器を使ってくるのは予測できたから、
それは状況を踏まえて相手の距離関係なく殲滅できる
『大量破壊兵器』 以外考えられなかったから、
だから私の “変幻系自在法” をこのシンガポール全域に張り巡らせたのよ」
 バルコニーの外で、超広範囲に延びた法儀が蒼きオーロラのように揺れている。
「 “アレ” はね、相手の罠や隠し武器を封殺する為に創られた法儀だから、
“よくくっつくの” ソフト&ウェット。
特に、頭上からただ落っこちてくるだけの爆弾なんかは余裕でね」 
 死よりも薄ら寒い戦慄が、刺青(タトゥー)の刻まれた背筋を走った。
 同時に転送される、スタンドの映 像(ヴィジョン)
 蒼きオーロラの下、ビルの屋上で中性的な美男子がこちらを見つめていた。
 分解された弾頭、ブックホルダーを肩に掛けたその手に
デーモン・コアと呼ばれる起爆中枢の球体が乗せられている。
「貴様の能力で、投下された爆弾を受け止め、
花京院のスタンドで分解したのか?
しかし何の予備知識もなくそんな事が……」
 震える男の輪郭を舐るように見つめながら、美女はさらに距離を詰めた。
「知らないの? ノリアキのスタンドは、
相手の身体に潜行して自由に操るコトが出来るの。
人間みたいな複雑な構造をした生体を操れるのなら、
投下型の爆弾みたいな単純な物体を分解するのは簡単なのよ。
ダミーコードや二次起爆装置の付いてないヤツなら尚更ね」
「――ッ!」
 言われてみれば確かにそうだが、考えついても普通実行するか? 
否、それ以前にそんな発想に至るか?
 こちらが 『核兵器』 を有しているなど相手にとっては慮外である筈、
しかしそれを「点」と「線」を結ぶように、
過去の事例までひっくり返して因果を絡ませ現実の解答に至るとは。
 やはり、真に怖るべきはアノ男だった。
あの御方が眼をかけていたのも今ならよく解る。
 意想外の発想、経験による知識と演算、状況に於ける判断力が凄過ぎる。
 スタンドの転送する映像、年少であるにも関わらず
精神的に己を上回った一人の 『スタンド使い』 に男は敗北を認めた。
 肩にかけた 『本』 から魔獣の頭部を成した炎が出現し、
分解された弾頭とコアを一呑みにする。
 幾ら威力が有っても兵器は兵器、
反応しなければ化学物質の固まりに過ぎない。
「……殺せ」
 スタンドから意識を切り、男は来るべき結末を静かに見据えた。
 眼前、一メートルの距離まで迫った美女の右手には、
狂暴な鉤爪状の炎が燃え盛っている。
 最早足掻こうとは想わない、いつか来るべき時が今だったというコト。
 生命の実感などなかった、生きながら死んでいるような人生だった、
あの御方に出逢うその時までは。
 後悔はない、恐怖もない、ただただ無念だった。
「以外に(しお)らしいのね? じゃあ……」
 美女の口唇に冷酷の色が浮かび、蒼き爪牙が鋭く唸りを上げた。  
「堕ちなさい……死ぬより辛い地獄へ……!」
 一閃。
 闇に包まれた意識と視界に刹那、一迅の閃光が瞬いた。
 最後の、光。




   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!




 真一文字に斬り裂かれた双眸、
赤いまがくし(目隠し)にように噴き出した
鮮血は燻る残火に炙られ霧となる。
 苦痛と暗黒により崩れた男は、
血煙薫る双眸に手を当てながら声を吐き出した。
「ぐっ……おぉ……何故、だ? 
何故急所を外した? 情けをかけるつもりか……!」
「フッ、言ったでしょ? “万倍にして返す” って……」
 果てない闇の向こう側で、忌むべき女の声がする。
「そうねぇ、例えば、自ら死を望んでいる者に対して、
そいつを「殺す」のって、
本当に 『罰』 を与えるコトになると想う?」
「――ッ!」
 背骨が氷柱となったように走る戦慄、ジワジワと、
実体を伴わないまま漠然と拡がっていく怖気。
「おまえ? そのDIOとかいうヤツに、
“見捨てられる方が” よっぽど辛いでしょう?
そいつに 『必要とされなくなるコト』 の方が、
よっぽど苦しいでしょう? フフフッ」
 苛虐的な陶酔に、甘く痺れる女の真意。
 それを明確に認識した事により解る、圧倒的な冷酷さ。
 終わらない、 “終われない” 際限のない苦痛と絶望のなか、
それでも生き続けなければならない “地獄” を
知っていなければ至らない真理。
「おまえの 『能力』 は、コレで封じられた。
もう何の役にも立たない。
戦闘者としてはただの子供以下よ、目の視えない狙撃手なんて。
その男もすぐ忘れるでしょうね。
“居た事すら” 気にも留めない、私だったらそうするわ。
だって、処罰する必要も、ましてや 殺す価値すらないもの」
「ぐ……ぐ……! ううぅ……ッ!」
 解りきった事を敢えて繰り返し宣告するマージョリー、
その剥き身の言葉がジョンガリ・Aの心を深々と抉った。
 何度も、何度も、執拗に、蹂躙するかのように。
 苛酷な拷問の訓練に堪え、生爪剥がされても
呻き声一つあげなかった兵士の顔が、蒼白に打ち震えていた。
「おまえも、精々生きて苦しみなさい。私みたいに。
『死刑』 なんて軽過ぎるわ――!」
 そう言った美女は腕に宿った炎を消しくるりと踵を返す。
「さようなら、役立たずの狙撃手(スナイパー)……」
 ドアに手をかけ、もう逢う事もない、
後は這い擦り回って野垂れ死ぬだけの哀れな男を、
マージョリーは憂いを以て見つめる。
 静かに閉じられる扉、それは、スベテの未来と希望が閉じられる音。
 光の無い永劫の闇に、男が取り残された音だった。
「う、う、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」
 死を受け入れ凍てついていた血が、一斉に熱を噴いた。
 溶ける所か煮え滾って蒸発するような、凄まじい感情の濁流だった。
「赦さん! 赦さんぞ!! 『闇 蒼 の 月(ダークブルー・ムーン)ッッッッ!!!!』
我が生きる目的を奪った!! 心の支えを踏み躙った貴様だけはッッ!!」
 ガチャガチャと暴れ回る手の先で、無数の兵器が玩具のように散らばっていく。
「どこだ!! どこにいるッッ!? 戻ってこい!! 向かってこいぃぃぃぃ!!
オレはまだ生きているぞ!! オレのスタンドはまだ死んでいないッッ!!」
 闇の中で這い擦り回る男の上で、衛星型のスタンドがゆらゆらと浮かんでいる。
 その中心点に消えない疵痕を残して、護るべき主を悼むように。
「終わらぬぞ!! オレは決して終わらぬ!! いつか必ず後悔させてやるッッ!!
このオレを!! 殺し損ねた事をなあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」
 止む事のない男の慟哭を背景に、マージョリーは一度も振り返らず
エントランスをくぐった。
 コレが敗者の断末なのか、或いは新たなる怪物の産声なのか、
今は誰にも解らない。
 ただ、 『運命』 だけがそれを()る。
 連綿と続く時の中、 “未来” だけがその決着を待つ。 






 距離1000メートルの範囲圏内(サークル)で、破滅と平静が混在していた。
 生と死が、狂気と決意が、終焉と創成が幾度も交錯した。
 甲高いヒールの音、その先でブックホルダーを下げた少年が
いつもの仕草で佇んでいる。
 背後から現れる幻像、その手が年代物の赤ワインとグラスを携え
カチンと澄んだ音を鳴らす。
 速まる歩調、高鳴る鼓動、余計なものの介在しない、本当の再会。
 いつか()てた、心の欠片(ガラクタ)
 それをそっと、拾い上げて、磨いて。
 抱いた想いを胸に、彼女はただ、笑っている。
 普通に、笑っている。


←TOBE CONTINUED…



 
 

 
後書き

はいどうもこんにちは。
読んだ方にはお解りの通り、「この世界」での
ジョンガリ・Aの眼を潰したのはマージョリー(姐サン)というコトになり、
その「因縁」もそちらにシフトしたコトになります。
まぁだからどーだこーだというのではありませんが、
『運命』で考えるなら数十年後、彼女の「血縁」の者が狙われるかもしれません。
まぁ“いれば”の話ですが。

それとサブタイは稲葉 浩志サンの1stアルバムの最後の曲から頂戴しました。
あと『wonderland』という曲の最後のフレーズも戴いております。
まぁこの↑曲自体はあんまり話に合致してないのですが
(どちらかというとP&Wのがカザってるか?)
最後のフレーズだけはキレイで合ってるカンジがしました。
(まぁ余談ですが聴いてる最中何故かあの○タレの事が浮かびました。
まぁアノ○○は「内省」すらしませんから厳密には違うのですが。
しかし「見当違いの使命感」とかモロだな・・・・
その前にどうしようもない自分自身をなんとかしろヤ・・・・・('A`)
精神的にはヌケサクにも劣る・・・・('A`))
ソレでは。ノシ
 
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