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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#31
  ETERNAL PUNISHMENTⅢ~Distortion Despair~

【1】


 上空420メートルの位置で炸裂する翡翠燐光。
 目下の積雲が鮮やかに反照し、
それをセレモニーとするように無数の結晶が空を切る。
 若くともその技量は秀逸の域に達しているスタンド使い、
花京院 典明の代名詞とも云える流法(モード)
『エメラルド・スプラッシュ』
 歴戦の経験と弛まぬ研鑽によりその練度は未だ飽和に陥らず、
至純なる精神力によりその精度は嘗てを遙かに上回る。
 成長したのは眼下でスタンドを見上げている美女だけではない、
今日に至るまで孤独の荒野を寄る辺もなく彷徨い続け、
しかしその宿命に決して屈しなかった彼もまた同様であった。
 近距離パワー型とは違い、遠隔操作のスタンドバトルは
よりシビアな致命点の狙い合い。
ジョンガリ・Aが本体諸共にスタンドを葬ろうとしたのと同じく、
花京院も相手の衛星そのものを狙った。
 遠隔能力とはいえ 『エメラルド・スプラッシュ』 は
並の近距離パワーを凌ぐ破壊力、如何に優れた能力でも、
否、優れているが故に接近されれば一溜まりもない。
 しか、し。
「――ッ!?」
 射出の構えを執るスタンドと共に、
上空で佇む花京院は我が眼を疑った。
 一瞬、急激な気圧変化による幻覚を視ているのだと想った。
 以前を遙かに上回るスピードと物量で射出された翡翠光弾が、
それよりも “遙かに劣る” スピードの衛星スタンドに(かわ)された。
 通常の、相対現象を明らかに無視した光景。
 フワフワと宙に浮かぶ小型のスタンドは、
嵐も雷も意に介さぬ気流であるかのように、
否、事実気流そのもので在るが如く
結晶と結晶のごく僅かな隙間を擦り抜け、或いは縮小し、
ただ宙に浮かんでいた。防御も回避の挙動も出さず。
 さながら、空間をたゆたう胞子や花粉、
如何にパワーやスピードの有る攻撃でも、
そのような微小のモノは砕けない。
「な――ッ!?」
 通常の接近攻防では有り得ない対応、総力の劣るスタンドが
花京院の美貌その口先まで漂ってきた。
 なんの警戒も威圧感も感じない幻 像(ヴィジョン)
逆に緊張感を研ぎ澄ましている花京院との距離を
「ソレ」は余りにも無造作に詰めたのだ。
 端麗な口唇の先、その触れるか触れないかの位置でそよぐスタンド、
しかしソレは次の瞬間外部からの銃弾を超至近距離で跳ね返す
悪魔の口吻(こうふん)となる。
「ノリアキ! どいて!!」
 唐突に浴びせられた声、穿孔(アナ)だらけのビル壁面を斜めに駆け上がり、
自在法に拠る飛翔で雲海を突き破り現れる美女。
 その右腕には、背景霞む蒼炎の大爪が裏上段に構えられている。
 同じ遠隔操作を得意とする者同士だが、
『スタンド使い』 でない彼女はその法則に捕らわれない。
存在力(パワー)を一挙に集束し変質させた炎、
キレ鋭く放たれる大爪の殺傷力はスター・プラチナにも匹敵する。
 (いささ) か理不尽な気がしないでもないがこれがフレイムヘイズという存在、
近・中・遠距離の攻防をバランス良くこなす、
それが “弔詞の詠み手” マージョリー・ドーという女性。
 封絶に囲まれた雲の上、三連になって空間を断裂する蒼き大爪(つめ)
徒は無論王クラスでも直撃すれば滅びは免れない恐怖の一閃。
 過去に葬られた者数多、常 用 技(スタンダード・スキル)であるが故に
美女の焔儀の中でも屈指の練度を誇るモノであるが、
その脅威に晒らされた衛星はまたしても着撃の遙か先でフワリと
舞い上がり、後に残る余波の火走りの上を嘲笑うように飛行した。
「こ、の――ッ!」
 他者の為に私情を律する術を獲得したとはいえムカつくものはやはりムカつく。
何より自慢の焔儀を空回りさせられるコトなど
優れた “自在師” ほど我慢のならない処。
「く・た・ば・れええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――――ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
 怒号と共にやたらめったら大爪を繰り出すマージョリー、
技が躰に染み着いているので雑にはなっていないが
それでも翻弄されている事実は変わらず。
 此処に至って気づく事実(最初のESの時点で考慮はしていた)
前戦のスタンド、『黄 の 節 制(イエロー・テンパランス)』 が呼び水となって行きつく解答。
「降りますッ! ミス・マージョリー!!」
 スタンドに振り子ような反動をつけ、滑空に引っ張られる本体を利用して
マージョリーを腰抱きにする花京院。
 柔らかいとか温かいとか、ましてや抱きつき運が向上している等と
愚劣極まる事を考える余地などない急速降下。
「ちょっとノリアキ! なんでッ!」
 狙った獲物は絶対仕留めるという矜持の元
抗議の声上げる蒼炎の美女に、
「無駄ですッ! どんな攻撃でも、あのスタンドには命中()たりませんッ!」
翡翠の美男子が確固足る口調で言った。
 二人を呑み込む直下の雲海。
 質量のない衝突の後、氷の微粒子をきめ細かな肌に受けながら
花京院は有無を云わさぬ口調で告げる。
相手の反論や意向を伺っている余裕はない。
「 “気流” です! 
あのスタンドは、気流を 「探知」 して攻撃を躱しているんです!
どんな強力なパワーもスピードも、
地上にいる限り 「空気」 からは逃れられません!
だからこちらが必死になるだけ却って逆効果、
「風圧」 が強くなり避けやすくなるだけです!」
 一方的に捲し立てられる言葉にマルコシアスが何か言いかけるが、
マージョリーの膝が入って革表紙が閉じられる。
「つまり、仮にこの都市全域をフッ飛ばす位の極大焔儀を放ったとしても、
アレには通用しないってコト? 攻撃が命中する遙か前にその射程外へ
気流で飛ばされていく」
 理解が早くて助かる、美女の聡明さに口元が緩むのを抑え美男子は見解を捕捉する。
「そう、だからスタンドを倒すのは諦めた方が良さそうです。
弱点が解らないしまたその時間もない。
此処はやはり 「本体」 を直接叩くコトに狙いを絞りましょう。
当たり前ですが明らかに接近をイヤがってます」
「それ、どういう?」
 言うが速いか即座にハイエロファントが
背後にエメラルド・スプラッシュを射出する。
 遙か後方で轟音、同時に発生する爆炎より速く気流を裂く衝撃波が
二人を前方へと押し流す。
(なんて、周到な……)
 逆風に栗色の髪をはためかせながら、マージョリーは花京院の卓越した
知性に眼を瞠っていた。
 逆噴射による降下の加速、ここまでは誰でも考えつくが相手への追撃対策、
更には発生する爆発エネルギーの利用法までこの少年は視野に入れていた。
 言葉にすれば簡単だがその思考速度とタイミングが実に絶妙で
結果として傾きかけた戦勢のバランスをあっという間に立て直した。
 機転が利くとか賢明であるとかそういうレベルではない、
時間的にも状況的にも論理(ロジック)で到達出来るような領域ではない。
 歴戦の勘というか神懸っているというか、
兎に角凄惨な死地の直中にいるというのに胸の高鳴りが収まらない。
 躰を包む芳香も中性的な風貌も、腰に回わされた手つきの繊細さも
みな優美なものであったが、この窮地に於ける毅然とした態度は
否応なくマージョリーに 『男』 を感じさせた。
 背に回した腕に力を込め、即座に迫ってくる地表に苛立ちを覚えながらも
美女は言われる迄もなくするべき手順を迅速に行う。
 パチンッと指先を弾くだけで、散った蒼い火花が消えると同時に
トーガ6体分の密度を持った大きな炎獣の腹が救命クッションのように
落下衝撃を分散吸収する。
 何度かバウンドしたのち孔だらけの路上に寄り添い立った二人に
寝っ転がったトーガがフゥと満足げに両眼を細め、
元の力に還元されマージョリーの裡に戻っていった。
 上空からの降下とはいえ斜めの軌道で着地したので爆撃逆噴射の後押しも含めて
ジョンガリ・Aとの距離は大幅に縮まった。
 残り300、攻撃能力の汎用性が高いマージョリーがいる事を踏まえれば
コレは相手の喉笛にリーチがかかったと視てほぼ間違いない。
 しかしそれもこれもみな花京院の的確な判断があってのコト、
マージョリーのみでは上空のスタンドにマルコシアス諸共躍起になって
未だ悪戦苦闘していた公算が高い。
 ともあれ防戦一方だった戦局にようやく変化が、
相手の出方、距離の詰め方如何によってはこちらも反撃を加えられる。
「……静か、ね。接近されたらお終いなんだから
銃でもなんでも乱射してきそうなものだけど」
 孔だらけの街並みを背景にそれとは対照的な前方を美女が見据える。
「そうしないコトで逆に誘ってるんでしょう。
どうみても好機(チャンス)ですから、このようにッ!」
 花京院の手に光が集まった光が瞬時に硬質な結晶となり、
その煌めく礫が放物線を描いて投げられる。
 意外に健腕そして精巧、20、30、40、50、その半ばも織り交ぜて
地に触れた結晶、と同時にアスファルトが捲れ上がって爆音が響き、
飛散した残骸と鉄片が街灯や樹々に突き刺さる。
「地雷、対人用のも混ざってる。
榴弾で攻撃しながらこんなのも一緒にバラ撒いてたのね」
「あのスタンドの下部に格納庫のようなものが設置されてました。
おそらくそれで運搬したのでしょう。
センサー付きの最新型なら踏まなくても自由な距離で爆発させられます」
 以前のマージョリーなら、好機とみるやリスクを怖れず突っ込んでいた筈だが
花京院に感化されたのか戒心をより強める思考形態へと移行していた。
 意外かもしれないがこの精神の柔軟さは、
シャナやヴィルヘルミナよりマージョリーの方が数段優れている。
 (かたく)なさは 「公正」 を欠き真のパワーには繋がっていかない。
 そしてこの柔軟な思考こそ、スタンドバトルに於いて
最も重要なファクターである事は間違いない。
 亀の甲より年の功、 「人間」 としての期間が長く
尚かつ錯雑な関係模様に揉まれた美女には、
他のフレイムヘイズには無い精神の練熟さが有った。
「ここからは、ビルの屋上だけを通っていきましょう。
幾らなんでもそんな所にまで仕掛けてないでしょうし、
雲が近いから能力による狙撃はすぐ解るわ」
「了解です。では二手に分かれて……」
 そう言って右方向に足を向ける花京院の学生服をマージョリーが引っ張った。
「あの、ミス・マージョリー?」
 言うより速く足下から蒼き炎が噴き上がり二人を包む、
そして3体分の顕力に加え各部機能強化を施された特殊炎獣が出現する。
「このまま、一気に敵の牙城まで突っ込みましょう。
ライフルは勿論、榴弾も2,3発なら直撃喰らっても持つわ、コレなら」 
「あ、あの、仰る事は解るんですが、
そうやって添われると非常に動き難いのですが……」
「大丈夫、操作は私がやるから。
ノリアキはハイエロファントで不測に備えて」
「しかしならば二体に分かれた方が、う、うわッ!」
 らしくない頓狂な美男子の声を残し炎獣が路面を砕いて飛翔する。
 今や遠隔とは言えなくなった距離で、スコープがソレを追尾する。
「……」
 最早、二十秒かからないだろう。
『狙撃』 は、距離が縮まれば縮まるほど命中率が上がると素人は考えがちだが、
実際はかかる 「空気抵抗」 の量がまるで違うため
至近距離でもない限り難度はさほど変わらない。
 何より長所と短所は表裏一体、
遠隔狙撃は 「遠隔」 だからこそ意味があるのであり、
近距離に入り込まれるとその射程の長さ故に小回りが利かない。
 ライフル弾は通用しない、バスーカ砲、グレネード弾、ロケット砲の類は
(スタンドが空気の振動で)聴いた限り確実には仕留められない。
 近距離用の武器もあるにはあるがあくまで対人用、
人間ではないアノ女に致命傷は与えられない。
 この間僅か0,5秒。論理(ロジック)の枠を超えた思考能力を持っているのは
ジョンガリ・Aも同じ。
 なれば、と、闇の鷹の口唇がより冷酷に歪む。
 兵器に魅せられた者は、その威力の残虐さに戦慄するより陶酔を覚える。
 ソレが使用される事によって生まれる絶望を想起するより
ソレが使われる混沌こそを希望する。
 善悪の概念のない、DIOに対する狂信しかないこの男にとっては、
近づかれてマズイというよりよくここまで「近づいてくれた」
という心境なのだろう。
『コレを遣わざる負えないほどまでに』
追い詰めてくれた事に対する感謝さえ在ったのだろう。
 愛銃である『SIG S 205PHANTOM』
 銃床部に装着されたM203 (擲弾発射器)
 その裡に潜む悪夢の兵器を、『記録上』 知り得る者はこの世にいない。
発 射(シュートァ)―――――――――――――ッッ!!」
 待ちに待ちかねたといった様子で闇の鷹は一切の躊躇いなく
コッキングレバーを引き、禁断の銃爪(トリガー)()いた。
 慮外に静寂な音、しかしそれが死神の囁きを想わせる残響を以て
銀色の弾筒(カプセル)は射出された。
 被甲の薄い、しかしその硬度と靱性は最大の厳重さを保って、
中の 「物質」 が絶対外に漏れないように、
しかし敵陣に到達したその時には速やかに剥き出しとなるよう
設計された悪魔の造型(フォルム)
「――ッ!」
 正確な照準、しかしマンハッタン・トランスファーを介していないので
マージョリー (及び花京院は) 余裕充分に躱す。
 爆発せず衝撃のみで砕けた屋上のコンクリート、
当然二の撃を踏まえたフェイントだと炎獣は迎撃の構えを執る。
 しかし静寂、無動の沈黙、前方からの視線は感じるが
殺気がまるで伝わってこない。
 どういう事だ? こっちの疑心を煽って困惑を誘う駆け引きか? なら遠慮なく。
 再び足下を蹴って飛翔を試みるトーガの視界が、グラリと大きくブレた。
「え――?」
 今まで一度も逆らった事のない、従順な下僕突如の造反に
マージョリーは放心し体勢を崩した巨体がビル屋上から落下していく。
 ズガァッ!、と獣の形状に陥没する道路、通常有り得ない、
二人の優れた遣い手がいながら建て直しも受け身も執れなかった
落下への対応。
「つつ、 ノリアキ大丈夫?」
 不可解とは想いつつもトーガの中で呼び掛けた少年は、
「な、なん、て……本当に、なんて、コトを……」
恐怖と絶望に苛まれた表情で、細い輪郭を震わせていた。
「どうしたの? ノリアキ? 頭でも打った?」
 トーガの防御力上有り得ないのだが、
心配する美女とは眼を合わせず少年は首を振った。
「ヤツの “狙い” が、解った……でも、どうしろというんだ……?
こんな……『こんなモノ』……ッ! もう “どうしようもないッ!” 」
 戦況は追い詰めている筈、なのにもう “スベテが終わった後” のような声。
事態を飲み込めない美女の周囲で、街路樹の葉が一斉に散った。
「――ッ!?」
 銃弾も榴弾も飛んできてない、仮にそうだとしても不自然な光景の中
拍車を掛けるようにたくさんの鳥の死骸がボトボトと落ちてくる。
 此処に至ってようやくマージョリーも確信、
只ならぬ事態が自分達に差し迫っている、
否、もう終わっているのか?
 羽毛ごとグズグズに溶けた肉がシューシューと音を立てて蒸発していった。
 目玉と内臓を僅かに残した骨となるまで十秒かからなかった。
濃硫酸を頭からブッかけてもこうはならない、
そして路面には微かな罅すら入っていない。
 無機物ではなく生物を、そう、あくまで 『生物』 を。





   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!





 おそるおそる見回した光景、
周囲の人間が “同じように” 溶け、(ただ)れ、崩れ、
瘴気と成って蒸発し骨に成っていた。
 封絶の中なので逃げる事も藻掻く事も叶わず、
表情をなくしたままただ生命のみが(こぼ)れていく。
 トーガ越しにも漂う嘔吐蝕む異臭、
もうこうなっては、どうしようもない、
トーチを使っても修復出来ない。
 そして、自分達も同じように。
 そう、スベテは終わっていた。
 敵は、本気になんかなってなかった。
「ククク……」
 スコープ越し、その範囲外でも縦横無尽に拡がっている地獄絵図に、
闇の鷹は満足そうな微笑を浮かべた。
 その歓喜は、勝利以外の別の 「確信」 によるものだった。
 紅世の徒、更にはスタンド使いさえ、アノ御方には必要ない。
 もっと直接的で確固足る力、リアルな 『兵器』 こそがアノ御方の力になる。
 そしてそのスペシャリストである自分こそが、最も必要とされるべき存在。
 禁忌の力を使用した男に、微塵の罪悪感も、背徳感すらなかった。
 ただ裡で膨れあがる狂信のみが男の愉悦を深めていた。


――某国、戦乱の混沌吹き止まぬ秩序無き地下で、“ソレ” は生まれた。
 国際法、ジュネーヴ議定書で開発が禁止されているにも関わらず、
その抑止が及ばぬ場所で人間の悪意は(とど)まらない。
 暴動の鎮圧、他国への牽制、秘匿流通による国益等の為に開発を進められていた
『生物兵器』 だが、ある機を境にソレは 「暴走」 を始めた。
 人も、ソレそのものも。
 製造が比較的容易である事と廉価なコスト、
及び隠蔽の手軽さで量産されてきた銀色の弾筒(カプセル)
 その中に、ある日悪魔そのものとしか呼べない変異体が出現した。
 着弾までの発生を抑える為に封入された、
無色透明のガスを紫色に染めた事から
忌むべきその名を 『パープル・ヘイズ』 
 更にその次世代種、“(ディストーション) 型” の発現により事態は急転を余儀なくされた。
 元々兵器であるため獰猛な種類のウィルスを素体としていたが、
新たに生まれたウィルスはその獰猛性が極限まで行き着き
ウィルス同士が 『共喰(ともぐ)い』 を引き起こすまでに成長してしまったのだ。
 自軍、否、自国にまで及ぶ無差別な殺傷力、ワクチン精製の不可、
何より制御不能の不確定要素が多過ぎる危険性。
 以上の理由により極秘裏に進められたプロジェクトは凍結され、
然る後その存在ごと闇に葬られた。
 国の中枢を担う者達の間でも、ソレを語る事は禁句(タブー)とされた。
 人間の悪意そのままに生み出され、存在も明かされぬまま消失したウィルス。
 その処分を担当した科学者の一人が何者かに銃殺され、
カプセルが強奪された事実を知る者は少ない。
 破壊された監視カメラに代わり科学者の網膜から再現(トレース)された映像。
 画像は不鮮明だったが、闇の中でも不気味に光る、
猛禽のような眼をした男だったという。





――人類が、異種に怯える時代は終焉(オワリ)を告げた。
際限なく膨らむ人間の 【悪意】 は、その存在すら知らぬまま
異界の住人をも駆逐出来る段階にまで到達してしまった――





『殺人ウィルス』 バイオ()セーフティー()レベル()5を優に振り切る
悪魔の遺伝子群(デビル・スウォーム)は、およそありとあらゆる生物、
生きとし生けるモノ、細胞を持ったスベテの有機体の存在を赦さなかった。
「がはぁッッ!!」
 トーガの中、1000n m(ナノメートル)より遙かに小さい微細なウィルス群が、
炎気の粒子と粒子の隙間を互いに相食みながら侵入し花京院の体細胞を蝕んだ。
 喀血、溟濛、そして暗転、蠕動する痩躯、
スタンド使いであるが故に通常の人間より強い生命力を宿しているが
それは殺人ウィルスをより増強させる苗床にしかならない。
「ノリアキッ! ――え?」
 ドロリと、マージョリーの双眸からも色濃い鮮血が溢れた。
稀薄となる意識と裏腹に迫り上がる吐き気、
かつて黒死病に侵された事があるが、それとは段違いの滅亡感。
 パァン! 細胞が内側から破けその美貌が血を噴いた。
「あ……ッ! あ、……あ、……あ…………!」
 頑強なフレイムヘイズであるが故に
ウィルスの進化もそれに比例して速まっていく。
 生物ではないトーガに特段の変化は見られないが、
その裡では生存闘争の最たるモノとでもいうべき惨劇が
余りにも一方的に繰り広げられていた。
 そしてその一方的な捕食者は、
自らが喰い潰すスタンド使いもフレイムヘイズも
意に介する事なくただ増殖を続けていく。
 どこまでも、どこまでも、際限なく、このシンガポール全土を、
否、それを超えて喰うモノが無くなるまで。
 殺人ウィルス 『パープル・ヘイズ・ディストーション』
 そいつに触れる事は死を意味する!
 コレが 『兵器』 だッ! 人間の 【悪意】 だッッ!!


←TOBE CONTINUED…

 
 

 
後書き


はいどうもこんにちは。
どっかで聞いたようなフレーズが出てきましたが、
「この世界」ではこうなっとります。
(ソレを作れるのがアノスタンド能力かもしれない)
流石に荒木先生が「退場」させただけあって、
ヒクほどの殺傷力で御座います。
(「相討ち」でディアボロ倒せるし、ジョルノには効かないからなぁ~('A`))
まぁ解る人には解りますが、ジョジョのスピンオフの小説から
色々頂戴しております。
(あの「スタンド名」はイイと想った。
荒木先生のイラスト付きだからかもしれんが)

まぁ、ジョジョの小説は「ハズレ」が多いのですが
(乙一サンの『The Book』くらいか?)
やはり「原作」がスゴ過ぎると小説という表現形態が
負けてしまうのでしょうなぁ~。
しかしまぁソレでも好きなら自由に描けばイイとは想いますが、
流石に西尾某という方の作品は「どうだろう・・・・?('A`)」
というか血管キレそうになりました。
長くなるので続きは「つぶやき」で書こうと想います。
ソレでは。ノ 
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